第7話「―二つの顔、それぞれの現場― 」
47都道府県を巡るライブツアーを無事に終えたZone STARZのメンバーたちは、束の間の2週間の休暇を得た。だがそれは「音楽」からの休息に過ぎず、彼らにとってのもう一つの顔――それぞれの専門職としての人生が、すぐにまた彼らを現実に引き戻していた。
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森下玜介(KOUH)―白衣の戦場
大阪市内の総合病院、ER(救急救命センター)。
午前6時。夜明けとともに緊急搬送のサイレンが鳴り響く。森下玜介は白衣を翻し、現場へ駆け出した。
「こっちの患者、意識レベルJCS200!血圧下がってる、すぐに処置に入るぞ!」
ナースや研修医が慌ただしく動く中、彼の声だけが静かに、しかし鋭く飛ぶ。手際よく点滴を確保し、心臓マッサージの指示を飛ばす。
――患者の命を預かる重責、それを彼は日常として背負っていた。
昼下がり、手術が一段落すると、病棟の廊下のベンチに腰を下ろした。スマホを取り出すと、Zone STARZのメンバーからのグループチャットが届いていた。
《FOX:体調どう? ERハードやろ?》
《CHAM:飯、ちゃんと食ってるか?》
《Teeth:患者だけじゃなくお前も労われよ》
《JOH:ちゃんと休めよコウ!》
《Hikari:帰ったら温かいご飯、作って待ってるからね♡》
玜介は少しだけ微笑み、短く返信する。
「ありがとう。まだ命を救えるだけの力、俺にはあるみたいや。頑張るわ」
そこへ、看護師姿の妻・光莉がコーヒーを2つ持って現れた。
「コウ、お疲れ様。はい、これ」
「サンキュ。……お前も今日は夜勤やろ?」
「うん。でもあなたと一緒なら頑張れる」
ふと、院内アナウンスが鳴る。
《ERへ緊急搬送です。ドクター森下、至急対応を》
玜介は立ち上がり、光莉の手を軽く握った。
「行ってくる。……気ぃつけてな」
「私も行くよ。あなたのサポート、私の仕事だもん」
――戦場に戻る2人の背中には、同じ白衣が揺れていた。
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孤咲東助(FOX)―法廷の戦士
東京・霞が関の一角にある弁護士会館。国選弁護士・孤咲東助は、分厚い資料の山とにらめっこしていた。
「この証言、矛盾してるな……こいつを崩せば、無罪の可能性が出てくる」
ノートPCを打つ指は速く、目の下には薄く隈ができていた。貧困や社会的弱者のために立ち上がる国選弁護士――彼が選んだ道は、報われにくく、だが誇り高い。
昼下がり、同僚の若手弁護士が声をかけてきた。
「FOXさん、【Zone STARZ】のLIVEの映像見ましたよ。あんな熱いステージする人が、こんな静かな戦いしてるなんて驚きです」
「まぁ、凄い人たちだって事がお前からもわかるだろ? 」
スマホの通知が鳴る。Hikariからだった。
《お仕事お疲れ様。少しは休めてますか?》
東助はソファに身を沈め、しばし目を閉じた。
「休むヒマはない。でも、お前らの歌声思い出したら、また頑張れる気がするわ」
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仲間蜜介(CHAM)―数字の迷宮
東京都内の会計事務所。副会長兼書記を務める仲間蜜介は、最新の決算資料に目を通していた。
「……この数字、ちょっと合わへん。原因突き止めてから監査に回すで」
部下が怯えたように資料を渡すと、蜜介は優しく微笑む。
「焦らんでええ。正確にやろな、信用が命やから」
昼休み、弁当を食べながらグループチャットを確認。
《Teeth:今日も数字とにらめっこしてるんか?》
《JOH:そろそろ次のライブ会議も考えてな!》
仲間はメガネを外し、目を細めた。
「俺は数字と音楽、両方で社会を支えてるからな。どっちも手ぇ抜かへん」
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園川悌輔(Teeth)―地域の笑顔を守る歯科医師
町の歯科クリニックで、悌輔は白衣姿で患者に優しく語りかける。
「はい、大きく口を開けて。痛みはすぐ取れるから安心してくださいね」
歯科医師会副会長としての責任も背負い、治療の合間にはオンライン会議に出席。地域医療の発展のために奔走していた。
スタッフがそっと声をかける。
「先生、明日も会議続きですが……」
「患者さんの笑顔守るのが俺の仕事や。そんなんでへこたれてられへん」
スマホを見て、JOHのメッセージを確認。
《Teeth、診療終わったら休めよ。無理すんなよ》
「わかってるって。お前もな、JOH」
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森下光莉(Hikari)―小さな命の守り人
婦人科病棟のナースステーションで、光莉は患者の手をそっと握っていた。
「大丈夫ですよ。痛いときは、すぐに言ってくださいね」
献身的な看護と、周囲への気配り。誰もが信頼を寄せるナースだった。
空き時間、椅子に腰を下ろしスマホを開く。
《コウ、無理してない?帰ったら温かいご飯あるからね》
返信が返ってくる。
《ありがとう。ヒカリの言葉が一番の薬やわ》
彼女は微笑みながら、心の中で呟いた。
――この人のために、私は毎日がんばれる。
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城戸承太郎(JOH)―若き司令塔
(株)龍雷神のオフィス。承太郎はスケジュール表と睨めっこしながら電話で各方面と連絡を取っていた。
「ツアー後の取材?はい、調整します。メンバーの健康状態も考慮しないといけないので」
彼は若くしてZone STARZを支える敏腕マネージャーとして、全員の信頼を集めていた。
グループチャットにメッセージを送る。
《みんな、仕事大変やろうけど体調第一で!絶対また最高のステージに立とうな》
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夜、オンラインでの再会
ある日、全員がオンラインで集合した。カメラ越しに顔を見合わせるだけで、不思議な安心感が広がる。
玜介「久しぶりにみんなの顔見て、ちょっとホッとしたわ」
東助「ステージより法廷の方が緊張するな、やっぱ」
蜜介「数字ばっか見てるから、目が乾いてしゃあない」
悌輔「患者の口ばっか覗いてるからな。今度はお前らの顔が見られて嬉しいわ」
光莉「どんな仕事してても、こうして集まれるのが嬉しいよ」
承太郎「……ほんま、みんなすごいわ。俺、めちゃくちゃ誇りに思ってる」
全員が頷く中、玜介が静かに言った。
「次のライブも、きっと熱いものになる。俺たち、それぞれの現場で戦ってるけど、心は一つや」
その夜、6人はそれぞれの場所でパソコンを閉じ、明日の現場へと備えた。
Zone STARZ、再集結の時はもうすぐだ。




