第28話 入鹿苺
気がついたら、俺は椅子の上に鎖で縛り付けられ、口にはガムテープそして腕は後ろに回され、椅子の腕かけと繋いだ手錠をつけられていた。
「おはよう。よく寝れた?」
目の前には苺が包丁を手に椅子に足を組んで座っていて、笑いながらこちらを覗く。
「苺……お前……」
「見つかっちゃったね。正直に話すしか無いかぁ」
そう言いながら立ちあがり、包丁を置きメイスに持ち替えて、
「"フォンデュ"」
自分の髪に魔法をかける。
明るい金髪が根元からだんだんと黒く染まっていき、ヘアバンドを取りトレードマークであるツインテールを解くと、まさしく長髪黒髪の美少女がそこにはいた。
その一連の動きを見て、俺は全てを悟った。
「この姿でやっと会えたね。そうだよ、私が宗治を付きまとって邪魔なオトモダチを○したんだよ。全部、私がやったの。私は完璧主義だから充分注意してたんだけどバレちゃったね。流石リーダー」
考えてみれば、そうだ。ストーカー行為をするのに変装をしない訳が無く、黒髪は闇に紛れる。更に、太陽の光がカーテンで遮られるこの部屋のあの日と同じような暗い光では、香織と似ているように見える。
そうか。俺をマーキングしたのも、ストーキングしたのも、俺の友達を拉致したのも。
全部全部、苺だったのだ。とんでもない地雷女だ。そして俺も、コイツの本性に気づくことはできなかったのだから。
でもしょうがないでしょ。私にはこの方法しかわからないから。
苺はそう言いレンジでチンしたハンバーグを取り出し、俺の前の机に置く。
「食べて」
何が入っているのかわからない物を食えるか。
そう言ったら、大丈夫だからと。
それでも食べないでいると、
「宗治、少し昔話をしようか。
ある所に、一人の少女がいました、、」
☆
その子とその両親は日々、狭いマンションの中で幸せな家庭を築いていました。
父親の働く製鉄所の都合で、帰りが遅くなるようになります。
少女は父親に早く帰って欲しくて、手紙を書いたり、母親と一緒の写真を撮って渡しました。
ある日のこと
夜中に騒ぐ声を聞き、少女は眠い目を擦りながら起きました。寝室の扉を開けると、そこには真っ赤になった母親が、白い袋の中に何かを入れて外に出ようとしています。
「ママ、何やってるの?」
「目が覚めちゃったのね」
「床、お掃除しないの?」
「あのね、これが愛情なんだよ」
その日はちょうど、クリスマスだった。




