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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その六十三

「花恋さん、それは何を買ったんですの?」


 花恋の足元の紙袋は明らかに重そうで、中身がずっしりと詰まっているように見える。


「……えーっと……さ、参考資料的な?」


 ポリポリと頬を掻きながら横を向く花恋に、じとっとした目を向け続けると、翡翠が花恋をかばうように間に立ち凛香の視線を遮ってきた。


「同じBL好き同士、責めるのは良くないぜ?」

「誰がBL好きですか! 誰が! 同類にしないでくださる!」


 本当にこの男はわたくしをいらつかせますわね!


「はいはい、そこまでにしましょう。翡翠さんはこの階は見たんですか?」


 空気が悪くなりそうな気配を敏感に察知したゆうかがまた場を取りなす。

 荷物も多くなったからと翡翠と花恋は帰ることに同意したため、その後はすぐに帰ることになった。



「……なんだか苦労しただけのような気がしますわね」

「ん? 何か言いました?」

「いえ、何でもありませんわ」


 結局翡翠とゆうかが凛香が心配したような事態になることはなく、内心ほっとしている内に翡翠とは解散。


「それじゃあ優花さん。今日はありがとうな」

「ええ、私も楽しかったです。また今度ご一緒しましょうね」


 和やかな雰囲気で二人が別れを告げて、翡翠が背中を向けた瞬間、強い風が吹きゆうかのウィッグが……取れた。


「……あれ? 俺何をしてたんだっけ?」


 ウィッグが取れたゆうかが正気を取り戻し、自分の女装時の記憶が消えたらしく、しきりに首を捻る。


 ま、まずいですわ!


 このままでは、ゆうかが翡翠に声をかけてしまい、翡翠の勘違いが正され、ゆうかが女装をしていたことが翡翠にばれる。

 そうなれば、きっとゆうかが悲しむと思った凛香は、とっさに落ちたウィッグをひろってゆうかの頭にかぶせた瞬間、くるりと翡翠が振り向いた。


「ん? 優花さん何か言ったか?」

「いえ、何もいってませんよ。帰り道気を付けてくださいね」


 何事もなかったように笑いながら翡翠を見送るゆうかに、翡翠は手を振って帰っていった。


「ふう……危なかったですわ……」


 結局トラブルはそれで終わりで、車で迎えに来ためいに言ってゆうかと花恋を家に送り届け、凛香自身も家に帰った。



 本当に無駄に疲れましたわね……。


 尾行から始まり、花恋に逃げられゆうかと合流し、エレベーターが止まり……。


 エレベーターが止まった時のことを思い出した凛香はまた胸が苦しくなり、足を止めて頬を赤く染めた。


「お嬢様どうかされました?」


 足を止めた凛香をめいが訝し気に振り返る。


「……別になんでもありませんわ」


 この胸の苦しさは何なのか、めいに相談しようかとも思ったものの、なんだかまたからかわれそうな気がして、結局相談するのはやめて自室に戻り、すぐにスマートフォンを取り出す。


 ……めいには相談せず、自分の力で調べてみましょう。


 凛香がスマートフォンを操作して数分、出た調査結果に思わず凛香はスマートフォンをベッドに投げつけた。


「こ、こここ、恋なんて! そんなわけがないでしょう! ゆうかさんがわたくしに恋い焦がれるのではなく、わたくしが恋だなんて!」

「お嬢様? 大丈夫ですか?」


 大声を上げたせいで、慌てた様子のめいが様子を見に来てしまったらしい。


「何でもありませんから、気にしないで!」

「わかりました、何かあれば呼んでくださいね」


 めいが去っていく足音を聞きながら少し冷静になった凛香は、荷物の中から今日撮った写真を撮りだした。


 男装した凛香と、女装した優花が並んで撮った写真を見て、凛香は再び顔を赤く染めると、その写真をフォトフレームに入れ机に飾った。


*****


 休日がいつの間にか消え、そろそろ六月も終わりそうな日の朝。


 優花は一人鏡の前で首を捻っていた。


「んー……」


 昨日気が付くと優花は自室に居て、部屋には女ものの服が広がっていた。


「翡翠との約束の日が昨日だったし、やっぱり女装してイベントに行ったと考えるべきか? ……でも記憶がないしな」


 どうにも昨日のことが思い出せず悶々としていると、いきなり自室のドアが開いた。


「にははっ! おはようお兄ちゃん!」

「花恋か、おはよう……ってなんだか随分元気だけどどうしたんだ?」


 なんだろう、花恋は常に元気いっぱいという感じだが、いつにも増してエネルギーにあふれていると言うか……。


「いやあ昨日買ったやつがすごく面白くてさ!」

「昨日買ったやつ? 花恋何か買ったのか?」


 当然の質問だと思ったのだが、花恋は優花の質問を聞いて何かを察したような顔になった。


「……女装している時の記憶はないんだっけ」

「ん? 何か言ったか?」

「ううん! なんでもないよ! それよりほら! 着替えて学校に行かないと!」


 何かを誤魔化すように花恋が優花のパジャマをひん剥こうと襲い掛かり、優花はそれに抵抗している内に、優花の当初の疑問はどこかに行ってしまった。


 

 花恋と別れ、教室に着いた優花が自分の席に座りぼーっとしていると、同じく登校してきた翡翠が駆け寄ってきた。


「同士! 昨日はありがとうな!」

「昨日?」

「いやあ……同士にあんなお姉さんがいたとはなあ……」


 やっぱり昨日翡翠と一緒にイベントに行ったのだろうか?


 いや、それよりも姉って何のことだ?


 姉というのが何のことか翡翠に聞こうとして……やめた。何故だか聞かない方が良い気がしたからだ。

 結局一方的に話す翡翠に適当に相槌を打っているうちに、真央が登校し、少し遅れて凛香が登校してきた。


 翡翠に捕まっていて挨拶はできなかったものの、優花が凛香と目を合わせると、何故だかすぐに目をそらされてしまった。


 んー……怒ってる感じじゃないけど……。


 何で凛香が目をそらすのかはわからないまま、担任の昴がやってきて朝のホームルームが始まってしまった。


「皆さん、来週から期末考査ですが、試験勉強の方は大丈夫ですか?」


 あー……そう言えばそろそろ期末か……。


 中間考査の時と違い、凛香と真央が成績を競うといったトラブルもなかったため、あまり気にしていなかった。


 一応試験範囲をもう一度復習しておくか……。


 良い成績を取るつもりはないが、赤点だと補習になり貴重な夏休みが潰れてしまう。


 問題はこの指だよなあ……。


 折れた右手の人差し指と中指は痛みはもうあまり無いが、完全にはまだ治っていないため、ギプスは取れていない。

 左手で書く練習もしているものの、書くスピードは通常時の半分以下になっている。答えがわかっていても時間が足りなくなりそうだ。


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