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ボイコネライト大賞の応募条件読んでなかったら婚約解消された!

作者: 生徒会副長

 本作の作中で出てくるのは「ボイコネライト大賞」。

 エヌ・ティ・ティ・ソルマーレ株式会社様主催の実在するネット小説コンテストは「ボイコネライブ大賞」です。

 伯爵令息のエイト・ケイアレスは驚きを隠せなかった。婚約者で侯爵令嬢のシンディ・メイトリクスに、侯爵邸の客間で告げられた話は、それだけ衝撃的な内容だった。


エイト:聞き間違いかい? シンディ! 僕との婚約を破棄したいだって!?


シンディ:破棄したいんじゃありません。私がお願いして、もう家同士が話し合って解消されました。


 エイトが継ぐことになるケイアレス伯爵家と、シンディがいま住んでいるメイトリクス侯爵家の間で交わされた婚約だ。これが既に解消されていた。


エイト:何故だ! 僕たちは親が決めた婚約というだけでなく、貴族学院で互いに文芸部に所属し、切磋琢磨しあった仲じゃないか!


シンディ:だからこそ、貴方のだらしなさを結婚前に知ることが出来て良かったですわ。もし貴方なんかと結婚していたらと思うと、ぞっとします。


エイト:だらしないだって!? 僕は文芸部の中でも筆は早いほうだっただろう!? 作品のクオリティは確かに文豪には劣るだろう。でも、婚約破棄されるほど酷いものではなかったはずだ!


シンディ:はぁ……。もう他人同士なのではっきり言いますわね。エイト様、ボイコネライト大賞というものをご存知ですわよね?


エイト:もちろん知っているとも。大賞・優秀賞に選ばれた小説が、プロの劇団員によって魔法放送で読み上げてもらえる、小説のコンクールじゃないか。五十作品は応募したかなぁ。


シンディ:あれの主催は、私の父ですわよ。


エイト:えぇっ!? そうだったのかい!?


シンディ:やっぱりご存知なかったんですわね。だらしのない。怪しい宗教団体が主催だったらどうするおつもりだったのでしょうか。


エイト:でもシンディ。婚約者の父親が主催するコンクールに作品を出すことの、何がいけなかったんだい?


シンディ:作品? 作品ですって!? アッハハハハハハッ!!


エイト:なっ、何が可笑しいんだ君は!!


シンディ:作品? あれが作品ですって? あんな、応募条件である書式を満たしていないような小説が! もう可笑しくって笑うしかないですわよぉ。


エイト:書式だって!? ちゃんと台詞は鉤括弧で括っているし、段落を変えるときには1マス開けていただろう! 書式に間違いはないはずだ!


シンディ:それ、ボイコネライト大賞で受賞したら、どうやって劇団員さん達がお読みになるのかしら? ボイコネライト大賞で募集しているのは、台本形式の作品ですわよ?


 台本形式ということは、どの台詞が誰の台詞なのかひとつひとつ指し示されているということだ。普通の小説はそんな書き方をしない。

 もちろん、エイトがボイコネライト大賞に出した作品五十個は、全て普通の小説の書式で書かれていた。


シンディ:審査に協力してくださった文豪の皆様、使用人の方々、下級貴族の方々、商人の方々などを相手に、私の父は大恥をかいたのですわよ。当主は、コンクールの応募条件も読まないような輩のところに、娘をやる気かと。それが一個か二個なら庇うなり隠すなり出来たのですが、五十個も応募されたらもう庇い切れませんわぁ。


エイト:ぐっ……。だが! これは僕一人の責任か? 君に感想を求めたことだってあったじゃないか!


シンディ:そのとき私はちゃんとお伝えしましたわよ? コンクールに出すつもりなら、応募条件をしっかり読み返すようにと。


エイト:そんな一言で分かる訳がないだろう!


シンディ:本気でそう思ってらっしゃるなら、貴族も小説家まがいもやめて、農民になって鍬をお振るいなさいませ。自分は書きたいように書くくせに、人が書いたものは雑な読み方をするなんて。それに貴族として一人前になれば、自分で契約書を読んで、自分の責任でサインすることなど、数えきれないほどあります。読み返せという婚約者の忠告を蔑ろにして、婚約者の家に大恥をかかせた貴方が全面的に悪いですわ。


エイト:だからって婚約破棄は酷すぎるぞ!


シンディ:はぁ……。目だけではなく、耳まで悪いのですわねぇ。確かに貴方のせいで私の父は大恥をかきました。でも婚約破棄するほどではありません。ちゃんと当主同士が話し合って、円満に婚約解消したのです。お互い、次は良い相手が見つかるといいですわねぇ。


エイト:待ってくれ、シンディ! 僕は君を愛しているし、悪いところはちゃんと治すよ。だから考えなおしてくれ! もう一度、君の父親であるメイトリクス侯爵に復縁をお願いしてくれ!


シンディ:もう遅いですわ。私、貴方には愛想尽きましたの。


エイト:浮気をした訳でもないし、文芸部でも仲良くしていたし、贈り物だってマメに送っていたじゃないか。何が不満だというんだ!


シンディ:ではこんな伝説は覚えてらっしゃいますか? 我がメイトリクス侯爵家は、かつて邪悪な狼を倒した竜騎士の子孫だという伝説です。


エイト:えっ? そ、そうだったっけ?


シンディ:なぜ婚約者の家のルーツをご存知ないのかしら。そしてそのような伝説があるがゆえ、我がメイトリクス侯爵家への贈り物には、犬や狼を連想させるものは避けるようにと、婚約の際の書類にも書いてましたわよね?


エイト:えぇ!? そ、そうだったかな……。読んだつもりだったんだけど……。


 エイトだって、全く読んでいない訳ではない。しかし重要なところを見落としていた。


シンディ:やっぱり雑な読み方をされていたのですわね。だから私への贈り物に、可愛い犬の写真や、狼の彫刻や、『我輩は犬である』から始まる小説なんかを贈ってくる訳ですわね。マメに嫌がらせされてる気分でしたわよ。


エイト:嫌なら嫌と、言えばいいじゃないか!


シンディ:そんな平民のようなはしたない真似、出来ませんわ。その代わりちゃんと、こう言ったはずですわ。婚約者として相応しい振る舞いをするには、婚約の書類をしっかり読み返すことが大事ですわ、とね。


エイト:あ、あぁ……。そんなことを言われたこともあったな。


シンディ:どうせ読み返していないのでしょう?


 エイトには返す言葉もない。


シンディ:文芸部にしてもそう。読み込みが甘くて頓珍漢な批評をしたことなど、一度や二度ではなかったですわよね。あと貴方の作品、書き上げた後の読み返しが甘いから誤字脱字がいつまで経っても減りませんでしたわね。文芸部の備品の魔導印刷機、何回壊しかけました? 説明書を読み込まないからそんなことになるんですわよ。


エイト:もういいっ!!


 エイトが眉間にシワを寄せながら立ち上がった。


エイト:君のような……。いや、お前のような陰湿な女など、こっちから願い下げだ。婚約がなくなった途端、歯に衣着せずベラベラ喋りやがって。その陰湿な性格を早く治しておけば良かったと、いずれ後悔することになるぞ!


シンディ:陰湿ではありません。殿方のプライドとお立場を尊重して、遠回しな言い方をしていただけですわ。貴方こそ、そのだらしなさやら、聞くにも読むにも雑なその姿勢やら、早く治さないと後悔することになりますわよ。


エイト:誰が後悔するか! 今に見ていろ。お前より気立てが良くて、美人で、身分の高い令嬢と結婚し、ベストセラーを書いて勝ち組になってやる! そんな頃に復縁してくれと言われてももう遅いからな!


シンディ:あらあら。それ、次回作のタイトルかしら。私、ざまぁが描かれた物語は好きですから、エイト様の次回作を楽しみに待っておりますわ。では私の次回作はこんなタイトルにしましょうか? 『聞かざる読まざる婚約者と別れたら、説明書と契約書で無双する王子様と結婚できました。今更お馬鹿さん達が契約書を読み返すと言われてももう遅い』なんてどうでしょう?


エイト:はぁ、クソ過ぎる。読まなくてもわかるぞ、読んだことを後悔する駄作だな。小説書くのやめたほうがいいぞ。


シンディ:貴方の場合、書く前にまずちゃんと読むことで人間の言葉をお勉強なさって、お猿さんから進化することが先決ですわねぇ。


 エイトは部屋から出る前に、扉に手をかけつつこう言った。


エイト:じゃあな。俺がざまぁするまで死ぬなよ。


シンディ:お猿さん相手にざまぁしても虚しいので、貴方は早くお猿さんから人間に進化して下さいね。


エイト:フンっ!


シンディ:ふふん。


 結論から言えば、ざまぁされたのはエイトの方だった。

 別れ際に、シンディ相手に捨て台詞を吐いたことで引っ込みがつかなくなった。自分は伯爵令息なのに侯爵令嬢以上の身分の相手ばかり狙って、婚約者探しが難航した。

 エイトは最終的に、キッシュという名前の、美人の伯爵令嬢を花嫁に迎えた。そして間もなく伯爵位を継ぐことになる。


エイト:侯爵令嬢じゃないのが悔しいが、キッシュはあの小言のうるさいシンディより可愛いんだ! それに侯爵より評判のいい伯爵だって世の中にはいるんだから、まだまだシンディにざまぁするチャンスは失われてない!


 しかしキッシュは只の美人ではなく、傾国の美女だった。


キッシュ:エイトさまぁ。私が書いた、この計画書をご覧になって? 領地の北に噴水を作ったら、観光名所になるし、いざというときに溜め池としての役割も期待できるから、とってもいいと思いますの!


エイト:おお、そうかそうか。いい計画書を書いたな! いいぞ、サインしてやるから、早く作り始めるといい!


 キッシュの美貌に魅了されて、エイトはまるで読み込んでいない計画書にサインした。

 たった1枚の計画書だったが、そこからキッシュが得た利益は絶大なものだった。


キッシュ:オーッホホホホ!! エイト様がお馬鹿なお陰で、儲かって仕方ないわぁん!! 中抜き業者を経由して、事業費の6割が私のポケットマネーになるなんて、笑いが止まらないわぁ!! あぁそうそう、賄賂を払ってくれた商人様の為に、また次の計画書を書かなきゃいけないわぁん! 忙しくってたまらないわぁ!


 キッシュはそんな汚職を、噴水だけでなく、宅地開発でも教会の立て直しでも、伯爵邸のリフォームでもやらかした。

 キッシュにはとんでもない野望があった。


キッシュ:見てなさい! 伯爵家を二つ食い潰して億万長者になって、国外で優雅なスローライフを送ってやるんだから!


 しかし、キッシュの企みはうまく行かなかった。伯爵家二つを食い潰して巨万の富を得るところまではうまくいった。しかし国外に逃げる前に悪事がバレてしまった。

 逮捕されたエイトとキッシュは処刑され、伯爵家が二つお取り潰しになった。


エイト:俺は悪くない! 俺はキッシュが書いた計画書にサインしただけだぞ! 儲けは全部キッシュが持っていった! 俺は誰も騙していない! むしろ騙されたのは俺の方だ!!


 処刑される寸前までエイトはそう喚いていたが、誰も聞く耳は持たなかった。


 一方のシンディは、実はエイトと婚約解消した時点で、次の婚約者に目星はついていた。

 隣国メルカバン王国の第五王子で、アレイスという美男子だ。彼の母親の身分が低いため、花嫁は国外の貴族でも問題ないと言われていた。

 なんといってもシンディが選ばれたのは、メルカバン王国の古典言語を読めることが理由であった。メルカバン王国の王族が用いる精霊魔法を操るには、古典言語が読める必要があった。

 婚約者選びの最終試験では、シンディはメルカバン王国に伝わる精霊と王族の契約書を読み上げ、翻訳することを求められた。

 シンディは一字一句間違いなく、正確に、メルカバン王国の精霊研究家より素早く、翻訳をやってみせた。


アレイス:素晴らしい。シンディ・メイトリクス。貴方は見目麗しく、聡明で、所作も翻訳も読み込みもとても丁寧なお方だ。是非とも私の花嫁としてお迎えしたい。


 シンディはアレイスにそう求められた。


シンディ:アレイス王子。私も、王子のお話はかねてより伺っております。精霊に愛されし千年に一度の聖者であられると。そのようなお方と夫婦となり、メルカバン王国の古典や歴史や精霊とともに歩むことに、一切何のためらいもありません。喜んでお受け致します。


 かくして、シンディはメルカバン王国の王家に嫁入りした。後に、彼女の古典への造詣と、丁寧な仕事振りは、メルカバン王国の精霊魔法を、より一層進化させることになる。


 婚約においては色々と書類を読んだり書いたりすることが多い。シンディが書類に目を通しているとき、隣にいるアレイスが話しかけた。


アレイス:君はいつも丁寧に本や書類を読んでいるね。その読んでいる姿すら美しいけれど、何かきっかけになるようなことがあったのかな?


 少しの間だけ顎に手を当ててから、シンディは答えた。


シンディ:貴族として当然のことをしているだけですわ。しかし……。身近なところで、読むべきものをキチンと読まずに身を滅ぼした方がいらっしゃったので、それ以降は殊更気をつけるようにはしていますわね。


 シンディは心の中でこっそり、エイトのことを思い出した。そして心の中でこっそり、こう言ってやった。


シンディ:エイトったら。ざまぁないですわ。

最後まで読んで下さりありがとうございます!!


少しでも面白いと思っていただけたら、広告よりさらに下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。執筆の励みになります。


感想貰うのも大好きなのでぜひ感想を書いて頂けると嬉しいです。感想書いてくださった方がなろうの作者だった場合は、こちらからも感想を書きにお伺いするようにします。



ボイコネライブ大賞コンテスト詳細


応募期間2022年7月29日(金)10:00~2022年9月30日(金)23:59まで

ジャンル不問。ただし、日本語で書かれたオリジナル作品であること

文字数制限5,000~3万字以内の作品

※文字数は登場人物名も含む。未完・完結は不問。オムニバス形式は不可

応募資格プロ・アマ不問。未成年の場合、保護者の同意が必要

除外対象他人の権利を侵害する内容、二次創作、過度に性的な内容(R15不可)

選考方法あらすじ・作品の内容にて選定

結果発表2022年11月上旬予定


小説投稿時は下記のルールにて投稿をお願いいたします。

・セリフの前には登場人物名の表記をお願いします。(ナレーションには表記不要)

【記述例】

漂流してから三日が過ぎた。救助は来ない。三人とも憔悴している。

詩織:最低……日焼け止めもないし、どんどん肌が傷む

亜美:昼間の日差し……ヤバいよね……

優香:もう無理だよぉ……おうち帰りたいよぉ

詩織:どれくらい経ったのかな……


ちゃんと守って応募してますか?



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