第1話 帰還
俺の名前は、相模宗治。
ある日、学校からの下校中、地面が輝いたと思うと、そのまま、
異世界とやらに飛ばされた。
何か武装した人々の奥に座っている明らかに王とかっぽい人から、
「世界を救いたまえ。君は選ばれし者である!」
冗談じゃない。
しかも、世界を滅ぼそうと企んでいるらしい魔王とかいう化け物レベルのおっさんを倒せと。
それができたなら、一つだけ願いを叶えると。
因みに日本に戻るのもそれにカウントされるらしい糞契約だった。
これだけ聞くと、よくある異世界転生とか転移とかいうものだが、これだけかいつまんで説明するには訳がある。
この物語は、俺が異世界で俺TUEEEEする話でもなく、
戦いやめてのんびりするわけでもない
というか、異世界の物語ではないのだ。
今からするのは、全てが終わり、文字通りの詐欺契約によって日本に帰った後のことなのだ。
誰がこんなこと予想できたのだろう。
とにかく、俺の異世界から帰還した後、日本で起きた出来事。
それはある意味、魔物よりも恐ろしく、
ダンジョンよりも厄介な。
一人の元仲間によって引き起こされた、恐怖の物語である。
◆
あの時と同じ魔方陣が、路地裏の一角に浮かぶ
そこから、数名の男女が現れた。
「ただいまー! やっと帰れたぜ!」
「本当、日本帰るのが願いにカウントとか、猫型ロボットかポケット選べって言ってるようなもんじゃん」
普通セットだろと言いたいのだろう。
願いを叶えることと、日本に帰れる権利も得るってことな。
「やっと帰って来れたね宗治!」
異世界ではウィザードをしてた、利根香織が、嬉しそうに言う。
「さっそく日本帰還を祝いたいけど、皆今すぐやりたいこととか山ほどあるだろうし、全員連絡先を交換して、後日集まろう」
「さんせー」
「流石リーダー!」
「そだねー」
一人だけちょっと前の流行語使っているのがいるがそんなことはどうでもよく、それよりも普通の生活に早く戻りたかった。
向こうではできることよりもできないことの方が多く自分たちがどれだけ恵まれていたのかを知った。
ここにいる者のほとんどが、異世界転移を望んでいなかっただろう。
向こうの王族は勝手な奴だし、いろいろ抜けていた。
だからこその苦労が、俺達転生者にはあったのだ。
……まぁ、ある程度強くなって、魔物相手に無双したときはそれなりの爽快感があったし、少しモテたが、トータルで見ればなんとも嫌な日々だったのは察して欲しい。
仲間の連絡先を登録していく。
俺含め4名しかここにはいないので、すぐに作業は終わった。
因みに転生前の荷物とかは、日本を思い出せるよう、各自大事に持っていたため、無くすようなことは無かった。
ホームシックになったのは俺だけかもだが……
「皆いろいろやるべきこと、やりたいことがあるだろうから、来週辺りで集まらないか?」
「さんせー」
「流石リーダー」
「そだねー」
さっきと返事が変わってない!
ちゃんと聞いてる気がしないが、調整などは後でもできる。
とりあえず、彼らと別れるには寂しいが、約束したし、とにかく何がなんでも早く帰りたい。
というか、そうするべきである故、さっさとお開きにして、解散した。
――したのだ。
帰り道、俺は見ず知らずの場所から帰ることになったので、街灯を見つけてなんとなくそこでスマホを使い地図を検索していた。
「宗治、何見てるの?」
肩を叩かれ、振り向いたら、香織が後ろから話しかけてきた。
「ちょっと地図をね」
「私もここ、初めてなんだよね。」
「だろうな。どうせあいつらだから適当な所選んだんだろ」
「日本で空飛んだら大騒ぎだし、もっとそういうこと考えられないのかな?」
日本で空飛んだらってなかなかのパワーワードだな。
地球ならどこで飛んでも同じだろ。未確認生物扱いされるぞ。
「まぁ、予想はしてたけど、荷物もっててよかったぜ。香織は調べないのか?」
「調べたから今から駅に向かうんだ」
「そうか、気付けろよ」
「うん♪」
帰って来られてご機嫌そうな彼女は、かつて戦場を地獄に変え、魔族に恐れられたほぼ最強の魔法使い。
灼結の魔女という誤字っぽくてそこまでカッコよくない二つ名をもつ一応女子高生は、女神の様に笑った。
アニメとかで主人公を導く的なキャラみたいにだ。
……転移したとき、迎えてくれたの聖職者のおっさんだったのをなぜか思い出してしまった。あれはよくない。
異世界の説明とかは女神やお姫様とは限らないのをこの身で知ったのは、いい経験だった。
「またな!」
「じゃあねー♪」
元異世界でもっとも怒らせたくない女NO1が帰っていく。
後ろ姿は普通の女の子だ。
顔を見ると、どうにも向こうでの戦いぶりを思い出す。
強い女性は嫌いではないが、彼女は強すぎた。好意より恐怖が勝るほどだ。
輝くような笑顔でえげつない魔法の弾幕を作り、草原を血の海に変えるサイコJKを俺は幾度となく見てきた。
このやりとりに違和感を覚えた俺の感覚は正しいはず。
いや、事実にもこの時感覚は正しかった。
このやりとりが、後に俺を後悔させる結果となるのを俺達はまだ知らない……
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