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魔王の娘と過ごす異世界スローライフ  作者: 語部シグマ
第一章
6/6

勝負

 街の大通りが交差する場所にある広場。


 祭りなどでは様々な屋台が並び、中央にはステージが設置されるこの場所で、俺とサタナキアの従者二人は相対していた。



「さてと……互いに名も知らねぇままだと何だから名乗るとしようか?俺はムラクモ……ムラクモ・オボロだ」


「サタナキア姫様の従者、サリア・フロスト」

「同じくサリナ・フロスト」


「それじゃあサリアにサリナ。先ずは試合を始めるにあたってルール説明と行こうか?お前らの勝利条件は俺にマトモな一撃を与えられれば勝ちだ」


「「……」」



 おぉ、睨む睨む。


 何も言わねぇが〝自分達を舐めてるのか?〟って感じだな。



「宿での一件を思い出せばこの条件は当然だと思うんだが?それでもこの条件に納得がいかねぇんなら変えるぜ?」


「ふん……人間風情が、そんな条件にした事を後悔させてやる」

「私と姉さんなら貴方に勝つことなんて簡単よ」



 何処からそんな自信が湧いてくるのか分からんが、まぁやる気満々なのはいい事だな。



「姫様、必ずや勝って自由にしてみせます!」

「もう少しの辛抱ですよ姫様!」


「あぁ、うん……くれぐれも怪我をせんようにの……」



 サタナキアは飛竜を相手にしていた俺をそばで見ていたからか、二人が勝てるなどと微塵にも思ってないだろう。


 しかし主として応援する他ない。


 だからそんな複雑そうな顔をするなと言ってやりたい。



「さてガイウス殿。いつでも開始宣言してくれて構わねぇぜ?」


「了解した。互いに準備は良いか?それでは……始め!」


「〝開闢と終焉の書(ネクロノミコン)〟、〝韋駄天翔〟、〝天翔跳躍〟、〝神威天鎧〟、〝戦神顕現〟」


「氷結魔法〝凍てつく雪花(フローズン・フラワー)〟」

「フロスト流剣術〝斬り裂く炎刃(スラッシュ・フレイム)〟!」



 サリナが魔法で俺の足元を凍らせ、それと同時にサリアが炎を纏った剣で俺に斬りかかってくる。


 相手の動きを封じた上での斬撃……なるほど双子ならではの実に見事なコンビネーションだが俺には通じない。


 俺はサリアの魔法が完全に発動する前にその場から一瞬で消え去り、そしてそのままサリアの背後へと回る。



「なっ────サリア!」


「朧流徒手空拳、〝撃鉄〟」


「がっ────」



 俺の肘鉄を背中に受けたサリアは呼吸が止まったのか、その場に付して動かない。


 まぁ呼吸が止まったとはいえ、一時的なものではあるが……。



「貴様!」



 それに怒ったサリナが一心不乱に斬りかかってくるが、俺は最小限の動きでそれを躱していった。



「くっ……!」


「そんな闇雲に斬りかかってきても当たらねぇよ。あとこの後宴会があるらしいんでな。その準備の為にもさっさと終わらせるぞ」



 俺はサリナの上段からの袈裟斬りを躱すと、そのまま彼女の鳩尾(みぞおち)に手を当てた。



「朧流徒手空拳、〝波動掌撃〟」


「────っ!」



 鳩尾は〝正中線〟と呼ばれる人体の中心を通る部分に位置する箇所であり、また人体急所の一つである箇所でもある。


 人間ならば確実に翻筋斗(もんどり)を打って倒れるところだが……魔族であるサリアも例外ではなかったようだ。


 彼女は剣を落とし、鳩尾を抑えながらその場で膝から崩れ落ちた。


 妹のサリナ同様、呼吸が上手く出来ないのかその場でガクガクと震えながら悶絶している。



「そこまで!勝者、ムラクモ!」



 ガイウスの合図と共に周囲から歓声が上がる。


 街の人達にとってこの試合はちょっとした余興となっていたらしい。


 中には賭けをしている者まで見受けられた。



「これで俺の勝ちって事で、約束は守ってもらおうか?おっと、その前に……」



 俺は(うずくま)っているサリアの状態を起こすと、背中辺りに軽く膝蹴りを入れる。


 するとサリアは勢いよく息を吐いた後、呼吸が戻りハアハアと息を整えるかのように早い呼吸をする。


 俺はそれを確認したあと、今度はサリナも同様に呼吸を戻してやった。


 敗北を痛感し絶望の表情でその場で項垂れているフロスト姉妹……そんな二人に俺はしゃがみこんで声をかけた。



「まぁ試合に勝ったとはいえ、俺はお前らを奴隷扱いする事はしねぇよ。ただちょいとばかり話を聞いて欲しいだけだ。まぁ詳しい話はお前らの主から聞かせてもらえ」



 そう伝えたあと、俺はその場で立ち上がり地面に転がっていたサリアの剣を手に取る。


 追われている最中に戦闘でもしたのか、それとも手入れなどする間も無かったのかは分からないが、かなり刃こぼれしており、とてもじゃないが使い物にはなりそうにない状態であった。



「え〜と、サリアだったか?コレ、お前にとって大切なもん?」


「……魔王様から賜った大切な剣だ……」


「あっ、そう。ガイウス殿、この街に鍛冶屋はあるよな?」


「勿論だが……修理をするのか?」


「まぁ大切な剣らしいし、破棄するよりは直してやった方がいいだろ。あぁ、どうせならもう少し頑丈に強化してやった方がいいかもしれんな」


「しかし見たところかなりの業物とお見受けするが……更に強化するとなると素材が足りぬな」


「それについては大丈夫だ」



 俺はそう言うと何も無い空間からドサドサっと数々の鉱石を取り出した。


 それを手に取ったガイウスの目が大きく開かれる。



「こ、これはまさか〝神銀(ミスリル)〟?!こっちは〝神鉄(オリハルコン)〟か!しかも〝緋金(ヒヒイロカネ)〟まであるではないか!これはいったいどうしたのだ?!」


「ん?旅の途中で貰った」


「貰っ────」



 顎が外れそうな程、口を大きく開けて固まってしまったガイウスを見て、俺はサタナキアに問いかけた。



「なんか固まったんだが?」


「絶句しておるのじゃ阿呆。ムラクモよ……神銀も神鉄も緋金も〝貰った〟で済まされるような代物では無いぞ。商人でさえ大金を払ってやっと一つか二つ買えるところじゃ。それをこんなにもゴロゴロと……いったい誰から貰ったのじゃ?」


「あ〜、お前を探して旅してる中で偶然、鉱山を魔物に占拠されたドワーフ達に出会ってさ。そんで暇潰しに鉱山に巣食ってた魔物全部倒したらお礼として貰ったんだよ」


「鉱山……ドワーフ……いったいどこじゃ?」


「え〜と……〝ドルマゲス〟って名前の里だったような……」



 それを聞いたサタナキアはその場でガックリと崩れ落ちた。



「どうした?」


「決してタダでは譲らぬと有名なドワーフの里ではないか……」



 何やらブツブツと言っていたが、よく聞き取れなかったので聞こえなかったことにした。



「まぁともかく、これならいくらでも強化出来るだろ」


「十分過ぎるわい……良かったの?サリアよ……」


「はい……そう……ですね……」



 いったい何だと言うのか?


 俺は神銀や神鉄、緋金の山を前に肩を落としているサタナキア達を前に、疑問符を浮かべながら首を傾げるのであった。






 ◆






 ムラクモのやつがサリアの剣を鍛えて貰う為に鍛冶屋へと向かっていったのを見送った後、余達は一度宿へと戻っていた。


 そしてムラクモから事の顛末を二人に話して欲しいと頼まれた余は、二人に丁寧に話したのだった。


 それを聞いた二人は……。



「なるほど、私達が眠っている間にそのような事があったのですか」

「そうであるならば私達はあの方に謝らねばなりませんね姉さん」


「理解が早くて助かる二人共。それでな?余は暫くここに住もうと思うておる。二人についてもこの街で暮らせるよう、ムラクモが手配しておるはずじゃ」


「姫様がそうお決めになったのであれば、私共もここに住む以外の選択肢は御座いません」

「姉さんと同じく、ここでお世話になる事にしましょう」


「うむ。しかし、この街の者達が素直に迎え入れてくれる保証は無い」


「それについてはご安心下さって結構です」



 二人と話をしておると、不意にそのような言葉がかけられる。


 振り返ってみれば、そこには人族の貴族らしき男が、二人の女を連れて立っていた。


 ニコニコしておったが油断ならぬ人物だと直ぐに分かった。



「誰じゃ?」


「お初にお目にかかります。私はこの地を治めております、レンブラント伯爵家当主のノーマン・レンブラントと申します。かの魔王殿の娘であるサタナキア・ルシフェル姫とこうして出会えたこと、誠に嬉しく思います」


「うむ、サタナキア・ルシフェルじゃ。そしてこの二人が余の従者である……」


「サリア・フロストです」

「その妹のサリナ・フロストです」


「これはこれはご丁寧に」



 恭しく頭を下げるノーマンであったが、やはり油断ならぬ雰囲気はそのままであった。



「それでノーマンとやら……お主はいったい何用でここに参ったのじゃ?」


「一つは飛竜討伐を祝しての宴会についてと、もう一つは貴女がたの服を仕立てに参った次第ですよ」


「ほぅ……宴とな?」


「はい。今回この街に襲来した飛竜を貴女とムラクモ殿が討伐してくださった事で街の壊滅の危機は免れました。それを祝しての……と言うよりもお二人を讃えての宴会になりますな。その際に貴女様の事を街の者達にご紹介出来ればと思っております」


「それは余達の正体を街の者達に明かすということか?」


「その通りにございますれば。しかし案ずることはありません。この街……いや、この国は〝多種族共生国家〟、たとえ魔族であっても受け入れる寛容な国にございますので」



 威圧をかけながら問うたのじゃが、ノーマンは何処吹く風といった様子でそう答えてきおった。


 斯様な飄々とした態度……何処となくムラクモを彷彿とさせるのぅ。



「ほぅ……それで万が一の事があれば、いったいどうしてくれるのかのぅ?」


「ふっ……はっはっはっ!」



 脅すようにそう問いかけてみると、ノーマンはいきなり声高らかに笑い始めた。


 その様子に余は思わず怪訝な表情となる。



「いや、申し訳ない。まさかムラクモ殿と同じような事を聞かれるとは思いも寄りませんでしたのでね」


「ムラクモが?」


「はい。ムラクモ殿も受け入れられなかった場合のことを心配されておりました。それにもしもの事があれば自ら頭を下げて願い出るとも言っておりましたな」


「……」



 未だかつて我ら魔族の為に頭を下げるなどと言った者がこの世にいただろうか?


 余の知る限りではそのような者はいなかった。


 母様の事といい、ノーマンへの言葉といい……ムラクモという人物は信頼するに値する者なのかもしれぬな。



「それでは私めの話は以上ですし、御三方の採寸へと移りましょうか?」


「そういえば服がどうとか言っておったな」


「はい。この二人はわが街が誇る服飾デザイナーと職人でして、アルミエラ夫人とセミラミス夫人にございます」


「初めまして、服飾デザイナーのメリッサ・アルミエラと申します」

「服職人のアメリア・セミラミスですわ」



 アルミエラ夫人とやらは貴婦人のような雰囲気で、セミラミス夫人はやり手の職人といった雰囲気であった。


 二人は挨拶をするなり余へと近寄りじっくりと余の身体を見回してゆく。


 いつの間にかノーマンの姿が無かったので、後のことはこの二人に任せて帰っていったのだろう。


 そんな中、二人の夫人は余に質問しつつ、互いに意見を交わしていた。



「サタナキア姫は翼などは御座いますか?」


「うむ。しかし普段は出してはおらぬ」


「なるほど……普段着は角を隠せればいい感じかしらね?」


「そうですわね。普段着はカジュアルに、しかし気品さも合わせ持つ感じでといったところかしら?」


「それならばムラクモ様が被ってらっしゃるようなデザインはどうかしら?」


「それは良案ですわね!しかしここはやはりお嬢様らしいデザインにした方が良さそうではなくて?」


「デザイナーとしての腕が試されますね」


「後のお二人は更に動きやすいデザインにした方が良さそうですわね」


「お二人は翼などはありますか?」


「いえ……私達姉妹は翼を持たぬ魔族なので……」


「でしたら翼を出す為の切れ込みは不要ですわね」


「動きやすく、主の服を立てるようなデザインを考えましょう」


「パーティー用のドレスも仕立てましょう」


「ドレス……か……ドレスは不要だと思うのじゃが……」


「「そんな事はございません!!」」



 ドレスは不要だと言った途端、二人に思いっきり否定されてしまった。


 あまりの圧に思わずたじろいでしまう。



「ムラクモ様のお話ではゆくゆくはこの国の君主である皇帝陛下に存在が知られてしまうそうですわ」


「皇帝に?」


「ええ。しかし皇帝陛下は他の種族も大切になされているお方……それに、陛下にはある噂があるのですよ」


「噂とな?」


「なんでも噂によると、皇帝陛下はかの魔王様と親しき友人同士であったらしいのですわ」


「父様と?!」



 思いもよらぬ事を聞かされ、余は思わず前のめりになってしまう。



「それは本当か?!」


「どうでしょう……皇帝陛下がまだお若く、皇太子であった頃の話らしいので、当時まだ幼かった私達には本当かどうか分からないのです」


「ですが陛下は常々、この国に魔族を招きたいと仰っていたそうですから、噂は本当のことかもしれませんわね」


「そうか……父様が……」



 人族は敵だと思うておった……しかし全員が全員そうでは無いのかもしれぬ。


 せめてこの街の者達の事は信じてみても良いのかもしれぬな。



「さて、早く採寸を終わらせてしまいましょうか♪︎」


「そうですね。とりあえず今日はサタナキア姫様達の背丈に合う服を見繕いましょうか」



 そうして余達は二人の夫人の元、採寸を行い、服を見繕って貰うことになったのだった。


 そういえばムラクモのやつ……剣を預けるだけでやけに時間がかかっておるのぅ?


 この時の余はムラクモが裏で色々と行動をしている事を知る由もなかった。


 その事を知るのはもう少ししてからの事である。


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