05月28日
朝五時。
あと一時間もすれば起床時刻となる。
俺はすやすやと眠る光司の布団を掛け直し外に出た。
教団員もまだ起きていない。
静かな朝だ。
そう思ったんだけど、一人の女を見つけてしまい俺の静かな朝は終わった。
門を開き一歩踏み出すと足を掴まれた。
俺は格好悪いことに少し身体を跳ねさせてしまった。
驚くだろう、気配も何も無かったのに急に足を掴まれたら。
俺の足を掴んだのは座り込む一人の女。
長い髪はお世辞にもサラサラとは言えず、長袖長ズボンといった肌の露出の少ない格好。
信者か?と思ったが、見覚えがない。
ならば、信者の家族か?とも考えたが、こんな朝早く一人でこんな所まで来るか?
最近誰かが協力者になったなんて話は聞かないし、昔居た協力者の家族だとしても、今更なんだ?という話だ。
足を掴まれたまま黙り考える俺に対して、女は顔を伏せたまま何も言わない。
俺の方から、どちら様ですか?と聞いてみたが、それに対しての返事も無い。
用が無いなら俺はこれで……と、中に戻ろうとしたが、掴む手の力が増した。
震える手。
見窄らしい見た目。
細すぎる体。
どこからか逃げてきたんですか?
俺がそう尋ねると女はようやく顔を上げた。
目が合った俺は思わず息を飲んでしまった。
腫れ上がり見えているのかいないのか分からない片目と、新しくは無い切り傷が付いた額と頬。
口の端には新しい傷があり、首には無数の引っ掻き傷があった。
俺が言葉を詰まらせていると、女の口が小さく動く。
風の音にかき消され聞き取れないほど小さな声で何かを言っていた。
俺は前屈みになり女の方へ耳を寄せたんだ。
「助けて」
確かにそう言っていた。
足を掴む手は震えを増し、希望を失った瞳からは涙が溢れ出ていた。
俺は女の手を優しく剥がし、そのまま握って広間へと通した。
まだ誰も起きていない。
ポツンと座る女はやけに小さく見えた。
飲み物を出したが女は口を付けなかった。
警戒しているのか?それとも怪我をしていて痛むのか?
俺がそう聞くと女は、「勿体無いから」と答えた。
これは虐待を受けているのだろう。ということは、俺じゃない他の人でも、光司でも分かるだろう。
親からなのか、恋人からなのか、それともまた別の人からなのかは分からないが、精神的にも身体的にも痛めつけられているのだろう。
ここまでの身体的暴力、もう殺してくれと頼み込んでもおかしくはない。
だけどこの女は俺に助けを求めた。
まだ生きることを諦めていない。
こういう人間が一番役に立つ。
こいつはきっとこれからここで働くことになるのだろう。
自分の為では無く教祖様の為に生きることになるのだろう。
本当に、それで良いのだろうか。
信者になってしまえば、その多くの者の結末は同じなのに。
だけど、誰かに痛め付けられ死ぬくらいなら、誰かのために自ら死を選んだ方が気持ち的には楽なのか?




