表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/409

乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その七

「それで? 説明してくださる? どうしてわたくしが真央さんと、見ず知らずの方と、そしてあなたとこのような列に並ばなくてはならないのかしら?」


 じとっとした目で見てくる凛香に、優花は冷や汗を垂らした。明らかに機嫌が悪い。ほとんど無理やり休日の昼に集合をかけられたので、それも仕方がないかもしれない。


「まあまあ、凛香さん。タピオカは一回飲んでみたいって言ってましたよね?」

「それは……まあ、言いましたけれど……」


 竜二とタピオカ屋に行くので一緒に行こうと、凛香と真央を強引に誘ったのが昨日。無事四人集まり、今はタピオカ屋の長すぎる行列に並んでいるところだった。

 ちなみに並び順は竜二が先頭で次に優花、凛香と続き、一番後ろが真央だ。


 主人公である真央が来てくれるかどうか不安だったが、別に大丈夫だったらしい。

 本来なら、休日はキャラの攻略に忙しくなるはずなんだけど……。


「凛香さんタピオカ飲んだこと無いんですか! 美味しいですよ!」

「……あなた達、庶民の好むものが、この虚空院凛香の舌を満足させられるかしら!」


 また、真央相手に嫌味にも思える言葉を吐いている凛香に、優花からため息がこぼれた。


「…………兄貴」


 ずっと苦笑いをしている真央と、真央相手に相変わらずの感じで話す凛香は置いておいて、小声で話しかけてきた竜二と、こそこそ話しを始めた。


「悪いな竜二、口実みたいに使っちゃって」

「いえ、それはいいんすけど……。兄貴って、アイスクイーンと知り合いだったんすね……」

「知り合いって言うか……まあクラスメイトかな」


 現状凛香とは友達とも呼べないだろう。真央と仲良くなるために、単に利用されているだけだ。

 そして竜二、お前もアイスクイーンと呼んでるのか……。


「とにかく竜二! お前も凛香さんが真央と仲良くなれるようにフォロー頼んだぞ!」

「うっす! 兄貴の頼みとあらば!」


 がっと拳を合わせ、獣のように笑う竜二に、頼もしさを感じた。


「頼む! ……それと凛香さんをアイスクイーンって呼ぶなよ? 呼ぶとすごい怒るからな」

「うっす! ……兄貴」


 優花の注意に素直に頷いた竜二だったが、急に顔から血の気が引いて青くなっていた。


「どっ、どうした?」


 幽霊……いや、鬼でも見たかのような竜二の様子に、優花もなんだか怖くなってきた。

 何かを訴えるように、竜二が目を動かしているが、何を伝えたいのかわからないでいると、竜二は目で伝えるのを諦めて口に出した。


「……虚空院の姉御が兄貴をすごい目で見てるっす」


 竜二は凛香をアイスクイーンではなく、虚空院の姉御と呼ぶことにしたらしい。優花が『兄貴』なので、それと合わせたってことだろうか……って、今はそんなことはどうでもよくて……。

 こわごわ振り返ると、とっくに真央との話は終わっていたらしい、凛香は全てを凍らせることができそうな極寒のシベリアのような視線で、優花のことを睨んでいた。


「今、わたくしのことをアイスクイーンと言いましたか?」


 小声だったにもかかわらずばっちり聞こえていたらしい。


「っ! 言ってないです! アイスも食いたいよなって言ってたんです! なあ竜二!」


 話を合わせろと目で訴えると、ちゃんと伝わったらしい。

 高速で頭を上下に動かし、同意してくれた。


「う、うっす! そうっす!」

「……そう。それなら良いのです。もし、わたくしをアイスクイーンと呼んでいたら、とんでもない目に合わせるところでしたわ」

「はっ、はは……」


 なんとか誤魔化せたらしい。ひくひくと引きつった笑みで笑う優花を見て、凛香の背後で真央がくすくすと笑っていた。

 笑い事じゃないんだけど……。


 結局行列に並ぶこと三十分、ようやく優花達の番が来た。


「へー……こんなんなってるんすね……」

「おお……これがタピオカか……」


 タピオカを興味深そうに見る竜二と並んで、実はタピオカ初体験の優花が恐る恐る自分のタピオカを飲もうとすると、


「本日タピオカ完売です! ありがとうございましたー!」


 優花達がタピオカを受け取って店を出てすぐに店員さんの元気な声が聞こえてきた。

 完売ということはつまり、優花が買った分で最後だったらしい。


 恐る恐る凛香の方を見て見ると、意外にも怒ってはいなかった。ただ自分の番でタピオカがなくなったという事実を認められなかったようで、ぽかーんとしていた。


「あちゃー……ここの店人気だからねーしょうがないかー」


 三十分も待っていたというのに、真央はあっさりと納得していた。細かいことにぐちぐち言わないのが主人公さんの秘訣なのかもしれない。まさか三十分も待ったのに買えないとは優花も思わなかった。個数が決まっているなら整理券でも配ってもらいたいものだ。


 お店から出てきた凛香と真央は当然タピオカを持っていない。対して竜二と優花は、まだ手をつけていないタピオカを持っている。


「あのー良かったら……」


 無理やりつき合わせておいてタピオカが飲めないのはかわいそうなので、タピオカを凛香にあげようとした手が、ふいに真央の方にわずかに動いた。


 な、なんだ?


 慌てて向きを修正しようとするが、手が何か強い力で真央の方に動かされそうになっていた。当然のことながら優花がタピオカを上げたいのは凛香だが、手は勝手に真央に上げようとしている。


 これはまさか……!?


 考えられる可能性はただ一つ…………主人公補正だ!


 悪役令嬢と主人公が並んでいる場合、基本的に優しくされるのは主人公であるべきという鉄のルール。あるいは、イベントを成立させるために、主人公を優遇する力。


 世界の修正力とでも言うべき謎の力に対抗し、優花は左手で、真央の方にタピオカを差し出そうとする右手を抑える。徐々に力を増していく謎の力に、このままでは、優花のタピオカが真央に渡ってしまうと悟った優花の目に入ったのは、竜二が手に持ったタピオカだった。


「りゅ、竜二! お前のタピオカを真央にやってくれないか! 埋め合わせはするから! どこでも付き合うから!」

「えっ! いいんすか兄貴! うっす! わかったっす。どうぞ八雲の姉御!」

「えっ! いいの! ありがとう!」


 素直に真央が竜二からタピオカを受け取ると、ようやく優花の手を動かしていた謎の力が消えた。


 危なかったけど……これではっきりしたぞ……。


 今回のことでわかったことはただ一つ。この世界の主人公はやっぱり真央だということだ。

 具体的に言うと、真央と凛香が並んでいる場合、攻略キャラの一人になっている優花には、真央を選ぶしか選択肢が出ないわけだ。肝心のところで、世界からの妨害とでも言うべきものを受ける可能性が生まれてしまった。


「それじゃあ、凛香さんは俺のをどうぞ!」

「けっ、結構ですわ! わたくしは庶民からの施しを受けませんわ!」


 ……デスヨネー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ