百合魔王航空第0004瓶~トリニティ・フェイスの魔王達~
「……それじゃあ、今日も行ってきますわ」
「いってらっしゃいませ、お姉様」
私は三瓶せつな。偉大なるときわお姉様の妹にして、三瓶家の次女。今日も、自転車で登校していくお姉様を車内から見送る。リムジン移動の怠惰な私と違い、お姉様は自力で自転車を漕いで通学をしています。自転車部員の血が騒ぐのか……いいえ、もっと違う理由があるのです。
「ではせつなお嬢様、我々もそろそろ」
「ええ、今日もお願いしますね」
◇
時はお昼休み。私はいつも通り、学園の緑地の一角へ。そこには既にパラソル、白い円形テーブルとチェアが。使用人のみなさんに用意してもらったものです。
「今日のお昼はなんでしょう?」
「はい。クラブハウスサンドとコーンスープにございます」
「素敵ですね。いつもありがとうございます」
コーンスープを一口。春真っ盛りのこの季節に外での食事は少々肌寒いですね。風除けを設けてもらいましょう。
……さて、サンドイッチを楽しむ前に、BGMの支度をしなければいけませんね。
ジャケットの右側を捲り、腰に付けた機械からワイヤレスの小型インカムを外して耳へ装着します。ベルトを使ってスカート沿いに巻かれているビデオカメラほどのサイズの機械本体にはいくつかのダイヤルやスイッチがあり、周波数を調整することができます。私が「通信ベルト」と呼んでいるそれの受信機はこの本体。そして送信機は……。
ときわお姉様のスマートフォンに仕込んであります。
「ああ、今日も甘美な響き……!」
少しずつ音量を上げると、喧騒の中で麺をすするような音が聞こえてきました。
『……調子に乗って七味をかけすぎましたの』
『三瓶さん大丈夫?』
『交換してもらった方が……』
『げほっ。……いいえ、出されたものは残さないのが主義ですの。煮卵で辛さを緩和しながら食べますわ』
堪えながら食べ進めるお姉様のお姿を見られたらどれほど良いことか……。本当はお姉様の通っている星花女子学園の全域にカメラを設置したかったのですが……そこの運営母体からどうしても許可が下りずに断念。強行したところで三瓶家とその母体「天寿」との関係が悪くなるだけですから。時には我慢も必要です。
◇
『お○ぱい温めて出直して来やがれですわ』
お姉様の厳しいお言葉。なんて美しいのでしょう。やはり「百合の王」を自称するお姉様には、この堂々とした立ち振る舞いが一番お似合いです。お姉様お気に入りのあのラウンジは我が家の敷地内。カメラを取り付けるのは造作もないことです。帝王たる面持ちやお声をモニター越しとはいえ、鮮明に見聞きできる夜の時間は、私にとっても至福の時間なのです。
さあ、お姉様。
私を従える、最高の王になってくださいね。