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勇者は異世界で大暴れする  作者: 渚 蓮
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5話:筋肉痛との戦い

剣術の修行は至ってシンプルだった。


走り込みから素振りまでの基礎修行。これを毎日午前中ずっとやる。午後はその日のコンディション次第で剣術指南に入るか基礎修行の続きかを判断する。


修行開始から11日が経った。スカーレット師匠より言われた言葉は


「とにかく基礎だ。お前は基礎が身に付くのに時間がかかる。だが、剣術修行になればお前は早く上達するだろう」


つまりは大器晩成型なのね。てか、毎日筋肉痛に苛まれて風呂の度にアァアァアァ~~~とビブラートをかけながら疲れをほぐすのがそろそろ億劫になってきた。


筋肉痛も比じゃないし。痛いから今日は座学でと言うと、痛みを和らげる魔法をかけられて


「よし、痛くないな。じゃやろっか」


毎日がもはや憂鬱である。剣を極めたらどれだけカッコいいだろうか!という気持ちで始めたのが馬鹿だった。


あまりに痛くて筋線維がそろそろ限界かなと思ったある日、ふと思った。


「これ・・・魔法で修復早める事出来るのでは」


思い立ったが吉日、修行終わりに試行錯誤をしてみた。


筋線維の修復。緊張状態をほぐし、傷んだ部分を治す。


イメージは出来た。後は


「やるだけか」


失敗したら何が起こるか分からない。でも痛いのとはおさらばしたい。


思い切って魔法をかける。すると


「痛みが・・・消えた?」


念の為動かす。問題無く動く。試しに木刀を持って振っても


「違和感もない」


この日、人類は筋肉痛に勝利したのだった。









翌日、師匠に筋肉痛を治す魔法を作って使ったと話したら


「馬鹿もの!!」


と怒られた。


「え?だって修行に支障あるレベルでしたし」


「だからって失敗したらその腕動かないかもしれなかったんだぞ?運よく成功したから良かったが・・・無事で良かった・・・」


何故か泣かれてしまった。俺は・・・何か悪い事をしたのだろうか。筋肉の修復をして痛みを消しただけ。そんなに師匠は俺に修行を付けるのが嫌だったのだろうか・・・


「これからは相談してくれ。魔法を使い始めた時と言うのは失敗しやすいのだ。筋力を一時的に上げようと思ってそのまま腕が吹っ飛んだ奴もいる。お前は魔法の才に恵まれているがまだ雛鳥なのだ。無理をしてはいけないんだよ」


「はぁ・・・すみません」


ん?筋肉にとんでもない負荷をかけてくるスパルタ師匠がいたような・・・あれは無理とは言わないのだろうか・・・


まあいっか。どうやら心配させてしまったらしい。所詮は異世界からの来訪者にすぎない俺をこんなに心配するのは何故だろうか・・・


この日を境に気遣ってくれる事が多くなった。お陰でメキメキと力を付け転移から1ヶ月が経った頃。


「ここがハビルノ森林・・・」


「ああ、深くない所は駆け出し冒険者用の練習場だが深くなると騎士が対魔物訓練に使う程の危険地域だ。後1ヶ月で剣だけでここを生き抜けるようになってもらうが今日はそんなところまでは行かないから安心しろ」


「サーイエッサー!」


「なんだそれは。だが嫌いじゃない響きだ」


あら、こういう掛け声は無いのね。


森に入ると兎がいた。とても愛くるしい。


「あれは・・・モフろう」


「もふ・・・る?よく分からんがあの魔物はスピードラビットだ。あの速さに追いつけるなら一人前。駆け出しじゃ狩るのは無理だ。尚、肉は美味いぞ」


「え?早いの?あれ?」


「一回やってみたらいいさ。あれが捕まえられるなら俊敏性と目は合格だからな」


「へへへ、モフモフの為にも頑張るか・・・な」


走り出す。お、逃げない。モフモフちゃーん、ゲットだぜ!!


「ってあれ?いない」


次の瞬間腰のあたりを強烈な衝撃が襲った。


「い゛で」


だが、これは好機。当たったという事は・・・


「今は止まってるよな!!」


捕まえる。そしてモフモフしまくるとキシャアという鳴き声をあげながら抵抗する。全くそんなに抵抗しちゃって、良いからモフらせなさい!!


ざっと15分、ようやく大人しくなった。触り心地は抜群。はぁ~、モフれるって幸せ。


「驚いた・・・」


「そうでしょ!」


「ああ、まさか自分を囮にして捕まえるとは・・・そしてその光景にも・・・な?」


「???あー、疲れさせた事ですか?」


「いや、そのもふ?の為にここまでする奴とは・・・思ってなかった」


心なしか引いてねえか?


「ふむ、目は良いようだが俊敏性はまだまだか」


「そんなのどうだって良いですよ。ああ、モフモフ幸せぇ」


「ちなみにだがそろそろやめとかないとストレスで死ぬぞ?」


「え゛」


そのまま森へ帰した。


「なんだ、逃がすのか。てっきり調理して食べるのかと」


「あ、あんな可愛い子を食べる?食べるだと・・・イヤ゛ァ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


「ちょ、おま、声大きいわ!魔物がぞろぞろ来たらどうするんだ!」


「あ、すいません」


「・・・そしてお前の声に吸い寄せられたようだぞ」


周りをみると狼みたいなのが14匹。


「ブラッドウルフか・・・ブロンズウルフならば任せたのだがな」


「何が違うんです?」


「知能だよ。ブロンズウルフは単調な攻撃だけだが、ブラッドウルフは連携して襲ってくる。しかも2桁となると厄介だ」


「へぇ、一人で戦ってみても?」


「は?」


「今新技を考えていて・・・その検証をしたいんです」


「・・・フォローはしてやる。やってみろ」


「ありがとう、師匠」


俺には魔法という物がある。ならばこの何の変哲もない剣。これも書き換えられるのでは?


「よし、俺のイメージ通りに動いてくれよ」


そのままウルフの方へ駆け出す。


案の定数体がとびかかってきた。だから俺は刀身を強靭にし伸ばして


「おらよ!」


横に一閃。すると


「な!?」


5体のウルフが血しぶきをあげながら落下していく。


残りは全員逃げた。


「ふぅ、上手く行って良かったぜ」


「・・・・・・・」


「どうしました?」


「お前、何をした?」


「え?剣の刀身伸ばして薙ぎ払っただけですが」


「そんな発想・・・聞いた事が無い・・・」


「まあ、こっそり温めてた構想の一つなんで」


「・・・お前は」


「え?」


「いや、なんでもない」


この日はそのまま帰った。師匠は終始不思議そうにこちらを見ていた。


そして帰還後謁見の間にて


「剣聖よ、勇者の育ちはどうじゃ」


「・・・一言で申しあげますと”規格外”でございます」


「・・・ほぅ」


「剣を振り始めてたった一月。ブラッドウルフ14体に遭遇し、5体を倒す事で逃走させる事が出来ます」


「ふむ?それなら大した事ないのでは?」


「1年じゃないんです。剣を持って振り始めてたった一月ですよ?それで冒険者が半人前とされるブラッドウルフの群れの撃退を成し遂げたのですよ?」


「それは・・・確かに凄いな」


「騎士長よ、主もそう思うのか」


「はい。騎士団に入団した若者は必ず剣術をある程度修めてから入ってきます。その新人でも2ヶ月で出来れば上出来なんです。逸材というに相応しいかと」


「ふむ・・・召喚時のふざけた態度はパフォーマンスとでも言うのか?」


蒼矢にとっては何気ない事。それでも国にとっては重大な事であった。

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