04月10日
男の子と過ごすことになって一週間ほどの日が経った。
男の子の名前は光司だ。
元々の名前とは違う新しい名前だ。
元々の名前はもう名乗ることは出来ないし、忘れなくてはならない。
新しい名前は教祖様が決めるのだが、俺に漢字一文字を決めていいと言ってくれたので光という字を選んだ。
その漢字を選んだ理由としては単純に、光ある未来を過ごしてほしいと思ったからだ。
暗くジメジメとしたこの世界で、光り輝く人であってほしい。
そんな俺の希望を託した重い気持ちから選ばれた光。
理由を説明すると教祖様は褒めてくださった。
教祖様は筆を手に取ると丁寧且つ美しい字で光司と書いた。
光り輝き司る人。
親はこうやって子に名前をつけるのかな、なんて思いながら俺はその紙を持って部屋に戻った。
壁に貼り付けると絵を描いていた光司は顔を上げて不思議そうに眺めていた。
お前の名前だよ。と言うと、首を横に振りかけたが、ゆっくりと頷く。
その姿を見て俺は胸の辺りがチクリと痛んだ。
普通なら受け入れ難いだろう。
普通なら意味が分からないだろう。
普通なら得体のしれぬ大人たちに付けられた名前なんかより、元の名前を名乗り続けたいだろう。
だけど、ごめんな。
俺はそれを許可してあげられない。
新しい名前を受け入れてもらえるように、俺も頑張るよ。
慣れないうちは反応しなくたって、遅れたって、なんだっていい。
だから、そんな怯えた顔をしなくていい。
俺はお前に痛い思いはさせない。
そうやって考えられるのは、俺が同じ道を歩いてきたからだろう。
薄れていた記憶がふとした時に濃くなって俺を支配する。
だけどそれはまたすぐに薄れていって、思い出すことは出来ないんだ。
光司に俺と同じ思いはさせたくないんだけど、どうだろう。
俺は一人じゃ何も出来ない駄目な人間だし、人を育てられるような器でもない。
だから、俺だって不安でいっぱいなんだ。
だけど大丈夫だよ。
子供一人くらい守ることは出来る。
何があっても俺が守ってあげるから、だから、お願いだから、教団に反抗だけはしないでくれ。




