第6話「JOH、影の指揮者」
―― 縁の下の力持ち。Zone STARZを動かす“影”の物語。
夜の東京。高層ビル群の一角、龍雷神本社ビルの最上階に、ひとり残る男がいた。
JOH――本名、城戸承太郎。
Zone STARZのマネージャーであり、(株)龍雷神の最年少幹部候補。
パソコンに向かってスケジュールを確認しながら、彼は独り言のように呟く。
「6人、それぞれ本職持ちの天才たちか……やれやれ、まとめるだけでも骨が折れる。」
JOHは学生時代、慶應義塾の一貫教育を受けてきた。
兄は陸上自衛官、姉はテレビ局のプロデューサー、そして弟はプロ野球選手。
周囲が「表舞台」で活躍するなか、自分は“裏方”に徹する道を選んだ。
そして、大学時代。
会計士志望だったCHAM――仲間蜜介とサークルで出会った。
彼の持つ統率力、論理的な会話力、そしてなにより人を信じる眼差しに、JOHは影響を受けた。
「表には出ない。でも、動かす人間になりたい。」
それが、JOHの人生を動かした言葉だった。
現在――
「Zone STARZの次の楽曲配信、メディアには絶対漏らすな。
社内の通信はすべて非公開サーバーを通せ。取引先にも“表名義”で。」
部下に淡々と指示を出すJOHの背中は、すでに「影の指揮者」としての風格をまとっていた。
しかし――その表情に、一瞬だけ曇りがよぎる。
(…兄貴、姉貴、弟……お前らには言えないよな。
まさか俺が、アイドルグループのマネージャーやってるなんて。)
Zone STARZは、医師、弁護士、会計士、歯科医師、看護師――各界の精鋭たちで構成された異色の音楽ユニット。
その活動はあくまでも“裏の世界”の話。
JOHの存在がなければ、この機能美は保たれない。
スマホが震える。
KOUHからのメッセージ。
「次の楽曲、“紅月ノ旋律”、仮録り完了。チェックよろしく」
JOHはすぐに返信を打つ。
「了解。明朝確認後、マスタリングへ回す。君ら、少しは休め」
深夜2時。オフィスを出て、ビルの屋上へと向かう。
東京の夜景を見下ろしながら、JOHはふと懐から、1枚の写真を取り出した。
大学サークル時代、CHAMと写っている写真だった。
「表に出なくていい。だけど、俺たちが“音”を動かす。」
Zone STARZは、音楽ユニットであると同時に――JOHにとって、“家族”だった。
深夜の静寂を破り、携帯が再び震えた。今度はFOXからだ。
「法律関連の書類、チェック完了。問題なし。そっちも進行具合を教えてくれ。」
JOHは微笑む。
「FOXはいつも時間に厳しい。そこが信頼できる。」
マネージャーとしてメンバー全員を支える責任感が、彼の胸を熱くした。
翌朝、龍雷神ビルの会議室に集まったZone STARZのメンバーたち。
JOHは最新の音源とプロモーション計画を共有した。
「今回の曲『紅月ノ旋律』はメンバー全員の強い思いが詰まっている。
表には出られないが、俺たちの音楽が誰かの心に届くと信じている。」
メンバーの顔に決意が宿る。
その日の午後、JOHはひとりカフェで取引先の音楽プロデューサーと密談を交わす。
「Zone STARZの未来は、君たちの手にかかっている。
このユニットを必ず世に知らしめよう。」
プロデューサーも静かに頷く。
帰り道、JOHのスマホに彩香からのメッセージが届く。
「お疲れ様。あなたが陰で支えているから、みんな輝けるのね。尊敬するわ。」
思わず笑みがこぼれる。
JOHは心の中で誓う。
「いつか、みんなが堂々とステージに立てる日を作る。」
東京の夜はまだ深いが、JOHの心には強い光が灯っていた。
音楽の“影”として、彼は今日も前を向き続ける。
夜の街を歩くJOHは、ふと空を見上げた。
満天の星が静かに輝き、遠くの街灯りが淡く揺れている。
この瞬間だけは、彼もまた普通の青年だと思えた。
「でも、俺の役目はここにある。影からみんなを守ること。」
スマホに再びメッセージが届く。今度はCHAMからだ。
「次の練習、日程調整したよ。みんなの予定をまとめて送る。疲れてないか?」
返信を打ちながら、JOHは微笑んだ。
「みんなのために、もっと頑張らないと。」
翌日、龍雷神本社のスタジオではメンバーが揃い始めていた。
KOUHとHikariは小声で曲のキーについて話し合い、
FOXは法律関連の書類をカバンから取り出し、さらっと確認。
CHAMは未依奈と子供たちの話題で楽しげに笑い、
Teethは朱珠莉と電話で会話している。
JOHはそんな皆の様子を見て、自分の役割を改めて実感する。
「彼らがそれぞれの人生を持ちながらも、ここに集まる。
この瞬間こそがZone STARZの真価なんだ。」
練習が始まると、メンバーたちは一つのリズムに心を合わせる。
音楽が流れ出すと、JOHは影の中で静かに指揮を執った。
「音楽は言葉以上に心を動かす。
この想いを、いつか世界に届けよう。」
夜の静けさの中、彼らの旋律は確かに誰かの心に響き始めていた。
スタジオの外、静かな廊下を一歩一歩、重厚な足音が響く。
扉がゆっくりと開き、黒のスーツに身を包んだ男が姿を現した。
彼の名は龍雷神 黄金、Zone STARZを影から支える謎の社長だ。
JOHは即座に立ち上がり、軽く一礼する。
「社長、お疲れ様です。皆、練習に集中しています。」
黄金はゆっくりと部屋に入ると、柔らかな笑みを浮かべた。
「ありがとう、JOH。皆の努力はよく伝わっている。君の采配も見事だ。」
スタジオの中、メンバーたちも気配を察して顔を上げる。
FOXは眼鏡の奥から鋭い視線を送るが、黄金には敬意が滲む。
「お会いできて光栄です、社長。」
黄金は静かに頷き、場の空気を温めるように話し始める。
「皆が日々忙しい本業を抱えながら、このユニットに全力を注ぐ姿は感動的だ。
これからの道は険しいが、必ず成果は出る。私も全力で支える。」
KOUHが口を開く。
「社長、いつも支えていただきありがとうございます。僕たち、もっと強くなりたい。」
「その気持ちがあれば、何も怖くない。音楽も、人生も。忘れないでほしいのは、ここにいる皆は“仲間”だということだ。」
その言葉に、一同は静かに頷く。
黄金の言葉は重く、しかし暖かかった。
そして黄金は軽く微笑みながら、こう付け加えた。
「さあ、次のステージに向けて準備を進めよう。君たちの物語はまだ始まったばかりだ。」
黄金の眼差しは遠く未来を見据え、Zone STARZの明日を確信していた。
黄金の言葉が部屋に響き渡り、静かな決意がメンバーの胸に宿った。
誰一人として目をそらさず、確かな絆を感じた瞬間だった。
JOHが静かに口を開く。
「さあ、次は本番に向けて動き出しましょう。僕たちの挑戦はまだ始まったばかりです。」
CHAMが笑顔で頷き、仲間たちの手をそっと握った。
「共に走り続けよう。どんな困難も、俺たちなら乗り越えられる。」
窓の外、夜の街が静かに輝く。
Zone STARZの未来はまだ見えないが、彼らの熱い想いは確かにそこにあった。
黄金は最後にひとつだけ付け加えた。
「誰にも真実は明かさず、この星たちが輝き続ける限り、俺たちはここにいる。」
彼らの物語は、まだ続く――。