第9話『結びの灯 ―富山を離れる朝―』
3日目の朝。富山市内にうっすらと霞がかかり、遠く立山連峰は幻想的にその稜線を浮かび上がらせていた。
Zone STARZの6人は、チェックアウトを終えたホテルのロビーで、それぞれの荷物を肩にかけていた。
今回はあくまで「休暇」——表向きには、かつての同級生との再会旅行。
アイドルグループ「Zone STARZ」としての身分は、ずっと伏せたまま、地元の人々とも普通の高校生の延長線のように接してきた。
だが、その“秘密”ゆえに、いっそう心に残るものもあった。
◯ 最後の立ち寄り ― 市場の朝
出発前、彼らは梨紅の勧めで、近くの朝市へ足を運ぶことになった。
場所は、新富山口駅近くにある地域の小さな公園広場。
地元の人々が手作り野菜や工芸品を並べ、互いに笑顔を交わしていた。
Zone STARZの6人はサングラスや帽子でさりげなく顔を隠しながらも、会話や表情には緩みがあった。
農家のおじさん(60代):「見かけん顔やな。旅行か?東京から?」
悌輔(やや大阪訛りで自然に):「ええ、ちょっと息抜きでな。昨日は環水公園でええもん見ましてん。」
おじさん:「ああ、あの野外の映像イベントか? うちの孫がめっちゃ喜んどったわ。“Zone STARZってアイドルすごかった”てな。」
メンバーたちは視線を交わしながら、あくまで観客としての立場を崩さずに微笑んだ。
承太郎:「映像越しでも、音楽って伝わるもんなんですね。」
東助(トマトを見て):「うわ、これ瑞々しいなぁ。めっちゃうまそう。」
おじさん:「持ってけ持ってけ、サービスや! 学生さんはよ食べて、よう学んで、また遊びに来てな。」
光莉:「…富山の人って、ほんとあったかいな。」
その横で、玜介はふと、誰にも聞かれぬように呟いた。
玜介:「俺たちのこと、たぶん薄々気づいてる人もいるかもな。でも——」
光莉(微笑んで):「それでも“普通の人”として接してくれる。それが、ここなんだよ。」
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◯ 新富山口駅 ― 出発の時
駅に到着すると、すでに梨紅と美香が待っていた。
二人はZone STARZのことを知る数少ない地元の理解者だったが、他言せず、あくまで「同級生との再会」として今回の滞在を共にしてくれた。
梨紅:「……ほんとに帰るんだな。」
美香:「もっと一緒にいたかったのに……。」
承太郎(笑いながらも柔らかく):「また来るよ。今度は、もっと派手に遊ぼうぜ。」
悌輔:「せやせや。次は、寒ブリの季節にな。」
東助:「あったかいおでん食べながら、また富山の夜を語ろうや。」
光莉(涙ぐみながら):「美香ちゃん、連絡先、これ……彩香さんにも渡してね。」
美香(目を潤ませながら):「うん。絶対、忘れない。」
玜介(静かに):「君が信じた人たちなら、俺も信じられるよ。」
梨紅は少し寂しげに笑ってから、ふっと真剣な表情になった。
梨紅:「……正直、Zone STARZって知った時、びっくりした。でも、話して、歩いて、笑って……“ああ、やっぱりあの頃の仲間だ”って思えた。」
光莉(小さく):「それが一番、嬉しいよ。」
梨紅(手を差し出して):「また富山に来いよ?“Zone STARZ”としてでも、“光莉”としてでもいい。絶対、だぞ。」
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◯ ホーム
アナウンスが響き、新幹線がホームに滑り込んでくる。
車体の白が、朝の光を反射してまぶしいほどだった。
改札を抜け、6人は振り返り、富山の空を見上げた。
過ごした時間のすべてが、まるで昨日の夢のように胸を締めつける。
承太郎:「梨紅、美香……ありがとな。」
悌輔:「また、ふらっと帰って来るで。」
東助:「富山の風、忘れへんよ。」
光莉:「美香ちゃん……必ず、また。」
玜介:「この町の静けさ、言葉じゃ言えん宝だ。」
手を振り、ゆっくりと動き出す車体。
光莉は、窓の向こうで小さく手を振る美香の姿を、しばらく見つめていた。
そして、胸の奥でそっと呟いた。
光莉(心の声):「いつかまた、“Zone STARZ”じゃなく、“私”として会いに行けたら…そんな日が、きっと来るって、信じてる。」




