灯り舟
灯り舟、体験記です。
私は昨日から緊張していた。
夜舟(灯り舟)の担当を言われて、落ち着かないのだ。
夜の川下りは白秋祭(11月に行われる)以来となる。
夜舟の担当は、普段より遅い出勤となる。
出勤まで時間があるので、文を書いたりして、時間を潰した。
残り一時間は身体を休めようと、ベッドに横たわったが、何気にYouTube動画を見てしまい、残り30分となる。
俺ってしょーがない奴だなと自嘲し起きる。
コンビニでカップラーメンとライチのドリンクを買う。
お昼は弁当があるけど、今日は長丁場お腹がもたない。
500㎖のドリンクを飲み干すと、ちとお腹が緩んできた。
会社に着くと、早速、舟上げ。
足湯という場所から会社の乗船場まで一時間半ぐらいで舟をあげる。
今日は晴天、天気はすこぶるいい。
だけど・・・風がやばい。
時折、唸りを上げる風が舟の進行方向を変える。
向かい風は竿をさしてもさしても前に進まない。
昼間はいい、全然いい。
頼むから、夜舟の時は風よ収まってくれ。
いや、ください。
会社に戻り、お弁当を食べる。
・・・お腹の調子が、緊張と水分の取り過ぎで下痢ピーとなる。
はじめての時って、こうなんだよな。
私は便器に腰掛けると目を閉じた。
灯り舟の準備をする。
風に強い竿を選ぶ。
舟の手すりに設置された提灯を照らすバッテリー、行灯、ランタン、テーブル、もしもの時のレインコート等を灯り舟に積み込む。
各照明がつくのかを確認したら、船外、船内、清掃をする。
もう一度、舟あげに行く。
風はまだ強い、頼むから夜は収まってくれよ。
懇願する。
ハイエースでお客様を送ったり、船頭を迎えに行ったりしている内に夕方となる。
会社が店じまいを進める中、私は乗船場に灯り舟を係留する。
舟のデッキに腰を下ろし、沈む夕日をぼんやりと眺める。
あっ・・・腹痛っ・・・トイレに行こう。
そんな私に若手のみんなや船頭長が心配してくれて、色んなアドバイスをいただいた。
ありがたい。
私は、またデッキに腰をおろす。
心なしか風がおさまってきたようだ。
私は声掛けをして、10分ばかり一人で舟を漕いでみる。
柳川橋を抜けると風がやはり強い。
でも、だいぶ風はおさまってきている。
これなら大丈夫かな、少し安心した。
夕日が沈み、夜となる。
やがて時間となりお客様が見えられた。
すべての舟の灯りを点灯する。
夜の川にぼんやりと浮かぶ灯り舟。
「わあ」とお客様から歓声があがる。
お客様が舟に乗り込み、持参のご馳走やお酒、ジュースがテーブルに並べられる。
舟は静かに乗船場を出発する。
いつもより、少な目のガイドで、お客様の食事歓談を邪魔しないように心がける。
地元柳川のお客様で、お話を聞くと川下りを贔屓にされている方だった。
無事、柳川橋をくぐり抜ける。
さっきまでの強風が嘘のように、穏やかな二つ川となっていた。
闇の水の上をゆっくりと舟は進む。
夜空には朧月夜。
夜もいいな。
私はそう思った。
だけど、夜は・・・暗い。
鳥目の私は、慎重に操船を心がける。
ゆっくりゆっくり慌てず慎重に、柳川城堀水門をくぐり、舟はお堀へ。
所々の岸にはライトアップがされていて、その周辺りの視界はある。
だけど、ライトがない所では、全くの闇、暗い中を進むことになる。
特に数ヶ所の橋下は真っ暗だ。
何度も川下りをしてきた。
ここは経験と勘を活かす時だ。
ゴンッ。
橋脚に軽くあたった。
てへっ。
何隻かの灯り舟とすれ違う。
同じ灯り舟。
なんだか、少しだけほっとする。
おだんの生まれは柳川たんも
生まれたとっからまんのよか
ごんしゃんたんねて掘割来たら
柳とわくどがじゃれまくる
こげんよかとこ どけでんなかったい
柳川 柳川 おだんぶし おだんぶし
私は「柳川おだんぶし」を歌う。
舟は夜のお堀をゆっくりとゆっくりと。
静かに終点沖の端へ。
「ありがとうございました」
(勉強させていただきました)
お客様に感謝をし、私は一人、足湯に戻る。
静かな夜のお堀に虫の声と竿をさす音。
夜空にはお月さま。
高揚しているせいか、身体があったかい。
夜風が心地よい。
ゆっくり、ゆっくり、夜のお堀を舟は進む。
読んでいただき、ありがとうございました。