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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その八十一

 もっと目を離していたら更にひどくなっていたかもしれないと無理やり前向きにとらえ、変なことはさせまいと凛香を視界に収めたまま、また物を片付けていくと凛香が本棚の本をぽいぽい取り出し始めた。


 本棚の掃除をする気になったのだろう。まあ本棚は意外と埃がたまるので、この際掃除をしても良いかもしれない。


 雑巾を持ってこなきゃなと思いつつ凛香が本を取り出す様を見ていると、凛香の手が不意に止まった。


「……ゆうかさん。これは何が入ってますの?」

「これってどれ……っ!」


 凛香の手が持っているのは、厚みのある黒い袋。その中身はいつか翡翠が優花に差し入れで持ってきたBL本で、たしかタイトルは『ドキドキ、看病する王子様』だったか。


 本棚の本の裏に、後から翡翠が追加してきた二巻と一緒に封印したままにしてすっかり忘れていたのだが、凛香が掘り当ててしまったらしい。


「ええと……それは……」


 言葉に詰まった優花を見て、何かを察したらしい凛香の頬が真っ赤に染まった。


「その反応……え……エッチな本というわけですわね……だ、大丈夫ですわ! ええ! 男性はエッチな本を隠しているものだという知識はあります! むしろ安心した部分もありますわ!」

「いやいや! 何で安心するんですか! エッチな本じゃありませんよ! 勘違いですから! ほら!」


 誤解を解こうと慌てて凛香の手から黒い袋を奪って中身を出すと、そこには何故か服をはだけさせ風邪でもひいているように顔を赤くしている黒髪の青年が、同じく肌をさらす銀髪の青年に看病されている絵が表紙のBL小説が出てきた。


 ……誤解を解こうとしてまた違う誤解を生んでしまったらしい。


「「…………」」


 何となく気まずい沈黙が続いたものの、凛香が黒い袋にもう一度BL小説を入れると、何事も無かったかのようににっこり笑った。


「大丈夫ですわ、わたくしは理解がある女。どのような趣味があるとしても、引いたりしませんから……」


 そんなことを言いながら凛香は明らかにさっきより一歩優花から遠ざかっていた。


「いやいや! 明らかに引いてますよね! 勘違いですからね! 翡翠のバカに押し付けられただけですよ!」

「あら、そうでしたの? わたくしはてっきり奥間さんに影響されてゆうかさんまでBLが趣味になってしまったのかと……」

「それはないんで安心してください」


 一応貰い物ではあるので、捨てられもせず、花恋にあげることもしていなかったが、凛香の誤解を解くためにもこれは花恋にあげることに決めた。


「これは花恋にでもあげることにしますね」


 早速今から部屋の掃除をしているだろう花恋にあげにいこうと手を伸ばすと、凛香にぴしゃりと叩かれた。


「お待ちなさい、花恋さんにあげるというなら中身を確認しておかなくてはなりませんわ!」

「中身を確認って……読むんですか?」

「読みません! 挿絵を確認すれば十分でしょう! わたくしが確認しますわ!」


 中身を確認するために黒い袋から再びBL本を出した凛香だが、本の保護のためにかけられているぴっちりと張り付いたビニールが剥がせずに苦戦していた。


 爪を立てて無理やり剥がすなんてことはせず、綺麗に取ろうと悪戦苦闘している凛香の様を微笑ましいものを見る目で見守っていると、ついに凛香があきらめて本を置いた。


「なんなんですのこの袋は!」


 憤慨し、涙目で優花を睨みつけてくる。


 ……ビニール剥がせなくて怒る凛香さん、可愛い。


「あー……爪で引掻くか、カッターとか使うかですね、俺なら無理やり引っ張って開けちゃいますけど」

「そんな野蛮な……」


 凛香が置いた本を取り、ぴっちりと張り付いたビニールを無理やり寄せてつまむとそのまま引っ張った。


 優花がビニールを簡単に剥がしたのを見て、凛香がなんだか悔しそうな顔になっていた。


「もう一冊の方も俺がやりましょうか?」


 答えは予想できたが、一応優花がそう言うと、凛香は優花の予想通り「いいえ!」と言ってまたビニールを剥がし始めた。


「ここをこうして……」


 優花の真似をしてビニールをつまんで引っ張るとすぐにビニールは破け、ふふんと凛香が鼻を鳴らした。


「わたくしにかかればこんなものですわ!」


 ビニール剥がしただけで満足してしまっている凛香を見て、また可愛いなと思いながら、優花は自分がビニールを剥がした方のBL本の中身をぱらぱらとめくり挿絵を確認する。服がはだけている絵は多いものの、特に問題は無さそうだった。


「何を見ているんですの! 万が一ということもあります! ゆうかさんは見てはいけませんわ!」


 優花からBL本を回収した凛香が、ぱらららとBL本を素早くめくっていく。


 二冊とも確認し終えると凛香はBL本を黒いビニール袋に再び入れなおした。


「……前見たものよりも挿絵は大したことはありませんわね。これを花恋さんに贈るのは許可しますわ」


 無事凛香の検閲をクリアしたBL本を受け取った優花だが、凛香の今の発言に気になった単語があった。


「前見たんですか?」

「え? ええまあ。……たしかゆうかさんは、あの翡翠さんと女装したゆうかさんとで行ったイベントを覚えていないんでしたわね」

「凛香さん? 今なんて言ったんですか?」


 途中から小声でごにょごにょ言っていてよく聞こえず、聞き返すと、凛香はこほんと咳払いをした。


「とにかく! この本は大丈夫ですわ! ほら! 花恋さんに渡してきなさい!」


 凛香に背を押され、自室から締め出される。


 なんだか上手く誤魔化されたような気がしたが、とにかくBL本を花恋に渡しに行くことにした。


「花恋、入るぞ……って!」


 ドアが開け放たれていた花恋の部屋に入ると……BL本が所狭しと並んでいた。


「あっ、お兄ちゃん。どうしたの?」

「どうしたのって……それはこっちのセリフなんだけど……」


 どこにこんなに大量のBL本があったのか。花恋の部屋はBL本で床がほとんど埋まってしまっていた。


「にははっ! 掃除のついでにちゃんと分類し直そうかなと思ってさ!」

「分類……?」


 床に広げられたBL本に目を走らせてみると、小説、同人誌そしてたぶん18禁でまず分けられ、その後それぞれのジャンルでまた分けられているみたいだった。


 18禁コーナーに見覚えのあるタイトルがあって、優花は遠い目になりながら、さっさと戻ろうと持ってきたBL本を花恋に渡すと、花恋は目を輝かせた。


「にははっ! これは王子様系だね! ありがとう!」


 本当に嬉しそうに笑いながら花恋が優花から受け取ったBL本を何故か18禁コーナーに置いた。表紙と挿絵は大丈夫でも中身は18禁だったらしい。


 たぶん凛香は18禁だと知っていれば花恋に渡さなかっただろう。


 ……まあいいか。


 本当なら取り上げるべきなのだろうが、花恋の笑顔を曇らせたくなくて優花は見てみぬふりをすることにした。


「……それじゃあお兄ちゃんはもう戻るから、凛香さんに見つからないうちに早くしまっておくように」

「にははっ! わかった!」


 素直に返事をした花恋の頭を軽くぽんぽんと叩いてから、自室に戻る。



「凛香さん、今戻り……ま……した……」


 優花が戻ると、部屋は散らかっているというレベルじゃなかった。教科書に制服、本に雑貨、あらゆるものが無造作に床に広げられている。


 掃除機をかける前に整理するという話はどこにいったんだろうか……


「あら、戻ってきましたわね! 本棚と机の掃除は終わりましたわ!」

「あ、ありがとうございます……」


 凛香の言う通り本棚と机は綺麗になっていたが、それ以外があまりにひどすぎる。


 その後、物を全部元の位置に戻し、凛香が操る掃除機でまた部屋がぐちゃぐちゃになりながらも、なんとか自分の部屋の掃除を終える頃には優花はへとへとになっていた。

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