第30話 狂おしい果実から
日が傾き、やがて、室内に差し込む光はオレンジ色になる。
苺は泣きながら、机に伏した。
「宗治、私のこと嫌いになったんだね。そうだよね、こんな重い女。でも教えて、私はどうすれば好きになってもらえるの? どうしたら人は離れないの?」
苺の声は震える。
それはまるで、叱られた子供の様に。
それを見ている俺は、一種の罪悪感を感じていた。人格が形成される頃に父は母に刺され、最初に好きになった者からは、二股という返事を返された。
苺がやったことは人道的観念により悪であるが、歪んだ人生が産み出した、独りよがりな自己中心的価値観。
問いたい、それを俺はどう叱れば良い。
苦しむ彼女をどうみそぎ、どのように助ければよいのだ
「苺、俺にもわからない。どうすればお前を助けられるのか」
「宗治、私おかしいよね? 今になって気付いたの。どうしてこんなことしてしまったのか。もう……戻れない」
沈黙に包まれた頃、苺は顔を上げ、腫れた目をこちらに向ける。
その目に光は既に無く。焦点はいったいどこにあるのだろう?
「私、要らないよね。宗治もこの世界も、私を必要としてないよね」
ユラリ。そう立ち上がった黒髪の少女は、包丁を手に取る。
そして、自らに向け、服の上から自らに突き立てる。
「待て苺! 罪は償える! それにお前まで俺は失わなければならないのか! 頼む、お前だけは……」
伸ばす手は手錠に引かれ、苺まで届かない。
「ごめんね。さようなら」
と言い残し、大量の涙を溢れさせながら、目の前で命を絶った。
狂おしい程に俺を愛した苺は、潰された赤い果実の如く周りに体から吹き出す紅を広げ、この世を去った。
足に血が触れる。――もうそれは、冷たくなっていた
―完―
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