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【Zone STARZの物語】  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
第1章:Zone STARZの出逢い
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第1話「はじまりの音、まだ遠く」



空は淡く染まり始めていた。まだ朝の冷たさが残る都会の片隅で、一人の男が深いため息をつく。森下玜介――30歳の医師であり、東大医学部を卒業した才媛だった。彼は毎日、命の瀬戸際で戦う日々を送っていたが、今はその重圧から少し離れ、静かな時間を求めていた。


彼の趣味は「クイズ」だった。高校時代からの唯一の楽しみであり、心の拠り所だった。フランス語とドイツ語を自由に操りながら、難解な問題に挑む時間が、彼にとっての安らぎである。しかし、そんな日々もいつしか仕事の忙殺に押し流されていた。


一方、遠く離れた場所で別の人生を歩む女性がいた。中埜光莉、28歳。彼女は看護師であり、玜介の妻である。高校生クイズ大会の出場を機に遠距離恋愛を続け、ようやく結ばれた二人。彼女は韓国語も操り、国際的な視野を持ちながら医療現場を支えていた。彼女もまた、自分の使命感に燃えながら、日々患者のために奔走している。


朝の病院は静かだった。だが、その静けさはいつも長くは続かない。電話が鳴り、患者の容態が急変したとの知らせが入る。玜介は迷うことなく手術室へ向かい、光莉もすぐさま看護師の準備に取りかかった。


「また、始まったな」と彼は心の中で呟く。だが、その過酷な日常の合間にも、彼らの心には音楽がわずかに響いていた。音楽――それはまだ遠い、しかし確かに存在する「未来の彼ら」の姿だった。


同じ頃、京都では孤咲東助という弁護士が、法廷の冷たい空気に立ち向かっていた。彼は洛南高校を卒業し、京大法学部を経て、国選弁護士として社会の矛盾と闘っている。弁護士という表の顔の下に、実はもう一つの顔があることは誰も知らない。音楽――それが彼の密かな逃避であり、心の支えだった。


「もっと自由に、ありのままに生きたい」

孤咲は時折、そう呟きながら深夜のバーでギターを掻き鳴らす。だが、表向きは冷静な法の番人として、正義の盾を振るう男である。


東京の慶應大学では、仲間蜜介がテニスラケットを置き、大学のキャンパスを歩いていた。彼は商業高校から慶應に入り、庭球部で高校2連覇の実績を誇るスポーツマンだ。彼の隣には女優兼元モデルの妻、広瀬未依奈が優しく微笑む。二人は5年の交際期間を経て結婚し、幸せな家庭を築きつつあった。


一方、富山では園川悌輔が歯科医師としての腕を磨きつつ、吹奏楽部時代に吹いたホルンの音色を思い出していた。彼は北陸歯科大学卒業後、歯科医師会の副会長の地位にもつきながら、中国語を話す妻、朱珠莉との遠距離恋愛を乗り越え、結婚したばかりだった。異国の風を感じる彼の心には、いつも音楽があった。


そして東京の片隅で、若きマネージャー城戸承太郎が、慶應の幼稚舎から大学まで一貫で育ち、兄弟たちの期待を背負いながら、芸能とビジネスの狭間で奮闘していた。彼は、後にこの5人を支える重要な存在となることを、まだ知らない。


まだ互いの存在を知らず、違う道を歩む彼ら。しかし、それぞれの心の奥底には確かに音楽の種が芽生えていた。何かが、彼らを繋ぎ合わせるために動き出そうとしていた。



夜が明ける頃、誰もが知らない“はじまりの音”が遠くの空から聴こえてくる。まだ遠く、かすかなそのメロディは、やがて世界を揺るがす「Zone STARZ」の物語の序章だった。


病院の廊下を駆け抜ける森下玜介。手術室の扉を押し開けると、そこには緊張と焦燥が入り混じった空気が満ちていた。スタッフが一丸となって準備を進める。患者は重篤なアレルギー反応により、呼吸困難の状態に陥っているという。


「状況は?」彼は短く問う。


「急激に症状が悪化しています。気管挿管の準備はできていますが、今のままでは時間がありません」看護師の光莉が応える。


彼女の冷静さに助けられながら、玜介は瞬時に最善の策を組み立てる。手術台の上の患者の命を、たった今奪い去ろうとしている敵を相手に。無数の情報と経験が彼の頭の中を駆け巡る。だが、心のどこかに「焦ってはいけない」という静かな声があった。


その声の主は光莉だった。彼女はいつも彼を支え、時に厳しく、時に優しく励ましてくれる。二人は職場でも夫婦であることを隠しながらも、互いの存在が何よりの支えだった。


手術は長時間に及んだ。患者の命が一進一退を繰り返す中、玜介の手は決して震えなかった。やがて、呼吸が安定し始める。スタッフの誰もが安堵の息を漏らす。


「ありがとう、光莉」玜介は小さく呟いた。


「私たちはチームよ。あなた一人じゃない」彼女は微笑んだ。


病院を出ると、朝陽がビルの間から顔を出していた。世界はまるで何事もなかったかのように輝き始めている。だが、彼らの心は確かに変わっていた。何かが動き出す予感があった。



一方、京都の法廷。孤咲東助は裁判の終盤に差し掛かっていた。国選弁護士として、弱き者の味方である彼は、今日も不正と戦っていた。だが、その瞳はどこか遠くを見ている。


裁判が終わり、夜の帳が下りる頃、彼は小さなライブバーに足を運んだ。静かなジャズの音色が店内に漂う。孤咲はギターを手にし、弦を一つ一つ確かめる。


「自由に生きるとは何だろうか」彼は呟き、やわらかなメロディを奏で始めた。


音楽は彼の心の言葉だった。法の世界の厳しさと、心の自由への希求。その狭間で揺れる自分を表現する唯一の手段。



東京の慶應大学キャンパスでは、仲間蜜介が妻の未依奈と手を繋いで歩いていた。彼は庭球部の伝説的な存在であり、彼女は華やかな舞台の女優だ。二人の間には幼い息子と娘が笑い声をあげている。


蜜介は思う。音楽を始めてみたい。けれど、忙しい日々の中で、その願いはいつも後回しになっていた。


「いつか、一緒にステージに立とう」未依奈が囁いた。


彼はその言葉に胸を熱くした。



富山の診療所。園川悌輔は患者の歯を優しく診察しながら、ふと妻の朱珠莉との出会いを思い出す。中国での家族旅行中、言葉の壁を越えて惹かれ合った二人。


彼は中国語も巧みに話し、妻も日本語を完璧に操る。文化を越えた愛が、彼の人生に新しい色を与えていた。


「いつか、音楽の夢も叶えたい」彼は小さく誓う。



そして東京の雑踏の中で、城戸承太郎はビルの屋上で夜景を眺めていた。彼はまだ若いが、兄弟の期待と家族の歴史に押され、日々のプレッシャーと戦っていた。


「俺は、俺の道を行く」心にそう決めた彼は、やがて彼ら五人を結ぶ運命のマネージャーとなることを知らずにいた。



かくして、6人の人生がゆっくりと交差し始める。彼らの胸の奥に秘めた音楽という共通言語が、やがて彼らの世界を一つに結び付ける日が来ることを、誰もまだ知らない。




日が沈みかけた東京の街並みの中、森下玜介は自宅の狭い書斎でゆっくりと腰を下ろした。手術の成功に安堵しながらも、彼の胸にはまだどこか満たされないものがあった。医師としての使命感はもちろんあったが、それだけでは説明しきれない何かが彼の中で燻っている。


妻の光莉がキッチンから柔らかな声で呼びかける。「玜介、もう遅いわよ。少し休んだほうがいいわ」


彼は微笑みながら返す。「うん、ありがとう。少しだけだ」


二人の間に流れる静かな時間。遠距離恋愛時代に育まれた信頼と絆は、今も揺るぎないものだった。しかし、彼らが隠し持つ秘密はまだ外の世界には知られていない。



その頃、京都の法廷を後にした孤咲東助は、薄暗い路地裏にあるライブバーへ向かっていた。店の扉を開けると、既に馴染みの顔が数人、カウンターに集まっていた。仲間蜜介の姿も見える。


「やあ、孤咲。久しぶりだな」蜜介が笑顔で声をかける。


「おお、仲間。お疲れ様。今日は少し羽を伸ばしたくてね」孤咲はそう答え、ギターを手に取った。


音楽が流れ始めると、法の世界の疲れも少しずつ溶けていく。彼らはそれぞれの重荷を抱えながらも、この時間だけは自由であった。



一方、富山では園川悌輔が夜の診療所で患者のカルテを整理していた。妻の朱珠莉は隣の部屋で、通訳の仕事を終え電話をしている。


「悌輔、明日の予定はどうする?」珠莉が声をかける。


「明日は休診日だ。久しぶりに二人で出かけよう」彼は微笑んだ。


二人の愛は遠く離れた国境も文化も超えて繋がっていた。悌輔は思う。このまま平凡に日々を過ごすだけでいいのかと。しかし、胸の奥に秘めた音楽への想いは彼を静かに突き動かしていた。



慶應大学キャンパスの一角では、仲間蜜介が妻の未依奈と子供たちと共に、次のステージへの夢を語り合っていた。蜜介はテニス部の輝かしい経歴の裏に秘めた音楽への情熱を、誰にも明かせずにいた。


「いつか、家族みんなでステージに立とう」未依奈の言葉に、蜜介は未来への希望を強く胸に刻んだ。



夜の東京タワーを背に、城戸承太郎は一人静かに未来を見つめていた。彼は家族の期待と自分自身の理想の狭間で揺れていたが、もう迷わない。自分の道は自分で切り拓くのだと心に誓った。


「この6人で、何か大きなことを成し遂げる──そんな予感がする」


彼はそう呟き、スマートフォンを取り出して連絡を始める。運命の歯車が静かに回り始めていた。



翌日、森下夫妻と孤咲、仲間、園川、城戸の6人は、都内の小さなスタジオに集まった。初めての顔合わせに、緊張と期待が入り混じる。


「これから僕たちの物語が始まる」玜介が静かに言った。


誰もがそれを感じていた。音楽を通じて、それぞれの人生が交差し、そして未来へと繋がっていく──そんな確かな手応えがあった。



彼らはまだ知らない。これから訪れる試練や葛藤、そして絆の深まりを。


だが、確かなことはひとつ。彼らは共に、Zone STARZという名の新しい世界を切り拓こうとしているのだ。




スタジオの薄暗い照明の中、初めて顔を合わせた6人の視線が交わる。誰もが言葉少なに、しかし心の奥底で共鳴する何かを感じていた。


森下玜介は軽く頷き、手を差し出す。


「これから一緒に、新しい挑戦を始めよう」


その声に応えるように、孤咲東助が力強く手を握り返す。続いて仲間蜜介、園川悌輔、城戸承太郎、そして光莉も静かに手を重ねていった。


「Zone STARZ――僕たちの名前だ」


一つになった手の温もりが、未来への約束となった。


スタジオの壁に響くギターの弦の音、柔らかなピアノの旋律。まだ形にならない音楽の断片が、彼らの心を揺さぶり、繋いでいく。


「どんなに遠くても、必ず繋がる。僕らはひとつの音だ」


光莉が微笑んだ。その瞳は、すでに未来を見据えていた。


それぞれの人生が交差し、新たな物語が今、静かに幕を開けた。



物語はここから始まる。まだ見ぬ明日を目指して、Zone STARZの6人が歩み出す。


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