第1話 可愛い後輩ちゃんとアタシ
時は遡って1日前。梅雨の明けたある日、アタシはばったり会ったリリちゃんと一緒に学食へと移動していた。
「どう? 大学には慣れたかしら?」
「慣れた、と思います。コズモ先輩のおかげでだいぶ楽ができちゃいました」
そう言ってどこか遠慮がちに笑ったリリちゃんを見ていると鈴蘭の花を思い出すわ。でもね、もっと自信を持っても良いと思うのよ。そうしたらさらに可愛くなるはずだから。もちろん今のリリちゃんも100パーセント可愛いけど。
「コズモ先輩……? わたしの顔に何かあります?」
あざといっ……! 艶のあるさらりとした銀髪を揺らしてこてんと首を傾げるリリちゃんあざといわ! これを無意識にやっているのが恐ろしいわよ、本当に。
前髪の隙間からちらりと見えるマッチが何本も乗りそうな長いまつ毛、それに隠れる静かな海みたいなブルーの瞳。眉毛は左右対象に整えられていて、鼻や輪郭の線は柔らかく、かつ、はっきりとしている。
……改めて見てみるととんでもない美少女ね。これはワルイオオカミに食べられないようにアタシがしっかり守ってあげないとだわ。
「何でもないわ。ただ、少し決意を新たにしただけよ」
「そうなんですね?」
そうよと口を開こうとした時、右前方から「キャー!」という黄色い悲鳴が聞こえた。10人くらいの女のコたちの隙間からレッドブラウンが見える。いつものやつだわ。アイツも飽きないわね。
「さ、行きましょうか」
「あ、はい! あの、さっきのって一体……?」
「あら、知らなかった? あの中心にいるのは成宮ルゼ。アタシと同じ3年生でいわゆる御曹司ね。『王子様』だなんて呼ばれるくらいにはカッコいい顔と立ち振る舞いをしているわ。オトコのアタシから見ても、ね。実はアイツ、小学校時代からのアタシの親友なのよね。いわゆる腐れ縁ってやつかしら」
思考から戻ってくると、リリちゃんは数メートル後ろで立ち尽くしてルゼの方に視線を向けていた。あら? さっきまでアタシの隣を歩いていたはずだけど……? 近づいてみると、その頬はほんの少し上気していて、ぼそりと呟いたのが聞こえた。
「……王子様、か」
自分には関係ないけど、やっぱり王子様ってかっこいいんだろうな。どうしてかしら、そんな副音声まで聞こえてきたわ。
……んもう、これ絶対に面白いやつじゃない! アタシの面白センサーと恋愛センサーがうるさいくらいに鳴ってるわよ。
ルゼもリリちゃんならかなりの確率であるでしょうし。ほら、アイツの周りってリリちゃんみたいな純粋で素直でちょっと天然で可愛いタイプのコっていないから。いい意味で強いコがほとんどなのよね。
よし、そうと決まれば頑張っちゃうわよ! 二人を出会わせるのは……そうね、明日でいいかしら。鉄は熱いうちに打てっていうもの。
ルゼへの口実は、目が離せない1年生のとある後輩ちゃんに会っていざという時に助けてあげられるようにしてほしい。こんな感じかしら? リリちゃんには頼れるアタシの親友を紹介したいってゴリ押せばいけるわね。
ゴリ押すとか言ってるアタシに説得力はないけれど、あのコ、心配になるレベルで押しに弱いのよ。まあそれは身内限定みたいだし、しばらくは様子見かしら。……ルゼにはそれを悪用しないように言っておいた方がいいわね。