飛竜討伐
俺とサタナキアでアイツを倒す────
そう言い放ったムラクモと共に外へと出た余であったが、たった二人で飛竜をどう倒すと言うのだろう?
「お主、何か策はあるのか?」
「策?ねぇよそんなもん」
「……」
唖然としてしまった。
普通、飛竜を相手にするならばそれなりの策を練ってから行うものじゃ。
それは魔族であっても同じことで、魔王国にも現れた時には父様は配下の者達としっかり策を練ってから迎え撃っておった。
「お主……もしかして馬鹿なのか?」
「あん?そう言われるのは心外だな。俺だってちゃんと勝てると思って挑んでんだからよ」
ムラクモはそう言いながらポキポキと拳を鳴らしていた。
うん、ちょっと待て……もしかして、もしかしなくてもまさか素手で奴と戦うつもりかこやつ?
「お主、武器は?」
「あるだろここに?」
「……余には拳にしか見えぬのじゃが?よもや素手で奴とやり合おうとしとるのではなかろうな?」
そう言うと笑い飛ばされた。
殴ってやろうかと思った。
「俺には〝開闢と終焉の書〟があるのを忘れたか?」
「それにしては本を開いてる様子は無いのじゃが……」
そう言うとムラクモは〝あ〜〟と言ってからこう話した。
「〝書〟と言っちゃあいるが、コイツは決まった形がねぇんだよ。ただ本にした方がイメージ的には合ってるからそうしてるだけでな。まぁ見てろって」
ムラクモはそう言うと両手に魔力を込め始める。
するとその両手の指に指輪と、そして腕輪が現れた。
「両手を使いてぇ時にはコレにした方がいいからな。さて……そろそろおっ始めるか」
そう言うなり一瞬でその場から消えるムラクモ。
そして次の瞬間には空を飛んでいる飛竜の顔面を殴りつけていた。
「結局素手ではないかーーーーー!」
そう叫んでしまったのは仕方の無い事だと余は思う。
ムラクモに殴られた飛竜はそのまま地面へと激突し、突然起きたことに理解が追いつかないのか、起き上がってキョロキョロと周囲を見渡した。
そんな飛竜の前にムラクモはゆっくりと着地をする。
「さて……テメェには恨みはねぇが、サタナキアのイメージ改善の為に役に立って貰うぞ」
そう話し、ムラクモが両手を数回組むとその手に炎の球が生み出される。
「〝煉獄焼夷弾〟」
そう唱えたムラクモは複数の炎弾を飛竜へと放つ。
その火力は絶大なもので、森ならばいとも容易く焼け野原にする事が出来るかと思われる程であった。
これ……余が参戦する必要はありゃせんか?
「オラオラどうしたよ?反撃しねぇとつまらねぇだろうが!〝風刃乱舞〟!」
一人で盛り上がっておるなぁ……。
そんなことを思っておると、ムラクモが余の所まで飛び退いてきた。
「いやお前も攻撃しろよ」
「余が加わる必要なくないか?」
「お前のイメージを良くする為にやってんだから参加しねぇと意味ねぇだろ」
「そうは言ってもだな……」
「じゃあ今度はお前が行ってこい」
「は?え?ちょっ、待っ────!!」
ムラクモに持ち上げられたかと思えば、余は宙を舞って飛竜の前へと落下した。
見れば飛竜めはこちらへと炎の息吹を放とうと口を大きく開いている。
「余は今まで魔力を奪われておったから魔力が無いのじゃ!」
「いや早く言えよ」
ムラクモは余の前へと立って手を翳す。
そのタイミングで飛竜が炎の息吹を放ったが、それはムラクモが翳した手によって塞がれた。
よく見ればムラクモの前には障壁のようなものが浮かんでいる。
「〝戦女神の大盾〟────ったく……それを早く言えよな。仕方ねぇ……サタナキア、俺の手を握れ」
「は?」
「いいから早く握れって」
そう言われ手を握ってみると、そこから何かが流れ込んで来るような感覚に包まれる。
「これは……魔力か?」
「そうだ。これで多少なりとも魔法を使えるだろ」
「それで……余も攻撃すれば良いのか?」
「あぁ。とは言ってもあまり長引かせると周りに被害を与えかねねぇ。サタナキアは俺の合図で奴に全力で魔法を叩き込め」
「今の魔力では奴を倒そんぞ?」
「いいんだよ、それで。今重要なのはサタナキアも飛竜と戦ったという事実が欲しいだけだからな」
ムラクモは最後に〝時間を稼ぐ〟と言うと、そのまま飛竜へと向かっていった。
ふむ……現時点で放てる最大火力の魔法はこれかのぅ?
「〝大地焼くは星の雫、纏うは灼炎、全てを灰燼に帰す業火、堕とすは遍く大地の力、其は流星をもって敵を討つ者……」
今持っておる魔力を最大限に解放し、余は詠唱を続けた。
「〝汝、其の声に応え、我が敵を討ち滅ぼさんとす〟……ムラクモ!」
「今だサタナキア!」
「〝焼き滅ぼせ、そして灰燼と成せ〟、〝撃ち抜く流星〟!」
その直後、一弾の隕石が飛竜へと撃ち込まれる。
飛竜めは魔力障壁でそれを防ぎきったが、だいぶ魔力を消費したのかその魔力は微々たるものとなっていた。
気づけばムラクモの姿はなく、探してみれば奴は飛竜の真上にて浮遊していた。
「〝其は神の代行者、神に代わりて裁きを与えし者、其の投擲は神の一撃、纏うは天雷、冠するは宇宙を統べし絶対不変の神の御槍、その一撃をもって神罰と成す〟……防げるもんなら防いでみやがれ!〝|神罰与えしは神の雷霆霹靂〟!」
けたたましい轟音と眩い光が生じたあと、そこには雷の槍によって首を断たれた飛竜の姿があった。
その切断面は雷によって焼け焦げており、それを見ただけで先程の魔法がいかにして強力であるかが物語っていた。
「なんという……」
心配になって駆けつけてきたのか、ガイウスが愕然とした表情でそう呟いていた。
無理もない……飛竜というものは討伐するまでにかなりの戦力と、戦闘に伴う被害が大きいことで有名だ。
しかしムラクモは最小限の被害に留め飛竜を打ち倒してしまったのである。
そんな偉業とも言える事をしたというのに、当の本人は嬉々とした表情でガイウスにこう訊ねていた。
「これでサタナキアはこの街にとって害は無いと証明できるかねガイウス殿?」
「私がそうは言わせぬよ。逆に反対して貴殿の怒りを買う方がこの街にとってこの上ない脅威であるしな」
ガイウスは〝確かにその気になれば一人で世界を滅ぼすことが出来るだろうな〟と話していた。
それを聞いて余はもう少し早くムラクモが来てくれていれば父様も国も失うことなど無かったと痛感してしまう。
いくら言っても詮無きことだとは自覚しておるが、それでもやはり……。
「俺もそうだが、ヤハウェーもう少し早く俺を寄越していれば良かったと嘆いていたよ」
「神……いや、母様がか?」
不意に放たれたムラクモの言葉に余は思わず目を見開く。
そして遠くにいながらも余の事を想ってくれていたと理解し、僅かに心が暖かくなったような気がした。
その言葉で少しばかり心が救われたのだと、余は思う。
「して……これからどうするつもりじゃ?」
「ん〜……先ず暫くはこの街を拠点として活動するかな。まだ生き残っている魔族を探すにも拠点は必要だしな。それに……」
「それに?」
「いや、これは今はまだ確信の無い事だ。今から気にしても仕方のねぇ事だしな。とりあえずは宿に置いてきた他の二人も気になるし、ここのお偉いさんとも話をしねぇといけねぇしな」
ムラクモが抱いた事に追求したいのは山々であったが、確かに従者二人の事は余も気になるし、それについてはムラクモに任せるのが良かろう。
余はガイウスに話しかけているムラクモの背を見ながら、奴を信じてみても良いかもしれぬと、そう思うのであった。




