9話:森での自活
あれから2日が経ち、サバイバル力を養う森からの脱出の日になった。
師匠は昨日いきなり自分の持つ技術を叩き込もうとしていた。師匠のお陰で基礎は出来てるからあまり苦労しな・・・嘘です。思ったような流れる剣技にはなかなかなりませんでした。
さて、そんな訳で森の中にたった一人残されたわけだが、俺が考えてたことは
「あいつらに会えないかな・・・」
あの時、「斬る」という事を教えてくれたみんな。その斬るを教えてくれたおかげで今剣を持っても冷静でいられる。
周りには魔物がいるのか。敵意はあるのか。
恐らく、このサバイバルが終わったら当分この森には来れない。あの時、疲れてたからお礼を十分には言えなかった。だからお礼も言いたいし、手合わせもしてみたい。
さて、個人的には魔物に襲われて・・・なんて事は心配していないんだが・・・
「飯とか・・・どうしようか」
あの時はヴァンパイアが飛行能力で入り口付近まで運んでくれたから迷わないで帰れたが
「ここが森のどこらかも知らないし正攻法でやるしかないよな」
水場の確保、それからスピードラビットみたいな食材の確保、寝床に出来そうなところの探索・・・
この上なく面倒くさい。モチベーションは上がらないがやらなければ飢えてしまう。
という訳でまずは川を探す事にした。どんなに面倒でも生命線の確保はしないと・・・
それから3時間ほどは経ったと思われる頃・・・
「水が無い・・・どうしよう」
襲ってきた魔物を教わった通り血抜きして持ち歩いているから食料は良いんだが、水が未だに確保できていない。これはまずい状況だ。脱水症状で寝ている間に動けなくなるかもしれないからだ。
水を探すために動き回る。その結果出た汗で水は体から消える。正直ここまで運が無いとは思わなかった。魔物がこうして動き回る森なのだ。水が無いとは思えないが・・・
こうして歩き回っているのだ。
一方その頃・・・
「剣聖、勇者は」
「ああ、1週間は帰ってこれない筈だ。森の奥地少し手前で放ってきたからな」
「ふむ・・・我々騎士団でもそのような場所での演習を行うなら4人くらいでパーティーを組んで行う団体演習しかしませんが・・・殺す気ですか?」
「殺す?馬鹿言うな。あの塊を一刀で切り裂き、果てには誰も考え付くことの無かった筋肉の疲労を改善する魔法を勝手に作り出すわ・・・この程度生きてこなせないならそれ全てが他人の力、助言による物だったという事だ」
「なるほど・・・見極めるんですか。しかし、もしも3日程で帰ってきたとしたら化け物ですね」
「ああ、さっさと終わらせようと飛空をしている可能性もある。故に森で不審な動きが無いかを見てもらっている所だ」
「ズルは許さない・・・と。あなたはどうやって帰ってきたのです?」
「私はこれだ」
手に持っていたのはとある羽。これは帰標の羽。世界的にも個体数の少ない鳥の羽で、その中でも魔力を有する個体から取れる羽には記憶が鮮明に残っている場所へ一瞬で飛べるという代物だ。ちなみにこれ一つで新品の一軒家が建つほどの貴重品。
「ま、悠長に歩いて帰ってくる訳ないですよね」
「それに、ソウヤの発想力も見てみたいのだ。あの森には川が無い。でも魔物は棲みついている。このカラクリに対して世界最高の頭脳と謳われる賢者フレデリカが初めて導き出した正解。あいつも・・・導けるかなと期待しているのだ」
「フレデリカと同じ発想を求める方がおかしいですよ。あの人は17歳にして雨や雷の発生する仕組みを提唱した異端児です。もし同じ頭脳があると言うなら・・・異世界とはとても学問が発達しているのだと言わざるを得ないでしょうから」
スカーレットは城から森を見つめる。
「このくらい乗り越えてくれなきゃ困る。あいつを・・・死なせない為にも」
水は見つからない。渇きも認識できるようになってきた。
「そろそろなんとかしないと」
流石に焦る。もう7時間は水を口にしてないしそろそろ夕方だ。タイムリミットが迫る。夜に動き回る事程危険な事はないと流石に知っているからだ。
ふと後ろに気配を感じる。
「チッ、ブロンズウルフか」
敵では無いがなるべく敵とエンカウントしたくない俺には会いたくない相手。
だが、ここで俺はある考えに辿り着く。
「そうだ、こいつを倒さないで拠点に案内させよう。そこなら水もあるかもしれない」
逃げていった後を付いていくとウルフの群れが見えた。
「ダメか?こんな所に水なんて」
と思った次の瞬間
「ん?なんだこの匂い」
変なにおいが鼻をかすめる。この匂いは・・・・・・水?
その匂いを辿ると
「こんな所に洞窟なんてあったのか」
誰かがいる気配もなかったのでとりあえず入ってみる事に。すると・・・
「な、水がある!」
地底湖・・・いや洞窟湖とでも言うべきであろう場所があった。見た感じ飲めそうだし濾過もせずにそのまま飲んでみる。
「うっま!これは美味い!」
新しい魔法としてアイテムボックスを持っていた俺はこの水をこんなにいらないだろという程詰め込んでその場を後にした。
いや、正確には後にしようとしただ。何故かって?俺が響く洞窟内で叫んでいた事+元々こいつらの飲み場だったんだろう。
ウルフの群れが洞窟の外で待ち構えていた。
俺としては戦いたくないからとりあえず手を上げてみる。
が、
「向かってくるんかい!」
降参のポーズも空しく襲われる。という訳で新技を試してみる事に。
まあ、単純で自分の全方位に風を出すだけだ。師匠にこんな技どう?と聞いてみると上級魔法に分類されるそうだ。なんだ、もう既出だったのかいとガッカリしたが
ともかく実戦でどのくらい使いものになるのか試してみる。
「豪風」
そう唱えた瞬間、ウルフ達が吹き飛ぶ。
ここまで森で過ごしてきて俺は魔物と同じく生きる為に命を狩るというただの生物と化していた。
夜になって木の上で寝ていると今日の事を思い出す。
「肉・・・美味しかったな。自分で狩ったからかな。日本で売られてる肉食べても何も思わなかったのにな・・・日本って恵まれてたんだよな」
自分の置かれていた境遇、ただ単に学問を修めてれば偉い世界が楽に思えてきた。いや、勿論数学とかは何言ってんのかよく分からない部分もあるにはあるしそれはそれで難しいが、こうしてサバイバルをしていると本を読んで何回も反復して書いて覚える。それだけの繰り返しで優秀と言われるあの世界が簡単に思えてきた。この世界では覚えたところでそれが使えなければ死。だから学問は投石機とかの角度算出みたいな物しか研究がされてないっぽい。故に学問は発展しないのが実情だそうで。
俺は元の世界で培った知識を応用して魔法をバンバン生み出している訳だがこの世界の人にはそれが大発見らしい。まず雷。これを10年前までは神がお怒りになったという事で神託を聞いたものがその原因を明らかにし排除する。これにより神の怒りを鎮めようってのがやり方だったが、最近になってただの自然現象なのでは?という案が浮上。ようするに、地球では当たり前の知識がこっちでは最先端、未知の知識になるというようだ。
結局魔力のステータスが文字化けしている理由も分からないが、俺は魔力量が多いってのは分かる。上級魔法は高名な魔法使いでもないと連発なんて出来ないらしい。ちなみにリューネは超級を何回かは撃てるらしいから結構高位の魔法使いだそうで。
俺はこの日誓った。どんなに強くなろうと、どんなに賢くなろうと、どんなに地位を持とうと・・・弱者を見下さないと。
だが、蒼矢は知らなかった。自分の魔力が無限大にあり、それのお陰で想像したとおりの魔法が使えている事を。自分が魔力と知識においてこの世界の誰より秀でている事を知ることになるのは少し先の事である。