SLAYER
今回はスラッシュメタルの大物、現在フェアウェル・ツアー中で先日ライヴCD、DVD、BLUーRAYも発売されたばかりのSLAYERをご紹介します!
スラッシュメタルとは、MORTORHEADの様なスピィーディなハードロックや、イギリスのへヴィメタル・ムーブメント「NWOBHM」のピュアな初期衝動・攻撃性に魅せられたアメリカのバンド達が、ハードコア・パンクのストリート性も歌詞やファッションに取り入れる事でスタイルを築き上げた、発祥当時から多分にクロスオーバー的要素を感じさせる音楽ジャンルでした。
先日ご紹介したOVER KILLやANTHRAXといったアーティストは、USハードコア・パンクのメッカであるニューヨーク出身であった事から、ハードコア・パンクのルーツを感じさせるサウンドやファッションを現在も貫いていますね。
(OVER KILLも結成当時はドラキュラみたいなメイクをしていた事は黒歴史にしたいみたいですけど……。)
しかし一方で、L.A.オレンジ・カウンティ出身のSLAYERは、当時流行のL.A.METALバンドのチャラいファッションに憤慨し、パンク等には目もくれず、ひたすら愛するJUDAS PRIESTタイプの硬派なへヴィメタルをよりへヴィにする事に心血を注いでいたのです。
(それでも結成当時はドラキュラみたいなメイクをしていたんですけどね……。)
そんなある日、オカルト的な禍々しさでアピールする一環として、たまたまライヴ中に引き裂くつもりで用意した十字架のタペストリーを、逆さに設置してしまった事があったそうです。
それを見た周囲のクリスチャンが「直せよ、キリストへの冒涜だ!」と非難した事がきっかけで、「アンチクライストか……こりゃあいい」と、後の彼等のイメージを決定付けるアンチクライスト思想が生まれたと言われています。
1983年、インディ・レーベルのMETAL BLADEのコンピレーション「METAL MASSACRE Ⅲ」に楽曲を提供した事がレコードデビューに繋がり、当時まだ10代だった彼等は、自らの少ないバイト代だけでは資金が足りず、親からの借金でファーストアルバムを録音したらしいですよ!
あの強面のケリー・キングが、「父ちゃん、俺バンドデビューするから金貸して!ス、スレイヤーって言うんだけど……」等と頭を下げている所を想像すると、何だかほっこりしますね。
デビュー当時の彼等は、まだJUDAS PRIESTの様な正統派メタルの速さと重さを増しただけのスタイルでしたが(メタルマニアなオヤジになってしまうと、この頃の彼等がめちゃ格好良いんですよね)、鬼才プロデューサー、リック・ルービン率いるメジャーレーベル、DEF AMERICANに移籍すると過激さが開花、世紀の名盤、「REIGN IN BLOOD」がリリースされます。
この記事を読んで下さっている方が、まさかこのアルバムを聴いた事が無いとは思えませんが、もし、過激でうるさいロックが好きでこのアルバムを聴いた事が無い方がいたら、今から二日間絶食してでもこのアルバムを聴いて下さいね!
実際に鳴らされている音だけでなく、その空気感までが邪悪で、まさに奇跡的な名盤だと思います。
オープニングの人気ナンバー、「ANGEL OF DEATH」のイントロで、ベーシスト、ボーカリストのトム・アラヤが裏声でシャウトするんですが、それがやがて地声に戻り、断末魔の様な魂の叫びになる瞬間は興奮が止まりませんね。
普通、これだけ声が乱れたら録音し直しますよ。
直さなかったリック・ルービンめちゃ偉い!
オープニングの勢いそのまま剛球一直線で30分余りの短い時間を駆け抜けるこのアルバムは、まさに一分の隙もない名盤です。
その後の彼等はアンダーグラウンドのヒーローの座に長く君臨し、ドラマーの入れ換えや数年のブランクはありましたが、デビュー以来一切大衆に妥協しないスラッシュメタル道を貫く事で、大衆と同じくらいの数の恐いお兄さんに囲まれる幸せな日々を過ごせていたと思います(笑)。
しかし、オリジナルギタリストで曲作りの中心だったジェフ・ハンネマンが、毒グモに刺された事による感染症で闘病の後に他界してしまいます。
バンドは同期のスラッシュメタル・バンド、EXODUSのリーダー、ゲイリー・ホルトをピンチヒッターに迎えて活動を続けていましたが、ベーシスト、ボーカリストのトム・アラヤも首を手術し、激しいステージをこなせなくなってしまった事から解散を決意するのでした。
音楽スタイル的に、衰える前に引退しなければ……という使命感もあったのでしょうね。
こうして考えると、KISSやJUDAS PRIEST等、ハードロック・へヴィメタルの歴史を支えてきたアーティスト達がこれから続々引退しますね……。
私達の使命は、いつまでも若々しい音源やライヴビデオの彼等を若い世代に伝える事なんだと思います……いや、まずはテメーの生活改めろよな(笑)。
彼等の魅力は、何といってもバラード等無いに等しい攻撃性の塊ぶりと、一般的なスラッシュメタルのイメージであるキレ重視のドンシャリ・サウンドではない、血生臭い邪悪モッコリ・サウンドだと思います。
おすすめアルバムは、まずは絶対「REIGN IN BLOOD」(1986)、緩急のバランスが取れていて聴きやすい「SEASONS IN THE ABYSS」(1990)、個人的に最もギターから血の匂いを感じる暗黒スピードアルバム、「DIVINE INTERVENTION」(1994)の3枚です!