SLIPKNOT
今回は現代へヴィロックのアイコンのひとつであり、常に賛否両論を醸す存在であり続けながらも巧みに時代をサバイブしている異才派軍団、SLIPKNOTをご紹介します!
彼等は1995年、アイオワ州のデモインで結成されましたが、メンバー曰く「何もない田舎で大人達は保守的、一刻も早くこの街を逃げ出したかった」そうで、溜まりに溜まったマイナス感情を吐き出す為に別の人格が必要だった事から、近所のホームセンターで買ってきたマスクを被り、素顔を隠してパフォーマンスする事になるのでした。
結成はリーダーのショーン(Per.Vo)とポール(Ba)が主導権を握りましたが、余りにもメンバーの遍歴が多い為に過程は省略させていただきます。
アメリカ全土デビュー当時のメンバーは、ナンバー順に0シド(Turntable)、1ジョーイ(Dr)、2ポール(Ba)、3クリス(Per.Vo)、4ジム(Gu)、5クレイグ(Sampler)、6ショーン(Per.Vo)、7ミック(Gu)、8コリィ(Vo)の9名で、2020年時点ではジョーイとクリスが脱退し、ポールは死去。ジェイ(Dr)、アレッサンドロ(Ba)をヘルプに迎えました。
面白い所では、サンプラー担当のクレイグは加入当時はギタリストだった事でしょうか。
メンバーの中で一番寡黙な彼のギター、聴いてみたいですよね。
彼等は1996年に地元でインディーズ・アルバムを発表していますが、アメリカ全土、全世界でのデビュー・アルバムは1999年発表の「SLIPKNOT」で、奇妙なルックスと過激なパフォーマンスから、当初は色物扱いされていました。
しかし、KORNをブレイクさせた名プロデューサーであるロス・ロビンソンが惚れ込んだ、9人編成ならではの分厚く激烈なヘヴィサウンドと、多種多様な音楽性がミックスされた個性、とどめに、とても素顔では歌えない猟奇性と嫌悪感丸出しの過激な歌詞がトッピングされ、メロディーは殆ど無いのに何処かポップさを感じさせる楽曲とコリィのボーカルも手伝い、彼等はデビュー・アルバムから50万枚を売り上げる大成功を収めます。
急激な大成功にメンバー自身が戸惑いながらも、自分達を見下したマスコミやライバル・バンドへの憎悪も追加された彼等はさっそくマスクを高級オーダーメイドに新調し(笑)、セカンド・アルバムにして最高傑作「IOWA」(2001)を発表しました。
過激さもクオリティもピークに達した本作は100万枚の売り上げを記録し、全米チャートで3位、イギリスではまさかの1位を記録します。
ライヴツアーでも世界中を駆け回り、この世の春を謳歌している様に見えた彼等でしたが、急激な成功とあり余る金、それでいながら身動きの出来ないハードスケジュールに縛られ、メンバー間の衝突や確執が増大してしまい、ツアー終了後には活動停止状態に陥ってしまうのでした。
そんな彼等の復活を後押ししたのは、世界中で熱狂的に彼等を迎えるファンの存在で、「ファンのお陰で、俺達は生まれて初めて暖かい気持ちになっている。この気持ちは作品に反映させてはいけないと思うんだが……」という、コリィの素直なコメントも聞けた2004年、彼等はサード・アルバム「VOL.3 THE SUBLIMINAL VERSES」でシーンに戻って来ます。
しかしながら、メンバーの心境の変化が持ち味の激烈さを薄めた事は否定出来ず、新しいファンを獲得する代わりに古くからのファンを少しばかり失う形となってしまいました。
以降、メンバーのソロ・プロジェクトを含めてマイペースな活動を続けている彼等ですが、富と名声を手にしたにも関わらず、ハングリーな怒りを蘇らせようとする余り、敢えて周囲を敵に回す様な言動を繰り返すショーンや、報酬未払いを訴えて解雇されてしまったクリス、バンドのまとめ役だったポールの死等、正直バンドの存続に痛々しいものも感じてしまいます。
音楽的にも、メイン・ソングライター・コンビであったポールの死去とジョーイの脱退は痛手で、バンドの魅力の大半を背負っていたコリィのボーカル、ジョーイのドラムという2大要素の内の半分を失ってしまってからは、良作を発表し続けてはいるものの、別のバンドになってしまった様な印象が否めません。
音楽以外の才能があるメンバーも多くいるので、SLIPKNOTの存続に拘るよりも、各々の活動にスイッチしていくべき時期が近付いていると感じますね。
彼等の魅力は、激烈なヘヴィ・サウンドに巧みにミックスされた多彩な音楽エッセンスと、それをひとつにまとめ上げるコリィの壮絶でありながらポップ・センス溢れるボーカル、ジョーイの超絶テクニックと安定感を兼備したドラムに尽きると思います!
嫌悪感丸出しの歌詞に関しては、私個人としては余り共感出来ませんし、決して万人向けのメロディックな楽曲でもありませんが、それでも歌詞が直接耳に入ってこない日本人には、それらのイメージが悪影響を与えない程の説得力が音から伝わりますね。
彼等のおすすめアルバムは、やはり初期の2枚「SLIPKNOT」(1999)、「IOWA」(2001)で、ライヴ盤の「9.0:LIVE」(2005)も輸入盤がお買い得プライスで入手出来ます。
しかし、彼等のベスト・ライヴが収録されているのは実は単独アルバムではありません!
SYSTEM OF A DOWN、MUDVAIN、NO ONE、AMERICAN HEAD CHARGEとの競演ライヴ盤である、「THE PLEDGE OF ALLEGIANCE TOUR」(2002)に収録されている3曲のライヴ・テイクこそが、彼等の全ライヴ・テイクの中で断トツの出来です!
当時のヘヴィロックの見本市としても楽しめるので、是非聴いて欲しいですね。