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第3話 魔法(挑発)をかけるアタシ

 ルゼの恋バナを聞いた3日後、アタシはリリちゃんと一緒に例のカフェにいた。

 親友に続いてまさかの後輩ちゃんからも、なんて驚きね。恋愛相談ができる先輩として信頼されているって喜んでいいのかしら?


 アタシの向かい側の席に座っているリリちゃんは、アイスカフェオレが入ったコップを両手で包んで、視線をうろうろとさせている。相談があるとは言ったもののなんて切り出せばいいのかまで考えていなかった、というところでしょうね。そろそろ手助けしようかしら。


 アタシが口を開こうとした時、リリちゃんは「あの……!」と声を出した。あら覚悟が決まったのね。……いいわ、ルゼの時以上に真面目に聞こうじゃないの! 大船に乗った気持ちでいなさい!


「コズモ先輩に相談したいことというのは、その……ルゼ先輩のことでして」

「ええ、もちろん聞くわよ」

「あ、ありがとうございます……! 実は3日前に……こ、告白、されて。それがすごく、とっても、本当に言葉で言い表せないくらいに嬉しかったんです」

「……ちょ、ちょっと待ってちょうだい。初っ端からかなりの重大情報だわ」


 顔を真っ赤に染めて俯いて言ったリリちゃんから一旦視線を外して、アタシは顎に手を当てながら考える。


 ルゼ、あの日のうちに告ったのね。さすがの行動力だわ。でも、今の言い方だとリリちゃんとルゼはまだ付き合っていないのかしら? 二人が両思いなのは確実になったけれど。……両思いというか、好き合う運命って言った方がしっくりくるわね。


 目の前のリリちゃんは頬の熱を冷ますように、アイスカフェオレをちびちびと飲んでいた。……相変わらず可愛いわね。ルゼから幸せにされる予定がなかったら、確実にアタシが幸せにしていたわ。


「ごめんなさいね、少し情報を整理していたわ。……ということは、リリちゃんはルゼのことが好きなのね?」

「……は、ぃ」


 念のため確認したけれど予想以上の反応が返ってきてしまった。こんなに真っ赤になって今にも消え入りそうな声と表情のリリちゃんを見たなんて、アイツに言ったら絞められそうね……。

 意識をリリちゃんの話に戻すため、コホンと小さく咳払いをする。


「それで、リリちゃんは何に悩んでいるのかしら? ルゼから告白されて、リリちゃんもアイツのことが好きなのよね。それなら何にも問題はないように思えるけれど?」

「……わ、わたしがルゼ先輩に相応しくない、から……」


 今にも泣き出しそうなリリちゃんの言葉を聞いて、一つだけ思い当たることがあった。ルゼとリリちゃんが一緒にいることが増えてからキャンパス内で回り始めたウワサ、それも——リリちゃんに対して否定的なもの。


 それは、二人はお似合いだという肯定的なものの隙間から時々顔を出すくらいだけど、やっぱり大きく聞こえてしまうわよね。


 「なんであんなみみっちいのが」「ルゼ様はみんなの王子様よ」「あの女うざい」……そうやって話しているのを聞いた時にはきちんと否定して、リリちゃんがどれだけ可愛いのか、そしてあの二人がどれだけ最高なカップルなのかを力説するわ。


 ウワサ全てを訂正できないのが悔やまれるわね……。まだ二人が付き合ってないというのはもちろん棚の上に置いている前提よ。


 色々言いたいことはあるけれど、ひとまずリリちゃんの言葉を待つことにするわ。


「わたし、高校1年生の時に唯一の家族のお母さんを亡くしていて、それで、今はお母さんが遺してくれたもので生活しているんです。その……こんなわたしに、ルゼ先輩は好意を持ってくれて。……でも、ダメですよねこんなみみっちいわたしが、次期社長のルゼ先輩に好意を伝えるなんて……。だって雲の上みたいな存在の人ですよ?」

「……リリちゃん?」


 あら? アタシ今どんな声を出したかしら? リリちゃんの肩が跳ねたということは怒りの感情を出してしまったのかしら? もしかするといつもより数トーンくらいは低くなってしまったのかも。


 でも……そうね、こればかりは怒らせてちょうだい。

 アナタにそう思わせてしまった悪意のあるウワサも、気づいているのかは分からないけれどそれを放置しているアイツも、今こうして怒りを表してアナタを怯えさせてしまったアタシも。

 そして、本当に素敵で最高に可愛い灰川リリちゃんを否定するアナタ自身も。


 まったくアタシったら、魔法使いなんでしょう? 素敵な笑顔で魔法をかけちゃうのが魔法使いなんでしょう? お姫様にそんな顔させてどうするのよ。


「ご、ごめんなさい、こんな話……。わたしがルゼ先輩に相応しくないのは分かってるのに、すごく、苦しくて。……あの、今の話は忘れ——」


 忘れてください? ……アタシ、今回は間違えないわ。そんなこと、言わせない。


 アタシは咄嗟にリリちゃんの唇の前に人差し指を近づけた。この状況、アイツが見たら絶対に何か言うはずだけど、こればかりは許して欲しいわ。だって、アナタへの思いをなかったことにしようとしたのよ、このコ?


 こうなったらもう魔法をかけちゃって良いかしら? 良いわよね? 今かけないと後悔する気がするの。リリちゃんの戸惑いの声に被せて言ってやるわ。


「全くダメね」

「……ぇ?」


 アタシ、今最高に悪役っぽい顔しているでしょう? 我ながら整った顔立ちをしている自覚はあるから、少なからず恐怖を感じているはずよ。ほら、美人が怒ると怖いって言うでしょう? でも許してちょうだいね。挑発という魔法をかけるには必要なのよ。


「思いを伝える前から諦めるの? そんなの、最高にナンセンスだわ。大体、ルゼに相応しいかどうかなんてアイツ本人が決めることじゃない? リリちゃんでも、アタシでも、くだらないウワサばかりしているヤツでもなく、ルゼ本人が決めること。それにアナタ、苦しいって言ってアタシに相談してるわよね? それって本当は諦められないから、……諦めたくないからじゃないの?」

「……っ!」


 目を見開いたリリちゃんは小さく「諦めたくない……?」と呟いた。……その様子だと、やっと気づいたのね。


 リリちゃんの海みたいなブルーの瞳が星空を映してきらきらと輝いている。もちろん例えよ? でも本当にその言葉がぴったり。恋ってやっぱり女のコを可愛くするのね。


「一回くらい思い切りぶつかってみてもいいんじゃない? 万が一……いえ、億が一にも砕けたら、アタシがいくらでも失恋話を聞くわ。まあ、そんなことあり得るわけがないけれど」

「……はい! ありがとうございます! 当たって、砕けてきます……!」


 そう言ってリリちゃんは早速スマホを取り出した。たぶんルゼに連絡しているのでしょうけど……あらあら、一度決めたら突っ走れるタイプなのね。リリちゃんの解像度がまた上がったわ。


 でもね、当たるのはいいの、当たるのは。……砕けなくていいのよ? いや、絶対に砕けちゃダメよ!


 まあ、こんな水を差すようなこと今は言わない方がいいわよね。砕ける気満々みたいだけど、すごく嬉しそうだもの。白い肌をほんのり上気させて、幸せそうに笑みを浮かべているリリちゃんはとっても可愛いわ。

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