第13話
「さっきから何を言っている!?」
王宮楽士団長室から団長の叫び声が聞こえてくる
「いや、ですからね、私が団長となって戦場楽士団を臨時に結成するので暫く王宮楽士団の仕事は出来なくなりますと、、団員もいくつかのパートから何人か連れていきますと、、」
何回目かの説明をする聡太。こういった事になるのは想定内。淡々と説明を繰り返す
ただ大声上げるのはやめてほしいなぁ、後ろでサラがビクビクしてる
「楽士が戦場に出て何をするっていうんだ!」
「戦ってる人たちを鼓舞するんですよ」
「〜、〜!、〜!!、お前に従って戦場になど誰が行くものか!!」
「、、、そうですよね。戦場になんて誰もいきたくないですよね。でも、、、現に今、この国のために命懸けの戦場に向かってる人たちがいるんです。その人たちだって不安だと思います。その人たちを鼓舞するために俺たちも行きます」
「だから!そんな召集に従う者など楽士団にいないと言ってるんだ!、、、は?」
喚き散らす団長の眼前にひらりと1枚の紙を出す。そこに書かれていることを目で追う団長は愕然とする
「パウロ王からの王命です、、、嫌でも従ってもらいますよ」
勅命書越しに見えた聡太の目は鋭いものだった
※※※※※※※※※※※
「なぜ私たちが戦場に行かねばならないのですか!」
「そうよ!お姉様の言う通りだわ!」
「それになんなのこの歌詞!こんな野蛮な歌詞を歌うなんて!私たちの声は神や精霊に捧げるものなのよ!こんなの歌えないわ!」
ファブレガスパート(声楽パート)に来ています。このパートは今まで交流の無かった所なんですよね。なので来た時から『何しに来やがった?』みたいな雰囲気です。5人ほど連れて行こうと思ったので、そこら辺にいた第2、6、7、17、19席を無作為に選んで招集をかけたのですが、お姉様方が金切り声をあげて全力拒否ってきます。後ろで男性パート員2人はアワアワしてます。ここは女性が強いパートなのね
「因みに王命だとしても、、、ですか?」
サラが後ろから援護してくれました
「「「・・・・え?」」」
お姉様方の顔色が途端に変わります
「王命の拒否は許されん。貴族籍の剥奪がその処分となる。当然理解しておられような?」
イングリスさんがスッと俺のポケットから勅命書を抜き取り、お姉様方の眼前に掲げ、凄みをきかせる
渋々といった感じで「わかったわ」と言ってくれたが、もの凄い目で睨まれた
※※※
「あの、お願いがあって来たんですが」
「ああ、戦場楽士団の話だろ?俺を含めて5人選んでいる。足りるか?」
「えっ?トルドさんが来てくれるんですか?」
クレスポパートに来た途端にメンバーが決まってしまいました
「第1席が来ていいんですか?」
「うん、第2席と3席は残すからな。大丈夫だろう。ハハッ、あいつら子供が生まれたばかりだからな。その事を理由にしたら恨めしそうに残るって言ってくれたよ。それよりも他のパートにも早く行ってやれ。皆、待ってたぞ?」
「はい?」
「ファブレガスパートに最初に行って選んだろ?それを伝え聞いてうちのパートも急いで選んだんだ。他のパートも研鑽会の参加者を中心に集まっているようだぞ」
「なんでそんなことに、、、」
「まあ、俺にも言えるが、あの研鑽会は印象深いものだったからな。練習ではお前から罵倒されてムカッと来たこともあったが、終わってみれば心にポッカリ穴が空いたようでなあ」
あ、交響曲ではヨシュアのイメージで指揮棒振ってたからな、今思い返すと練習で酷いこと言ってた気がする
「俺が言うのもなんですけど、行くのは戦場ですよ?」
「そうだな、今度の演奏会も大変そうだ」
ニカッと笑顔で答えるトルド
「あ、ありがとうございます!」
深々と頭を下げる聡太
ほんとに有り難い。本心を言うと勅命書をひけらかして無理やり連れて行くようなことはしたくないんです
「今度も終わったら打ち上げをするんだろ?」
「え?ええ、盛大にやりましょう」
「うし!じゃあそれを楽しみに頑張ろうか!ところで後ろのサラくんが抱えているのは楽譜かい?見せてもらえるかい?」
「はい、どうぞ!、、えっと、ししょー、トルドさんにはこの楽譜で良いですか?」
「うん、それを渡して」
「どれどれ、、、、、うお!、、、これは」
トルドさんに渡した楽譜は他のクレスポパートとはちょっと違う。原曲でギターソロの箇所が含まれていた
※※※
「こんにちは」
「やあ、来たね」
ジョアンさんがパーカッションパートでドラムの練習をしていた。メガネをとって汗を拭いながらこちらにやって来る
因みにパーカッションパートはこちらの世界でも『パーカッションパート』です。パート名を決める際、こちらの言葉では『野蛮な』とかの語源の言葉になりかけたので、『『パーカッション』にしよう!』と俺がジョアンさんにゴリ押しした。言葉の意味も分からず、『?』顔のジョアンさんに、『私の国で『打楽器』を意味するんです』と伝えると、納得してくれました
パーカッションパートはまだ設立して間もない。パート員はジョアンさんを含め7人しかいない。そのうちの1人が練習部屋の隅に置かれた応接机にお茶をもって来てくれた
先の研鑽会でパーカスを手伝ってくれたメンバーがそのまま第一期パーカッションパートのメンバーになってくれた。それぞれ王宮で各部所の事務官として働いていた東部出身の方たちで、いつかのメディナ邸で打楽器四重奏を聞かせてくれたメンバーは皆、楽士団に編入されていた
打楽器を含む合奏は『カリスト式合奏』と呼ばれるようになり、他国でもチラホラと演奏されるようになっていた。それに伴って、演奏方法や打楽器の魅せ方を学びに他国の楽士団、フリーの楽士、指揮者を含む音楽関係者が演奏会に視察に来るようになり、カリスト王国王宮楽士団の演奏会は噂を聞いた一般客も含めて毎回盛況となる。『ドラム』の製作法も各国に伝えられていった
ジョアンさんはこの世界ではドラムの第一人者だ。音楽界でその名が知られていくようになった
「ジョアンさん、準備はどうですか?」
「ああ、だいぶ掴めてきた感じだ」
ジョアンさんの顔つきが険しい。前もってジョアンさんには楽譜を渡していた。なので真面目なジョアンさんは既に練習を始めているが、ちょっと気負い過ぎているのではと思い
「ジョアンさん、少し肩の力を抜きませんか?今から無理をすると体が持ちませんよ」
と言ってしまった
「、、、そう言わないでくれ。今は、ドラムを叩いている時だけは余計な事を考えずに済むんだ」
「、、、分かりました」
生気のない顔をしている時よりは良い、、かな?
現在のパーカッションパートは全員が東部出身。そのためか全員が参加希望したが、パーカッションパートからはただ一人、ジョアンさんを召集した
※※※※※※※※※※※
楽士団を廻った後にやって来たのは王宮魔法士団が詰める建物。受付の人に聡太は告げる
「楽士ソータ、王宮魔法士団長とライド・ベックマンさんに面会を求めます!」
※※※
「『拡音』の魔法士要員を出してほしいと?」
穏やかなおじいさん風の王宮魔法士団長。その隣にライドさん。ライドさんはいつになく神妙な面持ち、俺たちと机を挟んで座っていた
「はい、私たちの演奏、歌声が一都市中に響くようにして欲しいんです」
「ソータ殿、今、我ら王宮魔法士団も先の出征で多数の人員を出した上に、王妃殿下からの要請で後発隊にさらに人員を取られることになってなぁ」
「苦しい状況は理解しているつもりです。ですが、そこをなんとか、、、」
「出せるのは20人くらいが限界なのよ」
「えっ!?」
てっきり出せないと断られると、、、
「一都市ってレイノルズのことでしょ?レイノルズ全域に音を響かせるには足りないかも知れないんだけどね。ライド君、いいかな?」
「十分です。どんな弱音でもレイノルズ全域と言わず、帝国領まで響かせてみせます」
「ホッホッホッ、豪気だねぇ」
「あ、ありがとうございます!」
バッと立ち上がって頭を下げる聡太
「ライド君からソータ殿のことはいろいろ聞かされていてね?先の研鑽会には行かせてもらったよ。私も一応上級貴族の端くれだから招待をうけてねぇ。いやぁ、ビックリしたよ。実際に既成概念が崩れて行くのを目の当たりにしたのは初めてだった。、、、君なら何か私達が考えられないような事をしてくれるかもしれない」
ふいー、と溜め息一つ
「彼の地が我らが王国にとってどれだけ重要かは理解しておるよ。今回の件、出来るだけ協力するつもりだよ」
※※※※※※※※※※※
有り難いことに人員の確保はできた。後は俺が一番言いにくい相手との話し合いが残っている。そのためにアイマールパートの練習棟へ来た
「ぷぅーっ」
いつもの練習部屋に入ると、サラが一息ついた。いろんな所を廻って緊張していたようだ
「お疲れさん」
「いえ!まだまだこれからです!自分の用意もしないとですから!」
「えーっと、、ね」
「?、、、ししょー?」
「今回の件は俺の我儘みたいなものだよ」
「そうですねえ、ししょーの思いつきにはいつも周りの人が振り回されますからね〜」
「だからね、サラが行きたくないなら、無理に付いてこなくても良いんだよ?」
「ししょー、、」
「戦場ではどんな事があるか分からない。サラが普通に生きて行けば見なくて済む場面を見せることになるかもしれない。・・・ほら!『刻知らせ』をする人も必要だろう?こんな事態でも王城の中で働く人達の日常を守るのも大事な事だし、、、」
「ししょー」
「サラの音に変に影響が出たらすごく嫌だし、もしものことがあったら奥方様やクリス君、セバスさんやヴィンセント家の人たちになんて言えば、、」
心の奥で『だったら兄弟で召集したライドさんやトルドさんはいいのかよ?』って自分の声が聞こえてくる。分かってる、すごく矛盾してることを言っていることくらい。でもでも嫌なんです。サラを危険な目にあわせるのは
「ししょー!」
サラの声にハッと顔を上げる。そこには真っすぐと自分を見るサラの瞳
「私はししょーの弟子です。ししょーがする事、奏でる音楽の全てを見て、聞くことが弟子の勤めです!絶対について行きますから!」
『ああ、この子の真っすぐな瞳によわいんだよね』
「、、、わかった、、、はあ、こりゃアイマールを2台持って行かないとね?」
「えっ?」
「せっかくだから連弾でいこうか」
「わ!ホントですか!」
「でも約束して?もし危険な場面に遭ったら俺よりも先に逃げるんだよ?イングリスさんにもお願いします。もしもの時は俺よりもサラの安全を優先して下さい」
うーんと困り顔のイングリスさん
「テレサお嬢様には御二人の安全をと任されたのだがな?」
「お願いします」
イングリスさんは、ふーっと一息
「わかった」
「でもさっき言ってた『刻知らせ』はどうしましょう?前はジョアンさんにお願いしましたが、今回は一緒に行きますもんね」
「そうだね、誰か頼める人がいるといいんだけど」
「あ!あの方ならいいんじゃないですか?」
「あの方?」
※※※
アイマールパート第1席の部屋から出てきた3人。歩きながら話す
「よかったですね!シャープナルさんが快く引き受けてくれて!」
「うん、そうだね。でもホントは戦場楽士団に志願するつもりだったって聞いた時はビックリした」
「奥さん、怒りますよね?お子さんたちあんなに小さいのに」
「いや、なかなかの御仁だ。あのお年でまだまだ覇気衰えぬとは。楽士にしておくのはもったいないぞ」
イングリスさん、多分アイヴァンさんは貴方より相当若いですよ?言えないけど
サラと2人で苦笑い、と、そこへ
「おい、そこな楽士」
声をかけてくる身なりの良い細身の貴族とその後ろには小太りの貴族
「お前達が別動隊と出陣する楽士団であろう?こちらのメルテン伯爵様がそなたらに話がある。傾聴せよ」
お付きの者とみられる貴族の言葉に、サッと片膝をつくイングリスさん、それに倣って俺とサラも片膝をつき頭を垂れる
『傾聴せよ』とは高位の貴族が喋る前にお付きの者が使う常套句らしい。この文言を使われると慎み敬って聞くのが常識とのこと
でもな、俺、テレサさんにお説教食らうときでも『傾聴せよ』とか言われたことないし、王妃殿下から話を受けた時も言われたことないんだけど、、あなた誰よ?
チラと目線を上げ、顔を確認する聡太
あ!こいつこの前の壮行会の主催者じゃない!
※※※
それは王妃殿下との謁見が終わり、奥殿の部屋を出ようとした時のこと
「ソータ様、一つご注意を」
「?、サティナさん?何ですか?」
「メルテン伯爵、またはその配下の者から事の詳細を聞かれる事があるかも知れません。その際は、あくまで別動隊は先行する本隊を労うため、物資の補給のために出るのであり、楽士団の演奏も余興の一つにすぎないと、そう伝えるようにお願いします」
「え?その人が内通者なんですか?」
「現時点では何とも、、しかし私はその可能性が高いと睨んでいます」
※※※
『こいつがサティナさんが言ってたガチのやつか!』
「お前達が戦場楽士団などという酔狂なものを始めようとしているものだな?」
「そうです。大公領ヴィンセント男爵家が一女、サラ・ヴィンセントと申します」
こういった時、名乗るのはサラだ。なにせ爵位家に関係するのはサラしかいないからね。ん?イングリスさんって爵位持ちなのかな?今度聞いてみよう
「そなたらも難儀だの?陛下と妃殿下の酔狂につきあわされて、、ところで、別動隊の準備に森で木を切り出していると聞く、そなたら何か聞いているか?」
「いえ、私達は特にきいていませんが、余興として楽士団の慰安演奏会を行う予定ですので、その舞台製作用ではないかと」
ナイス!サラさん。前はこういった場ではオドオドしてた少女だったけど、いろいろあって成長したね
「ふむ、そうであるか。かなりの量を切り出し、加工していると聞いていたので、なにか他に意図があるかと思ったのだがな」
「そう言われましても、我らはただ演奏を頼まれたのみでして、どのような舞台を準備していただけるかもわかりませんので、、」
「そうか、さもありなん、、か。全く、王妃殿下の気まぐれにも困ったものだ。このように事を荒げて、その後の事は考えているのだろうか。財源の工面をする方にも気を使ってくれてもよいものを」
ブツブツと愚痴を垂れるメルテン伯爵を下からジーっと見つめる3人。と、その視線に気付くメルテン伯爵
「時間を取らせたの。もう行ってよいぞ」
「はい」
サラは立ち上がると一礼し、その場を去る。残り2人もそれに倣った
なんか探ってきたのかね?木材のこと?もちろん舞台のためなんかじゃないよ
※※※※※※※※※※※
「敵襲!!」
いまだ東部領境の前で発せられた突如の警報。ベルタンは即座に指示を出す
「警戒体制!第三部隊、第四部隊は右側面へ!敵部隊の侵攻をとめよ!他部隊は密集隊形を維持しつつ林を抜けることを優先せよ!」
散発的に敵の矢が飛ぶ中、もろともせずに辺りを見渡す
「団長!」
騎馬で駆け寄る副団長に一瞬躊躇うが、グッと下腹に力を込め指示を出す
「テレサ副団長!先行して林を抜けた所を偵察せよ!おそらく伏兵がいるはずだ!無理はするなよ!敵兵が多い場合は速やかに引け!」
「はっ!、、ベラム隊!ラウド隊!ついて来い!」
戸惑いなど微塵も感じさせず、娘が馬を駆け、飛び出していった。こちらの不安が顔に滲み出ることを恐れるベルタン。そこに
「お館様!」
長年の参謀役が近寄って来た
「エルロン!周囲の索敵範囲を広げろ!まだ他の伏兵がいるやもしれん!」
「はっ!」
エルロンと呼ばれた老騎士は周りの騎士たちに指示を飛ばすと
「お館様、この段階での伏兵の襲撃は、、」
「ここまで侵入していたとはな。それにしてもだ、、、こちらの動きを読まれていたか、、、情報が漏れていたか、、どちらだと思う?」
王都より東部に抜ける道は大きく分けて3つ、そのうち大きく迂回するが比較的広い街道を選んで進軍していた
「情報が漏れていたと考えて動いた方がよいかと」
即座に答える老騎士
「そうだな、やはりそう考えるか」
ベルタンは、まるで自分が冷静に考えているか確認するかのように頷くと誰にとは言わず指示を出した
「王都に早馬を出せ!『東部領前180ローグで襲撃を受ける。情報が漏れている可能性あり、これよりは現場判断で進軍ルートを決める。報告はレイノルズ到着時まで無しとする』と!」
近くにいた若い騎士は素早く書き留めると王都に駆け出す
見送るエルロンは
『イングリス、俺よりも冷静なお前もそう考えただろうか?』
いつもなら2人で献策するもう一人の参謀役がいない事に一抹の不安を感じていた
※※※※※※※※※※※
侍女達がテキパキと動く中心に佇むイゾルデ王妃。侍女が差し出す手甲を受け取ると左手に着け、留紐を結んでいく、背後にいる侍女は既に装着した胸当ての留紐を注意深く、きつく結ぶ。王家の紋章が入った白銀の甲冑を着ける王妃
別動隊の準備が整い、出立の仕度を行なっていた
傍には腹心の女が侍女の姿で立っている
「陛、、殿下。先ほどベルタン騎士団長より早馬がもたらされたそうです。今、国王陛下に伝えられました」
「ほう、どんな内容だ?」
サティナは一語一句、早馬がもたらした内容をイゾルデに伝えると
「さすがはベルタン師匠。素晴らしい判断力だ。内通者の事は伝えていなかったにも拘らず、初手でその事に気付くとはな」
内通者にこちらが気付いている事を隠すため、先行する第2騎士団にはそのような動きをさせないため、あえて伝えていなかった
「報告の場はどうなった?」
「対象者が『独断で軍を動かすなど言語道断。今すぐ進軍ルートを報告させるべき』と喚き散らしていたそうです。国王陛下に窘められたそうですが」
ハハハと軽く笑い
「サティナも仕掛けるか?」
「はい、頃合いかと。事の顛末を見届けるため、私は王都に残りますが、殿下の直近には我が夫を、楽士殿の直近には愚息を控えさせます。存分にお使い下さい」
「そうか、すまんな」
装備の最後に些か古さを感じさせる剣を腰に携え、後ろを振り返る王妃
「ルル?アル?そこにいるのでしょう?」
振り返った王妃は母の顔。子供達の気配に気付いていた
カーテンの後からピョコッとふたつの顔が出る。バツの悪そうな顔をしていたが、テケテケと母に近づく
「こんな格好の母が怖いですか?」
母の問いかけにフルフルと首を振る二人
「かあさま、かあさまも戦にでるの?」
娘の問いかけに
「ええ、行かねばなりません。私達は王族です。国の危機に王族が引きこもっていては民に示しがつきません」
「、、、だいじょうぶ?腕とか無くしちゃわない?」
娘の心配が『読み聞かせ』で読んだ大公子のようになる事だと気付き、思わず微笑む
「そうね、そうならないように気を付けていきます」
ふと息子に目をやると、息子は腰に着けた剣に視線を注いでいた
「アル、この剣が気になるの?」
母の言葉にコクコクと頷く
「これが王家に伝わる宝剣『デュランダル』です。これを王家の者が携えて出陣する時は負けるわけにはいきません。ルル?アル?あなた達ももう少し大きくなったら、剣を学び、この宝剣を使いこなせるようにならなければね?」
母の問いかけに娘は『え〜』と言う表情を見せたが、息子は目を輝かせ母を見つめ返した
※※※※※※※※※※※
早朝、王都シュレディンガーの大門が開けられる。そこから出てくる一団の先頭には白銀に輝く甲冑。その者の左後に大盾を携えた大柄な騎士が続く
先頭の者が叫ぶ
「全体が門を出るまでは並足進行!門を出たあとは駆け足進行だ!遅れるな!先行する第2騎士団が決戦を仕掛ける前に追いつかねばならん!追いつかねば我らが出る意味はない!」
「「「「はっ!!」」」」
王国第一騎士団、騎士団長自ら指揮を執るだけあって率いられる騎士団、兵士団、魔法士団の士気は高い
※※※
ガタガタと、時にダンっと跳ねるように揺れる荷台車に乗る聡太達、戦場楽士団一行。前の荷台車には楽器が載せられ、大型のアイマールや、ドラムはロープで固縛され、シートで養生されていた。後の荷台車にはトルドさん達が乗り、最後列の荷台車群は木材を載せていた。王妃に頼んだ物が、現地で手早く組み上げる事が出来るように準備されていた。兵団の面々は徒歩で従軍している
「きゃー!」
「痛いっ!もう!なんなのよ!」
「なんで馬車じゃないのよ!」
跳ねるような揺れが起こる度に声を上げるファブレガスパートのお姉様方。声が無駄に良いだけに文句を言ってもキレイに聞こえるから不思議なもんだ
「気にしなくていい。最初のうちだけだ。そのうち声も上げることも出来なくなるだろ」
イングリスさんが剣を抱きながら目を瞑る。これからに備え、要らぬ力を使わないようにしているのか?こういった佇まいがしっくりきている。武人だなぁ
※※※
王都を出立して5日が経とうとしていた頃、林の中を駆け足進行していた別動隊は、突如足を止めた
「何?休憩?」
ファブレガスパートのお姉様がぐったりとした顔を上げる。乗り物酔いがさらに酷いサラに至っては顔を上げることも出来ない
「なにかありましたな。こんな林の中で軍を急に止めるのは考えられない」
イングリスさんは剣を腰に携えると、ヒラリと荷台車を降りて先頭の様子を見に行くという
「俺も行きます。サラ?サラは待っててね」
無言で頷くサラを置いて、聡太も荷台車を降りる、と、もう一人降りる者の顔を見て『え?』という顔になる
「、、、なによ?」
ファブレガスパートのお姉様が一人、降りてきた
「たまに体をほぐさないとずっとこんなのに乗ってたら身体が痛くなっちゃうでしょ?」
ファブレガスパート第2席のお姉様がついてきた
隊列の先頭に向かってしばらく歩いていると、道の脇にチラホラと斃れている者たちが現れる。イングリスさんはその一人一人に近づき、傷と顔を確認する
「こんな内地で襲撃を受けたのか、ああ、君はルーロン隊の新入隊員じゃないか?、、よく頑張ったな?安らかに眠れ」
「ひっ」
お姉様が短く悲鳴をあげる
「な、何よこれ?何でこんなところで死んでるのよ?」
「もう、戦場に入ったという事だ」
冷静な口調で短く、イングリスさんが状況を説明する。次々に『ああ、君は、、』と顔を確認していた
「なんでよ?、、、ちょっとした揉めごとだったんじゃないの?、、、、第2騎士団が動いたから、もう終わったようなものだって、、なんでこんなに死んでるのよ?」
「お嬢さん、君が何処で誰にこの戦いについて聞いたか知らんが、この戦いは多分お嬢さんが聞いてたような生半可なものじゃないぞ?」
お姉様の顔が強張る
※※※
何人目だろうか?イングリスさんは斃れた騎士たちに弔いの言葉をかけていく、と
「!、サビーネ、君もか、、」
突っ伏して斃れていた者を抱き起こしたイングリスさんの顔に悲しみが滲む
「え?サビーネ?」
後ろに立つお姉様が反応する。あまり遺体を見たくないのだろう。俺とイングリスさんからは少し離れて立っていた
「イングリスさん、よく知った方なんですか?」
「ああ、まだ若いが剣技と粘り強く任にあたることが評価されて、伍長に抜擢された者だ。矢傷が4つ、どれも急所は外れている。おそらく後の仲間たちに矢が飛ばぬよう、あえて受けたのだろう。致命傷は後頭部の傷だ。乱戦だったのか?サビーネの剣には血糊が数カ所に分かれて付いている。矢を受けてもなお戦った証拠だ」
一拍間を置き
「サビーネ・アルトマン、よく戦った。後のことは任せて、安らかに眠れ」
ひゅっ!
イングリスさんが名前を呟くと、お姉様の悲壮な息遣いが聞こえた
※※※
王立学校の寄宿舎生時代の記憶から蘇る。ルームメイトの顔
「やあ、サビーネ・アルトマンだ。これから10年、ルームメイトとしてよろしく頼むよ。私は寝相がいいほうじゃないから、うるさくして迷惑をかけるかも知れないが、短い間だ。なんとか我慢をしてくれると助かる」
はにかむような顔で握手を求めた友人。寝相は言うほど悪くなく、私の寝言のほうがうるさかったでしょうに
「セラフィはすごく声がいいな!流石は楽士団志望だ!華がある!私?私は剣を振ることしか能がないからな。故郷に帰ったら騎士団を志望するつもりだ」
華があると褒めてくれた友人。自分のことを卑下するように言う癖があった。でもね、私に言わせてもらえば、男女問わずあなた宛の恋文を預かるルームメイトの私にとっては、あなたのほうが華があるわよ
「おめでとう!入団15年目で第2席に抜擢されたなんて流石だな!友人として鼻が高いよ!やっぱりセラフィの歌声には人を惹きつける何かがあるな!」
その前に精鋭揃いの第2騎士団で最年少伍長に昇進してるんでしょ?知ってたんだから。あなたが学生時代の友人を集めてお祝いの席を設けてくれたけど、その場でこちらが先にお祝いを言ったらビックリしてたっけ
「そんなに心配しなくていい、今回の出征はパフォーマンスみたいなものだ。直ぐに帰ってこれると思う。君はその歌声で人々に安らぎを与えてくれ。私もそれを聞きにすぐに戻って来るよ」
、、、そう言ってたじゃない!信じた私がバカみたいじゃない!だって、、だってあなたは私にはウソなんかついたことなかったじゃない!!
※※※
ヨタヨタと近づくお姉様、イングリスさんの胸に抱かれた遺体の顔を確認すると
「サビーネ!サビーネ!!なんでこんなところにいるのよ!!、、、うわあああああ!!」
遺体に縋り付くように泣き出した
「そうか、いつかサビーネが『楽士団に自慢の親友がいる』と言っていたが、君のことだったのか」
イングリスさんはどこかで懐かしそうに呟いた
※※※※※※※※※※※
雲行きが怪しい中、別動隊は急ぎレイノルズを目指す。友人を失ったお姉様は生気を失ったかのように荷台車にうずくまっていた
出発の号令がなり、サビーネさんの遺体を置いて行こうとすると、『連れて帰ります!』と、なかなか遺体から離れようとはしなかった。最後は引き剥がすようにして荷台車に乗せた
先頭で指揮を執る王妃は進路を最短距離の山越えルートに切り替えた。先行する第2騎士団は思いのほか進軍速度が早いようだ
「雨が振りそうっすね。次の休憩の時にシートを広げて雨養生しましょうか」
同じ荷台車に同乗している青年が提案する。この青年、どうしてここにいるんでしょう?最初から荷台車に乗ってて、『戦場楽士団長の一行はこの荷台車ですよー』って声をかけてきたから、てっきり第一騎士団の人かと思ってたけど、なーんかノリが軽いんですよね
でも面倒見が良くってサラや他の楽団員が慣れない荷台車に酔ってグデグデになってる時も甲斐甲斐しく介抱してくれた
「あの者、この揺れる荷台車で揺れを感じさせない身のこなし、只者ではないですな」
とはイングリスさんの言葉
ポツリポツリと雨が降ってきた。眼前に雲に隠れる山々がそびえる
※※※※※※※※※※※※
雨が止むのを待っていた別動隊。雲も晴れ、宵の明星がみえる。日が暮れると野営の準備をするのがいつものパターンだが、今回は長めの休憩令が出ており、食事の準備をしていた
「ソータ殿、サラ君、体調はどうだ?」
似た顔の2人が焚き火を囲む俺たちに話しかけてきた
「ライドさん、トルドさん。ええ、サラもだいぶ揺れに慣れたようで体調は悪くないですよ」
サラは温めたミルクを口に、ほへーっとなっていた
「君たちの組は焚き火をつけるのが早いな?他はまだ火がついていないのに」
「ええ、そこの青年が、いつも薪を取ってきてくれるんですが、さっきも乾いた薪をすぐ取ってきてくれて」
「へえ!どこにあったんだ?雨が振っていたのにな」
そんな話をしていたとき
「全員、そのまま聞いてくれ!」
甲冑姿の王妃がよく聞こえる声で話を始めた
「先行する第2騎士団は既にレイノルズの西城門前に到達したようだ。第4騎士団、東部領合同軍と合流後、レイノルズ西城門に総攻撃を仕掛ける。合同軍の進軍は敵伏兵の攻撃による後れを取っているが、それでも明後日の早朝には合流する。我々はそれまでに当該地にたどり着くことを目標とする!あの山を越えれば東部領だ!今宵、われわれはあの山を越える!今しばらく休息をとった後に出立だ!それまで十分休んでおくように!以上!」
ざわりと周囲がざわめく。昼間の進軍で皆疲労が溜まっていた
※※※
雨は上がり、頭上には黄色の月が青い月に被さるように輝いていた。しかし降っていた雨に、路面が泥濘む山の急斜面は容赦なく兵の体力を削いでいく。兵だけでなく、荷台車を引く軍馬も疲労を訴えるかのように嘶きが多くなる
荷台車に乗っていた者たちは一人、また一人と自然に降りて荷台車を押していった
ソータも、イングリスも荷台車を押していた。その姿を見てサラも降りて荷台車を押す。みな泥に塗れながら
「イングリスさん、第2騎士団は明後日には総攻撃を仕掛けるんですかね?」
荒い息遣いで聡太が尋ねる
「おそらくな、城門前に布陣されて帝国軍もただ眺めていることはないだろう。必ず戦力を削りにかかってくる。こちらは戦力が最大の時に仕掛ける事が上策だ。そうでなければいたずらに戦力を削る事になるからな」
帝国軍にとっては、城門を活かした持久戦で十分に勝ち目があることをイングリスさんは指摘していた
「このまま総攻撃をかけて王国軍に勝ち目はあると思いますか?」
「、、第4騎士団と東部領合同軍の合流が遅れているのが気になる。おそらくかなりの兵力が道中で削がれているのだろう。そうなると第2騎士団と合わせても強固なレイノルズ城壁を破るのは困難となる。高い城壁から無数の矢を射掛けられる中、魔法士に身体を強化させた兵が攻城槌を持って攻撃を仕掛けるが、、城門を破るだけの数が足りるかってとこだな」
そうなると、、、
聡太の脳裏に無数の矢に晒されるテレサの姿が映し出される
急がなきゃ!
「そんなに無理して大丈夫っすか?楽士団員なんてあまり体力に自信なさそうなんすけど」
焦る聡太に、飄々と不思議な青年が声をかけてきた
「、、君の方は、、、なんか余裕ありそうだね?」
「自分、こう見えても鍛えられてるんで」
え?この人の眼差し、、誰かに、、!!
脳裏に閃光が走ったかのように、青年の面影に、とある侍女の姿が思い出される
「、、あのさ、もしかして、君ってさ、、一人だったらこの部隊より先にレイノルズに着く自信があったりするのかな?」
にいっと青年の口角が上がる
「あれ?何か気づいたっすか?、、あるッスよ」
聡太は一縷の望みをかけて青年に言伝をした
※※※
疲労は精神を蝕んでいく。兵たちの目線は下がり足元ばかりを見つめる。まるで敗残兵の進軍のよう。誰の心の中にも諦めの甘い声が聞こえる
汗と泥に塗れながら、なおも荷台車を押す聡太。しかし遅々として進まない
ダメだ、このままじゃ間に合わない!何か、何かないか!?
「〜!〜!!くぅぅ!!」
自分に出来る何かを考えた末に走り出す聡太
「ししょー!?」
「ソータ殿!?」
サラとイングリスは前を行く荷台車に向かって走るソータに気付く
聡太は荷台車に駆け上り、養生のシートを剥ぎ取るとアイマールに向き合う
ふと見上げると輝く月がキレイに見えた
ああ、あの主人公のように直向きに、、、
その主人公のどんなに困難な場面でも決して挫けることがない姿を思い浮かべた
原曲では和楽器の音が鳴り響く曲の入り。歌は2人のボーカルが歌う。俺一人では無理かも知れない、、でも!、、、、そんなこと言ってられるか!!
消えそうな心の中の火を呼び戻してみせよう!聞いてくれ!!
アニメ『鬼〇の刃』より、刀〇冶の里編、オープニング曲
『絆の〇跡』(M〇N WITH 〇 MISS〇ON×mi〇et,2024)
狂ったようにアイマールをかき鳴らし始めた聡太が歌い出す。突然のことで思わず兵たちが顔を上げる。すると不思議に歌詞が耳に入っていった
必死になって一曲歌いきった聡太、しかし止めない!すぐさまリピートで同じ曲を弾き出す!と、
ダン!っとライドさんが荷台車に飛び乗って来た!すぐさま『拡音』の魔法を展開!音が飛躍的に響きわたる!続いてジョアンさんが飛び乗って来た!!ドラムに掛けられたシートを剥ぎ取ると
「即興で合わせてみる!」
とドラムを叩き始めた!すげえ!!ジョアンさん!やっぱり天才打楽器奏者だ!!
必死になって歌い切り、続いてリピートしようとしていると、、
「聞くに堪えない歌声ね」
荷台車にお姉様方、ファブレガスパートの方々が乗ってきた
「この曲、歌い手は2人かしら?」
「わかるんですか?」
肩で息をする聡太
「じゃないとブレスのポイントが少なすぎるわ。私達が歌うからあなたは演奏に専念しなさい。あなた(男性パート員を指し)は私と一緒に歌いなさい。あなた達、私とこの子に合わせなさい」
「でも歌詞が、、」
聡太は暗に分からないでしょ?とほのめかす
「覚えた。もう、2回も聞いたもの」
「え?」
「私を誰だと思ってるの?南部領マクスウェル家三女、ファブレガスパート第2席、セラフィエラ・マクスウェルよ!」
君の歌を聞くのが好きだと言ってくれた友人の顔を思い出し
『あなたの為に歌ってあげるわ、、』
心で呟いた
第2席の力は本物だった。その声量、声の伸び、表現力は圧倒的だった
「マクスウェル家、、弓の勇士の傍系か、存外大物だったな、」
イングリスさんが荷台車を押しながら呟いた
※※※
先頭の王妃の耳にも歌が聞こえてきた。不思議と下を向いていた皆の顔が上がっている
「団長、周りに伏兵がいるやも知れません。こちらの存在が知られます。危険を避けるためにも止めさせるべきかと」
副団長が進言してきたが
「かまわん。続けさせろ。索敵範囲を広げよ!伏兵、斥候、一人も見逃すな!」
王妃の耳には歌声に混じり『拡音』の魔法で聞こえてくる背後の兵たちの声
『おおお!!押せー!!』
『何としても間に合わせるぞ!いけー!』
『もうすぐ分水嶺を越えるぞ!押せ押せー!!』
「歌で兵たちの背中を押したか」
『たとえ暗闇の中で立ち止まろうと、たとえ絶望の淵に立たされようと、音楽の力で奮い立たせてみせます!私を戦場に連れて行って下さい!!』
ソータの言葉を思い出し
「確かに奮い立たされたぞ!」
キッと月明かりに照らされる登り坂を指し示す
「もうすぐ分水嶺だ!続けー!」
兵たちに激を飛ばす
そしてその夜、別動隊は領境の山を越え、東部領に入った
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