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秘密の報告書  作者: 藤岡
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05月07日

俺宛に手紙が届いた。

差出人は記載されておらず、警戒しながら封を開けるとあの警察からだった。

教団員から誰からの手紙だ?と聞かれ、俺は咄嗟に信者からだと嘘をついてしまった。

部屋に戻り絵を描く光司の隣で手紙を読んだ。

手紙の内容は、俺を動揺させるものだった。




突然の手紙に驚いているだろう。

差出人を知って読まずに捨ててしまうかもしれないな。

だけどもし、この手紙を捨てずに目を通してくれるというのならば、少しだけ覚悟をしてこの先を読んで欲しい。

この先に記載する言葉にきみは疑いの目を向けるかもしれない。

だけど一つとして偽りは無い。断言しよう。

この先の言葉たちは、きみの人生の大きな分かれ道となるはずだ。


二十年前。

2005年の出来事だ。

とある夫妻が拷問の末死亡して見つかるという事件があった。

夫妻は全ての爪が剥がされていた。

他に見られる症状は、全身打撲・複数の刺し傷・火傷。

夫は片目と両耳を失い、妻は両目と舌を失っていた。

内臓破損に加えて妻の体内からは夫ではない者の体液が確認された。

この夫妻が見つかったのは自宅であったが、室内は綺麗なものであった。

犯人が後片付けをして出て行ったとは考えにくく、別の場所で拷問を行いわざわざ自宅へ運んだと思われる。

犯人は単独ではなく複数であるとみられる。

この夫妻が裏社会の人間と繋がっていたり、トラブルをおこしたという可能性は極めて低く、他人の厄介事に巻き込まれたものだとして捜査が行われた。

しかし、どれだけ調べてもこの夫妻と身近な人間が何らかのトラブルに巻き込まれたという決定的な証拠は得られなかった。

そこで浮上したのが、坂城さかき 聖生せいしょう……きみが今属している教団、孤幸教ここうきょうだ。

この夫妻は孤幸教本部、きみが今住まう本拠点に通っていたことが判明した。

通い始めたのはきみが生まれてすぐの2001年五月頃とされる。

孤幸教は、全ての者が幸福であり、心穏やかに過ごし、人生を全うすることが神へ感謝を述べる一番の方法だと人々に伝えた。

その言葉に感銘を受けた信者は全世界に数百万と存在する。

1985年に設立された孤幸教は、この約四十年という月日の中で多くの信者を得た。

この信者の中には権力者もいるという事は、きみの方がよく知っているかもしれないな。

そしてこの約四十年という長いようで短い期間、日本における謎の失踪事件が爆増したんだ。

失踪、不審死が相次ぎ調べると全てが孤幸教に辿り着いた。

しかし、決定的な証拠が見つからない。

どう見ても教団の仕業だと呼べる事件であっても、証拠がなければ俺達はどうすることも出来ない。

拷問の末亡くなった夫妻も、未解決事件として今は誰も深堀しようとはしない。

俺ともう一人の男性警官がいたのを覚えているかな?

俺達は孤幸教を解体しようと考えている。

これ以上の被害者が出ないようにするには、この悪の教団を解体するしかないんだ。

きみや教団員にとっては偉大な存在である教祖、神原かんばら 明正あきまさ

そして、教団幹部、上層部、きみを含めた教団員全員を捕まえる事が俺達の役目だと思っている。

これが教団に知れれば、俺達の命は無いだろう。

だけど、その覚悟を持ってしてきみに頼みたいことがあるんだ。

きみが教団員になりどれほどの悪事を働いたのかは、きみの口から説明してもらわないと俺達は知ることができない。

だけど、それでも一つだけ言えることがある。

きみには情状酌量の余地がある。

きみは、拷問を受け命を落とした夫妻のたった一人の子供だから。

きみは、教団員に拉致され洗脳を受けた被害者だから。

ずっと探していたんだ。

どこかで生きている、そんな気がして。

きみと初めて会った時、俺はすぐにあの夫妻の子供だと気が付いたよ。


きみの名前は坂城聖生なんかじゃない。

海道かいどう 朝陽あさひ

これがきみの本当の名前だ。

この前聞いた男の子も、そこに居るんだろう?

きみはその子に自分と同じ道を歩ませても良いと考えるか?

もし、同じ道を歩ませたくないというのであれば俺達に協力してほしい。

俺達に教団の情報を提供して欲しい。

これがきみへの頼み事だ。

もちろん今すぐに返事をと言う訳では無いが、あまりゆっくりしている時間もない。

5月15日にそちらに伺おうと思う。

その時に返事をしてくれればいい。


急な事で理解が追いつかないかもしれないな。

どうして自分にこんなことを頼むのか?とか、書いてある事は真実なのか?とか、きみなりに思うことは色々あると思うが、嘘偽りは無いともう一度断言しておく。


海道朝陽くん。

君は教団員として生きるべきではない。

君は他の教団員とは違う。

君は俺が探し続けた人だ。

もう一度言う。君は教団員として生きるべきではない。




二枚にわたってびっしりと文字が連ねられた手紙を読み終えた俺は、頭の中が真っ白だった。

薄々気付いていたんだ。

薄れゆく幼い記憶が時に濃く俺に警告してきたから。

最後に見た両親は、俺の手を取らずに背を向けた。

そこだけが色濃く残っていた俺は、いつの間にか両親は俺をここへ捨てて二人だけでどこかへ行ったと、俺は邪魔者だったんだと記憶を塗り替えてしまっていた。

だけど、目を細めよく見ると、両親は泣いていたんだ。

両親の傍には教団員がいて、俺は……。

もしこの手紙が本当に偽りの無いものだというのなら、俺が憎むべき相手は両親ではなく教団なのでは無いか?

だけど、俺は教祖様も教団員も嫌いじゃない。

だって、俺の人生の半分以上はここで過ごした思い出しかないんだ。

苦しいことや、悲しいことだってあった。

だけど、いつも、いつも、教祖様が救ってくれた。

今更憎む?どうして?何を?具体的に教えてくれよ。


俺は、どうしたらいいんだ?

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