8話:成長
「え?どうしてそれを」
「この固い物を割るという芸当はこの世界の人間の想像力では主が辿り着いた力の伝え方という所まで辿り着けずに終わるものだ。故に、たった1日でそれを見出したお前さんは異世界の者と考えたのだ」
「今、なんでそんな事分かる?と思ったか?我らはこの森で最強を担う者達、故にその程度見れば分かる」
「ちなみにだけどこのオーガはね、小国一つなら滅ぼす程に強いのよ」
「ならなんで」
「こんな場所にいるかって?単純よ。我々は・・・戦いに疲れてこの森に辿り着いたから。力を持ってたら必ずその力で何かをしなきゃならない。そんなの誰が決めたの?力はね、良くも悪くも色々な物を引き寄せる。我々もこれだけの力がある故に戦場で幾度となく戦った。でも、そんな血の戦場なんて望んでなどいなかった。我々はね、元々仲間を守る為だけにこの力を欲したの」
「なのに、世界が許さなかった・・・」
「そうね。自分の縄張りを守るための戦いはするわ。でも、わざわざ侵略しようなんては思わない。私達が今も力を付ける理由は主に対人間、魔族用だから。あいつらはこの広大な森を利益の為だけに求める。森って空気が美味しいと前に人間から聞いたわ。王都なんかより断然良いって。私達はね、この森でゆっくり過ごしたいだけ。あなたがあれにぶつける音、その正体を確かめに来ただけだったの。平穏を脅かすと言うなら排除するだけだから」
「人間、君は勇者だろ?その仕事を全うしなければならない。だが、無駄な戦いはやめてくれ。必要の無い戦いは・・・悲劇と憎悪を生むだけだから」
「お前ら、それは岩を割ってから話してくれ。そんじゃ始めるぜ」
そう言ってヴァンパイアは色々教えてくれた。この使ってる剣にも、この鉄にも必ず弱点となる箇所が存在するのだと。一流の剣豪は切りたい物を切り、切らない物は切らない。だが、超一流はそれに加えてその物体の構造、則ち、筋道を見つけられるのだとか。
「って事は超固い金属も?」
「ああ、オリハルコンも切れる。だが、オリハルコンをやるなら流石にこんな鈍らでは無理だ。業物は持ってこい」
「筋を・・・見つける」
「そうだ、そしてイメージしろ。綺麗に割るそのイメージを」
「うん」
「では見るのだ。この塊の筋はどこだ?」
「筋・・・それ則ち・・・」
ふと、感覚が消える。いや、立っているのだ。だが何故だろう、自分が自然と一体化したような感覚になる。
そして見つけた。
「それが・・・お前の命か」
動き出す。今までは一気に力を入れて振り下ろすだけだったのに今は
流れるように、まるで棒切れでも振るかのようなしなやかさで
すると
「ほぅ・・・」
「これは・・・」
「やりやがった」
そこには綺麗に中心で切れている物体が2つあった。
「切れた・・・?」
「ああ、切れたぞ」
「俺が・・・出来た?」
「ああ、お前だから出来た。良くやったな」
俺は泣き崩れる。元の世界では男を否定され、生きる意味など消え去っていたのに、そんな俺がやっと、やっと成し遂げたのだ。
「あり・・がどう」
「どういたしまして」
そう言うとウルフは俺の頭を大きい尻尾に乗せて言う。
「人の子よ、主は凄い子だ。辛かったろう?単身どこかも分からぬ場所に飛ばされ戦いを教え込まれる日々だったのでかないか?よく諦めなかった。よく耐えたな。勇者たる主は人前で泣くことを許されないかもしれない。だから今は・・・泣いても良いんだぞ。ここには・・・人間はいないのだから」
「ぐす・・・ひぐっ・・」
確かに辛かった。高揚感で隠していたとは言え、慣れない土地で頑張らなければいけないというのは辛かった。全部吐き出して良いなら・・・今はガキでいさせてくれ
それから一頻り泣いたようで眠ってしまった。そんな様子を見ていた3者は
「しかし・・・たった一日でやりきるとは」
「俺も驚かされた」
「凄い才能だよ。でも、こんな幸せそうな顔を見ると辛いね」
「ああ」
「だな」
「あの、ウェーリス様、何故辛いんです?」
「・・・お前たちには分からないか。この子は我らを超える逸材よ。でも、こんな化け物じみた才能を持っていても人なんだ。人とは本来弱い。故に群れ、故に狡猾に生きる種族。だからこそ傷も舐め合う。魔族にはあまり無い概念だがな。なのにだ、この人間は今誰に囲まれて眠る?こんな安心したような顔で」
「はっ!」
「そうだ。雌は雌でも人ではなくウルフなのだ。人という生物の設計上、一番は母のような存在が安心を、安らぎを与えてくれる。だが、この者には・・・そんな存在がこの世界にはいないのだ。それに、この者は異世界から来た勇者。散々こき使うのに安らぎを与えぬ人という物に怒りすら覚えるよ。よく覚えておけ。人を下等種族と馬鹿にするものもいるだろう。奴らが下等な理由は・・・そういう所なのだ。一人では生きていけぬ癖して助け合う事もせず出来る物にだけ押し付ける。そこが人間の最大の汚点だとな」
このヴァンパイア達の長、ウェーリスは悲しい目で語る。そして心を痛めていた。本当なら自分が息子として色々教えてあげたい。でも、それは叶わない。だからこそ願う。願わくば自分達のような者にすらちゃんと耳を傾けてくれる優しき子がこれ以上壊れないように望むばかりであった。
そしてこの時、蒼矢のステータス欄には称号、「万物の声を聞く者」が追加されていた。
一方城では・・・
「勇者はまだ見つからんのか!」
「はい、話によれば昼に使っていた物が消えていたという情報もあり・・・」
「くそ、どこへ行きおった」
「陛下、私の責任にございます」
「剣聖?どういう事だ」
「ソウヤには巨大な鉄の塊を割るようにという試練を課したのです。恐らくは我々の目の届かぬところで今も・・・」
その後も話を聞くにつれて、常軌を逸したその試練に聖騎士団長ヴィーラが反応した。
「剣聖、あなたは私と並ぶほどの技量をたったの2ヶ月で叩き込もうと言うのですか!?いくらなんでも無茶です!!」
「それは知っている。だが、激化する戦場で生きるには・・・」
「剣聖よ・・・何故そのような事を・・・」
「あなたが2ヶ月で仕上げろと仰ったからです。2ヶ月で魔族と戦えるようにするなど無理をするしか無いに・・・きまっているでしょう」
その声は消えそうな声だった。ヴィーラは怒りを露わにした事を後悔した。この人は仕事をしようとしただけなのだと知ったから。
「私はソウヤに魔法を使うなとは一言も言っていません。剣を使ってとは言いましたが。彼は・・・剣技だけで割ろうとしているのです」
それから見つからないまま朝を迎えた。9時を回り、街が活気づいた頃
「陛下!!剣聖!!勇者様が戻られました。話に合った鉄を持って」
「やはりか」
「ええい、すぐにここへ呼び出せ!」
「その前に剣聖スカーレット様。あなたに修行の成果を見せたいと」
「今すぐ行く」
「お、おい。無視するな」
「その後で連れてくるので待っててください」
訓練場へ行くと
「な!?なんだこのデカブツは!?」
「あ、おはようございます師匠。俺今からこれ割ってみせますんで」
「は?」
「そんじゃいきますね」
そう言ってスカーレットが用意した塊の3倍以上の大きさの塊に向かう。
そしてあの時と同じように自然と同化させる。
(聞かせて、お前の命の声を)
周囲の空気が澄んだかのような感覚。それが蒼矢の周りにはあった。
「いったい・・・夜に何があったんだ?」
師匠がかつて一度だけ見せてくれた技術。それを今目の前で実演されている。
「お、お前は・・・いったい」
答えは帰ってこない。その時、師匠との会話を思い出した。
「スカーレット、剣とはな所詮は殺しの道具。だが、極める物は殺さずに済むものだ」
「どういう事ですか?」
「極め、高みに登った人間はその佇まいから弱き者に戦おうという意思を持たせないのだ。それこそが・・・真の強者なのだ。強き者はな、強き者としか刃を交えない。交えてもその剣技は流れる水の如し流麗さなのだ」
そう、察したのだ。蒼矢は自分が知らない間に・・・強くなっていたと
「ハハハ」
「剣聖?」
「私は・・・師匠失格だな」
その言葉と同時に蒼矢が鉄を両断する。
「ソウヤ、お前の成長は・・・凄まじいな」