表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘密の報告書  作者: 藤岡
21/96

03月28日

信者と協力者の違いはなんですか?

と、信者の一人に聞かれた。

入信して二年に満たないほどの六十代の女だ。

信者は教祖様の為に足を使い人を集め、協力者は自ら教祖様の力となる為に身を捧げる存在。

なのだが、この説明を信者にする事はまず無い。

そもそも、信者が協力者の存在を知ってはいけない。

と言っても、信者の殆どは最後協力者となるから俺は主に協力者と呼んでいるのだけれど。

本人を前にして言うようなヘマはしないし、そもそも名前を覚えていれば名前を、覚えていなければアナタ等と呼ぶ。

信者さんだとかそんな呼び方もしない。

どこで協力者の事を知ったのか?と尋ねると、その信者は仮拠点の方で耳にしたと言った。

向こうの教団員のミスで、協力者が増える事になった。

予定では暫くは不要だったのだけれど、その言葉自体を知られてしまったとなれば話は変わってくる。


と言っても、今すぐにどうこうという話ではない。

協力者の件は教祖様から直々にご説明をしていただく、それまで他言厳禁だと言うと、女は教祖様に会えると喜んでいた。

その時が来るまで女の見張りをすることになった仲間はぶつくさと文句を言っていた。

この女が今日ここに来たという事を知っている存在。

この女がここの信者だと知っている存在。

仕事をしているのならば職場での人間関係、そしてこの女の家族構成。

全てを調べなければならなくなった。

俺は本拠点のパソコン室へと向かい、この女のデータに全て目を通した。

家族構成なんかは簡単に知ることができる。

入信する時に記入しなければならないからな。

そしてそれに偽りが無いかも調べられているので、ここのパソコン内のデータに偽りは無い。

ただ、入信してから長くなればなるほど家族構成は変わってしまっていたりする。

離婚していたり、死別していたり、独身者が既婚者になっていたり、子供や孫が増えていたり。

厄介なのは結婚や再婚だ。

これは信者自信となれば割と本人から報告してくるのでデータを追加するだけで済むが、たまに黙ったままのやつがいる。

それもそれで厄介なのだが、それよりも子供や兄弟姉妹の結婚や再婚の方だ。

老いるほどに身近な者の報告をしてくることもあるのだが、しないことの方が多い。

良好な関係を築いていれば、娘や息子、兄弟姉妹はこの先幸せになれるのだろうか?などと俺たちに聞いてきたりするのだけれど、中には絶縁状態で本人すら結婚や再婚をした事を知らなかったりすることがある。

だから、俺たちは血眼になって隅々まで調べるんだ。

協力者になる者の近親者を。

子供や孫、兄弟姉妹が誰かと婚姻を結び家族になるということは、信者の家族が増えるということ。

関係値まで調べて、ほとんど絶縁のような状態であれば問題ないのだけれど、親しく良好な関係となるとここの話をしている可能性が出てくる。

そうなると次に俺たちがやる事は、信者に直接聞くことだ。

俺たちが聞いて話してくれればそれで良いが、話さない場合は教祖様にお相手していただく必要がある。

信者は教祖様を前にして嘘はつかないし、話さないという選択肢が無くなるからだ。


もし、俺たちの知らない家族がここのことを知っていた場合は俺たちの仕事量が増える。

と言っても、あまりにも大量な数となると、世間がそれを怪しまないわけがない。

選択肢は色々あるが、一番手っ取り早いのは自殺だ。

本当に自殺してもらうわけではない。

自殺したようにみせかけるんだ。

信者には指定した場所に自分の車で行ってもらう。

そこで車だけを置いて俺たちと本拠点へと帰る。

信者の車の中には遺書を残しておく。

監視カメラ?把握した場所にしか俺たちは向かわせないし、仮に映ったところであまり問題では無い。

教祖様を慕いお仕えする者の職業は様々だからな。

中には政治家だっているし、警察や医者、保育士に介護士、清掃員や大工に無職。

本当に色んな人がいるんだ。

その人達は、教祖様の一声ですぐに動いてくれる。

特に助かるのは最初に言った政治家に警察に医者。

そういえば弁護士もいるな。

この人達は、協力者の事を知っている。

信者というよりは、ほとんど教団員みたいな存在だな。

裏切ればどうなるのかも、それを隠し通せないことも知っている。

そもそも、教祖様を裏切るような行為を働くという考えに至ってはいない。


そんな者たちの助けを借りて、信者は世間からは亡き者として、俺たちからは協力者として見られることとなる。


そこまでしてなぜ失踪者が……なんて警察が尋ねてくるのか?と疑問に思う人もいるだろうな。

大体そういう奴らは緊急性の高い裏切り者だ。

今すぐにでも捕えなければ、警察に駆け込み話を大きくする可能性がある者。

今回の女のように緊急性の低い者は少し時間をかけて完璧な状態で協力者にすることが出来る。

俺たちもこっちの方が後々楽なんだけど、たまに時間をかけていられないような奴が現れる。


近辺調査が終わったあとにすることは一つ。

家族の数が多ければ自殺の一択。

家族の数が少なくここの事を深く知っている、家族自身も信者となれば共に本拠点へ。

家族の数が少なくここの事も知らないとなれば自殺を。

大まかにいえばこの三択になる。


だが、この女は可哀想だなと思う。

裏切ったわけでもなければ、教団員のミスでたまたま耳にしてしまっただけ。

俺や他の教団員に協力者の事を聞かなければ今までと変わらなかったのに。

まあ、友人や家族に協力者という存在がいるらしい、みたいな話をしてしまったらその時点で話した信者も聞かされた友人や家族も全員協力者にならなければならないのだけど。


俺がいつも不思議に思う事は、遠く離れた場所で話した内容がすぐに教団員の耳に入ることだ。

どこからどうやって情報を仕入れているのか、それは俺にも分からない。

仲間や上層部の人間が言うには、教祖様には全てお見通し。との事だ。


話が逸れに逸れまくったが、この信者の女の近辺調査が全て終わった。

同年代の旦那と二人暮し。

一人娘は何年も前に結婚し、子供が三人。

この信者の女の孫だな。

他の教団員がメモを追加していたのでそれに目を通した。

信者のデータには名前や家族構成に住所や職場などの情報がずらりと記載されているのだが、その一番最後のメモという項目には、教団員が信者から聞かされた話の中で重要だと思われる発言を書き込み、全教団員に共有される。

俺も何か気になる発言を聞けばその信者のメモ欄に書き込んでいる。

で、今回のこの女信者のメモには、俺が知りたかった事が書かれていた。

旦那は女から教団の話を聞いても興味が無いようで、女は話を聞いてくれない旦那の代わりに娘に色々と話していた。

残念なことにここに来る日は必ず連絡を入れていたようだ。

共に行こう等と誘っていたが断られていた様子。

だが、しっかりと知ってしまっている。

俺は、三人の子供の一番下がまだ園児ということもあり、娘自体はここへ顔を出したこともなければ母親の話を流していただけのように感じるので見逃してあげてもいいのではないか?と思うが、きっとそれを上の人間は許さないだろう。


人は過ちを犯す。

それは仕方の無いこと。

人は人を巻き込み生きていく。

その被害に遭うのは血を分け与えた子供が多かったりする。


俺が言うのもなんだが、信仰しているものを人にペラペラと話すのは良くない。

確実に誘い込める、巻き込める、同じ綱を渡れる相手だけに話す方がお互いの為だろう。


気が乗らないな。

きっと、俺がしなくちゃいけないんだろう。

教祖様には全てお見通しなのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ