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秘密の報告書  作者: 藤岡
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04月03日

昨日は仮眠を取り午後に教祖様の部屋へと行った。

浄化か?と思ったが、それは違った。

教祖様の部屋に入るといつものように座ってこちらをにこやかに見つめる教祖様と、その隣には小さな男の子が座っていた。

座るように言われた俺は男の子を気にしつつも、教祖様の前に座り真っ直ぐと教祖様を見ていた。

「今日からこの子の世話をしてくれないか?」

教祖様はそう言うと男の子の肩を優しく叩き、俯いていた男の子が顔をあげる。

俺はこの子を知っている。

ふた月ほど前に俺はこの子と会っている。

こうしてこの子だけがここにいるということは、母親はもう……。

そうか、父親だけでは済まされなかったのか。

俺と目が合った男の子は何も言わずただじっと俺の目に穴が空くのではないかと思えるほどに見つめてきた。


俺は男の子の手を引き教祖様の部屋を後にした。

そのまま俺の部屋へ行くと既に男の子の布団や着替えが置かれていた。

教祖様からの説明よると、この子はあの日以降話すことが出来なくなったらしい。

夜になると泣き出すこともあるという。

俺が夜外に出なければいけない時は、代わりに面倒を見てくれる教団員の所へ連れていくようにと言われた。

だが、子供の面倒を任されたということは、今までより外に出ることは少なくなるだろう。


俺はノートとペンを取り出し男の子に渡した。

「なにか伝えたいことがあればそこに書いて。」

そう言うと男の子はページを捲り何かを書き始めた。

真っ直ぐな瞳、だけどそこに光が灯っていない。

当たり前だ。きっとこの子は見てしまったのだろう。

それならばこんな瞳になってしまうのも仕方がない。

俺が勝手にそんなことを思っていると男の子はノートを渡してきた。

正直な話をすると、なんと書いているのか分からない。

子供特有の文字を解読するのにそれなりの時間が必要とされた。

文字が書かれたボードを制作し、それを指さしてもらう方がスムーズなのではないか?と思い始める。

だけど、こんな状況で俺みたいな人間と二人きりにされ、伝えたいことがあれば書いて教えろと言われ書いてみたがそれは理解されない……そして文字ボードを渡されるなんてことになれば、ショックを受けるだろう。

初めての会話だ。流石にここは大人の俺が頑張るべき時。

そう思い必死に解読した。

ノートを渡されてから約二十分ほど経った頃、ようやく正解に辿り着いた。

書かれていた文字は「よろしくおねがいします」というシンプルなものだった。

蛇がくねり踊るような文字の並びに、くっつかない部分がくっついていたり、その逆だったりと全く別の文字になっていたのだ。

男の子は落ち込んだ様子だった。

それはそうだろう。俺がこのこの立場でも申し訳なくなる。

俺は男の子に気にする事はないと、これからはもっと早く読めるように頑張ると伝えた。

俺の力不足のせいだから、と言うと男の子は首を横に振った。


教祖様から言われ今日はこのまま二人で過ごすことになっていた為、俺たちは字の練習をした。

そこで発見したのは、この子は文字よりも絵の方が得意だということ。

絵しりとりなるものを提案されやってみたが、次は男の子が苦戦していた。

俺はほとんど絵を描いたことがなく、苦手だ。

自分でもなんの絵を描いたのか分からなくなる程度の出来である。

降参する男の子に正解を教えると、毎回男の子は驚いたような顔をして見せた。

数を重ねる毎に男の子は少しずつ表情が柔らかくなっていったように思う。

俺が描く絵はそんなに面白いのか?


驚く事に、俺は今まで体験したことがない程の時の流れの速さを知る。

気付けば夕食の時間だったのだ。

時計を二度見するとそれさえも男の子は面白がっていたな。

夕食を食べに行こうと伝えると、男の子はまた暗い顔をした。

きっと教団員たちに会うのが嫌なのだろう。

その気持ちは分かる。

部屋で食べるか?と聞くと、こくりと頷いたので俺は一人夕食を取りに行った。

既に食べ始めていた教団員達から「珍しく遅いな」なんて言われながら俺は二人分の食事を用意する。

事情を知らない教団員たちからは、「遅い成長期か?」なんて言われたが、俺は「俺と子供の分。」とだけ言い残して部屋へと戻った。

後ろから「どういう事だ!?」「隠し子がいるのか!?」なんて馬鹿げた発言が聞こえたが、勿論無視だ。

食事を運ぶと男の子は正座をして手を合わせた。

マナー等は叩き込まれたのか、それとも元からきちんとしていたのか。

それは分からないが、俺が教えることは無さそうだ。


入浴も教団員達が済ませた後にこっそりと二人で向かった。

頭を洗うのが下手なのか、下を向き目を閉じ同じ場所だけを洗っていた為、声を掛けて俺が洗ってあげた。

人の頭を洗うなんて今まで無かったので力加減が難しかったな。

頭と体を洗い終わり湯に浸かると、男の子はウトウトとした顔をする。

風呂では紙が使えないから会話は無い。

まあ、別に会話をする必要も無いのだけど。


入浴を済ませ部屋に戻ると男の子はノートに何かを書き込んでいた。

いつもとは違ったペンの音に違和感を覚えながらも、多少の居心地の良さを感じる。

こらから先、この子が一人で過ごせるようになるまでこの生活が続くんだな。


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