06月06日
結局一睡も出来ないまま朝を迎えた。
俺も相当馬鹿なんだろうな。
全然分からねぇ。
いや、何個か答えらしい考えは出せたが……これが答えだと言い切ることはできない。
次々と思い浮かぶ言葉たちが俺の思考を邪魔した。
光司の顔を洗い着替えさせ朝飯を食わせると、部屋で待っていてと伝え俺はすぐに教祖様の部屋へと向かった。
教祖様は俺の顔を見るやいなや微笑んで座るように言った。
「まずは自分で出した答えや考えを述べなさい。」
昔出された宿題の答え合わせの時と同じだ。
俺は正座をし一晩考えて出した答えを伝える。
両親が考え付き行動したとは思いにくい。
その理由は、もしそうだとすれば相当の阿呆だからだ。
声を発することができる状態、書く力が残っている状態の人間を放置すれば、いずれ自分たちが行った行為が人に知られる可能性があるというのは、子供でも分かるだろう。
娘が両親とグルの可能性も低いとみている。
昨日の警察に対する態度や声色からして娘から両親に対する憎しみは明確だと思ったからだ。
帰る家が無い、それはすなわちあの両親がいる家を自分の家だとは思っていない。
もしくは思いたくないということ。
グルであればあそこで俺たちを売って帰るという選択も出来たはず。
だけどあの女はそれをしなかった。
家に、両親の元に戻りたくないのだろう。
次に俺は、両親に指示を出した第三者がいると考えた。
教団に対し良い考えを抱く信者がいるように、悪い考えを抱く者がいる事はよく分かっている。
協力者本人、またはその家族あたり。
外にいる協力者が裏切り、教団を壊滅させようと企みこの親子を使った可能性が考えられる。
両親から子に対する虐待を知っている人間が黒幕では無いか?
犯人を見つけ出すのなら外にいる協力者を洗っていくのが手っ取り早い、俺はそう思う。
俺の考えを話すと教祖様は頷き指で丸を作った。
俺は正解したのだと思ったが、そういう訳では無いようだ。
教祖様が言うには、俺が思っていた以上に厄介な事件だという。
簡単にまとめるとこうだ。
・両親が誰かに指示を受けたというのは当たり。
・娘はこの時の為に虐待されていた可能性がある。
・外にいる協力者が黒幕という考えもほぼ確実だろう。
・教団に対して恨みをもつ人間でも中々実行に移す者はいない
・協力者になってから考えが変わった者を教祖様は把握している
・教祖様の予想ではこれに警察も関与している
とのことだ。
昨日訪れた二人の警察が関与している可能性は低いが、これはあえて黙っておいた。
教団を潰す為に裏で動く人物が誰なのかはまだ特定は出来ていないが、そう時間はかからないだろうとの事だ。
しかし厄介なのが、警察が関与している可能性があるとすれば、その人物を特定した所で処分が出来ない。
娘がこの時のために虐待を受けていた、それが正解だったならば、両親は元々娘にそんなことをするつもりはなかったのだろう。
もしこの仮説が当てはまるのならば、この黒幕さえいなければ今頃娘は他の子と同じように楽しい日々を過ごせていたのかもしれない。
娘の息がある状態でこの山に放置したのは、両親からの最後の優しさだろう。
本当は、殺して捨ててこいと言われていたのではないだろうか?
両親は教団では無く、その黒幕を潰そうとしているのではないだろうか?
自らの命を捨ててでも、最後に娘を守ろうとしたのではないだろうか?
でなければ、俺が言うように話したり伝えたりできる状態で捨てるのは引っかかる。
教祖様の言葉を聞いた俺は、そうなのか……と納得してしまった。
これが優しさ。両親から娘に対する愛。
もっと別のやり方がとか、最初からこんなことをしなければとか、思う事はある。
けど、そうしなければならなかった。
そうしなければその時点で殺されていた。
そうなれば自分達だけではなく娘の命も奪われていた。
もしくは、娘は売られていたかもしれない。
生き地獄を味わうくらいなら、赤の他人に虐げられるくらいなら、涙を飲んで自分達が……そう思ったということか?
虐待のやり方すら指示されていたのだとすれば?
常に監視されていたとすれば?
常に誰かからの鋭い視線に怯えながら過ごしていたのだとすれば?
なぜだろう、阿呆で酷い親だと思っていたのに、少し考え方を変えればやり方は間違えていれどちゃんと子に対して愛を持った親なんじゃないか?と思えてくる。
それでもあんなになるまでやり続けるくらいなら、俺なら……俺ならどうするだろう。
俺がこの両親の立場で、光司が娘の立場。
監視するやつらがいたとして、そいつらに逆らえば自分だけでは無く光司の命も危うい。
生かすためには虐待をしなければならなくて……。
俺はきっと、光司を殺して自分の首を掻っ切るだろう。
この両親もきっとそうしたかった……いや、それでも生きて欲しいと思ったのか?
その気持ちは分かる。生きていてほしいと願う気持ち。
俺は光司と血の繋がりは無いし、親子ではなくただの世話係だが、光司には生きていてほしいと思っているんだ。
血を分け合った親子なら尚更そう思うのではないか?
でも、自分の手で傷付けるのは……他人からも傷付けられたくないし……。
あぁ、そうか。
両親はきっと答えが出せなかったんだ。
何が正しいとか俺にも分からないけれど、この両親も分からなかったんだな。
この手で娘の命を奪えと命令されたのなら、きっとその時初めて従う以外の選択が生まれたんだろう。
大人二人が逆らえず、子さえも巻き込んでしまう。
判断能力が低下し、これが正しいと、直ぐに終わると願いながら従い続けるしか無かった愚かな人間。
被害に遭った子は人に対する恐怖心を抱いたまま生きることになるのに。
ここで生きていると分かればその黒幕が狙うかもしれないのに。
そんな事すら考えられぬほどの崖っぷちで生き続け、落ちないように必死にもがき続けた結果がこれか。
子の事だけを思えばクソな親だが、視点を少し変えると見えるものが変わってくる。
それでも、この両親がやった事は酷いものであり褒められたものではない。
けど、子からすればその事実を伝えられなかっただけでも救いか。
といっても、これもまだ俺と教祖様の憶測でしかない。
宿題の答えでは無いんだ。
けど、教祖様が仰ることは大体正解に繋がる。
となれば、その黒幕が娘の生存を知った時点で両親はこの世からさようならということ。
そして次に狙われるのは娘か?
裏社会の人間か、議員といったところだろうな。
議員が頼み込んで動かしている可能性もあるし、ここはまだなんとも言えない。
まさかのサラリーマンの仕業……なんてこともあるだろうし。
これではまだ暫く警戒をとくことはできない。
そろそろ光司にあの部屋のことを教えておくか。




