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秘密の報告書  作者: 藤岡
23/96

04月02日

指定した場所。

本拠点から遠く離れた海岸沿いに停車する車。

中には一人の女がいて、窓を叩くと怯えた表情をこちらへと向けた。

震える手でドアを開け、運転席に置いた一枚の紙。

車の前に靴を揃えて脱ぐと、裸足のまま俺を追ってくる。

おぼつかない足取りで、時折聞こえる鼻をすする音は優しい波音にかき消された。

俺たちの車に乗車した女は言った。

「私は教祖様を怒らせてしまったのでしょうか?」と。

どうしてそう思うんだ?と助手席に座る教団員が尋ねると、女は目に涙を浮かべながら「分かりません。」と声を震わせた。

混乱状態。

よくある事だ。理解が追い付いていないんだ。

どうして今自分はこんな事をしているのか、どうして今自分はこんな立場になってしまっているのか。

突然突き付けられた現実に戸惑い混乱する。

そんな状態で質問を返されたところで、正常な判断が出来ていない脳は答えを導き出すことができない。

「分かりません。」「教えてください。」

飽きるほどに聞いた言葉。

それに対して俺たちが返す言葉は無い。

本拠点に帰るまで女には眠ってもらう。

わけも分からないまま抵抗してみせたが、それはすぐに深い眠りについた。


何年か前の話だ。

信者の友人であった一人の女がいた。

信者の言動を不審に思った教団員が近辺調査をしたところ、この友人である女が「洗脳されている」だとか「最後は殺される」だとか馬鹿らしい事を吹き込んでいたことが発覚した。

当時の俺はまだ頻繁に表に顔を出すことはなく、裏作業ばかりだったのだが、上層部の人間に言われて初めて自分の手で協力者を得ることとなった。

「見ていてやるから好きにしろ。何かあればこっちでフォローしてやる。」

俺は教団員や上層部の人間に見守られながら女の髪を掴んだ。

離せと、痛いと、殺してやると言われた。

元はと言えばお前が余計な事を言ったせいだろうが。

俺はカッとなり、そのまま女を押し倒し上に跨ると拳を振り下ろした。

教団員に腕を掴まれ我に返った俺の下にいたのは、鼻と口から血を垂れ流し、目元は腫れ上がって目を合わすことができなくなった女だった。

ごめんなさい、許してください、殺さないでください。

蚊の鳴くような声で呟く女。

殺してやると言っていたくせに、ほんの数分で命乞い。

その時俺は思ったんだ。

きっと、他の教団員たちよりも体格が恵まれておらず、無愛想で暗い俺を下に見ていたんだな、と。

暴力をふるえるような度胸すらも無い、力も弱い、そう思われていたのだろうなと。

だけど、そのおかげで俺はより一層強い恐怖心を与えられたのだと嬉しく思った記憶がある。

その女も、信者だった女ももうここにはいない。

だけど生きている。多分な。

俺たちの知らない場所で、知らない人たちと仲良くできていればまだ……。


あれから何度も何度もこうして人を捕らえては運んできた。

相手が男だろうと、俺より大きくてガタイが良かろうと関係無い。

人数有利というのもあるが、俺たちの中では汚い手段を選ばないという選択肢は無い。

道具が必要であれば使うし、協力内容によってはそのままこの手で息の根を止めることだってある。

大抵の奴らは俺を見て馬鹿にしたように笑ってくるし余裕をかましていたな。

でも最後は命乞いをするんだ。

俺はそれに耳を傾けたことはない。必要無いから。

数を重ねていくうちに馬鹿にした笑いを見ることは無くなった。

目を合わせただけで相手が怯んでいるのが分かる。

俺自身の見た目に変化があったとすれば、ほんの数センチ背が伸びたことと、自慢出来るほどでは無いが以前より筋肉が発達したことくらい。

どちらかといえば髪は長い時期の方が多いし、愛想が良いとか明るいだなんてことは無い。

協力者相手に怒鳴ったりすることも無く、ただ単純にやるべき事をやっているだけ。

教団員からはそれが怖いんじゃないか?と言われたが、余計な話をされて安心した時に一気に恐怖を与えられる方が怖いだろ。

でもまぁ、なんでもいい。恐れられようと、馬鹿にされようと。

結末は変わらないのだから。


俺たちが本拠点に到着した頃、薄らと日が昇り始めていた。

眠る女を地下へと運ぶ。

一番手前の部屋にいれて手足に錠をはめる。

俺はこの女に、教祖様が直々に教えてくれるから他言厳禁で頼むと言ったのだが、この女がこの先教祖様と顔を合わす日は来ない。

目を覚ませば教団員からここでの過ごし方を淡々と説明され、そしてその日が来るまで同じ日を過ごすことになるだろう。

その日がいつ来るのかは正直俺にも分からない。

上から言われるまで俺たち教団員は協力者の身の回りの世話をするだけ。

この地下に連れてこられたやつらが次に陽の光を浴びるのは、いつだろう。

脱走となれば大抵夜を選ぶしな。

脱走

関しては割と簡単にできる仕組みになっている。

手足の錠も緩いものばかりで、工夫をすればすぐに取り外せる。

そこにかける金がないというわけではない。

わざとそうしているんだ。

それに気付いてもその場で立ち止まり従う者であれば、俺たちもそれ相応の手段で応える。

ただ、脱走した者は教祖様への忠誠心に欠ける裏切り者だと判断され、想像も絶するほどの痛みや苦しみを与えられる。

これは、教団から協力者への試し行為だろう。

そこに気付くかどうかは本人次第。

たまに掃除の時や食事を運んだ時に襲いかかってくる馬鹿がいるが、そんな事は俺たちからすればなんてことは無い。

そこで殺されているようじゃ務まらないからな。

殺されたとすれば……そうだな。

それこそ教団の笑い者として語り継がれるかもしれないな。


女を運んできた俺を含めた数人の教団員は朝食後に仮眠を取るように言われた。

二時間か三時間程仮眠を取ってから俺は次の仕事に向かう。

なんだかどっと疲れが押し寄せてきた。

このまま五時間程眠りたいのだけれど、今日は午後から教祖様の部屋に行かなくてはならない。

だからもう寝ようと思う。


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