第5話「交差する想いと新たな挑戦」
ZoneSTARZとLightningの合同リハーサルが始まってから数日が経過した。東京都内の某スタジオ。外からは想像もつかない、密閉された空間に流れるのは、計算された音と熱気、そして緊張の静けさだった。
ZoneSTARZのメンバーである悌輔は、リハーサルスタジオの片隅で歯科医としての白衣からは想像できないような姿でヘッドフォンを耳に当て、Lightningの演奏に真剣に耳を傾けていた。
「……やっぱり、音の粒がきれいだな。SHOWの鍵盤、楓珠の声も芯がある」
彼の隣では、美優がPCに向かい、楽譜と音のバランスを調整していた。その横顔を見つめる悌輔に、美優はにこりと笑いながらつぶやいた。
「悌輔、あなたのこの音楽への執念、歯科医師としてじゃなく、アーティストとしての顔、改めて好きになっちゃうわ」
冗談交じりのその言葉に、悌輔は小さく咳払いしながら照れたように笑った。「そう言ってもらえると助かる。……でも、内緒な。美豊にはまだ話してないんだから」
美優の姉であり悌輔の歯科大学時代の同期、美豊には、ZoneSTARZの活動はまだ秘密だった。
その頃、別室の控室では、Lightningのリーダー・楓珠が、ZoneSTARZのJOHと小声で話していた。
「このリハ、本当に表に出さないで大丈夫なんだよな?」
「もちろん。これは完全にクローズドなプロジェクト。誰にも漏れてない。ZoneSTARZの活動が公になるのは、全員のタイミングが合ったときだけだ」
楓珠はうなずき、少し遠くを見た。耳の聞こえない両親のことを思い出す。自分が歌で生きる決意をしたとき、一番に伝えたかったのは彼らだった。音を聴けない両親に、彼は“感じさせる音”を追い求めてきた。
「俺の歌が、誰かの心に触れる瞬間。それがあるなら、この活動には意味がある」
その言葉に、通りかかった当真がふっと笑いながら入ってきた。
「楓珠、語るのはリハ後にしようぜ。もうそろそろ、ZoneSTARZと合わせるぞ」
「はいはい、兄貴」
当真はメンバー最年長で、弟分たちから“兄貴”と呼ばれている。家庭では長男として弟たちをまとめ、音楽の世界ではギターとボーカルでグループを支える。彼の存在はLightningの精神的な柱だった。
その当真の隣に立った蓮王は、首からギターを下げたまま、ZoneSTARZのFOXと目が合った。
「…お互い、職業からして想像つかないな」
「まさかな。あんたが本物のギタリストで、俺が弁護士なんて、誰が信じるかって話だ」
笑い合う二人の背後で、KOUHとHikariはさりげなく手を取り合い、スタッフに気づかれないように距離を保っていた。
「光莉、疲れてない?」
「ううん。こうしてまたみんなで音を奏でられる日が来るなんて思わなかったから、むしろ元気。……でも、バレないようにしないとね、私たちのこと」
その笑顔の裏にある緊張と覚悟。ZoneSTARZのメンバーたちはそれぞれが表の顔と裏の顔を持っていた。そして、Lightningのメンバーもまた、それぞれが家庭や社会での役割を背負いながら、この「音楽」という一点に集っていた。
その夜、控室の一角で、菅生美優とSHOWがピアノの前に並んだ。
「これ、もう少し転調を工夫したいの。あなたの母親が世界的ピアニストなら、感覚的に分かるはず」
「……俺もそう思ってたんだ。母さんは昔こう言ってた。“音楽は、技術を超えた瞬間に人の心を動かす”って」
二人の手元から生まれる旋律に、スタジオ全体の空気が一瞬止まったように感じられた。互いの音が、静かに、しかし確かに、溶け合っていく。
リハーサル最終日、ZoneSTARZとLightningのメンバーは全員がステージに立ち、誰にも聞かれていない、しかし誰よりも魂が揺さぶられる音楽を奏でた。
この瞬間、誰もが確信していた。
「この音は、誰かの心を変える力がある」と。
そして、まだ誰にも知られていないこの“合同プロジェクト”は、確実に、新たな伝説の幕を開けようとしていた。
リハーサルの合間、ZoneSTARZの仲間蜜介は、廊下の窓から夕暮れの空を眺めていた。真っ赤に染まる東京の空。その先にいるはずの妻・未依奈と子どもたちのことを思い出していた。
(……春翔、由紀恵。パパは、ちゃんと“もうひとつの顔”も守ってるからな)
彼の手元には、未依奈からのメッセージが届いていた。
「今日は由紀恵が初めて“ZoneSTARZ”って言ったの。テレビ見せてないのに、どこかで聞いたのかな。不思議だね」
思わず頬がゆるむ。家庭と表舞台。どちらも嘘ではない。だが、どちらか一方に偏れば、どちらかを失う可能性もある――そんな覚悟を、仲間蜜介は静かに抱いていた。
一方、Lightningの蓮王は、休憩中に家族とのグループ通話をしていた。母はステージのリハ直前に声だけでも励まそうとメッセージを送ってきていた。
「あんたの音、今の業界に必要だって思うの。兄弟たちにも誇りよ。ちゃんとご飯食べなさい」
彼の家族は華やかで、芸能に理解が深い。だからこそ、彼のプレッシャーも重かった。兄や姉のように“名前だけ”で注目されるのではなく、蓮王は“実力で響く音”を選びたかった。
その傍ら、SHOWはスタッフの見ていないところでキーボードに手を置き、即興の旋律を弾き始めていた。そこにそっと近づいたのは、ZoneSTARZのCHIKA。
「……今の曲、なんて名前?」
「まだないよ。今ここで初めて出てきた音。……でも、君の声が乗ったら、名前が浮かぶかもしれない」
その言葉に、CHIKAの目が一瞬揺れた。感情に蓋をして歌うのがプロとしての姿勢だと信じてきた彼女の中に、ふと“個人”としての自分が顔をのぞかせた。
同じ頃、ZoneSTARZの悌輔は、控室の一角でLightningの楓珠と向かい合っていた。
「楓珠。君が耳の聞こえないご両親に音楽を届けたいって言っただろ」
「ああ。音を“聴く”んじゃなく、“感じる”ようにしたいって」
悌輔は頷いたあと、少し真剣な顔になる。
「実は、珠莉も中国でろう教育を学んでいて……もし機会があれば、君の音楽を“視覚化”するサポートができるかもしれない」
楓珠の目が見開かれた。「それ、本当か?」
「本気だ。ZoneSTARZが音楽をやる理由のひとつは、届けるべき人に届かせることだと思ってる」
二人の視線が交わった瞬間、表現の未来がわずかに開かれた気がした。
その夜、合同チームの一部がひっそりと集まった。場所は、スタジオ近くの静かなダイニング。関係者にバレないように、打ち上げのようなことは避け、あくまで「情報共有」として行われた。
Hikariは、悌輔やCHIKA、美優、そしてLightningのメンバーたちと、今後のスケジュールやパフォーマンスの構成について議論していた。
「まず、最初の披露の場はどこにするか。一般のライブではなく、限定イベントとして静かに始めたほうが良い」
「私たちの存在が“元の職業”と繋がると困る人もいるからな」JOHが言うと、全員が静かに頷いた。
「でも、だからこそ意味があるのかも」楓珠が静かに言った。「この音が、そういう“壁”を越えられるってことを、俺たちが証明すればいい」
蓮王がグラスを傾けながら笑った。「じゃあ、やるしかないね。バレても後悔しないように」
当真がテーブルを軽く叩いて立ち上がった。「よし。次のリハ、俺が引っ張る。ZoneSTARZの皆さん、俺たちLightningと、本気でひとつになろうぜ」
その言葉に、ZoneSTARZのメンバーたちがうなずいた。内緒の活動、秘密のプロジェクト。だが、その“秘密”は決して後ろ暗いものではなく、誰よりも純粋な「音楽への情熱」の証だった。
そして彼らはまた翌日、新しい音を重ねるために、スタジオに集う。
誰にも知られず、だが確実に――伝説の序章が、そこにはあった。




