第16話 亀山慎一
前回のシーンから続きます。
「既に見知った人もいるね。 香織さんや苺さんも仲間だったのは知っていたけど、どんな経緯で同行することになったんだい?」
「経緯ですか。 全員ばらばらなので、長くなってしまいますが大丈夫ですか?」
「いいよいいよ。 仕事だし、君の目にかなった人のことを聞きたいし。それじゃあ最初に仲間になった人のことから教えてくれないかい?」
「わかりました。 最初に仲間になったのは慎一です。あれは俺が召還された日のことです」
☆
俺は僧侶のおっさんに言われた通りギルドにやってきた。
中に入ると酒と汗の匂いが充満していた。内装は古風な木造カフェみたいになっていて、屈強な男達が席に座り言葉を交わしている。
「おい! どうだったか?」
「は、俺に任せりゃデスリザードなんて簡単だな」
「そりゃあ羽振りが良さそうで、あんな奴らとは大違いだぜ!」
そう言いながら、大男の目線が指した先には5人程度の一組の男女。
体格や容姿から推測するに、俺と同じ日本人だろうな。
「信じらんない! あんなミスするなんて!」
「なんだと! だいたい、お前が足を引っ張るから」
「何言ってんの! あたしの魔法が無ければ死んでたあんたが言えることじゃないでしょ!」
喧嘩中なのだろう。金髪の少女と茶髪の男が言い合いをしている。母国で見たらカップルの痴話喧嘩だろうが、両者ともに服の所々が破れ、痛々しい傷がある。
それを周りの現地人が嘲笑いながら酒の肴にしていた。
「駄目だな、ありゃ。 救世主とか聞いたけど、俺達がやるべきだな。 むしろあんな奴らに任せられるなら、案外魔王とやらも簡単に倒せるんだろうねぇ」
「今度暇潰しに行ってくるか? 何、街の穀潰しにできるなら精米感覚で行こうぜ」
目の前で同郷人のざまを見た俺は、恥ずかしさに耐えられず、ギルドを後にしようとした。
「あ、ごめんなさい」
青年の肩にぶつかってしまった。黒髪黒目。彼もまた、日本人なのだろう。
大丈夫だ。と一言添えた後、笑われている日本人の冒険者パーティーを見て、
「謝ることねぇよ。 お前、アイツらのこと見てたろ?」
「はい、そうですが」
「なぁ、俺達は何の為に来させられた?」
「確かを魔王討伐するためと」
「他の奴があんなザマで馬鹿のされてるの見て何か感じるか? 俺は何も感じねぇ。 ヘマするアイツらが悪い。 むしろ、俺はアイツらを嘲笑できる立場だ」
「けどな、どうにもいい気分じゃない。 アイツら個人が馬鹿にされたんじゃない。 日本人という塊で馬鹿にされたんだ。 国に何かしてもらった記憶は無いが、納得できねぇ」
「俺もだ。 あれを見て何も感じないわけがない」
そうだろうな、まあ席にでも座ろうぜ。
成り行きで座ってしまった俺の目を凝視して、何かを訴えかけるように、
「ところであんた、ここに来たばかりか?」
「あぁ、ついさっき来たばかりで、行くあても無かったところなんだよ」
「俺の名前は慎一。 亀山慎一だ。 なぁ、俺と一緒に組まないか? 見返そうぜ、ここの連中を。 俺達の名を異世界に、轟かせるんだよ」
そう、青年は不適に笑う。まるで全てが見えているかのように。
それが、慎一との最初の出会いだった。




