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魔王の娘と過ごす異世界スローライフ  作者: 語部シグマ
第一章
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伯爵家と二人の従者

 飛竜を討伐した後、俺はガイウスと共にこの街の長……〝レンブラント伯爵領〟の領主である〝ノーマン・レンブラント〟の屋敷へと足を運んでいた。


 ノーマンは一見、人当たりの良い優しそうな男だったが、どこか頭のキレる人物だと思わせるような雰囲気があった。


 ガイウスの話では、かなりの良識人らしく公正明大、どのような種族でも差別することなく接してくれる人物らしい。


 それは彼の屋敷で働いている多種多様な使用人達の様子から見て取れた。



「お待たせしましたかな?」


「いや、紅茶をゆっくりと堪能出来たんで気にする事はないですよ」


「ははは、我が領地で作られた紅茶を褒めて頂き光栄ですな。それで……例の〝お嬢さん〟はどこにおられるのですかな?」



 お喋りは不要とばかりに本題を切り出してくるノーマン。


 ガイウスから事前に説明があったとはいえ、やはり直ぐにでも話がしたいのだろう。



「今は宿で従者の二人を看病してるよ」


「そうでしたか」



 サタナキアはどうしても二人の事が心配だと宿で留守番していることを選んだ。


 ヤハウェーについてはこれ以上ここにいては世界に影響を及ぼしてしまうかもしれないと、名残惜しそうに天界へと帰って行った。



「伯爵様。一応、私の部下を宿で待機させておりますので、心配は不要かと。それに……」



 ガイウスがそう言って俺へと顔を向ける。


 ノーマンもガイウスが言わんとしていることを理解し大きく頷いた。



「この街を飛竜から救ってくれた英雄がいるならば不測の事態にも対応出来よう。さて、その英雄殿がこの私に何用ですかな?」


「簡単だ。サタナキアをこの街に置いて欲しい」


「ほう……?」



 興味深そうに、しかし納得のゆく説明を求めるように顎に手を当てるノーマン。


 俺は続けざまにこう述べた。



「かの魔王の娘を自分の街に置くのは抵抗があるのは重々承知している。だが、彼女は決してこの街に危害を加えねぇし、俺がさせねぇ。それを踏まえてどうだろう?この街に置いては貰えないか?」


「無理だと言ったら?」


「その時は仕方が無い……サタナキアと従者の二人を連れてこの街を出るだけだ」


「ふむ……」



 俺の話にノーマンは暫く熟考した後、一人の女性を部屋へと呼ぶ。



「お呼びでしょうか?」



 ノーマンに呼び出された女性は俺達に一礼した後、ノーマンにそう問いかけた。



「この街を飛竜の驚異から救ってくれた者を迫害するような者はこの街にいたか?」


「いないと思われます。もしいたのならば、その者は街の者達に非難されるでしょう」


「よし、ならばこの街に迎え入れぬ理由は無いという事だな」


「その通りにございます」


「ならば住民票の手続きを頼む。ムラクモ殿もこの街にいてくれるのだろう?」


「あぁ、暫くはこの街の世話になろうと思っている」


「ならば四人分の住民票を準備してくれ。それと服屋を手配してお嬢さん三人の服を手配して欲しい」


「かしこまりました」



 ノーマンの指示を受けた女性は直ぐに行動へと移った。



「頼んでおいて何だが、すまねぇな」


「いえいえ。それにこの街にいてくれた方が安心なのでね。まぁ〝持ちつ持たれつ〟というやつですな」


「本当に人間は見た目で判断出来ねぇなぁ。外面は隙だらけって感じなのに、中身は相当腹黒ときた。まさに〝狸親父〟そのものだな」


「腹黒でなければ貴族社会ではやっていけませんからな。あぁそういえば……今夜は飛竜討伐を祝して街全体で宴を催そうと思っているのですが、少し相談事がございましてな?」


「まぁ話くらいは聞いてみるよ」


「ありがとうございます」



 ノーマンは恭しく頭を下げてから、相談事とやらについて話し始めた。



「宴を開始する際に私からの挨拶を行うのですが、その際にムラクモ殿とサタナキア嬢を紹介したいのですよ」


「ほぅ?」


「つきましてはサタナキア嬢の事を話そうとも思っております」


「……」



 素直に了承は出来なかった。


 いくら一緒に飛竜を討伐したとはいえ、やはりサタナキアが魔王の娘である事を街の奴らが素直に受け入れてくれるとは限らなかったからだ。



「もしそれで反感が出たらどうする?」


「そうなればこの私の首を差し出すことで受け入れて貰えるよう願い出るつもりですよ」


「俺達を追い出した方が早いんじゃねぇのか?」


「この街を護ってくれた英雄を追い出すくらいならば、この首を差し出した方が安いと思っておりますのでな」



 ノーマンの言葉に苦笑いをする。


 もしそうなった場合は俺からも頭を下げて嘆願してみることにしよう。



「分かった。それじゃあその手筈で頼むわ」


「是非ともそのつもりですよ」



 そうして俺はノーマンと固い握手を交わす。


 するとその時、ドアの外から慌てたような声が聞こえてきた。



「ガイウス団長!」


「どうした!」


「大変な事になりました!」


「入れ!」



 中に入ってきたのは一人の騎士……確か今は宿で待機していたはずのガイウスの部下であった。



「何があった?」


「はっ!実は先程、サタナキア殿の従者が目を覚ましたのですが……」


「二人の様子は?」


「後遺症も無く、健康そのものです。しかし、目を覚ました直後、混乱からか我々からサタナキア殿を護るようにして剣を振りかざし、〝我々を解放しろ〟と要求しております。どうにも話を聞いてくれる様子ではなく……」


「それで指示を仰ぎに来たというわけか」


「はい……」


「ムラクモ殿……」


「まぁ予想はしていたが、面倒な事になったな」



 俺は面倒そうに頭をかきながら立ち上がる。


 するとノーマンが朗らかな笑みを浮かべながらこう話し始めた。



「あまりに大事にならなければ、こちらの方で些細な喧嘩程度に収めておきますよ」



 上っ面では気の利いた言葉だが、しかしその本心は〝恩を売ってやるから、今度こっちで困ったことがあれば協力しろ〟と言ったところか。


 本当に狸親父だな。



「助かる。このお礼は今度何かで返すさ」


「見返りは求めてないんですがね」



 心の中で〝嘘つけ〟と言った後、俺はガイウスとその部下を連れて宿へと戻るのであった。






 ◆






 宿に戻ってみれば、なんとまぁ予想通りの光景で思わずため息が出そうになる。


 サタナキアの従者達は彼女を守るようにこちらへと剣を向けながら、自分達を解放するよう要求していた。


 相手に要求を飲ませようとするならば、宿の誰かを人質に取ればいいものを……。



「おぉ、これはムラクモ殿!ご覧の通りこちらの話を聞いてくれそうにも無くてですね……」


「だろうな」



 俺はガイウスの部下達を押し退けるようにして前に出ると、従者達に声をかけた。



「あ〜……混乱してるのは分かるが、先ずは落ち着いてこっちの話を聞いて欲しいんだが?」


「貴様もコイツらの仲間か!さっさと我々を解放しろ!」


「ん〜……嫌だと言ったら?」


「その場合はここにいる者達が怪我────……へ?」



 従者の片方が言い切る前に俺は、俺、サタナキア、そして従者二人のみを囲むように結界を張った。



「他の奴らが……何だって?要求する割には詰めが甘いのな」



 そして俺が指を鳴らすと、サタナキアは一瞬にして俺の腕の中へと移動した。



「「「────!!?」」」



 何が起きたのか分からず驚く三人。


 サタナキアは俺の腕の中で質問をしてきた。



「何をするつもりじゃお主?」


「別に何もしやしねぇよ。ただ脅しってのはどういうもんか教えてやるだけだ」



 そして左手を銃の形にすると、その指先をサタナキアに向けながら二人にこう言った。



「大人しくしろ。指一本動かせばお前らのお姫様がどうなるか分かってるだろうな?」


「卑劣な……!」


「いいか?脅しってのはこうやるんだ。人質を取らなかった時点でお前らの要求は通らねぇよ。さて……大人しく話を聞く気になったか?」


「ふん!ならばこちらも人質を────」


「この結界の中でどうやって人質を取るつもりだ?」


「ぐっ……!」


「はぁ〜……仕方ねぇ、実力行使で大人しくして貰うか」



 俺はサタナキアから手を離すと、一瞬にして二人の前へと移動し、そしてそれぞれの額を掴む。


 そして────



「よっと……」



 首を後方へと倒し、そのまま二人を同時に床へと叩きつけた。


 手加減はしたので気を失うことはないだろう。



「〝韋駄天翔〟……超高速で移動する術だ。その速さは神速レベル、お前らじゃ到底追いつけねえよ」



 二人は何とかして俺の手を外そうと腕を掴んで藻掻くが、残念ながらそれで外されるほどやわな鍛え方はしていない。


 ここまで実力の差を示したつもりだったが、どうにも二人は納得がいっていないようだった。


 仕方ない……ここはマジで実力の差ってものを知らしめてやらんと効かなさそうだな。



「分かった……それじゃあ勝負をしよう。もしお前ら二人が俺に勝てたなら解放してやる。だが負けたら大人しく話を聞く。それでいいな?」



 そう言うと二人は藻掻くのを止めた。


 こんな流れにはしたくなかったが、まぁ致し方ないというやつだな。


 その証拠にサタナキアに顔を向けると、彼女は〝仕方ない〟というような表情で頷いていた。


 俺は二人から手を離すと、〝さて、どうやって相手をするか〟と考えるのであった。


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