第7話
あー、肩から腕にかけて筋肉がパンパンだ。昨日は激しい曲を弾き続けたからなー
2回目の『読み聞かせ』から一夜明け、早朝。まさに今、朝の『刻知らせ』を何とか終えた聡太がアイマール前で腕をモミモミしていた。次の日に筋肉痛が来るから自分はまだ若い!と信じたい
「お疲れのようだな?楽士殿」
おじさん魔法士が声をかけてきた。後ろでは若い魔法士さんが塔の大戸を閉じる作業をしている。サラはその作業をキャッキャッ言いながらお手伝いしてる
むむ!若い魔法士さんはハルザって言ったか?サラに手出ししたら男爵家から怖い執事がやって来て八つ裂きにされるぞ!覚えとけ!、、、、と心で呟く
「何人かの侍女達から噂を聞いてるぞ!『読み聞かせ』で王家をあっと言わせてるんだってな?」
ええ〜?何その噂話、、
「いやいや、随分と話が大きくなってますよ。サラがごく普通に『読み聞かせ』してるだけで、、、」
「そうなのか?、、、読み手の迫力で、王子・王女両殿下は毎回汗だくになって、物語に合わせた伴奏がされて、それが全部聞いたことのない曲だってのは嘘か?」
いや、合ってます。合ってますけど、、、出来ればそっとしといて、、、
「ははは」
乾いた笑いしか出てこない。だって名声は作曲、編曲をした人が受けるべきだもん。新曲としての扱いが心苦しい。時が来たら改めて作曲者を公表しよう。うん、そうしないと俺の精神がやられちゃう
「俺もただのヨタ話かな?って思ったが、『『刻知らせ』をしてる楽士が伴奏をしてる』っていうじゃないか!こりゃホントかも?って思うよな!なにせ朝夕の『刻知らせ』に新曲持ってくるやつなんだからな!」
ニヤリとしながらのおじさん魔法士さん!顔が近い!近いです!
「それとは別に、変な噂もある。楽士団長が若い楽士が生意気だってお冠になってるってな。なにやら嫌がらせを画策してるようだ」
近づいてきたと思ったら、ヒソヒソ話。若いサラには大人の汚い部分を見せないよう配慮してくれたのかな?
あいつか、出来れば必要以上に関わり合いたくないんだけどな
「十中八九あんた達のことだろ?何にせよ気を付けろよ」
ニカッと笑うおじさん魔法士。
「ところで、どんな物語を『読み聞かせ』てるんだ?王室から回数を増やす要請書まで来たって言うじゃないか」
あああ、そんなことまで?侍女さん達のネットワークってどこまで繋がってるのよ!
「『大公子と8勇士の冒険』だ」
テレサさん、いつの間に背後に、、なんでそんなにババーン!みたいな顔をするんですか?
「おお、、、、それは、、大役だな、、」
なんで?何そのワナワナ顔
「ししょー!後片付け終わりました!」
ニコニコしながらサラが戻って来る。うんうん!楽しんで仕事をするのはいいことだ。出来ればこのまま成長していってほしい
「よし、じゃあ戻って朝ご飯にしよう」
「それではまた、夕刻に。ありがとうございました」
魔法士二人に向き、挨拶を。情報をくれたことへの感謝の意も含めて
「ああ、また夕刻に」「お疲れ様でした!」
ん?なんだねハルザ君、そのサラに向けての小さなバイバイは?
これは男爵家に書状をシタタメねばならん案件かな?書くことも覚えねば!
・
・
・
塔の階段をテクテク降りる3人。上りもきついけど、下りは足にクるんですよね。ヒーヒー言いながら階段を降りる
「楽士殿、いつも思っていたが、いささか体力がなさすぎるのではないか?」
テレサさんが後ろから声をかけてきた
「はは、いや面目ないです」
「ししょーはタバコが過ぎるんですよ、きっと!」
サラさん、やめて下さい。私のリラックスタイムなんです
「良ければ空いた時間を利用して体力作りをしてみないか?私が指導しよう」
「え?」
思わず振り返る、と、そこには聖母のような慈愛の笑みを浮かべるテレサさん。すごい、エルフ、ドキッとする
でもね、私もチラリと第二騎士団の団員から噂を聞いたことがあるんです
『テレサ副団長は人ではない。鬼だ。あの人の目は血を求めている者の目だ』と、鬼の副団長だったんですよねテレサさん
「テレサさんの時間を割くのは気が引けますね」
「ん?今のところ護衛中は時間が有り余ってるぞ?」
「ハハハハ」
笑って誤魔化されてくれ!
乾いた笑いが塔内に木霊した
※※※
塔の上では魔法士達が最上階の戸締まりをしていた
「先輩?さっきソータ殿と何話してたんですか?」
鍵をかけながら何気なくハルザが問いかける
「、、、『大公子と8勇士の冒険』だそうだ」
「はい?」
「王子、王女殿下に『読み聞かせ』している物語、『大公子と8勇士の冒険』だそうだ」
「え?、、、、、マジですか?なんで王族にその物語を」
「そんなこと!、、俺にもわからんさ!」
なぜだかワクワク顔で答えるおじさん魔法士の下階から、ソータの笑い声が聞こえた
※※※※※※※※※※※
朝、カーテンの隙間から柔らかな光が差し込む。今日は日曜日、ゆっくりと眠れる唯一の日だ。土曜日までは『刻知らせ』があるのです。いつもの癖で夜明け前に目が覚めましたが、二度寝に突入です
あー、二度寝ってなんでこんなに気持ちいいのでしょうね?このまま時間が止まればいいのに
・
・
コンコン
ん?なんか音した?
コンコン!「ししょー!朝ですよー!ジョアンさん待ってますよー!」
サラの声?ジョアンさん?今日は休みの日ですよー。もう少し寝かせて下さいなー
もぞりもぞりと毛布をかぶる
、、、、、、ん?
「やべっ!」
ガバっと飛び起きる!
そうでした!今日はジョアンさんの邸宅にお招きされた日でした!
窓の方に目をやると、カーテンから差し込む日の光の強さから、もう早朝ってわけではなさそうだ
「ごめんサラ!今起きた!ジョアンさんもう来てる?」
「もう迎えの馬車でお待ちですよー!テレサさんも来てくれてますよー!」
「ええ!?テレサさんも?すぐ支度するからエントランスで待ってて!」
「はーい!」
いつだったか『打楽器の演奏を聞いてみたい』と言ったことを覚えてくれていたジョアンさん。休みの日に同郷の仲間たちと打楽器演奏するので来てみないかと誘ってくれた
バタバタと着替え、鏡を見ながら髪を整えると、急ぎエントランスへ
「ごめんなさい!寝坊しちゃった!」
エントランスではサラ、テレサさん、ジョアンさんが待っててくれて、皆笑いながら迎えてくれた。
※※※
いつかテレサさんがジョアンさんの家名を聞いて『東部筆頭貴族家の、、、』って言ってたか?うーん、裕福な家なんだろうなあ
だって今乗ってるこの馬車、広いし乗り心地いいもん
「テレサさん、休みの日まですいません」
「ん?気にしなくていいぞ?君達の護衛が私の役目なのだからな。それに、私も楽しみにしていたんだ。逆に私まで付いてきてジョアン君が迷惑がっているんじゃないかと心配してるところだ」
「そんな!迷惑だなんて!私も同郷の者以外で、こんなに家に来てもらえるなんて今までなかったので、嬉しいんですよ」
「ああ、そう言ってもらえると助かるよ」
「わ!わ!見て下さい、ししょー!すごい大きな邸宅ですよ」
王都の郊外に位置した高台にジョアンさん家がありました
おお、すごい。これで王都の別邸っていうんだから本邸はどんなトコなんだろね
ゲートを過ぎて邸宅の前に馬車が停まる
玄関の前では何人かの侍女がお出迎えしてくれました。その先頭には恰幅の良い年配の侍女さん
「ようこそおいでくださいました。私はここで侍女長をしております、ハンナといいます。何かありましたら、どうぞお申し付け下さい」
笑みを浮かべて迎えてくれたハンナさん。熟年の余裕からか、迎えられた方にも安心感を与えてくれる
「ハンナ、みんなはもう来てる?」
「まあまあ、お嬢様。お客様とのご挨拶の途中で、、、皆さんもうお着きになって部屋で御準備しておられますよ?」
「そうか!じゃあ私も先に行って準備するから、ハンナは皆さんを連れてゆっくり来てくれ」
「ああ!お嬢様!そんなに急ぐと転んでしまいますよ?」
「もう!ハンナ、お客様の前で子供扱いしないでくれ、、あっ!」
「ああ!もう!ほら!」
ちょっと躓きかけたジョアンさんにハンナさんはハラハラだ。ジョアンさんはバツの悪そうに一度振り向くと屋敷に入っていった
ふーっ、と一心地つくハンナさんに
「ハンナさんはジョアンさんと長いお付き合いなんですね」
やり取りを見ていたサラが声をかけた
「ええ、お嬢様が赤ん坊の頃よりお仕えいたしております。お嬢様が王都に出仕する際には旦那様に進言してついて参りました。フフッ、変ですよね?まるで我が子のように感じてしまう事があるのですよ?あ、これはお嬢様には内緒にしてくださいね?不敬ですので」
「、、、いいえ、変じゃないですよ?我が家にも同じような者が居ますので、、、」
笑顔の中にもちょっぴり寂しそうな顔をするサラ、セバスさんの事を思い出しちゃったかな?男爵家も王都に別邸を構えるくらい財力があったら、セバスさん、、来てただろうなぁ
「お気遣いありがとうございます。大公領男爵家のサラ様と、そちらにいらす方がソータ様ですね?お嬢様よりお噂はかねがね伺っております。お嬢様が最近お元気に出仕されるのはお二方のお陰と、家人一同感謝しております」
「私は事前に訪問を伝えていなかったものだが、この二人の護衛を申し受けている者だ、同席を許してほしい」
テレサさんが訪問者の挨拶をする
「何を仰いますか?テレサ・キャスパール様でございますね?歓迎いたしますとも。王国の創世よりその名を刻むキャスパール家の次期御当主様をお迎えすること、光栄に存じ上げます。さあ、皆様、どうぞこちらへ」
ハンナさんはにこやかに邸宅の中に案内してくれた
・
・
広い邸宅の中の一部屋の前でハンナさんが立ち止まり、ノックする
「お嬢様?お客様をお連れしましたよ?」
「うん!中に入ってもらってくれ」
部屋の中からジョアンさんの声。ガチャリと扉を開けるとジョアンさん含め4人の男女が楽器を準備して待っていた
、、、、、え?
目がジョアンさんの周りを取り囲むように配置された複数の太鼓に釘付けになる。各所の部品はところどころ木製部品だったり、若干の形の違いはあるが、、、間違いない、、、、この世界の人たちはこの打楽器を蛮楽器と呼ぶのか!?
「・・・・・ティンパニだ」
打楽器の王様と呼ばれる楽器がそこにあった
『?』
マレット(バチ)を手に持つジョアンはソータの視線を感じて、キョトンとしていた
※※※
見事な打楽器四重奏。躍動的で、情熱的だ
俺達3人は席に座り、並んで聞いている
打楽器を演奏するジョアンさんは、アイマールを練習するときのような硬い表情ではない。楽しげで活き活きとした表情。時折仲間の表情や動きを伺いながらリズムや音の強弱を合わせている。間違いなく熟練者の動きだ
今演奏している曲は、本来は東部の秋穫祭で演奏される曲らしい。秋穫祭の時期は皆、王都に出仕していて故郷に帰れなかったので、せめて気分だけでもと演奏に集まったそうだ
曲はクライマックス、激しい音の強弱の連続。ジョアンさんはトランス状態に入ったのかな?ひときわその技術が冴えわたる!・・・ちょっぴり表情が、、、目がいっちゃってる!
「すごいな、こんなに迫力があるとは知らなかった(ヒソヒソ)」
「はい!私も初めて聞きましたが圧倒されますよね!(ヒソヒソ)」
サラとテレサさんの声を殺した会話。でも俺の目はジョアンさんの手捌きに釘付けになる
めちゃくちゃ上手い!
今の多重奏をリードしているのは間違いなくジョアンさんだ。音の強弱の使い分け、リズムと音のブレなさ、音のキレ、余韻の残し。一級品だと思う。船内オケのパーカスパートの人と話したとき『打楽器は叩けば音が出るが、それだけじゃないんだよな・・・・』とその難しさを長々と聞かされた。その人の演奏と比較しても遜色ない出来だった
※※※
演奏後、みんなでお茶をいただきました。今日集まったジョアンさんの仲間は、故郷で幼年学校をともにした仲間らしい。年長組だったジョアンさんはみんなのまとめ役だったそうで、王都に出仕したとき、立ち寄ったときには、今ここにいない仲間も含めてジョアンさんのところに顔を出すそうだ
「ソータ殿、聞いてみてどうだったかな?」
ジョアンさんが身を乗り出して聞いてきた
「素晴らしかったですよ!ジョアンさん、打楽器奏者として生きていけるんじゃないですか?」
「ハハ、お褒めの言葉は嬉しいが、それはちょっと言いすぎかな?」
「何をいうか?ホントに凄いと思ったぞ?」
テレサさんの言葉に、サラはティーカップに口をつけたままコクコクと頷く
「ジョアン?せっかく褒めてもらってるんだから素直に喜んどきなさいよ」
「ジョアンは演奏してるとき以外は自信がなさすぎるからな」
「そーそー。演奏のときはあんなにグイグイ引っ張るのにな」
「まあ、そんな性格だから俺達みたいなのがメディナ家の御令嬢とこうやってお茶飲めるんだけどな?」
ハハハと笑う仲間たちと、仲間たちの言葉に照れ笑いのジョアンさん
「ジョアンさん、もっと自信を持っていいよ。ティンパニをあんな見事に演奏出来るんだから」
「「「「ティンパニ?」」」」
ん?みたいな顔をするジョアンさんとその仲間たち
あ、しまったかな?
「あ、私のせかぃ、、」
「んん!」
テレサさんが喉を鳴らす。ちょっと目が真面目になる。あらら?またまたしまったかな?
「私が生まれた国では、ジョアンさんの楽器をそう呼ぶんです」
「「「「へー!凄い!打楽器があるんだ!」」」」
「私達の故郷では『バティストゥータ』と言うんだ。みんな略して『バティ』と呼ぶかな?、、しかしソータ殿が外国出身とは知らなかった。てっきり大公領出身かと」
「ししょーは世界中の音楽を聞いて周る旅をしてたんですよ。旅の途中で大公領内の男爵家に立ち寄られたんです。その時たまたま出会って、我が家の師になってもらったんです」
ああ、サラさん!ナイスフォロー!みんな『ほー、なるほど』って顔になってくれた!
テレサさんの目も普段通りの穏やかなものに戻ったよ
「そのバティストゥータは、私の国では合奏の際には欠かせない楽器の一つなんです」
「「「「打楽器が合奏に加わるの!?」」」」
「ええ、『打楽器の王様』と呼ばれる楽器なんですよ?」
「「「「王様!?」」」」
「はい、他の弦楽器、管楽器の音の下支えをして音を響かせ、全体のリズムをリードする楽器なんです。第二の指揮者とか、指揮者とケンカ出来る唯一の楽器だなんて言われるんです」
「私の使うバティは父より譲り受けたものなんだが、他の国ではそんな風に言われていたなんて、、」
うつむき加減で呟くジョアンさん。ちょっと嬉しそうだ
「それよりジョアン?この方たちなんだろ?今の『刻知らせ』やってるってのは」
「そーなの!?ちょっと!ジョアン!早く言ってよ!」
「俺達も王城務めだから夕刻の『刻知らせ』はよく聞くんだが、朝の『刻知らせ』は聞いたことないんだ。何せ朝早いからな」
「聞きたい!聞きたい!よくおしゃべりする王宮メイドの娘から凄いって聞いてるもん!」
「え?え?そんな、、急に言ってもソータ殿も困るじゃないか」
「いいですよ?アイマールはありますか?」
さっきの四重奏にあてられちゃったかな?ウズウズしちゃいます
「え?アイマールは隣の部屋に私の練習用があるが、、そんな、お客様としてお迎えしたのに、、」
「そちらの御令嬢は今年の錬成会王都大会のアイマール部門優勝者ですよね?」
「そーなの!?聞きたい!聞きたい!同じ職場の人から圧倒的だったって聞いてるもん!」
「ちょっと待て!お前たち!図々し過ぎるぞ!」
「いいですよ!私も弾きたくなりました!」
サラもさっきの四重奏を聞いて、自分も弾きたくなったみたい
午前中だけお邪魔する予定だったんですが、このあとアイマールと打楽器のミニ演奏会が始まって、結局お昼ご飯もご馳走になって、、、宿舎に帰り着いたのは夕方になっちゃいました。思っていた以上に楽しい時間を過ごすことができたんですが、、、
帰りの馬車でテレサさんからヒソっとお小言もらいました
「楽士殿、もう少し慎重になってくれると有り難い。私としても、ジョアン君やその仲間たちに剣を向けるなんてことは、あってはならんことなんだ、、、」
すいません。注意します。ホントに、、、だから寂しそうな顔しないで、、、
※※※※※※※※※※※
奥殿につながる長い廊下、静々と歩く侍女さん、、達。・・・お出迎えが二人になりました。、、、、エルフの習性?なにかと数が増えていくよね
やって来ました。『読み聞かせ』3回目です。
『読み聞かせ』の練習でサラは
「今回で読み終わりにしたいと思います!途中で区切ってしまうと、最後がちょっと短いかな?って、、なのでししょー、少し長いのですが、、、いいですか?」
オズオズと聞いていたので
もちろん!やってやろうじゃないの!って答えました
・・・ん?
目指す部屋の扉の前で、ちっちゃい二人組が膝を抱えて座ってポケっとしています。いわゆる体育座り。その周りで侍女さんがアワアワしてます
『王子殿下、王女殿下、そんなところに座られては、、、』なんて言ってそう
『『!』』
お、こっちに気付いた。と思ったらすごい勢いで走り寄ってくる!
「「待ってたー!」」
サラの手をガシッと掴むとグイグイ引っ張る王子と王女。サラは王子、王女に両手を掴まれワタワタと部屋に入っていった
ピョコッと王女の顔が扉の隙間から出てきて
「アイマールの人も早く!早く!」
言葉を残してシュッと扉の中に消えていく
プッ、と吹き出すテレサさん
「期待されているぞ?楽士殿」
「ええ、そのようですね」
ソータはフードをグイッとかぶり直すと、ふーっと一息。目に力を込める。気合を入れ直して部屋に入った
※※※※※※※※※※
なにこれ?
部屋のソファーに座る王妃殿下はまたもや苦笑い。周りには侍女さん達が、、、何人いるの!?後ろで控えているのは7、8人なんですけどね、他の人達は調度品を拭いたり、窓を拭いたり、花瓶に花を生けたり、、、大掃除かなんかですか?
侍女達の『読み聞かせ』同席への執着は、ちょっとした抗争にまで発展していた。それまで同席していた侍女達は『次はどんな曲なのかな〜』と楽しみにしており、、噂話しか聞いてない侍女達は『いいな〜、、私も聞きたいな〜』と思ってた、、、ので、、
「ちょっと!あなた達の組は前回までの『読み聞かせ』で同席してたでしょ?今回は私達の組に譲りなさいよ」
「駄目よ!ちゃんと担当が決まってるんだから、守りなさいよ!」
「あの、、私達、部屋のお掃除時間をずらしていいですか?」
「何それ?まさかお客様が来てるときにお掃除するつもり?どうせあなた達も演奏聞きたいだけでしょ!」
この抗争の間に立たされた王室付侍女頭は頭を抱えた、、何せいつもは従順に仕事をこなす侍女達。こんな痴話げんかみたいな状況は経験がない。悩んだ侍女頭は、、、王妃殿下に泣きついた!侍女頭の苦悩の訴えに、王妃も困惑!!、、、、、そして今の状況に至る
ソータは王妃へ挨拶を済ませアイマールに座る。サラは既に読み手の席に座っている。王子、王女はもうサラの膝に手を乗せ、ピョンピョン小刻みにジャンプしてる!『まだ?まだ?』みたいになってる!
「さて、、では前回はどこまで、、、」
「「古城を抜けて森に入ったとこ!!!」」
食い気味に答える王子と王女
「剣の勇士は?大丈夫なの?死んじゃわない?」
「森は危ないとこ?森の中には何があるの?」
捲し立てるように話す二人を前に、サラは十分な間を取り
「さあて、どうでしょうね?それでは続きを読み進めていきましょう。
・・・
『鬱蒼と生い茂る暗い森の中を大公子と4人の勇士が走っていく、、、、』」
サラの一声で、王子と王女は空想の世界に旅立った
森に入った大公子一行は、松明もつけずに走り進む。明かりをつけると追手に気付かれると思ったからだ。木々の間から月の光が時折差し込む。その色は青い光が色濃くなってきていた。
双剣の勇士は辺りの気配を探る
『・・・もういない?』
周囲は静かに木々が立ち並ぶのみ。追って来ていたウェアウルフ達の気配はない
『大公子!どうやら追手を巻いたようだ!』
双剣の勇士の言葉に速度を落とす一行。まるで迷路のような森の中に大きな木の洞を見つけるとそこで足を止めた。すぐに竪琴の勇士が『回復の歌』を歌い始める。歌う勇士の顔はすぐれない、魔力はほとんど残っていなかった。しかし残る魔力のすべてを吐き出さん勢いで声に、音色に魔力を乗せて剣の勇士に歌を捧げる
剣の勇士の容態は深刻だった。体を貫く深い傷から血が溢れ出す。大盾の勇士と双剣の勇士は体を抑えつける。剣の勇士は意識を失ってから痙攣を繰り返し、獣のような唸り声をあげながら時折暴れるようになっていた。唸り声をあげる口に牙のような犬歯がチラリと見えたのは気のせいか?
大公子は血が溢れる傷口を両手で必死に抑えながら
『頑張れ!頑張れ!』
と願うように剣の勇士に話しかける
大公子は心の中で祈っていた
・・・神様、、お願い申し上げます。どうかこの者を連れて行かないでください。吸血鬼になどに変えないでください、、、大事な、、大事な仲間なんです、、、お願いします、、お願いします、、
片手で剣の勇士を抑えながら、もう一方の手は腰の剣に手をかけているのは双剣の勇士。最後の時は剣の勇士の首を落とす覚悟。それに気付いた大盾の勇士の目が『最後まで待て』と物語る
・・・わかってるさ、そんなこと
双剣の勇士も仲間の首を落とす事に躊躇いが無いわけではない。出来ることなら回復して目を覚まし、何事もなかったかのように振る舞ってくれる事が一番いいに決まっている。しかし目を覚ましたのが吸血鬼なら?
吸血鬼なんぞになりたくない!
剣の勇士は血を吐きながらそう言った。仲間の切なる願い。せめてその願いを聞き届けてやりたい。たとえそれで汚れ役になったとしても
突如、竪琴の勇士が膝から崩れ、地に倒れ伏した。魔力を使い果たし、気を失ったのだ
『回復の歌』が途切れた事で剣の勇士の様子は一気に悪化する!大公子が抑える傷口からは血が吹き出し、呻きながら中空を見る剣の勇士の瞳が妖しく、赤い光を帯びてくる!
・・・・ここまでか!
双剣の勇士が腰の剣を抜き剣の勇士の首に切っ先を突きつける!
サラの語りは大公子と勇士たちの緊迫した状況を見事に表現していた。王子・王女は祈るように合わせた手を握りしめて聞き入っている。その手は遠目で見ても震えているのが分かるほど力がこもる。まるで剣の勇士の傷口を懸命に抑えているかのように
・・・・リーン!
突如聞こえる鈴のような音、突然のことに大公子と大盾の勇士が辺りを見回す。双剣の勇士も動きを止め、周りに意識を集中する。鈴のような音は頭の中に直接響いた感覚があった。皆、ただ事ならぬ表情で周囲をうかがう
いつの間にか大公子と4人の勇士の周りには淡い光の粒が舞っていた。暗い木の洞を照らすかのように光の粒が周りを舞う幻想的な光景
ここで曲を挿入する。本来ならハープの音色がドンピシャのこの曲ですが、アイマールで頑張って伸びやかに表現しちゃいます!
ゲームFFシリーズより、『プレ◯ュード』
このゲームシリーズを代表する曲の一つ。静謐な雰囲気を持つ
この曲がこの場面に合うと選曲しました。ここからこの物語で唯一と言っていい穏やかな時間。頑張って表現してみます
リーン!
『なにか迷い混んだと思えば、、これは珍しい、、、人の子だったとはな』
リーン!
『ホントだね、人がこんなとこまで来るなんていつぶりかな?』
リーン!
『あら?一人呪いを浴びてるものがいるわね。随分と凝り固まった呪いを』
リーン!(以下略)
『ホントだね、イヤなニオイ』
『キズつき、命の灯火が消えかかっておるわい』
『周りの者もボロボロね』
『ボロボロだね!ボロボロだね!』
鈴のような音がなる度に声が頭の中にこだまする
『人の子よ、このようなところで何をしている?』
・
・
大公子と4人の勇士はここで4人の精霊と出会う。魔族が近寄らない『帰らずの森』は精霊達が住まう場所だった
大公子は周りに浮かぶ光の粒に話しかける。精霊達に旅の目的と今までの旅の話をした。すると
『まぁ、随分と難儀をしているわね』
『ホントだね、ボロボロになっちゃったね』
『ねえ、このまま捨て置くのは少し可哀想だわ』
光の粒のひとかたまりが剣の勇士の周りに集まる。すると今まで唸りをあげ藻掻いていた剣の勇士がフッと大人しくなり、呼吸も落ち着く
『そうよな。久方ぶりに見た人の子を無碍に扱うのはワシも気が引けるわい』
『、、ちょっと手を貸してあげない?』
『ふむ、お前たちの気まぐれにはいつも振り回される』
飛び交う光の粒、頭に響く声々が話し合いを始めた
しばらく話し合いをしていたが、どうやら結論が出たらしい
『ふー、やれやれ、、、人の子よ。ついてくるが良い』
大公子と勇士たちは精霊達に導かれ、森の奥の窟に連れてこられた
オズオズと窟に入る大公子一行。大盾の勇士がズルズルと剣の勇士を乗せた大盾を引きずり、双剣の勇士が竪琴の勇士をおんぶする。みな足取りは重い
窟の奥には泉が滾滾と湧いていた
『皆、その泉に浸かるがいい』
『入って!入って!』
『傷も疲労も癒えるはずよ。あ、女の子たちは奥の岩の陰がいいかしらね?』
『しばらくそこで休むといいじゃろう』
声に導かれるように泉に入る大公子達。一瞬躊躇したが、意を決して衣服を脱ぎ捨てザブザブと泉に入る。大盾の勇士は剣の勇士の衣服も脱がせ、抱えて入る
『あ、暖かい、、』
泉に浸かると今までの疲労が一気に吹き出したのか、抗えようのない睡魔に襲われ、眠ってしまった
※※※
大公子は夢を見た
幼い頃の夢。父に連れられ王城に初めての登城したとき、王女と出会った。同じく幼かった王女は内気な少女だった。何度目かの登城の時、初めての会話を交わした。『お変わり無いようで何よりです』、距離感を感じる王女の挨拶がもどかしかった。『ご機嫌麗しゅう、王女殿下も変わらずお美しいですね』、思い切って背伸びした挨拶をした。歳の近い近従(後の糸の勇士)から助言を聞いていたので実践してみた。顔を真っ赤にして『それは、、、どうも、、』、小声でそう言う王女。大公子の淡い思い出
王女は美しく成長していく。いつの頃からか父の登城について行くことが楽しみになった。月に一度は王城で王と側近たちの近況報告会が開かれる。なにか問題が起こればその回数は増える。『もっとなにか起これば毎週でも登城についていけるのに』、そう呟くと、『殿下、それ聞かれたら父君に謹慎させられますよ』と近従にいわれ、『それは困るな、うん、それはダメだな』、ちょっと反省した
お互いの名前を呼ぶくらい親しくなった。『次はどんな話をしようかな』、大公子にとって王女と話す時間は心がポカポカする大切な時間だった
※※※
『はっ!』
フッと目を覚ました大公子は、まどろみの中、辺りを見渡す。泉に浸かる大盾の勇士と剣の勇士は穏やかに眠っている。剣の勇士の顔色は良くなっているようだ。表情もいつもの剣の勇士に戻ったように見える
『よかった、、』
安心したらまた眠りについた
背中の岩の後ろでは双剣の勇士と竪琴の勇士が眠っていた。双剣の勇士は小柄な竪琴の勇士を抱いて眠っていた
※※※
ああ、これは夢だな
双剣の勇士は夢を見ながら夢だと気づいた。夢に出てくる馴染の顔が若い
村で一緒に育った3人で、魔王軍との戦いの志願兵として出征した頃の夢だ。一緒に村から旅立ったのは同年代の男の子と女の子。10年、20年の年の差は村では同年代だった。男の子は槍を使い、一番若い女の子は弓を使った。自分が双剣で近距離、男の子は槍で中間距離、年下の女の子は弓で遠距離を担う
小さな頃からいつも一緒で気の知れた仲だったからか、戦場での連携は訓練をしなくてもできた。その効果は戦果に如実に現れる
とある戦場での戦果を認められた3人は、大公殿下に呼び出される。そして大公の息子、大公子殿下の懐刀として大公家に仕える事になった。3人は喜んだ。これで戦場の最前線で飛び回らなくても給金が貰える!いつも最前線で戦ってきた3人にとっては平穏がやって来たかのようだ
けれどその平穏がもたらす心の余裕が、戦場では気付くことのない心情を発露させる
ある日、自分の事を姉のように慕う年下の娘が、思い詰めた顔で相談に来た
『あたし、、変だ!』
年下の娘は恋をしていた。相手は仲間の男の子。いや、もう男の子と呼ぶには見た目が厳ついか?
そういやこの娘もいつの間にかキレイになったもんだ、、、そうか、みんな大人になってるんだ
幼い頃、一緒に森で遊んだ帰りに『もう歩きたくない!』と駄々をこねてオンブをせがんだこの娘がねぇ
自分の気持ちを素直に伝えるのが良いと諭すと
『姉姉は、、、怒らない?』
昔からの呼び名で遠慮がちに聞く娘に
なんだ、そんな事を気にしてたのか
『なんでアタシが怒るのさ?』
そう言った時、胸の奥でチクリと痛みが走った
損な性分だけど、後悔はしないよ
※※※
『は!』
泉に浸かる双剣の勇士は目を覚ました
『まったく、、こんな時に、、なに呑気な夢を、、、』
自嘲気味に呟く、、その隣では竪琴の勇士が泉にぷかーっと大の字に浮び、くかーっと幸せそうな顔で眠っていた
『ハハ、、、あんた意外と大物だね』
大公子と勇士たちの過去が垣間見える一幕、王子と王女は穏やかな顔で聞き入っていた。色恋沙汰の心の機微もチラリと見えた場面、王女は『あっ』と気付いたみたいだが、王子の方はふーんみたいな顔をしていた。こういった話には女の子のほうがおませさんなのかな?
ここで曲を終える
あれ?掃除をしていた侍女の皆さん、手が止まってますよ?
※※※
泉から出た大公子一行。装備をつけると窟の入口に集まった。空を見上げると快晴。朝日が木々の間から差し込み、ここが魔王島であることが嘘のような穏やかな光景が広がっていた
『あんた、もういいのかい?』
双剣の勇士が剣の勇士に尋ねる
『ああ、どこもなんとも無い、、、なんだか変な気分だ。もう死んだものと思ってたのだが』
『何にせよ、それで済んでよかったじゃないか』
『ああ、まったくだ。一時はどうなるかと思ったよ』
大盾の勇士と大公子は安堵の言葉をかけ合う、、が、一人それでは気がすまない者がいた
『・・・それだけ?それだけで終わりですか?・・・馬鹿なんですか?』
皆、竪琴の勇士を向く。そこには見るからにプンプンと怒る少女がいた
『みんなに黙って、、、死のうとしてたじゃないですか!あんな方法で斃そうと考えてたなんて!!』
すごい剣幕で剣の勇士に詰め寄る竪琴の勇士、剣の勇士は平謝りだ
『そのへんで許してあげたら?ちゃんと罰は受けてるんだから』
鈴のような音が頭に響いたと思うと、声が聞こえた。周りにはいつの間にか光の粒が集まっていた
『皆、体調は戻ったようじゃな』
『うんうん!元気になったね!』
『精霊様達よ、助かりました。なんとお礼をいえばよいか、、、』
大公子と勇士たちはひざまずき感謝を述べる
『人の子らよ。これからどうするつもりか?』
『これより魔王城に忍び込み、王女を救い出すつもりです』
『この人数でか?』
『無茶だよ?無茶だよ?』
『魔王城には上位魔族が何人もいるわね。その全員の目を掻い潜るのは難しいわね』
『死にに行くようなもんじゃな』
『、、、それでも行くつもりです』
うつむき、歯を食いしばり話す大公子
『魔王になった者は、魔神を降ろそうとしている。魔王を斃すというのであれば、力を貸そう』
『え?』
大公子は思わず顔をあげる。いくら大公子でもそこまでは考えていなかった。強大な力を持つ魔族、その頂点に立つ魔王を斃すなど、軍隊をぶつけなければ不可能と考えていた。なので、大公子の考えはあくまで魔王城に忍び込み、王女を連れて脱出することだった
『魔神が降臨すれば、私達の存在は消滅しちゃうのよ』
『消えちゃうのやだ!』
『取引というやつじゃな』
『人の子らよ、お前たちの弱みにつけ込むようで悪いが、お前たちも時間が無いのではないか?今日が青い月が最も輝く日だぞ?』
大公子と勇士たちは、まる二日眠っていた事に初めて気づかされる
『な!?、、、そんな!』
『大公子!落ち着いて下さい!』
咄嗟に走り出そうとする大公子を大盾の勇士が制止する
『今から走っても魔王城に忍び込むだけで精一杯だよ?』
『助ける暇はなく、生贄の儀式は終わるじゃろな』
『その後は時間をかけて絡め取られておしまいってとこね』
『、、、しかし、我らの手助けを得られれば、魔王と王女しかいない時に会敵する事ができる』
『なっ!?』
物語の中で大公子は驚く!王子と王女も驚いている!
『それは、魔王と戦ってくれるのが条件だけどね?・・・ごめんなさいね、私達もなりふりかまってられない状況なのよ』
『今度の生贄は本物じゃからの』
『うー、僕たち大ピンチ』
しばらくの沈黙の後、大公子は口を開く
『・・・魔王と戦うと約束しよう』
勇士たちは何も言わない。もうそれしか道はないと感じていたからだ
精霊達は大公子達に魔王城への侵入方法を説明した
『・・・そんな方法が、、』
『精霊の助けがあればこその方法か、、、』
大公子と勇士たちは口々に驚きの言葉を発する。魔王城への侵入経路は確保された。あとは戦い、勝つことが出来れば精霊達の願いも叶えることが出来る
『もちろん戦いの助けもするよー!』
『私達の加護を受けて行きなさいな』
『いつも以上の力を出すことが出来るようになるじゃろ』
『そしてお前にはこれを授けよう』
光の粒の中から一振りの剣が大公子の前に現れる
『これは?』
『魔王を討つために我らが鍛えし剣、『デュランダル』だ』
『私達の力が込められているわ』
『いっぱい力を込めてあるよー!』
『まあ、力を渡し過ぎて、我ら自身の存在が希薄になってしまって、剣を振るえなくなったのじゃがな』
『わ!わ!しーっ!しーっ!』
『それほど力を込めなければ討つことのできない相手だってことよ』
大公子達は魔王城潜入の準備を始める。そこに、竪琴の勇士が先程までの精霊との会話で気にかかっていたことをぶつける
『あの、、精霊様、さっき剣の勇士が罰を受けてるって言ってましたよね?あれって?、、、』
『ああ、その者の浴びた呪いは、今もなお息づいているということだ。泉の力で呪いが制限されてはいるがな。残念だが解呪するまでには至っていない。おそらくその者の血筋に受け継がれていくだろう。、、、まあ、どの段階でどんな影響が出るかは我らにもわからんな』
剣の勇士はその言葉を穏やかな顔で聞いていた。ある程度覚悟はあったのだろう、しかし
『そんなっ!』
対照的に竪琴の勇士は悲痛な叫び声を上げた
区切りが悪くすいません
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