第8話 「―それぞれの一週間―」
Zone STARZ、ツアー後の休止期間は残り一週間。
再始動に向けた会議やリハーサルが始まるその日まで――
彼らは「本業」と呼ばれる、もうひとつの現場に心血を注いでいた。
それは、ステージ上の煌びやかさとは真逆の、地道で過酷な世界。
だが彼らは、この現実を避けることなく、自ら選んだ道を真っ直ぐに歩いていた。
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◆森下玜介(KOUH)―救命の隙間に音楽を思う
ERの待機室、夜勤明けの薄明かり。
血まみれの手袋を外し、手を洗う音だけが響く。
朦朧とした意識の中でも、森下はひとつひとつの命に向き合っていた。
「搬送6件、手術2件、あとICU引き継ぎやな……」
仮眠室に戻ってソファに沈む。天井を見つめながら、ふと思う。
――あと一週間でZone STARZが再始動か。
「また歌えるんやな」
瞼を閉じた瞬間、ツアー最終日のステージの光が蘇る。
ナースの光莉がそっと毛布をかける。
「寝れる時に寝とき。今は命が相手やけど、もうすぐまた、心が相手やもんな」
彼は眠りに落ちる。再び“歌う医者”に戻る日のために。
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◆孤咲東助(FOX)―証拠と闘う日々
東京地方裁判所。弁論の静けさの中、孤咲東助の声が響く。
「この証人の証言は信頼に足りません。なぜなら――」
情熱も怒りも抑えて、冷静に、緻密に。
彼の言葉は法の矛として鋭く、盾としても強い。
休憩中、彼は裁判資料を抱えたままベンチに腰を下ろす。
スマホに届いたZone STARZのライブ写真を眺めて小さく笑った。
「まだ……こっちの世界が終わってへん」
彼にとっては、音楽も、法も――弱き者のための武器だ。
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◆仲間蜜介(CHAM)―金と信頼を守る者
「仕訳の修正、ここ。あと法人税、締切近いからな」
会計事務所では、仲間蜜介がスタッフに的確な指示を飛ばしていた。
税務署とのやり取り、経営者との電話。神経をすり減らす仕事が続く。
部屋の片隅に、Zone STARZの金色のツアー衣装の布が飾ってある。
それを一瞬だけ見て、蜜介は眼鏡を直した。
「俺がこっちで守ってんのは、数字やなくて信用や」
そしてまた、帳簿へと視線を戻す。静かに、正確に。
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◆園川悌輔(Teeth)―口腔から未来を変える
町の小さな歯科医院。子どもが泣きながら診察台に座っている。
「大丈夫や。痛ないようにやるから、一緒にがんばろな」
園川悌輔の手は穏やかで、表情は優しい。
音楽では熱い炎だが、ここでは安心をくれる灯火。
終業後、彼は地域の歯科衛生講習会に講師として登壇していた。
「健康な歯は、未来への投資やで。音楽も、医療も、人を笑顔にするもんや」
拍手が起こる中、彼の瞳はどこか遠くを見つめていた。
「……そろそろ、またマイク持ちたなってきたわ」
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◆森下光莉(Hikari)―小さな命に、静かな祈りを
婦人科病棟。出産直後の新生児を抱き、母親が涙を浮かべている。
光莉は優しく微笑んだ。
「がんばりましたね。おめでとうございます」
彼女の手は、命の誕生を祝福する神聖な手。
一つの生命を見届け、見守り、また次へと歩き出す。
休憩室ではZone STARZの音源が小さく流れていた。
「この音楽、ほんまに癒しやね」
同僚ナースのその言葉に、光莉は微笑む。
私は小声で誰も聞こえない様に…
「……私も、その一部なんやって、誇らしいんです」
と呟いた
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◆城戸承太郎(JOH)―すべての歯車を整える者
(株)龍雷神のオフィス。スケジュール管理、予算編成、各方面への調整。
メンバーがそれぞれの現場にいる今、城戸承太郎は誰よりも忙しかった。
「再始動に向けて、全員の準備が完了するまで、俺が全部整える」
パソコンに映るメンバーのスケジュール表を眺めながら、呟く。
「……でも、会いたいな。みんなに。あの音が、あの光が、もう恋しい」
ふと、メンバーの動画を見返す。ステージの笑顔がそこにあった。
「よし、あと一週間。俺もギア上げてくぞ」
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それぞれの仕事、それぞれの責任
華やかなスポットライトの裏で、彼らは誰よりも地に足をつけて働いていた。
救う命、守る信頼、整える未来――彼らがZone STARZであることに、何一つ無駄なものなどない。
そして、一週間後。
再び光が彼らを照らす時、そこにはひとまわり強くなったZone STARZがいるだろう。




