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ピアノが弾ければそれでいい  作者: まさのり
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第8話

テレサさんの表情が暗い。剣の勇士の血筋に呪いが受け継がれていく事が精霊から聞かされる場面、伴奏が無いため部屋にいる人たちの様子を観察することができた。王妃殿下は目をまんまるにして話を聞く王子と王女の様子を見てニコニコしてる。侍女さん達は掃除を再開。、、、なんでだろ?テレサさんだけ憂いを帯びた表情です。


ん?最近よく目がテレサさんを追うなぁ。気をつけねば!変な人と思われちゃう!


場面は変わり、夕暮れ時、大公子と勇士たちは精霊たちに連れられ、大きな水晶の前に立つ。その水晶は曇りなく、前に立つものの姿を映す鏡のよう


『この水晶は『姿合わせの水晶』と言ってな、世にあるすべての鏡と繋がる事が出来るものだ。この水晶を通して魔王城北塔にある姿見の鏡の前に出る。北塔の最上部で魔神召喚の儀式は行われる。儀式の最中は魔族達は塔には入れない。北塔の周りに魔族達が護衛として集まっているだけだ。姿見の鏡がある階は塔の中段だ。そこに出れば魔族達の妨害を受けずに魔王と接敵することが出来る。無事に魔王討伐がなされたら、姿見の鏡を通り、またここに戻って来るといい』


『・・・戦いが始まったら、気配を察して流石に魔族達が上がってきますよね?』

竪琴の勇士が呟く


『そうね、いくらなんでもぼーっと待ってはくれないでしょうね。魔王を斃す前に姿見の鏡がある場所まで魔族達が押し寄せて来てたら、たとえ魔王を斃せたとしても戻って来れないでしょう』


『魔王討伐と帰還ルート防衛の二正面作戦か、、、』

剣の勇士が独り言ちる


精霊たちはかねてより魔王討伐計画を練っていた。魔王が魔神の召喚をすると、魔神は生きとし生けるものからその生命力を吸い上げ、自らの魔力に変える。自然界から発生した生命力そのものである精霊たちも魔神の贄となるそうだ


魔王城北塔の最上部で行われる召喚の儀式は、実際は魔神の魂を自らの身体を取り込む事を指すようで、その際は配下の魔人達は近寄ることができない。魔神がなにかの拍子に魔王以外の者に取り込まれることを防ぐためだ


『塔の中の通路は狭いのかい?』

双剣の勇士がフヨフヨ浮かぶ光の球達に話しかける


『うーん、、よくわからないけどそんなに広くはないんじゃないかな?』


『流石にそこまでは行ってみなければわからないってことだな』

大盾の勇士が精霊の言葉に苦笑いする


『出たとこ勝負だが、、、やるしか無い!』

大公子は覚悟を決め、皆に発破をかける


『『デュランダル』だけでなく、そなた達にも加護を与えよう。この一戦、負ければ陽の光のもとで生きる者たちに絶望の世をもたらすことになるだろう。たまたま我らの元に来たそなた等に、このような重荷を背負わせること、心苦しく思う』


『ホントです。いい迷惑です。無事に帰ってきた暁には何かご褒美があって然るべきです。・・・これはあくまで提案ですが、たとえばですね、、、』

小柄な竪琴の勇士が光の球に向かい主張する。その様を見て


『あんた、ほんとに大物だね』

双剣の勇士が苦笑した


※※※※※※※※※※※


大公子一行が目を開くと、そこは薄暗い部屋の中だった。背にあるのは一枚の姿見の鏡。姿合わせの水晶を通して魔王城北塔にたどり着いた。


窓から見える光景、眼下には遠目で見てもわかるほどの威圧感を持つ高位の魔族が居並んでいた


『・・・わかってはいたが、質も量もすごいな』

窓の影から身を隠すように下を覗いて、思わず小声で呟く大盾の勇士


『行こう、もう青い月が天頂に昇る』

大公子は空を見上げていた


魔王城に降り注ぐ青い月の妖しい輝きは、夜とは思えないほどの明るさだった


静かに扉を開けると、塔の内壁をなぞるかのような螺旋階段に出た。大方の予想通り、両手を広げると壁に手が当たるくらいの広さだ。そこで双剣の勇士が口を開く


『うん、、いいね。このくらいの広さなら十分だ。大公子、帰還ルートの防衛は私が受け持つよ』


『おい、防衛戦なら私の出番だろ?』

双剣の勇士の言葉に大盾の勇士が反論する


『あんたは確かに防衛戦には向くけど、この狭さの通路では、ただ袋叩きになるのを我慢するだけだろ?ジリ貧なのは目に見えてるじゃないか。アタシの剣ならこれくらいの広さなら振るえるよ、、、大公子、いいかい?私が残って』

本当ならここの防衛に一番向くのは、槍を持つあいつなんじゃないかな?、、、アタシは取りこぼしを潰す役で、弓のあいつが階段の上段から援護射撃をすれば鉄壁だ。ずっと3人で死線を越えて来た間柄だ、自然と連携できただろうに、、、

双剣の勇士は言葉をかみ殺す


『私も残ろうか?』


『いらないよ。二人も居るとかえってアタシの剣撃の邪魔になるよ。それにあんたの剣はこの狭さじゃロクに振れないさ。あんたは大公子のそばにいな』

剣の勇士の言葉は、ばっさりと切り捨てられた


『いいのかい?』


『ああ、一人で十分だ』

大公子の言葉に頷く双剣の勇士。そこに竪琴の勇士が近づく


『あんたは大公子達にくっついて謳わなきゃいけないだろ?』

心配顔の竪琴の勇士に双剣の勇士が先手をうつ


『死ぬ気じゃないよね?』


『当たり前だ。アタシは子を生んで、孫達や曾孫たちに囲まれて静かに逝くのが夢なんだ。こんなとこで死んでたまるかよ・・・・・さあ、あんた達は早く行きな。言っとくけどそんなに長くはもたないよ。さっさと済ましてもらいたいね』


『・・・・頼んだよ。ただ、無理だと思ったときは、俺達を置いて戻ってくれ。国に報告をする者も必要だからね?』


『・・・ああ、そうさせてもらうよ』

大公子の言葉に返事を返す双剣の勇士。そっけない返答とは裏腹に、目には決意が籠もる


手をほぐし始める聡太


これから最後の戦いに入ります。激しい曲の連続です。さあ!気合を入れていきますよ!!


※※※


最上部に向かった大公子達と分かれた双剣の勇士は、螺旋階段を慎重に下った。下にさがると少しずつ階段の幅が広くなるようだ。鏡のある部屋の前で敵を待つつもりはなかった。ちょっと押し込まれたら部屋の前を敵に陣取られ、そこでおしまいだ


『ここらがいいか』

ギリギリ一対一の状況を作り出せる広さのところまで降りると、まぶたを閉じ、息を整える。大きく息を吸い、深く息を吐く。これから起こる戦闘を前に、体の隅々まで酸素を行き渡らせるように


すると


ズズ、、、ン!

最上部から鈍い衝撃音が響き渡った


始まったか、、、


双剣の勇士は抜剣すると、体を揺らし小刻みなリズムを取り始める。加護を受けた武器と防具から淡い光が陽炎のように立ち昇る


『ん?』

耳を澄ますと歌声が聞こえる


・・・これは、『疾速の歌』か、、あいつ、無理して声を張り上げて謳いやがって、、、、大したもんだな、ここまで届かせるなんて、歌のお陰で体も軽くなったよ


下の方からは無数の魔人の気配が登ってくる!



王子と王女の顔に緊張が見える。サラの膝に乗せた手に、ぎゅっと力がこもるのが見える


ここで曲を挿入する


双剣の勇士の戦い方はまるで激しいダンスを舞うかのようなイメージだ。そのイメージが80年代、90年代のディスコ、クラブで舞う女性達のイメージに重なった。そんなテイストを持つこの曲を選びました。まぁ、あくまで俺が勝手に持ったイメージなんだけどね?


ゲーム、ペ◯ソナシリーズ、『女神異◯録ペ◯ソナ』より、『通◯戦闘曲』


曲は出だしから最高潮!双剣の勇士の決意を表すように、音に気持ちを乗せる!迫力を出すために低音を強めに!!

すると掃除をしていた侍女さんたちが一瞬で動きを止め、振り向いた。聞いたことのないリズムに、リピートすることで転調の繰り返しになる曲調はこの世界ではありえない様式だろうな


王子・王女は曲を聞いて顔に緊張が走る!曲調からこれから繰り広げられる戦いが激しいものだと感じたようだ


獅子面の魔人が先頭切って登ってきた。こちらに気づくとナタのような形状の大剣を肩口に構える!


『小賢しい、、、どこから入り込んだ?』


『あいにくここは通行止めだ。大人しく来た道を戻りな!』

双剣の勇士の言葉に獅子面の魔人は、フンっと鼻で笑うと鋭く踏み込んで来て大剣を振り下ろす!

が、その切っ先が通路の壁面に当たり一瞬斬撃が鈍る!

その隙を見逃さない双剣の勇士!


ヒュッ、と風切り音を残し、魔人の(ふところ)に飛び込むと、身体を回転させながらの連撃!!

一瞬の出来事に、遅れて魔人から血飛沫が飛び散る!

なおも体を反転させた双剣の勇士が後ろ回し蹴りで魔人の顎をカチ上げる!

『がああああ!!!』

気合の雄叫びを上げる双剣の勇士

血飛沫を上げながら後ろに吹き飛ぶ獅子面の魔人。驚いた顔のまま絶命し、吹き飛ぶ。後続の魔人達も巻き込まれ後退する


『こっから先は行かせないんだよ!!』


加護を受けた装備は対魔族に著しい効果を発揮した。さらに『疾速の歌』による運動速度上昇で、優位に戦いを進める。次々に襲いかかる魔人たち。いずれも高位の者たちだったが、スピードに勝る双剣の勇士を捉えることができない!次々に切り刻まれ、階段下に蹴落とされる!飛び散る血飛沫の中を舞うように戦う双剣の勇士


王子・王女も双剣の勇士の活躍に目をキラキラさせている。魔人を一体、また一体と斃すたびに「「わあ!」」と声を上げる。小刻みなジャンプをしながらサラに顔を寄せる

しかし、そんな戦況が突如崩れる


『むっ!!』

突然体に変化を感じた双剣の勇士。今まで感じていた浮遊感にも似た体の軽さが突如無くなる!


耳を澄ましても、今まで聴こえていた歌声が聴こえない!脳裏に小柄な少女が斃れる嫌な光景が描かれる!


『なんだい!!何かあったのかい!?』

声は届かないとわかっていても、上階にいる仲間たちに叫ぶ双剣の勇士


ここから戦況は魔族たちに傾く!精霊の加護の力はあるものの、それだけでは今までの優位差は生み出せなかった!一体の魔人を斃すごとに傷を負っていく双剣の勇士。疲労の蓄積が加速する。が、双剣の勇士は退かない!そこに一人の魔人が登ってきた


『これだけの数の魔将を討つとは、大した刺客だな』

登ってきたのは騎士風の魔人。一見すると壮年の人のようにも見えるが、額にも眼がある三つ目の魔人だった


その者が纏う雰囲気に


くっ、厄介そうなのが来たね

と、双剣の勇士が警戒する。と!刹那にガギンッ!!と金属音!


一瞬の間に魔人は抜剣し、見事な剣さばきで打ち込んできた!寸でのところで斬撃を受ける双剣の勇士。しかし威力を受け切れず膝をつく


重い!!コンパクトなフォームなのになんて剣圧なんだい!!


返す剣で追撃を打たれる!これも受け止めるが、後ろに吹き飛ぶ双剣の勇士!!


「「ああ!」」

王子・王女は思わず不安気な声を上げる!まるで目の前で繰り広げられる死闘を見ているかのよう


『ほう、よく受けきったな』

余裕の表情で階段を登る魔人。後ろからも他の魔人たちが続く


『これはこれはご丁寧な挨拶を痛み入りますってね』

ペッ、と血混じりのつばを吐き捨てると双剣を構える


・・・やばかった!加護を受けた防具でなかったらやられてた!


この三つ目の魔人、魔王の縁者だそうで、魔王の片腕と呼ばれる強者だったようです。一合(いちあ)い毎にジリジリと後退する双剣の勇士、削られるように傷を負っていく


『〜!くっそがー!!!』

実力的に相手が上と分かったが、双剣の勇士は諦めない。もはや返り血なのか、自らの血なのかわからない血濡れの双剣の勇士。持てる全ての力を込めて魔人に立ち向かう


大公子達は必ず王女を連れて戻って来る!!できる限り時間を稼ぐんだ!!もしもの時は、刺し違えてでも、他の魔人ともどもまとめて下の階まで落ちていってやる!!


勇士の壮絶な覚悟が文中に綴られる


「〜〜!!がんばれ!!双剣の勇士!!」

両手を握りしめ、思わず声を上げる王子!隣の王女がびっくりしている!!が、王女もすぐに物語の中に戻っていったようだ。すでに汗だくの王子・王女は大きな眼に涙を溜める

二人共、空想の世界の中では、戦う勇士の間近で応援してるんだろな


ふーっ、ふーっ、と息を切らす双剣の勇士。体力的には限界に近い。最期は刺し違える覚悟で体勢を低くし、飛びかかるタイミングをはかる


『む、、?』

余裕を見せる魔人。その気配を察したようだ


シィぃ!と息を吹き、気合を入れ直す双剣の勇士!まるでネコ科の動物が威嚇するような(さま)を見せる。魔人が踏み込んでくるタイミングに合わせてカウンターに出るつもり!!


ピリピリとした空気が続くこと数秒。ついっ、と足を踏み出す魔人。それに合わせてドンッと踏み込む双剣の勇士!

しかし、それを読んだかのように魔人は、スッと一歩引き、間合いを取ると上段に剣を構える!


誘われた!!

全力で踏み込んだ双剣の勇士は止まれない!!

こちらの剣撃が届く前に魔人の剣が頭上から降ってくる!!


くそう、、やられた。しまったね、剣のあいつに失礼なこと言っちまったかね?あいつならこの魔人と同じように狭い場所でも十分に剣を振れたのかもしれないね



コマ送りのように時間がゆっくりと感じる。ゆっくりとした時間の中で自分の頭めがけて振り下ろされる剣の太刀筋は、洗練され美しさを感じるほどだった


ウグウグする王子・王女。双剣の勇士が、今まさに切られようとしている。王女は両手で顔を隠してしまった


と、その時!!


ドドドゥ!!!

突如双剣の勇士の背後から飛来した矢の三連撃が魔人の胸を穿(うが)つ!!!矢からは淡い光が立ち昇る!精霊の加護を受けた矢だ!


「弓の勇士だ!!」

王子が叫ぶ!王女は顔を出してサラに顔をグッと近づける!


その機を逃さない双剣の勇士!矢を受けて鈍った剣先を紙一重で躱すと、必殺の一撃を魔人の首に叩き込んだ!!


首を落とされ、崩れさる三つ目の魔人を見て、後続の魔人たちに動揺がはしる 


浮足立つ魔人たちに警戒の目線を離さない双剣の勇士。その背後から馴染みの声がした


『ごめん、姉姉(ねえねえ)、、、遅くなった』



『なに言ってんだい、、助かったよ』

双剣の勇士は振り返りもせず答える


『もう一人はどうした?』


『・・・・・・・』

双剣の勇士の問い掛けに、弓の勇士の答えは無かった


『・・・・・そうかい』

答えのない弓の勇士に返答する双剣の勇士


『上に行った大公子達が戻って来るまで、一緒にここを守り切るよ!』


『うん、分かった』

双剣の勇士の言葉に、矢を番えながら答える弓の勇士。上段からの援護射撃を得て、帰還ルート防衛戦は続く


聡太は曲をスッと区切る


ぐはっ!!指がつりそう!!戦闘の描写長いよ!!でも泣き言は言ってられない!!次の曲も全力で行くよ!!!

※※※


物語の時は少し遡る。最上階の扉の前に立つ大公子達。お互いの顔をチラと確認する。大公子に頷きを返す勇士たち。皆、覚悟はできているようだ


キィっと扉を開けると、正面には祭壇が組まれ、ぐったりとした王女が両腕を鎖に巻かれ吊るされていた。祭壇の前には一人の魔人。漆黒のローブを纏う男の後ろ姿が見えた


『エイトナ!!』

思わず名を叫ぶ大公子。ぐったりとした王女が、呼びかけに顔を上げる


『、、、ラニール』

かぼそい声で大公子の呼びかけに大公子の名を呼ぶ王女。うっすらと微笑んでいるようだ


『精霊どもの気配を感じたが、人だったか、、、いや、違うな。奴らめ、加護を与えた人を遣わしたな?姑息なことを』

振り返った魔人は、魔王と呼ばれるにふさわしい風格。そしてその威圧感。若々しく見えるその男には捻れた角が二本、頭部から生えていた


『魔王よ!王女を、、エイトナを返してもらうぞ!!』


『若造が、、、口のきき方を知らんのか?、、、まあ、いい。・・・ふん、、下郎が、、、我らが悲願を眼の前に、はいそうですかと返すわけがなかろうが』


冷徹な雰囲気を持つ言葉遣い。威圧感も相まって聞くものに恐怖を与える!

うん!サラさんすごい表現力です!王子と王女が震えてます!!

スッと魔王は手先を大公子達に向ける。すると魔王の周囲に氷で出来た巨大な(やじり)が出来上がる!


キュバッ!!

魔力で射出される巨大な鏃は聞き慣れない射出音を発した!

大公子達は四方に身を投げ出し散開する!


ドドドン!!

轟音を響かせ、着弾の跡が大きくえぐれる!その様を見てゾッとする大公子達!

魔族の魔法がこれほどとは!


ここで曲を挿入する!


シリーズ3作目のラスボス戦に使用された曲。個人的には初期三部作はリメイクされたものをプレイしました。キャラクタデザインと同様に、ゲーム音楽も名を残す大家が担当した名作。緊迫感の中にも重厚感が感じられるこの曲が大公子達と魔王との戦いにふさわしいと選曲しました


激しい攻守の入れ替わりを表すかのような音の連なり。曲に散りばめられた高音のアクセントは剣撃が防がれる度に弾ける火花を表すかのよう!


王子さんに王女さん、行きますよ!俺の全力を聞かせてやる!!


ゲームDQシリーズより、『勇◯の挑戦』


鬼気迫る表情で演奏する聡太。疲労で弱くなった音圧をカバーするため体全体を揺らし、全身でアイマールに向かう!

見守る王妃と侍女達はその気迫に圧倒される。王子、王女殿下のための『読み聞かせ』とはいえ、ここまで伴奏に熱が籠もるとは思ってもいなかった。正直、話の内容は伴奏の音に消され、ここまで聞こえてこない。しかし、物語の場面がどれだけ緊迫しているか曲を聞いているだけで伝わってくる!サラに顔を寄せる王子、王女も緊張の面持ち!


アイマールを嗜む侍女の一人は思う

『まるでアイマールコンクールでの演奏みたい、、、』

聡太の気迫が音に乗る



物語の中で、小柄な竪琴の勇士が謳い出す!謳うは『疾速の歌』!!


今まで見たことのない魔法が、見たことのない速さで撃たれた


眼の前に突然氷の塊ができるなんて!あんなのに付き合ってちゃ駄目だ!速さで撹乱しなきゃ!!


竪琴の勇士はありったけの魔力を込めて、声を張り上げて歌う!下の階で戦う仲間にも届くように!


剣の勇士がいち早く体勢を整え、魔王の右側面に回り込む。大盾の勇士は歌う竪琴の勇士の前に立ち、壁となった。大公子は魔王の正面に立ちデュランダルを抜き、正眼に構える。ひときわ大きな光の靄がデュランダルから立ち昇る。魔王の目線がデュランダルに注がれる。明らかに警戒している視線


ズシャッ!と剣の勇士が側面から鋭く打ち込む!、が、見えない障壁に当たりバチっと火花が飛ぶ!


何だ?これも魔法か?


硬い手応え、むしろ弾き返されたような手の痺れを感じ、剣の勇士が一歩下がる。魔王の目線が剣の勇士に移った。その機を逃さない大公子


ドンッッ!!間髪入れず大公子が踏み込む!白銀の軌跡を描き、デュランダルが振り抜かれる!

と、パーン!と乾いた音がしたかと思うと見えない障壁が砕け散る!

ビッ!と魔王の衣服が切り裂かれる!驚いた表情の魔王!フヒュ!と滑るように移動し、大公子と剣の勇士の包囲陣から逃れる!


と同時に手の中に小さな珠を幾つも形作り、大公子達に放った!


なんだ?


大公子は逡巡する。一つ一つは親指の先ほどの小さな珠。どれほどの力があるというのか?しかし今まで積み重ねた経験が警鐘を鳴らす!


この珠はヤバイ!!


大公子は回避に素早く動く!精霊たちの加護と『疾速の歌』の効果で、残像を残すような動きを見せる!


同じ感覚を覚えた剣の勇士も回避に専念する!掠ることさえ無いように!

大盾の勇士は竪琴の勇士の前に立ち、大盾を構え歯を食いしばり、全身に力を込める!竪琴の勇士には回避不可能と判断した!


ギュバッ・・・・!!

珠の着弾と共に不思議な炸裂音と衝撃、そして包み込む爆炎!!最初の炸裂音が聞こえた後は耳が麻痺し、大公子達は無音の世界で爆発が続くような光景をみる!

あたりに立ち込める土埃がひくと着弾跡は石造りの壁や床が砕け散っていた


大盾を構え爆発をまともに受けた勇士は片膝を落とす。思わず近づく竪琴の勇士

『俺に構うな!謳い続けてくれ!』

爆発の際に傷を負ったか?額から血を流しながら大盾の勇士が叫ぶ


魔王はなおも多様な魔法で攻撃を繰り返す。電撃や火炎障壁を展開させ多様な魔法を見せつける!それを速度を活かして紙一重でかわしつつ反撃を試みる大公子達!一進一退の攻防が繰り広げられる!


『チッ』

思わず舌打ちする魔王。思いのほか粘る侵入者に苛立ちを覚える


魔王は手のひらに幾つもの珠を作り出す


『『『!』』』

それに反応する大公子達、あの爆発する珠を投げる魔法は、今まで魔王が見せた魔法の中で一番対処が厄介だった

大盾の勇士が身構える。後ろに立つ竪琴の勇士は全幅の信頼を置いて歌い続ける


放たれる魔法。轟く轟音。舞い上がる土煙


『、、、外したのか?』

力を込めて身構えていたが、まったく衝撃を感じずに終わり、大盾の勇士が胸をなでおろす、、、しかし直後に感じた違和感に背筋が凍る!


『ガフッ、、、カヒュ、、、』

背後から聞こえるはずの歌声の代わりに、液体と空気が同時に抜けるような荒い吐息が聞こえてくる


振り返った大盾の勇士の眼前に、喉と胸を黒い薄氷の刃で貫かれ、口からゴボゴボと血を吐く竪琴の勇士の姿があった


竪琴の勇士は胸を抑え、膝から崩れ落ちた


※※※

大盾の勇士が狼狽える。竪琴の勇士を守るため大盾を構えたつもりだった、、、幾千もの戦いの中で、この大盾で主君を、仲間を守ってきた、、、それなのに!


『うるさい羽虫の鳴き声がようやく静かになったな』

ククっと笑いをかみ殺し、魔王がつぶやく


大公子と剣の勇士も竪琴の勇士の姿を確認した


狙われた!

剣の勇士が冷静に状況を分析する。先ほどの爆発する珠の魔法、あれは目眩ましだった。狙いは大盾の勇士の背後の竪琴の勇士。舞い上がる土煙の中、大盾の勇士に気付かれないように、狙いすまして薄氷の刃を竪琴の勇士に放ったのだ


『羽虫風情が立場をわきまえず喚き散らすから命を落とすのだ。羽虫は羽虫らしくどこぞで飛び回っておればよいのだ』

魔王は機嫌良さげに話す


『黙れ!それ以上我が仲間を侮辱することは許さん!!』

激昂したのは大公子。デュランダルを構え、魔王に肉迫する!


『殿下!!いけません!!』

剣の勇士が叫ぶが、大公子には声が届かない。剣の勇士は魔王の手の中にまだ小さな珠が一つ残っている事に気づいていた


怒気を発して踏み込む大公子


薄ら笑いを浮かべる魔王


十分に引き付けてから魔王が放つ小さな珠


包み込む爆炎から、まるで放たれた矢の如く吹き飛ぶ大公子


大公子の名を叫ぶ剣の勇士


吹き飛ばされた大公子は壁に叩きつけられ、地に倒れた


その姿は無惨


とっさに身をかばうように出した左手は、肘から先が吹き飛ばされ、無くなっていた


※※※


王子と王女は忘我の表情。固まったようにサラに顔を寄せる、が、その大きな瞳からポロポロポロポロと涙が流れる


あああ、サラさん、俺達やりすぎちゃったかな?こりゃ色んな意味で忘れられない記憶になっちゃうかもよ


場面は絶望的。倒れている大公子の前に剣を構え、立ちふさがる剣の勇士。視線を魔王に向けながら必死に大公子を呼ぶ


大盾の勇士は、まさに虫の息の竪琴の勇士を物影に隠す

『少し、ここで待っていてくれ。すぐに終わらせて精霊のところに戻ろう。きっとすぐ良くなる』

虚ろな瞳でヒューヒューと、か細く息をする竪琴の勇士に優しく語りかける


剣の勇士の隣に並び立つ大盾の勇士


『早く終わらせよう。二人共長くはもたない』

大盾の勇士の言葉に頷きを返す剣の勇士。二人は連携し魔王に立ち向かう


魔王と二人の勇士の戦いは悲壮感が漂う。剣の勇士の斬撃も大盾の勇士の体当たりも、見えない障壁に阻まれ有効な攻撃とはならなかった。余裕の表情の魔王。必死に魔法の攻撃を躱し、反撃を試みる勇士二人。あたかも肉食獣が獲物をいたぶる様相が続き、さすがの二人も心が折れそうになった・・・


その時、


歌声が聞こえた


否、声と云うには余りにもか細い。いつもは堂々と奏でられる竪琴も拙く、心もとない音色


しかし、織り込まれる魔力は今までにない程に濃密!それは正に燃え尽きる蝋燭の火が最期にまばゆく輝くかのごとく、竪琴の勇士がその命を燃やし魔力を込め謳う!!



大公子は朦朧とした意識の中にいた


・・・?歌が聞こえる


朦朧とした意識の中で、眼の前に小柄な少女がこちらに手を差し出し叱咤する


『なにやってるんですか!王女を助けるんじゃないんですか?!さあ!立って!!』


手を伸ばし、少女の手を掴むと

ニコリと少女は微笑んだ


意識が覚醒し、目の前には懸命に戦う二人の勇士。我に返って、己の身を見る


腕がないのか、、、


血が流れ落ちる左腕、そして少女の手を掴んだと思った右手にはデュランダルがあった



※※※


竪琴の勇士が声ならざる声で、渾身の力を込めて謳う!!


謳うは・・・『勇気の歌』!!


たとえこのような絶望的な状況であっても、奮い立て、立ち向かえと、皆の背を後押しする!!


剣の勇士と大盾の勇士の目に再び力が宿る。その背後で大公子がフラフラとよろめきながら立ち上がる


『まったく、、しつこい虫どもだ、、』

その様を見て、魔王は辟易する


『たとえどんなに、、打ちのめされようと、、、、、たとえどんなに苦痛を、、、与えられようと、、、』

大公子は呟きながら、片腕でデュランダルを構える


『私は、、、我らは、、、お前を討つ!!』


魔王めがけて一直線に駆け出す大公子


魔王は大公子めがけて巨大な氷の鏃を放つ


『させるか!!!』

大公子の前に躍り出る剣の勇士!体当たりにも似た剣技で氷の鏃をいなし、自らも吹き飛ばされながらも氷の鏃の軌道を変える!


魔王は大公子めがけて爆発する珠を放つ


『おおおおお!!』

大公子の前に大盾を構えて躍り出る大盾の勇士!包み込む爆炎。爆炎の中から吹き飛ばされる大盾の勇士!


『ああああああああ!!!』

残る爆炎を突っ切り、その身を焦がしながら、なおも踏み込んだのは大公子!!片腕となり、今できる剣技は刺突のみ!!


大公子はデュランダルで渾身の突きを放つ。デュランダルは幾重にも張った魔法の障壁を打ち破り、、、


ついに魔王の胸を貫いた


絶叫を上げる魔王!若々しく見えたその容姿はみるみると萎み、最期は塵となって霧散した


「「やった!」」

王子、王女が手を取り合って喜んだ


ここで曲を終える


ああああ!何とかやり切った!!大公子さん!!あなたも大変だろうけど、俺も腕がもげそうよ!!


ふー、、、、さて、、、最後の曲にむけて手を休めなきゃ


※※※※※


王妃イゾルデは非常に満足していた。『大公子と8勇士の冒険』、王国建国に関わる3部作の一つ。慣例どおりならば、次代を担う王子、王女への読み聞かせは自分の役目だった。しかし、、、


私も読み聞かせの時間って、あまり好きじゃなかったからな。本を読むより外で遊びたがるあの子達に読み聞かせる自信ないな〜


なんて思ってたときに、ちょうど良さげな人材が眼の前に現れた、、、そして清々しいまでの丸投げ


しかし、結果的にその判断は正解だった。王子、王女の反応は母として見ていて喜ばしく感じた


うん!これだけ『読み聞かせ』を楽しみにしてるんだったら、他の話は私でもいけそうだ


ニコニコ顔の王妃は子供たちを見守る


※※※


王女を救出した大公子達は階段を下り、双剣の勇士、弓の勇士と合流。姿見の鏡から魔王城を脱出する。その後、海岸で糸の勇士、鎚の勇士とも合流し、王国に無事帰還してハッピー?エンドとなる


何故か知らんが、終わりの描写があっさりなのよね、、、なので、サラはアドリブを入れる


竪琴の勇士を抱えて走る大盾の勇士、大公子と王女をサポートしながらの剣の勇士、竪琴の勇士の姿を見て慟哭する双剣の勇士、、、その様をサラが想像にまかせて語る


そこに曲を挿入する



多くの困難を乗り越え、目的を達成した喜びと、旅の終わりの寂しさ。そして仲間を失った悲しさと、これからの希望を表現してみせます!!

最後の曲です!!振り絞っていくよ!!!


ゲームDQシリーズより、シリーズ3作目エンディング曲、『そして伝◯へ』


いったいどんな話をしているか?サラに顔を寄せる二人の表情は穏やかに見える


サラは『最後はアドリブを入れます。このお話、最後が少し寂しいんですよね。クリスに読み聞かせた時にも色々と即興でアドリブを入れたんです。どんな話かはその時に2人の反応を見て考えますね』と言っていた。すごいね、うちの弟子。俺にはできんよ


曲も終わりに近づき、こちらも最後の盛り上がり。そして、最終音の余韻が消えたとき、サラが終幕の言葉を綴る


「・・・それからも大公子は王女と仲間の勇士たちと力を合わせて暮らしましたとさ、、、おしまい」


パチパチと侍女さんたちの拍手を貰い、『読み聞かせ』を終えた


※※※※※※※※※※※


『読み聞かせ』を終えて、王妃にお茶会に誘われた。サラは喉カラカラで、俺は疲労困憊。お茶と甘いお菓子が沁みますな!


しばらくすると王子、王女が目をこすり出した。今日も汗だくで話を聞き入ってたから、疲れちゃったのね


王妃が侍女に目配せすると、侍女達は『少しお休みになりましょう』と二人を別室に誘い出す。侍女さんたちに連れられて部屋を出る時、不意に王女が振り返った


「ねえ!次は何を読んでくれるの?」


「「へ?」」

ごめんなさい。今、終わったつもりだったんです


「ルル?今は楽士さん達も疲れてるのだから、おねだりはダメよ?」


王妃の一言に

「はーい、、、」

王女はしぶしぶといった具合で返事を返すと部屋を出ていった


「さて、、、」

一呼吸おいた王妃は雰囲気が変わる


「此度の『読み聞かせ』、まことに大義であった。褒めてつかわす。なんぞ褒美を取らせようと思う。何か欲しいものはあるか?」

母の顔から一変し、まさに王の風格で話しかける王妃


「「褒美ですか?」」

唐突なことに驚く二人


『サラ?何か欲しいもの言ってみたら?(ヒソヒソ)』


『そんな急に言われても思いつかないですよ。ししょーは何かないですか?いつも私ばかりもらってるので、今度はししょーが貰って下さい(ヒソヒソ)』


「私で叶えられるものであれば、何なりと申してみよ」


王妃の言葉に

「えっと、、あ!じゃあ、、、」

聡太は欲しいものを伝えた


※※※※※※※※※※※


部屋を出た3人は、侍女さんについて長い廊下を歩く


『『読み聞かせ』も終わったし、王族の肖像画が並ぶこの廊下を歩くのも、しばらくないかな?』

聡太が、そんなことを考えていると、ふと疑問が湧いた


「そういえば、『大公子と8勇士の冒険』って、ほんとに子供向けなの?描写も残酷なところがあるし、童話にしては長い話だよね?」


「子供向けというか、子供の頃から読んで教える話ってものかな?」

答えたのはテレサだった


「なにせこの国の建国に続く話だからな」


「え?」


「あ、ししょーは知らなかったですか?」


「何?じゃあ、あの話は実話に基づくの?」


「ああ、そうなるな」

そう言うとテレサは1枚の肖像画の前に立ち止まる


「あっ!」

聡太はその絵を見て息を呑む


その絵は、肖像画の並びの一番始めに飾られた物。中央に王と王妃、周りにはその子供たちだろうか?立ち並んでいた。その前に(かしず)く6人の男女。6人の男女の傍には剣、大盾、双剣、鎚、弓、、、ちょっと分かりづらいが、これは糸?が描かれる。そして中央に、静かに微笑み、皆を見守る王は、、、左腕が無かった


「じゃあこの人が、、」


「ああ、初代カリスト王国、国王ラニール・カリストその人だ」


テレサの言葉に

『隣にいるのがエイトナさんってことか』

と感慨深くなる聡太


『竪琴と槍は描かれて無いな、、やはり亡くなったんだ、、、』

ちょっとしんみりする、そこに


「ししょー、ちなみに剣の勇士の名前知ってます?」

サラが意地悪そうに聞いてくる


「知るわけないよ?何ていう人だったの?」


「サルビア・キャスパール、、我が家のご先祖様だ」

鼻を掻きながら照れくさそうにテレサが答える


「うがっ?」

テレサさん、物語に出てきた人の子孫だったの?


「でもそうか、、ちょっと安心した。テレサさんが今ここにいるって事は、剣の勇士は結婚して幸せになったんだね?」


「まあ、そういう風に伝えられてるな」

ハハッと笑い交じりにテレサは答える


「ああ、あとは双剣の勇士は夢がかなったのかなぁ、、、」

独り言のように呟く聡太。孫や曾孫に囲まれて静かに逝くのが夢、、そんな少し物悲しい夢が綴られていることが気になっていた


「ああ、3人の子供、5人の孫、8人の曾孫に囲まれて、微笑みをたたえて逝ったそうだ」


「え?そんなことまで伝えられてるの?」


「ああ、なにせ双剣の勇士クライエは、剣の勇士と結婚したからな」


「「ええー!!」」

サラもその事は知らなかったらしく、聡太と二人で大騒ぎをして侍女さんにお小言を貰う


「じゃあさ、じゃあさ、弓の勇士は、、」


「ああ、それはだな、、」

普段は静かな王宮奥殿の廊下で3人の会話が弾んだ



読み聞かせのパートをようやく書けました。10話で終わることを目標に書いてますが、ちょっと纏まりそうにありません。嘘ついてごめんなさい


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