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【Zone STARZの物語】  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
第2章:響き始める日常〜家族と音楽の狭間で
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第4話「秘密の向こう側で」


――守るもの、伝えたいこと



午後4時を少し回った頃、Teeth――園川悌輔は診療を終えたばかりのクリニックのスタッフルームで、そっと白衣を脱いだ。

富山中部高校出身、北陸歯科大学を卒業し、現在は地元富山で歯科医師会の副会長としての重責も担っている悌輔。ZoneSTARZの一員として活動する傍ら、彼は日々の診療と地域貢献の板挟みに悩まされていた。


だが、今日の彼の足取りは、いくらか軽やかだった。

理由は一つ。妻・朱珠莉との約束があったからだ。


朱莉は中国人の通訳の娘として育ち、悌輔とは中国旅行中に出会った。3年間の遠距離恋愛を経て結ばれた二人の関係は、国境も文化も言葉も超えたものだった。

彼女はまだ20歳。日本語は流暢だが、生活のすべてが「初めて」であることが多い。


その日の夕方、悌輔は駅前のデパートで、少しだけ高級なフレンチを予約していた。

朱莉の誕生日にはまだ日があったが、今日は二人の“交際記念日”だった。


「悌輔、今日は……久しぶりにちゃんと“夫婦”みたいだね」


朱莉はテーブルの向こうで微笑んだ。華やかではないが、透き通るような笑顔だった。悌輔は軽く笑いながら、ナプキンを膝に置く。


「いつも夫婦だよ。俺はそう思ってる」


「うん。でも、あなたはいつも忙しいから……たまには、こうやって隣にいるのが嬉しい」


彼女はワイングラスに口をつけた。だがその笑顔の奥には、どこか気になる影があった。


悌輔はふと、心が疼くのを感じた。ZoneSTARZのことを、彼女にはまだ話していない。理由は、明確だった。

朱莉は芸能界にも音楽業界にも無縁の世界で生きてきた。表舞台に立つことの厳しさや、正体が明かされたときのリスクを、まだ完全には理解できないだろう。


しかも、**悌輔の姉・園川裕香は元GRT48の人気メンバー。妹の琴羽は今も現役のアイドルだ。**もし朱莉がZoneSTARZのことを知れば、無意識にその情報を彼女たちに漏らすかもしれない。

そうなれば、秘密の活動は一気に瓦解する可能性もある。


「朱莉。……俺さ、君に隠してることがあるんだ」


悌輔は、覚悟を持って切り出した。だが朱莉は、笑みを変えずに小さく首を傾げた。


「……悌輔、私はあなたを信じてるよ。全部話してくれなくても、いいの。

でも――私に“いつか話してくれる”って、そう信じてる」


その言葉に、悌輔は言葉を失った。

朱莉の声には責めも苛立ちもなかった。ただ、深い信頼と、愛情があった。


ZoneSTARZで歌っているとき、悌輔は“自分自身”になれる気がした。だがその裏側で、愛する人に真実を隠し続けることの苦しさも、日に日に増していた。


食事を終えて店を出た二人は、雨上がりの夜の富山駅前を歩いた。

ガラスに反射する街灯の光が、濡れたアスファルトを銀色に染めている。


「悌輔……私、あなたのこと、たぶん半分も知らない。けど、それでいい。知ってる“半分”を、私はすごく大切にしてるから」


朱莉はそう言って、悌輔の腕にそっと手を添えた。


彼女の柔らかい指先に触れながら、悌輔は心の中で誓った。


――いつか、全てを話そう。

すべてが整ったとき、すべての“音”がひとつになったその日には。


夜の闇の中、ZoneSTARZの次なる楽曲の構成が、悌輔の脳裏で静かに鳴り始めていた。

それは、“秘密”という名のバリアを、少しずつ溶かしていく旋律だった。



――変わらぬ想い、変わりゆく日常


夜。

富山駅からの帰り道、悌輔は車のハンドルを握りながら、助手席で眠る朱莉の横顔をそっと見つめた。


“まだ全部は話せない。でも、話す日を必ず作る”


それは、嘘ではない。だが、真実にもまだ届いていない。

心のどこかで「彼女は本当に耐えられるのか」と、自分に問い続ける日々が続いている。


自宅へ戻ると、朱莉は目を覚ましたが、まだぼんやりしていた。

「お風呂、先に入っていい?」とだけ言って、寝室へと消えていく。

その背中を見送りながら、悌輔は自室のデスクに置かれたスマホを手に取った。


SNSの通知がいくつか届いている。

その中にあったのは、姉・園川裕香の久々の投稿。元GRT48のメンバーとして地方番組にゲスト出演した報告と、ファンへの感謝の言葉が添えられていた。


「裕香姉ちゃんは、変わらないな……」


つぶやくように言った悌輔の口元は、どこか懐かしさに緩んでいた。

裕香はいつだって、家族の前では豪快で笑顔を絶やさない姉だった。彼が歯学部の試験で挫折しかけたとき、「お前は真面目すぎるだけだよ。もっと肩の力抜きな」と頭をぐしゃぐしゃに撫でて励ましてくれたのも、彼女だった。


そして、スマホをスライドすると、妹・琴羽の最新ライブの模様が目に入る。

ステージ上でライトを浴びるその姿は、幼い頃に「お兄ちゃん、いつかアイドルになるの!」と無邪気に宣言していたあの頃のままだった。


――でも、2人とも、まだ知らない。

自分がZoneSTARZのメンバーだということを。


「知ったら、どう思うんだろうな……」


兄が、まさか歌って踊ってラップを刻んでいるとは思わないだろう。

裕香はテレビ業界の裏事情に詳しいし、琴羽の現場にも共通スタッフがいる。

万が一にもバレたら、それだけで“終わる”可能性すらある。


それでも、悌輔は思う。

この“音楽”という新しい生き方が、自分をこんなにも自由にしてくれていることを。


ZoneSTARZの活動において、彼のパートは**旋律と静寂の狭間を奏でる“癒し”**の存在。

医療の世界でも、音楽の世界でも、“痛みを和らげる”という彼の本質は変わらない。


その夜、悌輔は一人、作業机に向かった。

CHAMから共有された次曲のデモ音源に、彼は自分なりのメロディを重ねていく。


すると、スマホが震えた。


>【FOX】

>「今度の日曜、都内リハ。来れるよな?」


悌輔は、深呼吸してから短く返信する。


>【Teeth】

>「行く。朱莉には出張って言っとく」


その瞬間、画面に「既読」のマークが灯る。

だが、その“既読”の裏には、誰にも見せられない葛藤と覚悟が詰まっている。


朱莉の笑顔、姉・裕香の無邪気なSNS投稿、そしてステージに立つ妹・琴羽の姿――

それらすべてを背負いながら、悌輔はZoneSTARZのメンバーとしての道を、今日も歩き続けていた。


外は、再び雨の音。

しかしその音さえも、彼にとっては一つのリズムだった。

次なる音楽に繋がる、静かなビート。


彼は、誰にも知られぬまま、その音に身をゆだねた。


――誰にも明かせない、本当のこと


夜更け、リビングには柔らかな照明と、雨音だけが静かに響いていた。

悌輔はソファに腰掛け、手元のカップに視線を落としていた。朱莉が丁寧に淹れてくれた、プーアル茶の香りが優しく鼻をくすぐる。


朱莉はキッチンから戻り、彼の隣にそっと座った。

そして、彼の表情をじっと見つめたまま、ゆっくりと問いかける。


「你今天過得還好嗎?」

(今日は、どうだった?)


悌輔は一度うなずきかけて、そして首を横に振った。


「還行吧。不過,有些事情一直掛在心上。」

(まあまあかな。でも…ちょっと気になることがあって)


朱莉は、悌輔の頬に手を添えた。

その手はあたたかくて、彼の迷いをすべて包み込むようだった。


「是不是工作太忙?還是,你有什麼不想告訴我的事?」

(仕事のしすぎ?それとも…私に言えないことでもあるの?)


一瞬、悌輔の指がピクリと動く。だが、朱莉は微笑んだまま、そっと続けた。


「你知道的,不管你是什麼樣的人,我都會一直在你身邊。」

(わかってるでしょ?どんなあなたでも、私はずっとそばにいるよ)


その言葉に、悌輔は目を細め、ほんの少しだけ彼女に身を寄せた。


「朱莉……我真的很感謝你。」

(朱莉…本当に、ありがとう)


「那就不要再一個人扛下所有,好嗎?」

(だったら、もう一人で抱え込まないで…ね?)


ふたりの視線が静かに交わった。

そして次の瞬間――朱莉は、そっと悌輔の唇にキスを落とした。


長いキスではなかった。

けれど、それはすべてを語るような、深くて、優しいキスだった。


悌輔は目を閉じたまま、そのぬくもりに包まれていた。

目を開けたとき、朱莉は穏やかに微笑んでいた。


「おやすみ、悌輔。」

「おやすみ、朱莉。」


朱莉が寝室へと消えたあと、悌輔は天井を見上げながら、心の奥で呟く。


(言えない。今はまだ、言えない…。でも、いつか…)


ZoneSTARZの正体、東京での活動、舞台裏の顔。

全てを話すには、もう少し時間が必要だ。


けれど、今日のキスは確かに彼の心をほどいた。

ひとつだけ、言葉にはならなかった本音を、朱莉に預けた。


外では、雨が音もなく止んでいた。

悌輔はカップを置くと、そっと灯りを落とした。


夜は、まだ続いていた。


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