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秘密の報告書  作者: 藤岡
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05月15日

前日の14日の夜に俺は教祖様に呼ばれた。

浄化が必要だと言われ、俺はそれに従った。

いつもと変わらない。

教祖様の前で服を脱ぎ、教祖様に触れられ、そして──。

浄化が終了し服を着ていると、教祖様は光司のことを尋ねてきた。

俺は、文字の読み書きがだいぶできるようになった事と、まだ声は発したことが無いと伝えた。

焦る必要は無い。時間はたっぷりあるのだから。

教祖様はそう仰っていた。

身支度を終えた俺は頭を下げてすぐに部屋へと戻った。

初めて教祖様に対して嫌悪感を抱いてしまった。

教祖様の顔を見るのが、そばに居るのが気持ち悪いと思ってしまった。

声を聞く度に耳の奥がムズムズした。


俺が教祖様と過ごすようになった年齢と、光司の年齢が同じだからだ。

教祖様が俺に対してやっている事は浄化なんかでは無くて、ただの性欲の捌け口だと俺は分かっていたんだ。

教祖様が光司に俺と同じようなことをしたら、俺はきっと怒りを抑えきれないだろう。


痛いんだ。身体も、心も。

苦しいんだ、とても。

教祖様が触れる度に俺の中から悪が浄化されていくという。

俺は悪い気を中に溜め込んでしまうから、教祖様が中に入ってそれを出すなんて言われて、信じていた時期もあった。

悪に支配される前に、痛みや苦しみに耐えて教祖様を受け入れることが正しいのだと、そう信じていた。


だけど違う。

だって、俺は何も変わらない。

もうずっと、何年も、十何年も、同じ事を繰り返している。

いつになったら浄化が済むんだ?と聞いた時、教祖様はこう仰った。


きみの両親の悪の気がきみを支配し続けている。

悪霊よりも強大な力できみを支配している。


俺は、その言葉を信じてしまった。

だけど、違うよな。


もし俺がいなくなったら。

突然の事故で死んだり、病気で死んでしまったら。

誰かに殺されてしまったら。

教祖様は誰を捌け口にする?



15日、約束の日。

俺は気分転換がしたいと告げ散歩に出た。

幼い子供とほぼずっと一緒に居ることは息が詰まるよな、と子を持つ教団員は理解を示してくれた。

俺は山道を下った。

長い長い道。変わらない景色。

このまま逃げ出してしまおうか?なんて、光司がいなければ思っていたかもしれないな。

いや、それは無いか。

俺は光司と出会っていなければ、今までの生活に対してなんの疑問も抱かずに、抱いたとしてもそれは勘違いだと言い聞かせ過ごしていただろうから。


見慣れない車。

飛び出した俺と急ブレーキをかける車。

覗く顔は笑えるほど驚いた表情をしていた。

どうしてここに居るんだ?と聞きたげな顔をして寄ってきた男に俺はにこりと微笑んだ。


左門さもん 大我たいが

正義感に溢れる男。

俺を救う……いや、光司を救い出そうとしている男。

救いの手は孤幸教にたくさんある。

だけどこの男は、それを救いの手だとは認めていない。

聞きもしない人の過去を一方的に告げてきた男。

俺は正義の味方ですと、俺が過ごしたあの場所は悪の巣窟ですと、言いたいんだよなぁ?


たった一週間程度で、俺の約二十年間を全て否定し裏切れと、そんな酷なことを告げてきた男を前にして笑わない方が難しいだろ?


左門の仲間、相棒とかいうやつか?

田村たむら つばさが俺に対して何をしているか、背を向けているお前は知らない?

何もしていない俺に対して銃を向けているぞ。

それが、正義のやり方?

結局お前らも暴力で、恐怖で、人を支配しようと……そう思っているんじゃないのか?



日が暮れてから帰った俺の元に一番最初に駆け寄ってきたのは光司だった。

何をしていた?どこに行っていた?と騒ぎ駆け付けた幹部たちは、俺の姿を見て口を閉じた。

俺は光司から離れ手を洗いに行った。

光司は後を追いかけてきた。

そんな光司が愛おしく思えた。

優しく頭に触れると、光司はにこりと笑ってみせる。


ああ、この笑顔を独り占めしたい。

誰にも壊させたりなんかしない。

こいつは俺が守るんだ。

こいつは、俺のものなんだ。

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