表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも朝日は昇る  作者: 柴崎桜衣
第六章 二人の預言者
64/153

6章6節

 暗闇の中に立っていた。

 上下左右も判らなくなりそうな濃密な闇の中、無数の細い輝きが見えた。

 糸だった。きらきらと光を放つ、細くてしなやかな糸。

 それがびっしりと、自分に絡みついている。

 指に、腕に、足に、首に。

 つい、と糸が引かれる。それだけでたやすく、己の指が動く。

 違う糸が引かれる。それだけでたやすく、足が前に出た。

 喉に絡みつく糸は声を操り、言葉すら意のままになる。

 ――嫌だ。

 叫び出したいのに、言葉が、声にならない。声を出すことすら、自分の意のままにならない。

 しゃらしゃらと糸がこすれあって音が鳴る。脳を貫くようなかんだかい音の中、浮かんだのは白い人の影。

『カイルワーン、どうしてなの?』

 白い影は、裏切られた、傷ついた面持ちで、自分を責める。

『私を守ると言ったあの言葉は、嘘だったの?』

 ――違う、違うんだ。

 言葉は、どんなに力を込めても出てはない。答えぬ自分に、影は悲しげに問うた。

『どうしてあなたが私を殺すの?』

『それが定めだから』

 ようやく出た声は操られ、望まぬ言葉は影を際へと追いつめていく。

 壁を乗り越えた白い影は、悲しいほど緩慢な速さで落ちていき、そして。

 赤が、広がる赤が目の前を、裏を、体を染め上げていく。

「うわああああああああっ!」

 叫んだ自分の声で、カイルワーンは我に返った。ようよう鮮明になる視界は、白日の下に見慣れた自分の部屋を映し出す。

 白昼夢とは思えない鮮やかな光景に、カイルワーンは血に染まったはずの己の腕を見た。

 血の染み一つない白い腕に、青い血管が透けて見える。

「僕は……僕は……」

 白い影。『拝謁の露台』から身を投げて死んだ魔女。

 迫りくる、定めの一言で片づけられる未来。

 それを紡ぐ、天の繰り糸。

「アイラ……僕は……」

 呟いた時、恐ろしいほどのけたたましさで扉を叩かれた。

「カイルワーン様、カイルワーン様!」

 呼ぶ声に喜色が混じっているのを感じ取り、カイルワーンは床にへたり込んだ。

 来た。

 カイルワーンはただ己を呼ぶ声だけで、察した。

 帰ってきたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ