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第23話 逃避

 辺りにいた人々が騒ぎ出す。目の前でそんなことをやりだしたんだ。当然そうなる。

 でも、それは私にとってあまりにも残酷なこと。


 逃げる様に改札を通り、電車が通りすぎたホームで、私は泣くのを我慢することなどできなかった。



 その日の内に、栞から宗治達の知らせが届く。

 適当に返事をして、枕に抱きつく。宗治が今何をしているのか、もしや苺とそういうことをしているのではないだろうかと、嫌なことばかりを妄想してしまう。

 せめて足跡でも知りたい。人間は、会えない時ほど相手を想ってしまう生き物らしい。


 会いたい


 その言葉が頭をグルグル廻る。

 ダメだとはわかっていたけど、耐えられない。


 立ちあがり、メイスを持ってあの魔法を起動した。宗治にはまだ"マーキング"が掛かっている。

 せめて後ろ姿でも、せめて遠くからでもいいから……


 その思いが、私をつき動かした。


 なるべく目立たない服を着、窓を開け静かに外に出る。


「"アンチグラヴィティ"」


 体は重力を受けなくなり、宙に浮く。


 方向を確認し、一切の迷いを捨てて、私は空から彼の元に向かうことにした。



 既に苺とは一緒ではなかったよう。流石に一日目に家まで連れていくのはありえないから、常識はあるのだろう。

 暗闇一人で歩いているところを見つけて、ホッとした。

 電柱の影に隠れながら尾行する。


 こんな日ほど気になるのは当然。

 隠れ見守り隊を宗治が帰宅するまで続けた。

 玄関を開けて入って行くのを見て終わろう。

 憐れな自分を見られたくなどない。


 宗治は軽い足取りで通い慣れた道を歩いていく。


 だが現実とは残酷で、住宅街に差し掛かった時だった。


「何をしているのかな?」


 私の肩を叩いたのは、隼人さんだった。


「香織さん、ここで何をしているんだい?」


「は、隼人さんこんばんは」


「こんばんは。質問に答えて欲しいな」


 沈黙が漂う。見つかったのは最悪のタイミング。長髪黒髪の私は誰がどう見ても噂のストーカーとやらで、この後の言葉は簡単に想像できる。


「署まで来てくれるよね?」


「ごめんなさい!」


 振り切って逃げる。既に混乱していて、前後左右何もかもわからず逃げる。いや逃げ惑うと言った方が正しい。

 

我に返った時、私は茂みの中で座っていた。幸い寒さで虫はいないが、気味が悪い所だから家に――帰れない

 帰ったら見つかってしまうし、何より逃げたのだから、疑惑はこの時点で既に解くことはできない。

 どうしよう。最悪は更新だ。

 茂みを出なければ日の出までここにいることになるので、寝ることはおろか見つかった時に囲まれる可能性が高い。

 逆にここを出れば寝る場所を探すことはできるが、見つかるかもしれない。

 草木によって傷だらけになった足でうまく走れるだろうか?こんなご時世に隠れられる場所なんてあるだろうか?

 終わりの見えない逃走劇よりいっそ捕まるのが賢明か?


 懐中電灯を照らしながら女を探す警察官がすぐそこまで来ているのがわかる。いずれにせよ、ここは逃げよう。音を立てずにそっと行こう。


 ……私に明日はあるのだろうか

 不安ばかりがよぎる中、私は茂みから去った。

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