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秘密の報告書  作者: 藤岡
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05月29日

目を覚ました光司に、おはよう。と声を掛けると、光司はにこりと笑って見せた。

光司の顔を洗い、着替えさせ、朝食を取りに行く。

光司はまだ教団員と一緒に食べることが出来ない。

甘やかすなと言われることもあるが、俺はこれでいいと思っている。

強制したところで、それは成長では無く嫌な思いを膨らませるだけ。

今より強く拒否反応をおこすかもしれない。

それに、別に教団員と一緒に飯を食わなければ死ぬというわけでもない。

ちゃんと食事を摂ることが出来ていればそれでいい。


朝食を食べ終わると食器を片付け、光司は部屋で勉強を、俺は自分と光司の洗濯をしに行く。

洗濯機のボタンを押してそのまま朝礼に出る。

住み込みの教団員はもちろん、外に住まう教団員も集まると上層部から各々の仕事内容を伝えられる。

今日与えられた仕事を聞いた教団員はそれぞれの持ち場に移動し、俺は部屋へと戻った。


昼前になると上層部の人間が部屋にやってきた。

教祖様の部屋に来いとのことだ。

浄化か?と思うと鳥肌が立ったが、従うしかない。

俺は光司に絵を描くなり本を読むなり好きに過ごせと伝え上層部の人間と共に教祖様の部屋へと向かった。


教祖様の部屋に入ると、昨日の女が横たわっていた。

死んだのか?と思う俺に対し、眠っているだけだよと教祖様は優しく教えてくれた。


教祖様と上層部の人間と三人での話し合いが行われた。

この女は信者では無く、女の家族や身内が信者というわけでもないようだ。

女の年齢はまだ十九だという。

この虐待は両親からのものであり、長い間家の中で監禁状態だったという。

リビングに置かれた犬のケージに閉じ込められ、食事は二日で一食。

それも、子供の拳程度の大きさのおにぎりかカビの生えた食パン一枚。

喉の渇きを潤したければ自分の小便を飲むように言われていたという。

ケージから出られるのは父親に呼ばれた時のみで、それ以外はずっとケージの中で過ごしていたようだ。

母親は女の事を子供というより一人の女として見ていたのだろう。

父親に呼ばれた後は必ず暴力を振るわれていたという話だ。


こういった家庭の話を聞き、ドラマだ映画だ漫画だと騒ぐ馬鹿がいるが、自分がそういった家庭に生まれなかっただけでこの世界には同じような思いをしている人間が数え切れないほど存在する。

地下で過ごす協力者の生活と変わらない?

いや、こういった場所で生きてきた人間からすれば、まだ協力者の方が人の欠片くらいの扱いは受けているほうだろう。


この女はどうするのか?と聞いたら、教祖様はここで生活をさせると仰った。

だが一つだけ引っかかることがあるという。

酷い栄養失調で動けなくなった女を両親はわざわざこの山に捨てたのだという。

教祖様は俺に「きみが両親の立場ならどうする?」と聞いてきた。


俺がもしこの女の親で、この女を子供として見るでも扱うでもなく虐待の対象としているならば……

山に捨てる時に殺すだろう。

もし誰かが見つけて話されると面倒だからな。

現にこうして女はここまで登ってきて俺と出会い教祖様達に全てを話した。

こうなると両親の立場が悪くなる。

俺ならそうならないように殺すだろう。

そして確実に見つからないように山ではなく自宅で処理するだろう。

山に埋めるとかよく聞くが、あれは簡単な事じゃない。

でも、教団員が山に埋めるのは簡単だ。

この山の所有主が教祖様である事と、それなりの道具や機械が揃っている。

だけど、この両親はそうじゃない。

他人の敷地に口を割る可能性を残した人間を捨てて行った。

相当な阿呆なのか、それとも何か別の意図があるのかは分からないが、多分阿呆なんだろう。

だけど、教祖様と上層部の人間はこれが引っかかると言う。

わざとそうしたのでは無いか?と。

もしそうだとすれば、それをする意味はなんだ?


俺たちは警戒態勢を取ることになった。

一人での外出は禁止。

これは門前であろうと禁止となった。

最近俺は気晴らしに散歩をしているのだが、それも禁止になった。

信者や入信希望者の訪問も警戒するように、とのことだ。

しばらくの間協力者の調達も禁止。

その他関係者との仕事のやり取りも控えることになった。


こういう団体である以上、不審な動きを見つければ警戒しなくてはならないのだが、ここまでの厳重警戒は、俺が教団員になってから初めてに等しい。


女は別室に運ばれ、女教団員が世話をすることになった。

俺は部屋に戻り光司の後ろ姿を眺める。

小さくて、すぐに壊れてしまいそうな脆い体。

ここまでの警戒をしなくてはならない人物を招き入れたのは俺だ。

もし、これがきっかけで教祖様の、俺たちの、光司の身に危険が及ぶというのなら、俺が全力で守ってやらなきゃな。


俺が一番最初に守ろうとするのはきっと、光司だ。

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