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天空の要塞 ソロモン戦記  作者: テカムゼ
3/7

第三章 私掠船

 ソロモン要塞戦線に左遷されてきた第二二七独立戦隊司令官ケイン・カイトウ准将は、お荷物戦隊を率いながらも最初の任務を完遂する。

 そして、次に与えられた任務はベナン星系周辺の三星系への威力偵察任務であった。

 襲いかかる私掠船の群れに、猛訓練を重ねたカイトウの第二二七独立戦隊は立ち向かう。

 そして、さらなる高みを求めるカイトウは、鬼と呼ばれ苦笑することなります。

 第三章 私掠船 


 一

 IB二七船団は、無事ベナン星系に到着した。

 ベナンに到着してもカイトウの怒りは静まらず、今も不愉快気に肩を強張らせたまま司令官席に座り、舷窓に映し出された輸送船の揚陸作業を見つめている。

「船団司令が、司令官との面談を希望しています」

「どういう用件かな?」

 振り返ると、いつも通りに操作端末を小脇に抱え隣にたたずむ副官が見せた脅えの影がおかしく思えたが、顔には出さなかった。

 威厳はあった方がいいが、威圧は良くないのだがと思いながら、その細く奇麗な指に噛みついてみたいと、なぜかとんでもないことを少し考える。

「感謝の意を表したいそうです」

「感謝?」

「船団無事到着の」

「不要だ」

 にべもなく答える。

 当然の護衛任務を行って、何を感謝されるというのか。

 そして、戦隊司令官としてその感謝にどう応えるべきなのか。カイトウには思い至らず、ただ十分に煩わしく、気が重いだけのことであった。

 つい、先ほどのことだ。ベナン防衛隊の司令部に到着挨拶の訪問したところ、防衛隊の司令官から私掠船撃退の結果を大袈裟に褒めちぎられ、咄嗟にどう答えていいか分からないカイトウは不愛想に「当然のことです」と答える大人げない応対で顰蹙をかってしまっていた。

 今もそんなことを思い出し、悔いている自分が好きではなかった。

「まだ、復路もある。感謝は無事インビンに帰着してからにしてもらおう」

「承知しました。多忙につき、インビン帰還後にお願いしたいと答えておきます」

 カイトウは苦い顔のままうなずくと、副官に声をかけた。

 「肉屋の勘定書(butcher's bill)をはできているのか?」

 わざと、そういう乾いた言いかたをした。

 肉屋の勘定書とは、損害報告書の俗称であった。

 司令官としては、聞きたくもない報告であったが、当然把握すべきことであった。

「ご確認ください」

 手慣れた副官の端末操作で、目の前のモニターには我が戦隊の被害詳細が転送されてくる。

「わが戦隊の今回の戦闘による損害は、小破艦六隻です。そのうち、三隻は味方艦の誤射によるものです。その他、機関故障による損害が三隻。死者はいませんが負傷者一一名が生じています。負傷者はほとんどが軽傷です。負傷原因は、艦姿勢急変による転倒がほとんどです」

 結構な損害ではないか。

 あきれたような眼差しの司令官に横目で見上げられて、レイナはより畏まる。

「船団の方は?」

「中破一隻、小破二隻。負傷者は、軽傷者数名とのことです」

「そうか」

「損傷艦は、現在工作艦により応急修理中です。船団各船も損傷は軽微につき、応急修理後は航行に支障はないとのことです」

「計画通りベナンを出発できるのか?」

「はい。揚陸も修理も二日後には完了いたします」

「そうか。ベナン基地の警戒態勢に加え、我が戦隊も念のため哨戒ピケット艦を配置し、戦隊は警戒即応体制を維持すること」

「承知しました・・・」 

「どうした?」

 指示後も側を離れない副官を、カイトウはまた見上げた。

「戦果の方は、私掠船三隻完全破壊。五隻撃破です」

「見事なものだな」

 少し笑い、皮肉に首を傾げる。

「司令部への報告は如何いたしましょう?」

「概略を報告しておくように」

「承知しました」


 カイトウはコンソールを操作し、司令官席を一八〇回転させ司令艦橋後方を向いた。

 目の前には参謀二名と副官の席があり、その向こうには椅子だけの席に従兵長以下の従兵や士官候補生などが控えている。

 慌てて、レイナは参謀後方の副官席についた。

「それで、各自何か意見はあるかな?」

「司令官は、ご不満がおありのようですが?」

 キナイ航海参謀の少し揶揄が感じられる言葉に、カイトウは目を細め頷いた。

「今回の戦闘結果は残念に思う」

「先に指示したように、我が戦隊には戦技が不足しているようだ。よって訓練により補う。行うべき訓練の主なものは、艦隊運動訓練、砲撃訓練、即応訓練とする」

「各訓練の素案は作成しているので、砲術・航海参謀はそれぞれ所掌の訓練案を、副官は即応訓練について検討を行い、意見を明日までに提出していただきたい」

「訓練方針はどのように?」

 バヤン砲術参謀の問いに、

「厳しく」

と、簡単に答える。

「開始時期は、何時からにいたしますか?」

「明後日からだ」

「出撃中ですが?」

「承知している」

「訓練中に敵艦と会敵すれば危険ではありませんか?」

「そのために早急に訓練を実施し、戦闘能力の向上を図る」

 砲術参謀の問いに、カイトウは冷静な口調で返す。

 その表情には、これは相談ではないく指示なのだという意志が浮いて見えている。 

 その何ものをも自らの責任と判断により行うとする姿勢に、キナイ中佐は危惧を感じていた。

 全てを一人で行うことはできない。ましてや、その責をどう負うというのか。

 過去の自らの蹉跌を思い出しながら、若いなと、ただ乾いた思いを持つ。

「全戦隊各艦に、明後日より訓練を開始すると通知します」

 副官の言葉に、当然という顔をカイトウは見せた。


 ベナンへの物資揚陸は二日で終わり、予定通り船団は帰路に就いた。

 IB二七船団の復路の航路は、往路とまったく同じであった。

「強力な私掠船団の襲撃があったわけですから、航路の変更は必要ないのですか?」

「必要はない。往路において設置した監視ポッドはまだ健在であり、敵接近の感知は容易いであろう」

 レイナの問いに、司令官席にゆったりと座るカイトは素っ気なく答える。

「そしてなにより敵襲があれば、よい訓練になるだろう」

「少し意味が分かりませんが」

 レイナの呆れた声に、カイトウは少し嬉しそうであった。

 訓練だけでは、少し退屈ではないか。

「それで、いつまでこの重点訓練を実施するのですか」

 確定された訓練プログラムに、レイナは当惑気味にカイトウに問いかける。

 プログラムには、毎日の艦隊運動訓練、砲撃訓練に加えて、予告なしの戦闘配置訓練、被弾を想定したダメージコントロール訓練、減員体制による戦闘、航行訓練など多様なメニューが過密に組まれていた。

「必要な練度に達するまでだ」

 簡単な答えに、レイナは戸惑う。

「砲撃訓練は、輸送艦等の非戦闘艦も行うのですか?」

「対象は、武装している艦全てだ」

 確かに輸送艦や工作艦も自衛用に小口径の武装をしている。しかし、それらが必要とされる時は、戦闘末期の危機的段階でしかないが・・・。

「了解しました」

 司令官は、この戦隊をどうしようというのか。

 レイナの当惑も、当然であった。今まで訓練らしい訓練を行っていなかった戦隊である。これほどの訓練プログラムを満足にこなせるとは思えず、また乗員の反発と疲労も懸念されたのだ。


 レイナの懸念通り、訓練は過酷なものとなった。

 午前は艦隊運動、午後は砲撃の訓練。そして突然、戦闘配置が下令され、配置完了までの時間が競われた。

 また、ランダムに選定された被弾損傷を想定しての応急措置訓練、緊急脱出訓練。二分の一、三分の一の減員体制での航行及び戦闘訓練。

 艦隊運動中の衝突、誤射、過負荷の連続による機関不調など実戦以上の損害が出ていた。

 更に運営上の失敗もあった。予告なしの戦闘配置訓練をランダム設定していたところ、同日の〇一:二五と〇三:〇七に連続して戦闘配置命令が出てしまったのだ。

 一回目はともかく、二回目は誰もは予想しておらず散々な結果であった。

「これは正式に抗議クレームが来るかもしれませんな」

 寝ぼけ顔の砲術参謀バヤン中佐の言葉に、カイトウも不愉快気に眉をしかめる。

 戦隊司令部で速やかに配置に就けたのは航海参謀と従兵長ぐらいであり、カイトウは上着をはだけて司令艦橋控室から飛び出してきたままであり、副官は化粧気のない青白い顔でいる。ジュリナに至っては、二〇分も配置に遅れていた。

 そしてそのメイクが完ぺきなことに、レイナが危ない眼差しを向けていたのをカイトウは覚えている。


「あまり過度な訓練が続きますと、戦闘時に影響が生じかねません」

 内心の怒りさえ伺えるレイナの強い進言に、カイトウは、

「わかった」

 とだけ答え、いつもと変わらない笑みの従兵長に差し出された苦いブラックコーヒー飲み下した。

「全艦に指令。戦闘配置訓練プログラムを一時中断する。再開は、本日一五:〇〇。それまでは通常任務を遂行するように。なお、その時間までに発令された戦闘配置命令は実戦であることに留意すること」

 そう言って、目を瞬かせる。

「訓練終了。警戒体制に移行。お疲れ様」

 

 結局、復路では私掠船は数隻が現れたものの遠巻きに様子を伺うのみで、船団に手を出してくることはなかった。

 それはそうだろうと、カイトウは思う。

 船団の周囲では、やたらに活発な艦隊運動や砲火の煌めきが見えるのだ。

 我が戦隊に予想外の手痛い目にあったのは、ほんの数日前のことだ。うかつに近寄ろうとは思わないだろう。

 こうして、IB二七船団は無事要塞惑星インビンに到着し、カイトウの第二二七独立戦隊司令官としての初任務は終了したのだった。


 二


要塞惑星インビンには、ティロニア連邦軍ソロモン要塞戦線司令部が置かれている。

 参謀と副官を伴いカワード司令長官に報告のために訪れたカイトウは、型通りの歓待を受けていた。

 カイトウは照れ隠しに不機嫌な態度のままで、傍らのレイナは司令官にも苦手なものはあるのだとと一人ほくそ笑む。

 第二二七独立戦隊としては、練度不足のため長距離練習航海を行いたいと希望すると、カワード司令長官は幕僚を振り返り、貴官の戦隊が練度不足ならソロモン要塞戦線の各艦隊の練度はどうなるのだと冗談を飛ばし上機嫌であった。

 ソロモン要塞戦線司令部で面会したIB二七船団司令からは、ただただ絶賛を受け、面映ゆいカイトウは這う這うの体で退散していた。


 インビン帰着後、戦隊は整備待機態勢に入ったが、戦隊司令部は予定する長距離練習計画の策定を行っていた。

 参謀が二名しかおらず不足している司令部に在っては、副官レイナ・カンノ中尉の所掌する業務は多く、司令官業務の補佐から補給・情報・司令部関係庶務業務と多忙であった。

 ただ、レイナにとり救いであったのは、部下である従兵長のグレイ軍曹が多様な経験と知識豊富で様々な助言をしてくれることに加え、各種業務に士官候補生等を補助させてくれていることだった。


「だから、戦闘機隊の戦闘訓練項目が入ってないのよ」

「シュミレーション訓練はしているでしょう」

「全然飛べてないのよ。飛べても砲撃訓練用の標的曳航とか触接偵察訓練とかばかりじゃない」

 ジュリナは、司令部のレイナの机の前で不満の声を上げる。

「全然実戦に出撃出来そうじゃないわ。理解のない司令官で悲しい」

「自分で直接お願いしたら」

「この前直訴したら、すごい顔で睨んだでしょう」

「戦闘中に、あんな声をかけるからよ」

 煩わしそうなレイナの声にもお構いはない。

「司令官お気に入りの副官の進言なら、聞いてくれるんじゃないかな」

 猫なで声にも、レイナはつれない。

「お気に入りじゃないわ。誰が言ってたの?」

「バヤン中佐よ。司令官は、副官と航海参謀がいれば、ご機嫌だって」

 ジュリナは、声を潜める。

 レイナは、少し嫉妬がましいバヤン中佐の言いそうなことだと思った。

「それは、ちがうわ。司令官は、グレイ従兵長が一番のお気に入りじゃないかな。グレイ従兵長にお茶を出されると、司令官はいつもご機嫌を直されているわ」

「あっ」

 と、短く声を上げたジュリナにも何か思い当たる節があったらしい。

「仕方ない。では、偉大な従兵長様の力を借りて、私と司令官とのシュミレーション勝負をセッティングしてもらいますか。エース・カイトウをギャフンと言わせて、我が戦闘機隊の実力を分かってもらわないと」

「まだそんなこと言ってる。司令官が取り合われるわけないじゃない」

「ま、そうだけどさ」 

 机の前で拗ねたように背を見せるジュリナを無視し、レイナはモニターを覗き込む。

 そして、今日何度目かの艦外からのコールに、うんざりとしてなかなか手が伸びない。

「承知しました貴艦のデータと、各訓練成績の順位を伝送いたします。いえ、他艦のデータは公開しておりません。ハイ、よろしくお願いいたします」

「副官はお忙しそうね。司令官も余計なことをされるから」

「本当に」

 ため息をついて、レイナも同意し頷いた。


 インビン到着後、三日。

 カイトウは、突然これまでの訓練結果による優良艦を発表し、上位三艦に司令官賞として報酬を配布していた。

 第一位の艦には、特別休暇一日と全乗組員へのアルコール類を含めた飲料配布。第二位の艦には特別休暇一日。第三位の艦には全乗組員へのアルコール類を含めた飲料配布。

 全戦隊が驚き、騒然となった。

 今まで訓練結果の公表などなく、ましてや報酬の配布など全くなかったのだ。

 報酬を受けた艦は欣喜雀躍し、それ以外の艦は不意打ちともいえる突然の結果発表と報酬の配布に怨嗟の声があがった。

 レイナのもとには、今回の訓練報酬の趣旨説明を求める声と苦情、所属艦の成績結果の通知を求める声が相次いでいた。

 カイトウは、訓練結果の全面公表は行わず、艦長からの問い合わせに対しては、その艦の訓練結果と順位を教えることだけを許していた。


「酒保の開放ッ。本気ですか?」

 戦隊ブリーフィングにおいて、カイトウの提案を聞いた砲術参謀は驚いたように声を上げた。

「それは、兵員は喜ぶことでしょう」

 航海参謀はいつも通り落ち着ているが、その顔は笑っている。

「その費用はどうされるのですか?」

「私費でやりたいのだが、だめだろうか」

「司令官は、わが戦隊の実力をお知りにならない」

 カイトウは、楽し気に声をかけてくる砲術参謀を横目で見る。

「いくら司令官が高給取りでも、酒保を開放しては費用が莫大になるでしょう。特別休暇は問題ありませんが、酒保の開放ではなく飲料の提供ではどうでしょうか。細かなことは副官が準備するということで宜しいのではないでしょうか」

 航海参謀の振りに、レイナは待っていたように頷いた。

「承知しました。各員にアルコール類を含めた飲料の一本の提供。ただし、上限金額を定めましょう」

「全員に高級ブランデーを飲まれては、司令官が破産してしまいますからな」

 砲術参謀の高笑いに、

「任せる」

とカイトウは答えていた。

「ちなみに、我が司令部の訓練結果は下位であるので、各員自覚し戦隊の範となるよう努力すること」

 少し厳しさも含めたカイトウの指示に、その場にいた全員が居住まいをただした。

「そいうことで、今後とも訓練は続行するのでよろしく・・・」


 三


 第二二七独立戦隊に、長距離練習航海は認められなかった。代わって、ベナン星系周辺三宙域の威力偵察任務を命じられていた。

 この任務打合わせのため、ソロモン要塞戦線司令部からは、情報参謀のカミヤ中佐と情報士官であるへリック少佐が各種データを持参し旗艦サザランドを訪れていた。

 面倒草がりのカイトウは、データの転送だけでよいと副官に断らせたのだが、参謀長メノウ大佐は慇懃に任務と情勢説明のために必要であるとして部下の幕僚を送り出していた。


「わが戦隊に、何をお望みですか?」

 幕僚を従えて司令官会議室で戦線司令部参謀と向き合ったカイトウは、そう率直に問いかけていた。

「戦線司令部としては、第二二七独立戦隊の練習航海に反対するものではありません。ただ、今般、戦線司令部においては私掠船の跋扈に根本的対策を行うこととしております。その対策として、ベナン星系に隣接するアトラス、アルファⅡ、ナミブ等の星系の恒久的占領を計画中です。これらの占領作戦実施時には当然、貴戦隊にも活躍をしていただくこととしておりますが、貴戦隊には今回これらの各星系の威力偵察を練習航海を兼ねて実施していただきたいということです」

「威力偵察?」

「はい、もちろん貴独立戦隊の単独任務ですので、偵察以上のものを望むものではありません。また、無理は必要なく偵察情報の入手もできる範囲でよく、貴戦隊の練度向上を優先していただければよいのです」

 カイトウより五歳ほどは若い、いかにもな優男のカミヤ中佐はにこやかなに人懐こい笑顔を見せて話す。

  抜け目なく、憎めない奴だと思いながらも、カイトウは彼が誰に話をしているのか、よく理解しているのだろうかと考える。

 ケイン・カイトウは真面目にして単純、与えられた任務を忠実に実行し、また往々にしてやり過ぎてしまうことを、彼は知っているのだろうか。

「ご承知のように我が戦線は彼我の勢力が複雑に絡み合い、特殊な軍事、政治、経済情勢下にあります。今回偵察いただく星系の情勢については、後ほどへリック少佐から説明をさせせていただきます」

「特にご注意いただきたいのは、これらの星系自治機関、民間船舶に対しての対応は特に慎重にしていただきたいということです。これらの星系は、過去我が連邦の勢力下にあったものであり、連邦を支持する市民も多数います。各星系により、政治状況は様々ですが、今後の占領政策にも影響しますので、星系への侵入、民間船舶への臨検の際には特に注意をお願いします。それでは、お手元のデータに基づき、各星系の状況等についてへリック少佐から説明をさせていただきます・・・」

 面倒だな。

 少し顔色の悪い、長身痩せ型の少佐参謀の各星系の歴史と複雑な政治、経済情勢の長い説明を聞き流しながら、カイトウはこの任務が少し煩わしく思えてきていた。


「それで、あの二人の話をどう思う?」

 カイトウは、二人が帰った会議室の中で部下に問いかけた。

「昨年司令長官が交替されてからは、積極的に攻勢計画の策定がされているようです」

 顔の赤い小太りの砲術参謀は、汗をかきながら話す。

「ただ、現在のソロモン要塞駐留艦隊の実力ではいささか心許ないですな」

 航海参謀が、表情を変えず同意するように小さく頷きを見せる。

「先ほどの説明では、ナミビ、アルファⅡは非武装に近いということですが、アトラス星系は中規模の要塞惑星となっており、私掠船だけではなく艦隊も駐留しいるという情報です。規模は不明ですが、少なくとも、戦隊規模ではなく、数個艦隊が駐留している可能性があります。そのための威力偵察任務でしょうが、我が戦隊との戦力差は大きなものがあるものと思われます」

 副官の冷静な発言に、カイトウは首を傾げる。

 この独立戦隊に、何を求めているのか。

 威力偵察をうかつにすれば、容易に次の策を見透かされるのではないのか。

 心許ないのは、我が戦隊の実力も同じこと。

 また、俺への嫌がらせか。

 カイトウの、疑念は深まる。

「それで、どうなさいますか?」

 そう、砲術参謀に問われたカイトウは、

「これまで通り訓練を実施する。各艦には、今回も報酬があると事前に通知しておこう」

「ベナン星系隣接宙域を周遊する。航海参謀、航路は承知しているかな」

「はい。速やかに航路計画を策定します。」

「物資は定量規格の一二〇%。特に監視ポッドと宙雷は多めに搭載しよう。何があるかわからないからな」

 そう、副官に指示をした。

「私掠船どころか、敵艦隊と遭遇するかもしれませんが?」

「臨機に対応しよう」

 砲術参謀の心配顔に、カイトウは気楽そうに答えていた。


「従兵長は、ソロモン戦線に長いようだけれども、カミヤ中佐を知っているかい?」

「はい」

「彼をどう思う?」

「鋭い頭脳をお持ちの方のようです。人当たりの良い方で、そしてあの人懐こさ。いつの間にか人の懐に入り込む。恐ろしいほどですな・・・」

「優秀過ぎて、少し怜悧な方かもしれません。そういう方は、司令官は、あまり信用なさらないのでは?」

 カイトウはにやりと笑い、ミルクティを啜る。

「へリック少佐は、どうだろう?」

「とても優秀で、真面目な方でしょう」

「なにか、悩みがあるようだったが・・・」

「お気づきでしたか。彼はソロモン出身で、父親は政治家でした。彼の星は今、バルカの治世下にあるはずです」

「そうか・・・」

 彼の出身星系は、今はバルカの地なのだ。このソロモン要塞戦線では、そのような例は少なくない。出身星系と敵対するに軍に勤務することは、楽ではあるまい。

 だが、バルカ同盟領内への特別なパイプは、情報部門としてはいろいろな使い道があるのだろう。

「戦線司令部は、私掠船の巣を一掃したいようだが?」

「前司令官は、自身と戦隊の評判が犠牲となっても現状の維持を優先しておられました。徒な侵攻の応酬による、民間人や戦隊乗組員の犠牲を厭うたのです」

「しかし、少し私掠船をつけあがらせ過ぎたかもしれません。彼らはやり過ぎました。今の戦線司令長官と前戦隊司令官は意見の相違があったようです」

「そして現在、バルカ同盟は内紛で揺れています。また、我が軍はバルカ同盟領侵攻作戦の惨敗を忘れかけております」

「そうだな・・・」

 カイトウは思い悩む。

 以前の上司であるシンガ要塞戦線のヤオ司令長官は、参謀から戦隊司令官に転出となりやさぐれ気味のカイトウに、戦術を極めるだけで満足してはならないと諭していた。

 学ばねばならないことは、いくらでもあると。

 戦術を極めても、それを何のために如何に用いるのかが大事である。

 それは、戦術と戦略の間を埋める作戦術か。それとも戦略か、あるいは政略までもか。

 今、この戦線には何が求められているのか。我が戦隊は今、何を為すべきか。

 そんなこと、わかりはしないさと、カイトウは鼻で笑う。

「新司令官には、新司令官の手法がありましょう」

 憂い顔のままのカイトウに、グレイはそう声をかける。

「とにかく情報部門の軍人は、裏が多くあまり信用はできません。今回の任務も文面だけでそのまま受け取ることは危険でしょう・・・」 

 強い眼差しを向けられた、グレイが司令官席から数歩後ずさる。

「司令官の茶飲み話のお付き合いをするのも、従兵長の大切な仕事の一部と心得ております」

 次のカイトウの問いかけを、察してしまったようだ。


 四


 戦艦サザランドは、旧式戦艦である。速力は遅く、武装も装甲もすでに旧式化していた。特に機関は不調が多く、艦長であるボリバル大佐をいつも嘆かせていた。

 しかし、旗艦専用戦艦として司令官公室や各種会議設備等の司令部専用設備が設けられ、通信指揮能力も強化されていた。

 特にカイトウが気に入っていたのは、新造艦では無駄であると廃されていた艦尾回廊スターンウォークが未だに設けられていたことであった。

 司令官私室から司令官公室、司令艦橋を繋ぐこの細長い回廊は司令官しか使用が許されていなかった。カイトウはよく、この回廊を物思いに浸りながら幾度も行き交い、時おり舷窓に映し出される宇宙空間と僚艦の艦影を眺めていた。

 端末を操作すれば、各種データからも映し出せ、ソロモン要塞戦線全体から全宇宙までの天球図も投影できた。

 歩き疲れたカイトウは、回廊の中央部にあるソファに座りアイスミルクティを飲む。

「悪くない」

 副官からの連絡に、腕の端末が瞬いてるのを無視してカイトウはソファに横になる。

 さすがに、寝てしまうのはまずいなと思いながら。

 

 第二二七独立戦隊は、予定より二日早くナミブ宙域に侵入した。

 訓練航海を味方宙域内で一週間行った後、敵勢力下に侵入し威力偵察を行う予定であったが、カイトウは一定の訓練成果を得たとして早めに切り上げていた。

「承知しました」

 突然の計画変更に、誰も異を唱えなかった。

 レイナに至っては、周到に準備さえ整えていた節がある。

 カイトウのやり方が浸透してきた気もするが、驚きも反対もされない状況は少し物足りなさもあった。

 信頼でき、能力がある補佐役的な参謀長が欲しかった。

 先任参謀は砲術参謀のバヤン中佐であるが、あまり負担をかけ過ぎると緊張とストレス、高血圧で倒れそうであった。航海参謀のキナイ中佐は航法や艦隊運動は傑出しているが、専門的に過ぎた。副官のカンノ中尉は、優秀であるが若すぎ未だ経験が足りていない。

 そして、あの従兵長は、いつも素知らぬ顔だ。


 ティロニア連邦軍艦艇が、この宙域に侵入するのは数年ぶりのことであった。

 戦隊は輸送艦や工作艦などの非戦闘艦を後方に配置し、ピケット間を周囲に展開させて厳重警戒態勢で侵攻したが、ナミブ星系に敵影はなく静かであった。

 数隻の民間船を発見し臨検したが、軍需物資の運搬や私掠船との関係などの怪しい点が確認できなかったので解放していた。

 予定航路を確認し、必要であれば護衛もしようと申し出てみたが、武装した臨検隊に脅える船長に丁重に断られていた。

 ナミブ星系は要塞化されておらず、対艦隊兵器は配備されていなかった。星系内を探索しても私掠船の姿は見えず、各惑星の港内は空であった。

 戦隊は星系内を示威航行するだけで、何の呼びかけもせず、向こうからも一切の通信はなかった。

「入港はなさいますか?」

「いや、今回はやめておこう」

 キナイ航海参謀は、司令艦橋の正面に投影されているナミブ星系を懐かし気に眺める。

「ナミブは何年ぶりですかな。何もない星ですが、昔は良い酒場があったので近くに来た時はよく寄ったものです」

「まだ、ありますかね?」

 何気なく問いかけるレイナに、航海参謀は悪戯気に答える。

「どうだろう。副官が生まれる前の話だからね」 

 いつもより多弁に副官に話しかける航海参謀の高い背を、カイトウは好ましい思いで見ていた。

 

「これで、我が戦隊の侵入はバルカ同盟に知られたわけだ。次のアルファⅡ星系には、覚悟していかねばならないと思う」

 旗艦サザランドの司令艦橋で、司令官席を後方に向けたカイトウは自分の幕僚に声をかける。

 第二二七独立戦隊での会議は、いつもこのように突然始まるのだ。そしてそれは会議というよりも、カイトウによる指示伝達であることが多かった。

「どのような陣形で行きますか?」

「非戦闘艦を球形陣形で中央に。戦闘艦は、その周囲に展開する」

「しかし、それでは降下作戦による占領を意図した艦隊に勘違いされませんか?」

「そうだね」

 砲術参謀の危惧に、カイトウは軽く答える。

「そうなれば、敵も全力で迎撃してくるだろう。本気の敵に会敵しなければ、訓練の成果は確認できない」

「敵艦隊は出てきますか?」

「おそらく、アルファⅡでは私掠船隊だろう」

 アルファⅡは、私掠船の基地として知られている。もし失うことがあれば、私掠船の今後の活動は著しく制限されることになる。

 また、アルファⅡ星系はナミブ星系とは違い鉱山惑星も多く、居住人口も少なくない。バルカ同盟にとって、軍事的にも経済的にも価値は高い星系であった。

「敵は、何時攻撃してくるでしょうか?」

「敵にとって、一番効有利な時じゃないかな」

 訓練の成果を見てみたい。

 そう思ってるカイトウは、不敵に笑っていた。

 

 カイトウの読み通り、戦隊はアルファⅡ星系宙域侵攻前から私掠船の触接を受けていた。

 そして、アルファⅡ星系侵入後二日。敵の攻撃は、突然始まった。

「敵接近!。私掠船のようです。二隻。直上天空方向」

「左舷下方一六時。俯角七〇度。少数船高速接近!」

「右舷上方からも来ます。二隻」

 監視オペレーターの声は、悲鳴を上げているようだ。

「落ち着いて。艦種、艦数、座標、方位、速度を確実に把握報告して」

 レイナの鋭い叱責に、カイトウは目を細めてうなずいた。

 一つ、指示することが減った。

 ほぼ同時に、三方向から少数の私掠船が高速で戦隊に一直線に向かってくる。

 この意味は。

「砲術参謀、砲撃目標分割。落ち着いて、確実に接近する私掠船を破壊するように」

「了解しました。各艦指定の私掠船砲撃。確実に接近前に撃破せよ」

「焼討船戦法ですか?」

 レイナの低い、緊張した声。

「だと思う。戦隊内で派手に自爆する無人船だろう」

 砲術参謀が青ざめる。

「民間船改造の自爆船だ。装甲は無いに等しい。進行目標はわが戦隊中央部である。確実に破壊するのだ」

「了解しました。統制砲撃、開始ッ」

「航海参謀。自爆船が破壊できない場合に備え陣形を変更する。各艦散開用意。非戦闘艦も同じく」

「了解です」

「爆発は巨大の可能性がある。各艦自爆船との十分な距離を取ること」

 航海参謀は落ち着き、陣形変更データを各艦に送っているのをカイトウは確認した。

「焼討船戦術とは懐かしい戦術ですね」

 航海参謀のつぶやきに、要塞惑星攻略に無人艦の囮戦術と自爆戦術を多用していたカイトウは苦笑う。

 バルカ同盟成立初期、軍事的に不利な状態にあったバルカ同盟軍は不正規戦術により対抗していた。ティロニア連邦の後方戦線に民間船に偽装した私掠船と焼討船を組み合わせた戦術で攻勢を行い、その補給線に大きな打撃を与えていたのだ。

「焼討船だけではないだろう。こちらの動揺に付け込んで、本体の私掠船団が突っ込んでくるはずだ」

「全艦にその旨通知。徹底させろ」


 第二二七独立戦隊の砲撃技量は、確実に上がっている。統制砲撃は三方向から接近する焼討船を確実に捉えている。

 が、なかなか破壊できずにいた。

「くっ、装甲を増しているか」

 砲術参謀の呻きにも似た声に、カイトウは敵の私掠船の脅威を見損なっていたかと考え直していた。

 短い時間ながら、彼らも備えていたのだ。

「ミサイル斉射!」

 カイトウの命を待っていたかのように、各艦からミサイルが白い尾を引いてエネルギービームの光芒の中を駆け抜け焼討船に躍りかかる。


 突然、焼討船が爆発した。

 司令艦橋には歓声が立つ。

「静粛に!」

 レイナが声を出す。

「なかなか砲術の精度も上がったな」

 得意げな砲術参謀の隣で、微笑むレイナが驚きの声を上げた。

「あれは!」

 大爆発。

 焼討船から蛸足状に伸びた爆焔からさらに小爆発の爆焔が広がり、周囲の空間を埋めていく。

 視界はおろか、電波障害により通信や探知に支障が生じている。

「やるな」

 戦隊の四周は、次々と爆発する焼討船の爆炎に包まれた。

「来ます。私掠船多数。近いッ」

 爆焔を突き抜け、私掠船の群れが飛び出て来た。一段となり猛射しながら、中央部の非戦闘艦の球形陣を目指す。

「計画通りに陣形を変更しますか?」

 航海参謀の問いかけに、カイトウは首を振って答える。

「いや。少し変更しよう。少し私掠船を舐め過ぎていたかもしれない。非戦闘艦の陣形に戦艦を組み込む」

 球形陣の非戦闘艦達は囮であるだけではなく、私掠船団をい徹底的に撃ち砕くためのアンビルであった。

 しかし、アンビルが脆すぎては、要らぬ損害を出してしまう。多少槌ハンマーの火力が減ってもやむを得まい。

 「散開」

 戦隊は各艦の間隔を広げ、私掠船団は乱射しながらその隙間を駆け抜ける。陣形中央部の非戦闘艦の球形陣に突きかかる。

 輸送船団であろうと、思っていたのであろう。

 実はそれらの艦は非戦闘艦ではあるが、艦艇であり装甲と小火器を有していた。その上に、戦艦が加わり装甲の盾を並べている。

 装甲の盾がアンビルとなり私掠船断の突進を受け止め、 背後から味方艦がハンマーとなって撃ちかかる。

 砲撃調整は既に行われており、照準は容易であった。

 アンビルの上で、叩き延ばされる灼熱の鉄棒のように、私掠船団は撃ち砕かれていく。

 アンビルは巧妙に計算された斜傾陣となっており、私掠船団は突破もできずに誘われた道を行かなばならない。

 ハンマーアンビルに挟まれ、砲火の雨に撃たれながらの敗走であった。着弾の煌めきの中で、私掠船は次々と撃ち砕かれていく。

 その数、約三〇隻。

 再び各艦は快勝に歓声が渦巻いたが、今回はカイトウは何も言わなかった。

 レイナが側に来て、顔を覗き込んでもカイトウは少し恥ずかし気に微笑を返しただけであった。

「追撃はされますか?」

 カイトウは考える。

 私掠船乗組員は、軍人ではない。捕まれば、海賊行為、殺人、強奪、破壊活動等の罪により刑法犯として重く裁かれるのだ。

 行先は、捕虜収容所ではなく、過酷な重罪犯専用刑務所である。

 私掠船員は、必死に戦うだろう。無理に鹵獲しようとすると、こちらにも予想外の損害が生じかねない。

 気になることもあった。

「オペレーター、何か気づいたことがあるのなら報告しろ」

 突然のカイトウの大きな声に、窓際のオペレーターたちは身を竦めた。

 先ほどからのオぺレーター員の不審の騒めきに、カイトウは気づいていたのだ。

「一瞬ですが、敵艦の艦影を捉えと思うのですが、直ぐに見失いました」

「確認せよ。副官、探知記録の解析を。監視網の再構築を急げ」

「陣形を組みなおす。敵船は、緩やかに追い散らせ」

「先ほどの未確認艦は、敵の駆逐艦と巡洋艦数隻のようです。現在は離脱しているようで感知できていません」

「高見の見物か・・・」

 カイトウは唇を引き締めた。

「私掠船の追撃をいたしますか?」

「必要ないだろう」

 破壊された私掠船からは、蜘蛛の子を散らすように救命艇が脱出している。

 放棄された艦は、次々と自爆し追撃の妨げとなっていた。

 焼討船の爆焔も徐々に薄れていく。

「我が艦隊の損害と弾薬の消耗状況は?」

「各艦目立った損害なし。弾薬についても、次回戦闘に問題はありません」

「敵私掠船団を壊滅させました。逃がした私掠船は数隻で、それにもかなりの損害を与えております」

 ご満悦の砲術参謀は、何時以上に饒舌だ。

「そうだな」

「それで、これから如何いたしますか?」

「弾薬補給と各艦の応急整備後、アルファⅡ星系を偵察する。そのために来たのだからな」


 五


 辺境のソロモン要塞戦線。その果てにある二つの恒星と五つの惑星からなるアルファⅡ星系には、バルカ同盟軍は駐留していなかった。 幾つかの港湾に僅かの小型船舶が停泊しているだけであり、艦艇も私掠船も防御兵器も見当たらなかった。

 ただ、星系を偵察をする戦隊に対して、星系自治政府からの警告が発せられていた。

「こちら、アルファⅡ星系自治政府である。貴艦隊の所属と航行目的を知らせよ。ティルジットの和約により我が政府の許可なく星系内を武装艦が航行することは許されない。速やかに星系内から退去されたい」

「勇ましいですな。威嚇砲撃でもしてやりますか」

 砲術参謀の言葉を、カイトウは聞き流す。

 アルファ星系の惑星を、衛星軌道から第二二七独立戦隊は見下ろしている。

 彼らは、脅えているのだろう。

 いつでも、破壊も占領もできる態勢である。

「そうもいくまい。私掠船の追跡中である。逃走中の私掠船の情報を求むとでも連絡するように」

「承知しました」

「まあ、返事はないだろうけど」

 

「さて、これからのことだけれども」

 旗艦サザランドの司令艦橋で、幕僚を前にしたカイトウはそう切り出した。

 アルファⅡ星系の偵察を終えた第二二七独立戦隊は、早々に星系を離脱し、ティロニア連邦戦線を目指し航行していた。

「帰還するのではないのですか。我らは私掠船団を壊滅させ、もう十分戦果をあげていますが?」

 砲術参謀の意見は、戦隊全員の意見でもあるようであった。

「さらに、敵艦隊にも触接を受けています」

「そうだな。しかし、われらの任務は敵三星系の威力偵察である。残るアトラス星系も偵察する。ただし、敵艦隊との会敵も予想されるので、非戦闘艦は帰還させ戦闘艦のみで行動する」

 現在の航路は、分派する非戦闘艦の安全宙域までの護衛と戦隊行動欺瞞のための一時的な帰路であったのだ。

「それで、非戦闘艦を分派するまでは合同訓練を実施し、分派後はそれぞれ訓練を実施する。訓練計画を策定するように」

「まだ訓練を、行うのですか?」

 少し飽きれ気味の副官の問いかけに、

「当然だ。今回の航海の任務は訓練と威力偵察だからな。とにかく、今回も味方討ち(フレンドリーファイア)による被害が出ている。特に砲撃と艦隊運動の連携に問題があるようだ。この点を重点とするように」

「承知しました」

 レイナは畏まる。

「鬼か・・・」

 誰かが低く呟いて、思わずカイトウが声を出して笑ってしまい、司令艦橋は笑い声に包まれた。


                     <第四章 アトラス に続く>


 第三章私掠船です。

 最初の任務を完遂したカイトウには、次の任務を与えられました。

 二つの星系の威力偵察を終え、私掠船団を撃破した第二二七独立戦隊は、次の目標である要塞惑星アトラスに向かいます。

 続く第四章は「アトラス」です。


 この章で出てくる「私掠船」「肉屋の勘定書」「焼討船」などは、大好きなホーンブロワーシリーズ(セシル・スコット・フォレスター原作)からヒントいただいています。帆船時代の内容だから少し古い内容かも。

 セシル・スコット・フォレスター原作の「駆逐艦キーリング」も、最近トム・ハンクス主演で映画化されたようです。見てみたいな。

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