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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その八

 まあ凛香が素直に受け取らないことはわかってはいた。ここで「いやいや! もらってください!」なんて言っても、凛香は頑なに受け取ろうとはしないだろう。


 それなら……。


「そうですか……。残念だなあ……タピオカは甘くて美味しいのに……、この粒々もちもちの触感が新しいのになあ。凛香さんが飲まないなら俺が飲むしかないなあ。凛香さんにぜひ飲んでほしかったんだけどなー」


 これ見よがしにタピオカを見せつけながら言うと、ぴくぴくっと凛香の耳が動いていた。

 好奇心を刺激することに成功したらしい。


「ま、まあ? そこまで言うなら、もらって差し上げますわ!」


 優花の作戦通り、凛香がようやく受け取る気になったところで、横から竜二がずいっと割って入り、凛香を睨みだした。


「てめえ! 兄貴がやるって言ってんだから、素直に受け取っとけよ!」


 ……このバカ! お前はなんで事態をややこしくするんだ!


 竜二の言葉に凛香の目が細まる。爆発寸前の爆弾の気配を感じ取り、優花は竜二の頭をはたいてから抱えて、凛香から離す。


「いっ、痛いっすよ兄貴!」

「ばっかお前! あれこそが俺の作戦だったんだよ! 凛香さんが素直に受け取るわけないだろ!」

「あっ! そうだったんすか!」

「とにかく! 凛香さんを刺激すんなよな!」

「わかったっす!」


 竜二に頭を下げさせて、ようやく凛香はタピオカを受け取ってくれた。


「……ごほっ! げほっ! な、なんですのこれ! 喉に一気に入ってきますわ!」

「あー最初はそうなりますよね! ゆっくり吸った方がいいですよ!」

「もう! そういうことは最初に言っておいてくださらないと困りますわ!」


 あははと笑いながら自分のタピオカを飲む真央に、ぷんぷんと怒りながら、再びタピオカを飲む凛香。


「まあ……味は悪くはありませんわね……。このタピオカ? の小さいおもちのような触感も面白いです」


 どうやら満足してくれたらしい。最後にタピオカの粒が残って中々吸えないということで、凛香が残したタピオカの粒を優花が蓋を取り、口の中に流し込むようにして処理した。嫌がるかとも思ったが、凛香に気にした様子はない。口をつけたわけではないから大丈夫という判断だろうか?


「……おもちよりは少し柔らかいかな。タピオカ自体も少し甘いんだな」


 もっちもっちと口の中のタピオカを噛んでいると、凛香が怪訝な顔で優花を見てきた。


「……あなたもしかして、タピオカをご自分で飲んだことはなかったのかしら?」

「ええまあ。なかったですけど?」

「つまり、自分でも飲んだことがないものを、わたくしに勧めたわけですわね?」

「あっ……」


 さっきあたかも優花自身がタピオカを飲んだ感想のように言ったのに、飲んだことがないのがばれるのはまずかったか。

 また凛香を怒らせてしまったかと、ひやひやしていると、凛香は少し頬を染めただけだった。


「ま、まあ今回は許して差し上げますわ。寛大なわたくしに感謝なさい。それでは、わたくしはこれで失礼しますわ」


 凛香は待たせていた自分の家の車に戻り、一人先に帰ってしまった。


「……兄貴。虚空院の姉御は面倒くさいっすね」

「そうだな……。あっ! お前、後で俺が面倒くさいって同意してたって言うなよ!」

「言いませんよ! 兄貴! おれを信じてくださいよ!」


 わーわーと竜二と言い争っていると、真央がくすくすと笑ってそれを見ていた。


「二人共すっごく仲良くなったんだね? 昨日はそんな風には見えなかったのになあ」


 仲良く……って、あっ!


 肝心なところを忘れていた。今回のイベントは凛香と真央を仲良くさせるためのものだったのに、結局二人で感想を言い合うみたいなこともなく終わってしまっていた。


「失敗した……」

「えっ? 何が?」

「こっちの話だから。気にしないでくれ……」


 とりあえず、凛香と真央の二人を休日に一緒に遊ばせることはできたと前向きにとらえておく。行列に並んで、タピオカを飲んだだけなのが遊んだ内に入るかどうかは、議論の余地があるだろうが。


「それじゃあ俺も帰るかな……」


 次なる作戦を考えなくてはと思っている優花の腕をがっしりと力強く竜二がつかんできた。


「兄貴! おれと遊びにいく約束っすよ!」

「えっ?」


 ああ、そう言えば竜二のタピオカを真央にあげさせるために、代わりに遊んでやる的なことを言ったことを思い出す。


「……まあいいか。それじゃあ真央はどうするんだ?」

「私も行きたいんだけど、この後、約束があるんだ。ごめんね!」


 あははと笑いながら手を振って真央は行ってしまった。来てくれたので暇なのかとも思ったが、やっぱり予定はあったわけだ。


 その後は竜二と色んなゲーセンに行って、格闘ゲームで竜二にこてんぱんにされたり、UFOキャッチャーでぬいぐるみを取ってやったり、竜二がやってみたいというプリクラを取ったりして遊んだ。


「兄貴……今日は最高の一日っす……」


 なんだか妙に感動している竜二に若干引きながらも、優花は苦笑する。


「まあ、今日は俺も楽しかったよ。また今度遊ぼうな」

「うっす! 兄貴! それじゃあ今日はありがとうございました!」


 ぬいぐるみを抱え、柔らかく笑う竜二は、もう不良系イケメンには見えなかった。もはや普通のイケメンだ。


 帰っていく竜二に手を振っていると、後ろからちょんちょんと指で背中をつつかれた。振り返ると、花恋がにまにましながら、優花を見ていた。ちょうど花恋も、外出から帰ってきていたらしい。


「お兄ちゃん……デート?」

「デートって……いや、男同士だぞ?」

「にははっ! 男同士でもデートはデートだと思うよ?」


 いや、その発想は……。


「……花恋。……お前まさか」


 まさかと思いつつも、とりあえずここは泳がせておくことにして、本日の予定に花恋の部屋の捜索を追加した。

 家に帰り、晩御飯を食べた後、花恋がお風呂に行っている間に花恋の部屋に侵入する。


「さて……」


 綺麗に整頓された花恋の部屋は、ぬいぐるみや友達との写真が多く飾られた女の子っぽい部屋だった。一見何も問題ないように思えるが……。

 優花が確認したのは、何かを隠すには定番のところ――――ベッドの下。


「……ふう、特に変な物はないか」


 ベッドの下にあったのはケースに入れられた漫画や小説。使わなくなった過去の教科書なんかだった。


「あとは……」


 次に確認したのはクローゼットの中。ここもいろんな物が入るため、隠し場所には持ってこいだ。


「んー……別に何もないな」


 クローゼットの中に入っていたのは服だけで、優花が探している物は無かった。

 嫌な予感は気のせいだったのだろうか?

 もう隠し場所なんてないしなあ。一応机の引き出しの中も見てみたが、やっぱり怪しいものはない。


 諦めて自分の部屋に戻ろうとすると、ばん! と部屋の扉が開いた。


「お兄ちゃん! 勝手に妹の部屋に入るなんて犯罪だよ!」

「……それが犯罪なら、花恋がお兄ちゃんの部屋に入るのも犯罪だからな?」

「それはそれ! これはこれ! そもそも何でお兄ちゃんがわたしの部屋にいるの!」


 なんて理不尽なんだ……。


「いや、花恋が薄い本を持ってるんじゃないかと……」


 薄い本というのはもちろん同人誌のことだ。もっと具体的に言うなら、優花が疑っているのは男同士の恋愛を描いた、ボーイズラブな同人誌、つまりBL同人を花恋が持っているんじゃないかってことだった。


「…………」


 憤怒の表情から一転、花恋は目をそらした。


 これは……あるな。


 花恋の反応に、薄い本の存在を確信する。


 間違いない。花恋は薄い本を隠し持っている……でもどこだ? どこにある? もう部屋の中に隠し場所なんて……。


 もう一度何かを隠せる場所がないか、考えようとした矢先、ふと優花が花恋の視線の先に目をやると、そこにあったのは、四角い箱状になった椅子……いやスツールと言うべきか。


 まさか……。


 優花がおもむろにスツールを持ちあげてみると、ずっしりとした重さがあった。


 やっぱりこれ中身が入ってるな……。


 優花がスツールの蓋を開けると、スツールの中にはずっしりと詰まった同人誌や小説。


「こっ! これは違うの! 友達がくれたやつで! 捨てるに捨てられなくて!」


 いやいや、どこの世界に同人誌をこんなにくれる友達がいるんだ……とは思いつつも、優花は頬をひきつらせながら「そっ、そうか」とだけしか言えなかった。


 試しに一冊取ってみると、案の定中身は男同士が色々としている内容。色々は……想像にお任せします。


 この世界に来てできた妹は、立派な腐女子だったことが判明した。


「お兄ちゃんのばか! もう出てって!」

「痛い痛い! わかった! わかった! 俺が悪かったから!」

「ばかー!」


 部屋を追いだされ、扉を閉められる。

 さすがに目の前で同人誌を見つけるのはやりすぎだったかもしれない。


「あのー……別にお兄ちゃんは花恋にそういう趣味があっても、大丈夫だからな? ただまあ……一応確認しておきたかっただけで……」


 扉の向こうにそう声をかけると、ちょっとだけ扉が開き、花恋が少しだけ顔を出した。


「ほんと? ほんとに軽蔑したり、気持ち悪いと思ったりしてない?」

「してないしてない。だいたい人の趣味にとやかくいうやつは俺好きじゃないし」

「そっ、そっかー」


 少しだけ花恋は安心したらしい、ほっとしたため息をつくと、扉を開けて出てきてくれた。


「それじゃあお兄ちゃんには償いをしてもらおうかな?」

「つ、償い?」


 なんだろう。かつてない程嫌な予感がひしひしと……。


「お兄ちゃんは部屋で宿題しないといけなかったわ!」


 ばっとその場を離れ部屋に戻ろうとしたが、花恋の方が一瞬早かった。背後から押し倒され、背中に乗られる。


「にははっ! 償いをしないとどうなるか、愚かなお兄ちゃんに教えてあげましょう」

「ちょっ! ちょっと待って! あは、あははははは!」


 背中という有利ポジションを取られたまま、蹂躙された優花は、花恋相手に償いをすることを約束された。花恋の言う償い、それは…………。


 翌日、帽子を目深にかぶり、マスクとサングラスをして完全武装した姿で鏡を見る優花に、花恋がびしっと親指を立てた。


「うん! これで大丈夫! 絶対お兄ちゃんだってばれないから!」

「お兄ちゃんだとはばれなくても、普通に不審者だからな?」

「大丈夫大丈夫! にははっ! それじゃあ行ってらっしゃい! ちゃんと商品をゲットして来るまで帰ってこないでね!」

「……ひどくない?」


 花恋に家から追い出され、鍵を閉められる。

 一人になった優花は深くため息を吐くと、スマホを開いた。スマホのメモ機能によって書かれている物のリストを確認する。


「どこからどうみても十八禁のBL本なんですが……」


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