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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その九

 タイトルからしてやばい雰囲気がひしひしと伝わってくる。


 花恋の言う償いとは、十八禁のBL本を買うことだったらしい。

 話を聞いてみれば、今回優花に買わせようとしているのは、通販で売っておらず、店舗販売しかしていない品。手に入れたくても、花恋ではすぐに十八歳以下だとばれるため買えなかった物らしい。


「いや、俺も十八歳以下なんですけどね……」


 花恋の綿密な調査によれば、その本が売っているのは、明らかに十八歳以下だとわかる場合をのぞいて、基本的に年齢は聞かれない店らしくその辺に抜かりはないとのことだった。

 いったいどれだけ欲しかったんだという話だ。


「それにしても……何が悲しくて貴重な休日に妹の十八禁BL本を買いに行かなきゃいけないんだ……」


 普通の十八禁本だって買ったことないのに……。とにかく、さっさと済ませて帰ろう。


 常にサングラスとマスクをつけていては怪しいため、本屋に近づくまでは外しておく。ちなみに顔を隠すのは、年齢を偽るためなのももちろんだが、知り合いに見つからないためでもある。

 竜二あたりに見つかったら誤解されかねない……なんて思っていると、駅の近くのゲーセンの入り口付近に竜二の姿が見えた。どうやら太鼓を叩くゲームの順番待ちをしているらしい。眼光鋭く、太鼓ゲームを遊ぶ人を睨みつけていた。そのせいか絶賛プレイ中の人はミスしまくりだった。


 可哀想に……って、危ない危ない。


 さっとサングラスとマスクをつけて横を通り過ぎると、無事竜二には見つからずに済んだ。


 電車に乗ること数分、降りた先は繁華街……というかこの世界の池袋。元の世界の池袋との違いは……行ったことがないので、正直わからない。ただ、この世界の池袋にも乙女ロードなるものは存在するらしい。

 駅から少し歩くと、そこにはマジハイにもでてきそうな、イケメンのキャラクターが書かれた看板がある店が多く並んでいた。


 早速心が折れそうになるが、ぐっとこらえ通りを歩く。

 やっぱり女性が多いな……。

 日曜日ということもあり、通りはキャラグッズを求めてきた、女性であふれかえっていた。


 目的の物を買う前に、優花は近くのアニメ専門店に入った。ゲームも売っているその店で『マジで恋するハイスクール』が売ってないか確認をするためだ。


 んー……やっぱりないか。


 幸いと言うか何と言うか、マジハイは売っていないみたいだった。乙女ゲームの品ぞろえは豊富だったので、存在しているけど売ってはいなかったなんてことではないだろう。

 この世界にマジハイは売っていないことを確認し、優花はいよいよ、本日のミッションの遂行に移る。


「さて……着いたけど……全体的にピンクっぽいなあ」


 優花がたどり着いたのはアニメショップの十八歳以下進入禁止の階。

 女性向けだからなのか、妙にピンクの装丁の本が多い。幸い十八禁コーナーだからか、お客さんの数が少なかった。

 チャンスだと思った優花はスマホを開き、タイトルを確認して階の中を探し始める。


「……ない。……見つからない」


 いくら探しても、何度同じところを確認しても、花恋が欲しいと言っていた本のタイトルが見つからなかった。優花の額に冷や汗がたらりと流れる。


 探している本が見つからない場合、他の本屋に行ってみるのも手だが、他の店では年齢確認をされて買えない可能性が高い。


 いったいどうすれば……。

 窮地に陥った優花を救ったのは、近くにいた、優花同様サングラスとマスクをした怪しげな人物だった。


「すみません『哀楽王子は屈しない』って本ありますか?」


 怪しげな格好をしている癖に、その勇者は堂々と十八禁BL本のタイトルを店員に告げていた。身長から察していたが、その勇者の声は明らかに男だった。


「はい! 少々お待ちください!」


 笑顔と共に元気よく店員さんが、裏から本を持ってきて、その勇者に渡してそのままお会計。勇者は買った物を鞄にしまって、十八禁BL本しか売っていないその階を出ていってしまった。


 突然現れた謎の勇者に勇気をもらい、優花もタイトルを店員に告げた。


「すみません『禁欲の男の園』と『愛欲に酔う男達』、それから『放課後まで待ってて!』ありますか」


 …………言ってやった。言ってやったぞ!

 大切な何かを犠牲にしたような、そんな気もするが、きっと気のせいだろう。


「はい! 少々お待ちください!」


 さっきの勇者の時同様、元気よく店員さんが裏に行って本を持ってきてくれた。無事に花恋が欲していた三冊を買い、その階を去ろうとすると、さっきの勇者が階段の所に立っていた。


「……見つけた」


 勇者はぼそりとつぶやくと、そのサングラスとマスクを外した。


「同士よ! 少し俺様と話をしないか!」


 俺……様……? 

 もしかしなくても、そのイケメン面は……翡翠か?


「頼む! 同じ趣味の同性がいなくて寂しいんだ! なあ!」

「いや、俺は同じ趣味ではないので……」


 どうやら翡翠はBL好きの男子、いわゆる腐男子というやつだったようだ。翡翠の隠れた一面にドン引きしながら、その場から逃げようとすると、翡翠に腕を掴まれた。


「まっ、待ってくれ! 俺様と話を!」


 体勢が崩れ、優花が変装用にしていた、マスクとサングラスがずれ翡翠と目が合った。


「あっ! お前! 同じクラスの!」


 そこまで言いかけた翡翠の口を高速で塞ぐ。


「馬鹿かお前! せっかく買えたのにばれたらどうする!」

「お、おう……そうだな!」


 鬼気迫る表情をした優花にびびった様子の翡翠を連れて、近くのファーストフード店に入る。変装も解除し、素顔をさらして翡翠と二人席に座る。

 乙女ロードが近いからか、女性客がやたら多く、なんだか色んな人に見られている気がするが気のせいだろう。


「お前可愛い顔してこういうの好きなんだな? 俺様ドン引きなんだが?」


 ぐっ!


 翡翠の先制攻撃に優花は胸を抑える。他人にドン引きされることほどつらいこともない。

 ただ……次はこちらの番だ。

 優花が邪悪に笑うと、翡翠は頬をひきつらせていた。


「いやいや、まさか学校では王子様で通っている翡翠くんの趣味がまさか、こういうのだったとは……俺の方がドン引きなんだが?」

「……ぐっ」


 明らかにダメージを受けた様子の翡翠に、優花はここぞと畳みかける。


「そもそも、十八歳以下なのにああいった本を買ったらだめだろ? いくら趣味でもやって良いことと、悪いことがあるぞ?」


 やれやれと肩を竦めてやると、優花の連続攻撃に黙っていられなかったらしい翡翠は、慌てて立ち上がって優花の方に指を突き付けてきた。


「いやいや! お前も買ってたろ!」

「それはそれ。これはこれだ!」


 うん、中々便利な言葉だな。


 びしっと逆に指を突き付けて堂々と言ってやると、翡翠はひるんでいた。


 ふっ、イケメンの顔が歪むこと程楽しいことはないな!

 イケメンへの僻みだという批判は……甘んじて受ける!


「それに俺はお使いを頼まれただけだからな! 一緒にするなよ!」

「いや、誰が十八禁BL本なんて頼むんだ! ありえねえだろ!」

「ありえないなんてことは、それこそありえないんだ……」


 しみじみと言うと、翡翠は「そっ、そうか……」と何故か納得してくれた。何か心当たりでもあったのだろうか。

 ……それより、さっきから店内のお客さんの視線が優花達に集まっている気がするんだが、気のせいだろうか。


「十八禁BL本だって……」

「やっぱりあの二人付き合ってるのかな?」

「そうなんじゃない……。明らかにあの女の子っぽい子が……」


 聞き耳を立ててみると、とんでもない勘違いをされていることに気が付いた。


「こほん! とにかく! 俺があれを買っていたことは忘れろ! そしてお前があれを買っていたことも忘れてやる。だから教室では話しかけてくるなよ!」

「えっ! いやいや! BL本を買ってたってことは理解はあるってことなんだろ? だったら俺様と話をしようぜ!」


 にかっと笑ったイケメンフェイスで、とんでもないことを口走るアホを、どうして優花はあの時勇者だなんて思ってしまったのだろうか。翡翠は放っておいて帰ろうかと思い、立ち上がろうとした優花の姿勢が不自然に止まる。


 ……待てよ? これも利用できるのでは?


 悪役令嬢である凛香がバットエンドを迎えるのは、ある意味ではどの攻略キャラからも絶対に振られるからだ。真央と仲良くしたいという凛香の望みを叶えてあげたい気持ちはあるものの、正直そっちは望み薄。だったら、凛香を誰かとくっつけてしまえばいい。


「ど、どうしたんだ?」


 目の前のこのアホ王子は、見た目は良い。凛香と並んでも遜色ない程度には。そして実家は当然のごとくお金持ち。成績だって優秀だ。BL好きという、新たに判明した裏設定にさえ目をつぶればなかなかの好条件。


 翡翠に貸しを作っておけば、凛香とくっつかないまでも、何かしらに利用はできるはずだと思い付き優花は怪しく笑った。


「話をしてやってもいいが、俺に協力してもらうぞ……」

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