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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その八十九

 ズシャアアアア! という凄まじい音と共に、凛香に蹴り上げられた砂が大量に優花と、そして隣に立っていた竜二に襲い掛かってきた。


「ぐはっ! ぺっぺっ! 口に砂が入った! じゃりじゃりする!」

「一生じゃりじゃりしてなさい! あなたはまったく! ふんっ!」


 凛香は顔を背けると、一人ビーチに既に設置されていたパラソルの方へと行ってしまった。


「兄貴、おれとばっちりで砂食らったんすけど……」

「元々はお前が変なこと聞くからだろうが! ぺっぺっ、ああもう! 凛香さんのご機嫌取りもしなきゃいけなくなっただろうが!」

「ええ……おれのせいなんすか……」

「竜二も協力しろよ! ほら! まずはもう一回水着を褒めに行くぞ!」

「兄貴、それはもうやめときましょう……」



 なんだかんだで優花は凛香の機嫌を回復することに成功し、その後みんなで少し遊んでいると既に太陽は傾きを増していた。


「そろそろ戻りましょう、暗くなると危ないですよ」

「わかりました! ほら竜二も真央もそろそろ行こう、凛香さんも!」

「うっす兄貴!」

「うん、わかったよ」

「ええ、今行きますわ」


 浅瀬でみんなでビーチボールをトスしあい、誰が落とすかという遊びをしていたが、めいにそろそろ戻ろうと言われて、竜二と真央、凛香に声をかけて海から上がる。


 結局あまり遊べてはいなかったが、ここを出るまでにはまだ二日ある。明日にでも翡翠や、深雪達を加えて全員で遊べば良いだろう。


 全員で別荘へと戻る前に、優花は最後に飛んでいってしまったビーチボールを回収に行くと……そこにはなかなか大きいサイズの魚をくわえた黒い猫がいた。


 にゃん!


 優花と目が合うと猫はささっと走ってどこかに行ってしまった。


「……猫? なんで?」


 普段はレンタル別荘として貸し出しているらしいが、常に人がいるわけでもないこの島で猫が生きていけるんだろうか。


 ビーチボールを回収したまま猫が消えた先を見ていると、


「ゆうかさーん! 早くしないと置いていってしまいますわよー!」


 凛香に名前を呼ばれ、慌ててみんなのところに戻った。



 海から戻り、軽くシャワーを浴びた後部屋に戻る。


「18時頃に飯だって言われたっすよ兄貴」

「そっか、わかった……って言うか竜二、お前はなんで俺の部屋にいるんだ?」


 18時まではあと一時間はある。


「決まってるじゃないっすか! ここから帰ったらおれはまた田舎に戻るんで暇な時間に少しでも遊んでおこうかと!」

「……それならまあ……仕方ないな。遊ぶか!」


 正直バスとクルーザーによる移動と海での遊びで疲れて休みたかったのだが、竜二が遊びたいと言うのなら遊んでやるのが先輩というものだろう。


「うっす! んじゃ色々持ってきたんでどれからやります?」


 そう言って竜二が自分の部屋から持ってきたバッグを広げると、中からトランプやジェンガ等がごろごろでてきた。一体どれだけ遊ぶつもりだったんだろうか。


「んじゃポーカーでもするか、負けたらそうだな……ジュース一本……いや自販機とか無いから……うーん……」

「それじゃあ負けたら肩のマッサージとかどうっすか?」

「あーじゃあそれで良いか。よし! やるぞ!」


 一対一のポーカーの結果は……当然の結果のような感じで優花の惨敗だった。


「ポーカーフェイスって言うか……竜二、お前ずっと睨むなよな……」


 ポーカーの最中、ずっと竜二に至近距離から睨まれ続けて変なプレッシャーを感じ続けた結果、優花は上手く考えがまとまらず、竜二の肩をマッサージすることになっていた。


「兄貴、トランプ使った遊びは表情変えたら負けるんす。だから表情は変えちゃダメなんすよ……あ、そこ良いっすね……」

「いや、表情を変えろって言ってるんじゃなくてだな……まあいいか……」


 竜二の肩を五分くらいマッサージしただけで手が痛くなっていると、部屋のドアがノックされ、開いたドアから伊戸が現れた。


「失礼します。灰島様、獅道様お食事の準備が整いました」

「あっ、了解です! ほら行くぞ竜二!」


 渡りに船と、優花は竜二のマッサージをやめ、竜二の背をばんばん叩いた。


「えっ! もう終わりなんすか!」

「飯食ったらまた勝負してやるから!」

「いや、勝負って! マッサージの続きじゃないんすか!」


 竜二のツッコミはスルーして早速伊戸の方に行くと、伊戸は少し動揺を見せたあと、さっとドアから外に出てしまった。


「一階に行けば場所はわかると思いますので、私はこれで失礼します」


 すたすたと足早に歩いて階段を下りていく伊戸を見送り優花はため息をついた。


「……はあ。なんか嫌われたっぽいな」

「兄貴があんなこと言うから……」

「あんなことって? 美人って言ったことか? 美人に美人と言って何が悪いんだ?」


 それの何がいけなかったのかがいまいちよくわからない。貶したならともかく褒め言葉だし、言われて嫌な気分がするようなものでもないはずだ。


 優花の言葉を聞いて少し考えた様子を見せた竜二がすぐに口を開いた。


「……兄貴、じゃあ兄貴は異性から可愛い顔してるって言われたらどう思いますか?」

「異性から可愛い顔してる……?」


 うーん……例えば真央から言われれば冗談だろうと気にしないだろうし、凛香から言われればショックを受け、花恋から言われればからかっているだろうと怒るだろうか。


 これが例えばあまり話したこともない相手……伊戸や仁戸から可愛い顔と言われれば、どんな反応をすれば良いのかわからなくなるかもしれない。


 それなら、今の伊戸の反応もわからなくはない。


「……なるほど……ってちょっと待て! 今の前提だと、俺の顔が可愛いとお前が思ってることにならないか?」

「……兄貴、晩御飯って何が出てくるんでしょうね?」

「おいこら! 誤魔化すな!」


 この場に花恋が居なくて本当に良かったと心底思いつつ、竜二と一緒に同じ階にある真央の部屋を訪ねると、真央はすぐに出てきた。どうやら伊戸は優花の部屋よりも先に真央の部屋に声をかけていたようで、先に準備をしていたらしい。


「どんなお料理が出てくるのか楽しみだね!」

「そっすね! おれは肉がいいっすね!」


 晩飯のメニューが何かで盛り上がる真央と竜二を尻目に、優花は凛香の部屋のドアをノックした。ちなみにめいは部屋にいなかった。たぶん先に行っているのだろう。


「おじょ……凛香さん、居ますか?」


 最近は凛香の家でずっと執事として過ごしていたため、つい「お嬢様」と言いそうになってしまった。


「居ますわ! 少し待っていてくださる?」

「あっ、はい! 待ってますね!」


 凛香の指示通り待つこと1分程、ガチャリと扉が開くと凛香が中から出てきた。


「おお……気合入ってるっすね」

「うわあ……綺麗ですね凛香さん!」

「おお……おお……」


 凛香の格好はフリルがふんだんについた青のドレス姿。


 胸元には白い布地と青い大きなリボン、頭には青いカチューシャ、首には同じく青いチョーカー。


 いつものお嬢様結びではなく髪型をストレートにした凛香が少し恥ずかしそうにする姿に、竜二と真央が感嘆の声を上げたが、優花はいつもとは違う凛香の姿が素晴らしすぎてもはや何も言えなくなってしまっていた。


「……ど、どうかしら?」


 ちらりと優花を見ながらつぶやかれた言葉に、優花はようやくはっと我に返った。


「とても似合ってると思います! 鮮やかな青のドレスが、凛香さんの綺麗な金色の髪をより一層際立たせているというか!」


 優花が精一杯の言葉で褒めると、凛香は満足そうに微笑んでいた。

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