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秘密の報告書  作者: 藤岡
19/96

03月18日

あの写真を見た日以降まともに眠れていない。

夢にあの写真の男女が出てくるようになった。

ぼんやりとした影が二つ。

俺の方へ近付いてくると手を差し出す。

俺がその手を掴もうとすると、なぜか二人は遠く離れていってしまう。

どうしてなのかは分からないが、俺はその手を掴みたくて仕方がない。

だから走って追いかけるのだが、追いつくどころか距離が開く一方だ。

どうしてもこの手を掴まなくちゃいけない、そんな風に思ってしまう。

そして、二人が立ち止まりもう少しで掴めるという所でいつも目が覚めてしまう。

時計を見ると眠りについてから二時間ほどしか経っていない。

バクバクと大きな音を立て跳ね上がる心音がうるさく感じる。

本当に走っていたかのような息切れと、滲む汗。

二度寝しようと再び目を閉じるけど、そこから眠りにつくことは出来ない。

そんな生活が続き、俺の顔からは元々ない生気が更に無くなりまるで動く屍のような状態だ。

腹が減っても前ほど喉を通らないし、ぼーっとする事が増えた。

教祖様に呼び出されても身構えることは無い。

教祖様の部屋に入りいつもの様に正座をし頭を下げると、服を脱げという指示は無く、教祖様は俺を優しく抱きしめた。

悪い気が俺の中で渦巻いているのだ、だからまたこうして浄化されるのだ。

そう思い部屋にやってきた俺は、いつもと違う対応に戸惑ってしまった。

教祖様はこう言った。

「悩み事があるのなら遠慮せずに話しなさい。

どんな些細なことでも構わない。

話すことによってキミの心が少しでも軽くなるのなら、いつでも私に話しなさい。」と。

俺が最近見る夢について話すと、教祖様は俺の頭を優しく撫でた。

幼い頃に両親を失った俺は、無意識にあの写真の二人を親に重ねてみてしまったのだろう。との事だ。

自分一人を残し去って行った両親を恋しく、そして恨めしいと思っているのだろうと。

その思いが夢に反映されている。

そう聞かされた俺はやはり納得してしまう。

恋しいだとか恨めしいという感情を親に対して抱いているだなんて考えもしなかったが、教祖様に言われて初めて、そうなのかもしれない。と思うようになった。

霧がかった心に光が差し込み、少し楽になった気がする。

どうすれば見なくなる?と聞いたら、一つの感情に絞る事が必要だと言われた。

それはどの感情?と聞くと、教祖様は言い難そうな顔をした。

俺が、教えてほしいと頼むと教祖様は重い口を開きこう言った。

「本来なら子が親を恨むなんてあってはならない事。

だけどそれは子を愛し、包み込むように育ててくれた親に当てはまる事であり、キミの両親には当てはまらない。

気を悪くしたら申し訳ないが、キミの両親はキミを捨てた。

幼いキミを危険が伴う世界に一人残して消えたんだ。

恨むに値する行為である。

だからキミは、今ここで両親に対する淡い期待を捨てて、たった一つの感情だけを抱けばいい。」

俺は顔も覚えていないような両親に何かを期待していたのか?

それなら、本当に馬鹿馬鹿しい話だ。

そうか、自分が気付いていなかっただけで俺は心の中で両親に対して色々と思うところがあったんだな。

それを明確にすることによって前の生活に戻れるというのなら俺は迷わず両親に対して憎しみの感情を抱こう。

もうあの手は掴まなくていい。

そうだ、掴まなくていいんだ。追う必要は無い。

きっとあの夢の中の俺は今の俺じゃなくて、幼い頃の俺なのだろう。

大丈夫だよ、過去の俺。

そんな手を掴まなくても一人で過ごしていくことにはならない。

両親よりも愛し尊敬する人がすぐそばにいる。

俺が離してはならないのは、逃げ去る手では無く寄り添ってくれるこの人の手だ。


こうして俺はまた教祖様に救われた。

俺もいつか教祖様の為になりたい。

それが命を落とすことだとしても。

俺は喜んでこの人の為に捧げよう。

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