乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その七十二
今日も生徒会の用事があったのか、通りがかったのはいつも通り制服をきっちりと着ている深雪だった。
優花と奈央の言い争いを見て、呆れたような目になっているが、その目は奈央だけに向けて欲しい。
「いや! こいつがあたしとのデートを断るんだよ! どう思う!」
心底憤慨しているような感じで奈央が深雪に問うと、深雪は深くため息をついていた。
「はあ…………教師が生徒とデートに行こうとしないでくれ……」
「もっと言ってやってください! 六道生徒会長!」
ここぞとばかりに深雪の背に隠れ応援すると、深雪が眼鏡をきらりとさせ、奈央がちっと舌打ちをした。
「んじゃ勝負してあたしが勝ったら、あたしとデートしろ」
いや、あきらめろよ……と思いつつ、優花は頑なにデートに行こうとする奈央に違和感を覚えていた。
「……なんでそんなにデートに行きたいんですか?」
奈央に会ったのは四日前、補習の初日と二日目はほとんど優花を敵視していたし、三日目と追試は特に何事もなく普通にしていたので、優花のことが好きになったなんて理由ではないはずだ。
裏に何か意図があるとみるべきだろう。
「いや、だからご褒美だっつううの! それより勝負だ! おら! 勝負しろ!」
「ええ……」
下手に何かの勝負して奈央に負けて奈央の思惑通りデートをするのも嫌だったので、助けを求めるように深雪の方を見ると、深雪が眼鏡をくいっと上げた。
「安心しろ灰島、こういう時は……」
「『身長で勝負』とかは無しだからな! あくまで正々堂々の勝負をしろ!」
奈央に出鼻をくじかれた深雪は、くっと歯噛みし悔しそうな表情になっていた。
「……手詰まりか」
いや、手詰まりが早すぎる!
それしか良い案が浮かばなかったのだろう。相変わらず深雪は頭が固いみたいだ。仕方ないので自分で勝負の内容を考えることにした。
まず第一条件として、絶対に優花が負けないこと。そして第二に第三者から見ても正々堂々とした勝負であることが必要だ。
例えばじゃんけん等の運が絡む勝負は、適さない。かといって運動能力なども男女差、身長差などから公平とは言えない。
それならあとは何があるだろうか?
しばらく考えてみたが、良い案は浮かんでこなかった。これでは深雪に頭が固いと言うこともできないかもしれない。
勝負しろと言いだした張本人の奈央は、何か良い勝負が思いついたのか一瞬笑みを浮かべた後、深雪の方を見た。
「そう言えばみーくん」
「っ! みーくんと呼ぶな!」
すぐに深雪が入れたツッコミは華麗にスルーした奈央はごそごそとポケットから紙を取り出した。
「今年の文化祭は何か面白いものをやるらしいじゃねえか」
「……面白いもの?」
文化祭の話が出た瞬間、深雪がちらっと優花のことを見た。
「……女装コンテストのことか?」
女装コンテスト……うっ、頭が!
「そうそう! それそれ! そのコンテスト男女混合にしようぜ! 男は女装って点は変えないで教師も参加オーケーってかんじでどうだ!」
「……まさか」
「ふっ、みーくんも気が付いたようだな! そう! あたしとこいつとの勝負はコンテストで勝負が一番公平だろ?」
……話がなんだか面倒な方にいっているような。
「いや、そもそも俺はコンテストに参加しないんで女装はしないんですけど……」
話の軌道修正をしようと口を挟んでみたものの……。
「この勝負から逃げるなら、負けを認めたことになるぞ? どうするんだ?」
なんとなく正論のような感じで言われ、再び深雪に助けを求める視線を送ったが、深雪は深雪で普段はあまり見せない歓喜の笑みを浮かべていた。
「……なるほど、その手があったか! これならば参加者の方もそれなりに見込めるかもしれないな」
やばい、乗り気だ……。
生徒会長として、文化祭の生徒会企画を盛り上げることを重視した深雪を味方につけて、奈央を説得することはできそうになかった。
奈央とデートをするか、それとも男女混合のコンテストに女装をして出るか。
正直どっちもごめんだが、まあめいの手にかかれば、女装と言えど奈央にぐらいなら勝てそうなので、仕方なくコンテストに出ることにした。
問題を先送りにしただけかもしれないが、とりあえずしばらくは奈央のことで頭を悩ませなくて済むはずだ。
「うし! それじゃあ文化祭を楽しみに待ってるぞ! おら、お前らはもう帰れ!」
「ちょっ! 押さないでくださいよ!」
ぐいぐいと奈央に背中を押され、優花は深雪と共に特別教室棟から追い出された。
「はあ、むちゃくちゃですねあの人……」
「昔からああだよ、あの人はな……」
深雪が「昔から」と口にした瞬間、奈央に呆れていた優花に一つの疑問が生まれた。
果たしてこの世界はいつから存在していたのだろうか?
元の世界でマジハイが発売されたのは……そう昔のことでもない。
それなのに、深雪の中では『昔』が存在するということは、元の世界との時間軸に差があるということなのか、あるいは完全に切り離して考えるべきなのか。
考えてみれば中々奥が深そうな疑問に頭を悩ませていると、深雪がこほんと咳払いをしてきて思考が中断された。
「灰島、少し話があるんだが……」
「はい、なんですか?」
とりあえず一旦今の疑問は棚上げしておくことにする。すぐに答えが出そうな話でもないからだ。
「決まっているだろう。文化祭のことだ。コンテストを男女共に参加可能で開催するのは面白い試みかもしれんが、その分準備も大変になるだろうからな。灰島には是非文化祭実行委員になってもらえるとありがたいんだが……」
「ええと……それはちょっと……」
女装をしてコンテストに出るのはもう了承してしまったのでしょうがないが、準備まで手伝うつもりはなかった優花が難色を示すと、深雪は立ち止まり、頭を下げてきた。
「頼む! 文化祭をどうしても良いものにしたいんだ」
深雪の生徒会長としての責任感の強さはマジハイのゲームプレイでよく知っている。
文化祭実行委員をやりたくない……と言うよりもむしろ、自分にそんな役が務まりそうにないので、断りたかったのだが、ここで完全に断ってしまえば、生徒会にも入っていない優花は深雪との交流も完全に断たれることになるだろう。
そうなれば、深雪の攻略の可能性がなくなり、凛香を救えなくなる可能性が高くなる……かもしれない。
「はあ……文化祭実行委員は無理ですけど、個人的にできる範囲で手伝いますよ。それで良いですか?」
「……ああ、恩に着る」
断るうまい理由も見つからなかったので、結局優花は凛香を救うためと自分を納得させ、自分ができる範囲で手伝うという形にしてもらった。
素直にそのまま文化祭実行委員に入らなかったのは、やっぱり文化祭実行委員の仕事をする自信がなかったからだ。
「代わりと言ってはなんだが……」
深雪はそう前置きをすると、一枚のプリントを取り出してきた。
「今年の夏、生徒会で海に行くことになっていてな、灰島も一緒にどうだ?」
「生徒会で海ですか?」
正直意外感を禁じ得なかった。
……たしかマジハイにはそんなイベントはなかったよな?
目を丸くした優花を見て、深雪がきらんと眼鏡を輝かせた。
「ふっ、以前灰島に企画がつまらんと指摘されたからな。生徒会企画を練り直したのだ。その際に案が出てな、結局学校を通した企画にはならなかったが、個人的に行く分には問題がないからな」
マジハイにはない深雪の行動の理由はどうやら、優花が前に言ったことが影響していたらしい
何カ所もの誤字報告ありがとうございます。とても助かります!




