番外編 ゼロ・コーポレーション
このエッセイを始めてから一週間が経ちました。
週間ユニークユーザが100を超えるには、もう一話投稿した方が良いかな……等と考えたりする自分には腹が立ちますね。
たかがエッセイの日間ランキングであっても、ランク入りすると人は皆調子に乗ります。
その調子乗りが作家としての向上心から来るものなのか、ただの功名心から来るものなのかは、自分で判断しなくてはいけません。
読者様も、流石にそこまで指摘したら失礼だと思っておられるんですよね。
この内容をまたエッセイにしてPVを稼ごうなどと意識が働く間に、こちらのエッセイや長編小説が停滞してはいけないと思っています。
今回はアーティスト単位の特集ではなく、90年代に低空飛行の流れ星の如く現れては消えていったレコードレーベル、ゼロ・コーポレーションの特集をお届けしたいと思います。
うおおおおおおお!
……と、エキサイトしたのは日陰のアラフォー者のみでしょうね(笑)。
ゼロ・コーポレーションは、「くもん教室」で有名な日本公文教育研究会の子会社でした。
これは意外ですよね。
RAVENとか、お子様の教育上どうなんだ?と思われる悪い大人のアーティストとも契約していますし、音楽でも稼ぎたくなったのであれば、わざわざムーブメントが沈静化したハードロック・ヘヴィメタルよりも、世界的に昇り調子だったヒップホップやR&Bにした方が良かったと思いますけど……。
この決断はやはり、日本のハードロック・ヘヴィメタルに対する潜在的市場規模と、橋本徹社長(維新の会の人とは字が違います)の暑苦しいまでのハードロック・ヘヴィメタル愛故に導き出されたものなのでしょうね!
ゼロ・コーポレーションは、既に90年代初頭から「音楽to世界」のキャッチコピーで、アシッドグルーヴ系のU.F.O.やジャズ・ファンク系のLARRY DUNN ORCHESTRA等、トレンドを模索する様に幅広いジャンルのCDを発売していたのですが、橋本社長肝入りの「M.V.P.レーベル」(マスター・ボリューム・プロジェクト)が92年にスタートすると、ゼロ・コーポレーションから発売されるCDは大半がハードロック・ヘヴィメタルのジャンルとなります。
「パワー、スピード、そしてメロディー……日本のシーンにフィットしたハードロック・ヘヴィメタルのアーティストをお届けします」というコンセプトのM.V.P.レーベルは、マーシャルアンプをイメージしたイラストもデザインされ、陰鬱な印象のグランジ〜オルタナティブ(そこが魅力でもあるのですが)にとって代わられつつあったメインストリーム・ロックシーンに代わる、新たな日本人の居場所となる……はずでした。
彼等は手始めに、TALISMANやDA VINCI、RETURN等、日本人が真っ先に目をつけるメロディックな北欧メタルバンドのアルバムを日本盤化し、やがてMASQUERADEやFORTUNE等の無名の北欧メタルバンドと契約、メロディックなハードロック・ヘヴィメタルに飢えていた日本人や欧米人から大きな支持を得ました。
やがて自主制作レベルのアルバムを持つ新人バンドと続々契約を交わし、更には大物でありながらレコード契約を失っていたRAVENや、シーンの急変でレコード契約を失ったFAIR WARNINGやSLEEZE BEEZ等の元メジャー組も拾い上げ、日本市場のみの一大帝国を築き上げます!
当然、無名のバンドだけではプロモーションが弱く、フル・アルバムに2500円を支払うクオリティに値しないアーティストもいた為、レーベルは無料の情報誌を郵送したり(私も郵送して貰っていました)、コンピレーションCDでアーティストをプロモーションしたり、赤字アーティストを補う大物アーティストを節目節目で獲得したりしながら、メロディックなハードロック・ヘヴィメタルとゼロ・コーポレーションの灯を消さない様に涙ぐましい努力を続けていたのです。
レーベル自前発掘バンド、SIMPHONY XとTENのビッグネームへの成長、GLENN HUGHESの完全復活、再結成NIGHT RANGER、新生JUDAS PRIESTとの契約辺りが、まさにゼロ・コーポレーションのハイライトと言うか、存在意義そのものだったと思いますね!
個人的にも、再結成NIGHT RANGERの来日公演で、FM番組キャプテンロックを通してオリジナルメンバー5人の直筆サイン色紙を貰った事は一生の想い出です。
色紙の下にはしっかりとゼロ・コーポレーションの文字が……(笑)。
しかし、橋本社長直々に高い声で前のめり気味に喋りまくるラジオCMや、CDの帯に書かれた激アツ過ぎて逆に震えが来る程の煽り文句の甲斐も無く、レーベルの経営は大幅な赤字となって行きます。
有名になると条件の良いレーベルに移るアーティストもいましたからね、当然……。
そして、彼等が駆け抜けた90年代の最終年の99年、ゼロ・コーポレーションはその役目を終え、レーベルは閉鎖します。
親会社の公文が音楽事業からの撤退を決めた為、橋本社長のハードロック・ヘヴィメタル愛だけではどうしようもなかったのです。
売り上げの良いアーティストは販売担当であった東芝EMIやマーキー・アヴァロンレーベルへと移籍出来ましたが、大半の無名アーティストはそのまま解散や、自国でインディー活動に戻らざるを得ませんでした。
その後の橋本社長は黎明期のネットビジネスに挑み、紆余曲折を経て何と料理人になりました!
「TOKYO美食伝説Papi Popi」という、摩訶不思議な名前のお店のオーナーシェフらしいのですが、如何にも橋本社長らしい包丁から奏でられる美旋律の波動風が優しくこころを撫でる様な生き様で、だからタカラ泣くがいいと全身にエモーションを纏わされる想いですよね。
ハードロック・ヘヴィメタルにのめり込んだまま90年代を生き抜いた人間にとっては、忘れられないレーベルでした。
◎手に入んのか?ゼロ・コーポレーションでしか聴けないおすすめアルバム!
①MVP コンピレーション・シリーズ1〜12
1アーティスト1曲ずつ、1500円で15曲前後収録のお得盤シリーズ。
その1曲は容赦なく一番良い曲が選ばれているので、このシリーズこそがゼロ・コーポレーションの最高傑作です。5と7が特におすすめ。
②ビロキシィ「レット・ザ・ゲームス・ビギン」
1994年発表。明るく爽やかなポップ・メタル系。フラッシーなハイテク・ギターとAOR風シンセが同居し、捨て曲無しの爽快な一枚です。
③オライアン「サムシング・ストロング」
1993年発表。AOR系ボーカリストですが、ソウルフルな歌も楽曲もサウンドも最高レベル。
④ジェイデッド・ハート「インサイド・アウト」
1994年発表。現役の有名アーティストですが、このデビュー当時は初期のBON JOVIの様な哀愁のハードポップ路線。隠し味のシンセが最高です。
⑤キングストン・ウォール「トリロジー」
1994年発表。北欧のトリオバンドながらサイケデリックなグルーヴがあり、完成度と実験精神のバランスがとても良いです。再評価されるべきアルバムですね。
参考文献:ゼロの使い魔橋本社長
RE:ゼロから始まる名盤発掘