百合魔王航空第0006瓶~静岡焼き肉パラダイス in 新歓~
漕ぐ。
漕ぐ。
ただ、漕ぎまくる。
「ご覧ください。特大電球が輝いています。このように人力で発電することで、災害時の助けとなることができるのです! みなさんも自転車部に入って、自家発電してみませんか?」
部長の演説中も。
私、三瓶ときわは。
漕ぎ続ける。
◇
部員全員の「お疲れさまー!」と同時に、店内にグラスのぶつかる音がカチコンと鳴り響く。
「ねぇー、部長に『自家発電』なんて言わせたの誰ー?」
「や、やめとこうよその話は」
「副部長じゃないの?」
今日の新入生歓迎会、その反省会。やはり部員全員が気になっているのは部長の「自家発電」発言だった。もちろん、あのパフォーマンス内容に全く関係の無い単語ではない。ではないが、である。
まあ、そうは言うものの。
「豚バラの塩ダレ二人前ください!」
「すいません野菜の盛り合わせとエビ、あと牛タンも三人前ずつ追加で」
運動部らしいといえばらしい。
話題は少し暗礁に乗り上げたところでフェードアウトし、皆一様に目の前の焼き肉へと興味を奪われていった。
「……あの、愛粕先輩」
「ん?」
「……私の勘違いでしたら謝りますの。……そのジョッキの中身」
「…………」
「……ビールじゃありませんこと?」
「…………飲み切っちゃえばこっちのもん!」
「あー!」
◇
満腹になって店を出る頃には、日もかなり傾いていた。
「みんな、お疲れさまですの」
自転車に跨がり、左耳にイヤホンを入れる。
「ときわちゃん」
ヘルメットを被ろうとして、三年の大空ひかり先輩に声をかけられた。……以前はかなり子どもっぽさが前面に出ていた先輩も、もう最上学年。まだ幼さは残るものの……そこには少なからず女性としての色気も上乗せされたように感じる。
「なんですの?」
「今年も変わらず、そのスタイルなんだねっ」
「ええ。夜来香の曲を聴きながら、帰路を走る。これが、私の帰宅スタイルですの」
「そっか」
「それが、どうしたんですの?」
「ううん。ただね、わたし達は今年が最後だから。みんなといっぱいお話しておきたいなって」
最後。そうだ。
先輩達と過ごす日々も、あともう少し。
もう少しだけだ。
「……最後の最後まで、私達後輩が先輩にタスキを繋ぎますの。勝利への航路は、私達全員で舵を切りますの!」
「うん。じゃあ、今年もよろしくねっ!」
「よろしくですの!」