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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい  作者: 雪ノ


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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その五十一

 翌日、たった一日で元気になった自分に自分で驚いていると、一本の電話がかかってきた。


「あっ、めいさん、昨日は本当にありがとうございました。……それで? こんな朝早くからどうかしました?」


 今日は日曜日、学校だってないし、執事のアルバイトだってする予定はない。


 昨日何か優花の家に忘れ物でもしたのかなと思っていると、めいが「いえ、まあ、その……」とひどく言い淀んだ。


「めいさん? 本当にどうかしたんですか? なにか俺にできることとかあります?」


 何か事件でも起こったのかと心配になってきた優花が、そう言うと、めいはようやく用件を切り出した。


「ええと、お嬢様がですね……」

「凛香さんがどうかしました?」

「……風邪をひいてしまいまして」


 あー……完全に俺のせいだな……。


 他のメンバーよりもずっと優花と一緒にいたせいで優花の風邪が移ってしまったらしい。

 さすがに放っておくことはできず、優花は花恋と共に凛香の家に行き、凛香を看病することになり日曜日は終了した。


*****


 日付は変わり月曜日、凛香の風邪は結局治らず、体温がまだ少し高いままだった。

 今日は平日なので学校があるが、凛香は休まざるを得ないだろう。


「ゆうか君、花恋ちゃん、後は私に任せて、学校に行ってください」

「でも……」

「大丈夫ですから、さあ」



 優花としては凛香をこのまま看病したかったが、めいに促され仕方なく、優花達はそのまま学校へ行くことになった。

 ちなみに制服や、学校に持っていく教科書等は凛香の家からでも学校にいけるように持ってきていた。


「凛香お姉ちゃん大丈夫かな?」

「……とりあえずインフルエンザじゃないみたいだし、大丈夫……だと思うけど」


 凛香を心配したまま、優花が花恋と共に凛香の家から直接登校し、教室に入ると既に凛香が自分の席に座っていた。たぶん無理を言ってめいに車で送ってもらったのだろう。


「凛香さん? 大丈夫なんですか? 寝てた方が良いんじゃ……」

「……大丈夫ですわ。わたくしは風邪などひいてはいません!」


 病気になったと認めること……いや、病気に負けたと認めることが嫌なのか、凛香は昨日もこんな調子で頑なに自分を風邪だとは認めてはいなかった。


「熱もあるし、喉も痛いんですよね? めいさんに迎えに来てもらって今日は帰った方が……」

「しつこいですわ! わたくしは大丈夫です!」


 んー……これはだめだ。


 こうなったら凛香は意地でも帰らないだろう。


「はあ……じゃあ少しでも具合が悪くなったらすぐ言ってくださいね」

「……」


 特に返事をせずぷいっと横を向いてしまった凛香に優花は思わずため息が出た。

 優花が自分の席に戻ると、真央が教室に入ってきた。


「おはようゆうかくん、風邪は良くなったんだね、良かった」

「真央か、一昨日はわざわざ見舞いに来てくれてありがとな。俺はすぐ良くなったんだけど……」

「だけど?」


 優花がちらりと振り返ると、凛香が目を細めてこっちを見てきていた。


「……なんだか凛香さん少し顔が赤いね」


 真央が凛香の方を見ると、凛香はすぐに顔を横に向けてしまった。この距離があっても、真央と目を合わせることすらできないのだろう。


 凛香と真央を仲良くさせるのは、やはり難しそうだった。


「凛香さんに風邪が移ったみたいなんだけど、風邪だって認めてくれなくて、帰ろうとしてくれなくてさ」

「んー……そうなんだ……」

「俺も凛香さんがこれ以上無理をしないように見ておくから、真央も見ておいてくれないか?」

「そうだね、任せて!」


 やっぱり真央はいい子すぎる、さすがは主人公と言うべきだろうか。

 先輩である優花を平気で脅してくる楓に真央の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだ。


 優花に別れを告げて真央が自分の席に座ると、すぐに凛香に話しかけていた。


「凛香さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですから、気安く話しかけないでくださる? ……できれば今日は話しかけないでいただけると助かりますわ」


 凛香がぴしゃりとそう言った瞬間、久しぶりにマジハイをプレイしていた時の記憶がよみがえってきた。



 あれはたしか……竜二ルートが確定した後だったか。


 もうすぐゲームプレイも終わるという終盤、朝主人公が登校すると風邪をひいて頬を染めた凛香が出てくる。

 その時主人公は凛香に『凛香さん大丈夫ですか』と声をかけ、凛香が言うセリフが、


 『大丈夫ですから、庶民の分際で気安く話しかけないでくださる?』


 であり、その日の帰り道凛香は――――ふらついた瞬間に交通事故に遭い意識不明の重体に陥る。


 凛香のその後についてはあまり詳しく作中で描かれず、竜二エンドのエピローグで少し触れられるだけ。

 その内容は頭を強く打った結果記憶喪失になったというもの。


 主人公がキャラと結ばれてハッピーエンドになるのに対して、主人公に対して冷たく接していた悪役令嬢はバッドエンドになるというわかりやすい結末となるわけだ。



 別に真央は竜二を攻略したわけじゃないはずだけど……。もしかして、このまま凛香さんが事故に遭うとかないよな?


 優花は何故か胸騒ぎを覚えてしまい、竜二へと連絡を入れた。


『最近真央と何かあったか?』

『まあ一緒の傘に入ったのはありますけど、あとは無いですね。一昨日兄貴の家で会ったのが最後です』


 竜二のメッセージはすぐに返ってきた。

 竜二は嘘をつくようなやつではないので、本当に真央とは何もないのだろう。


『そうか……悪いな急にメッセージ飛ばして』

『いえ! 全然大丈夫です! それじゃあ!』


 メッセージだけだともはや別人の竜二へとメッセージを返しスマホをスリープモードにする。


 真央の竜二攻略が進んでない以上、やっぱり優花の考え過ぎだろう。


「ふう……」


 安堵の息を漏らすと、いつの間にか目の前に来ていた昴に見られていた。

 昴が相変わらずのイケメン顔で笑うと、教室からきゃーという黄色い声が聞こえてきた。


「不藤く……ではなく、灰島くん、スマートフォンはしまってくださいね」

「はい、すいません……」


 慌ててスマホをしまうと、そのまま朝のホームルームが始まり、すぐに昴の授業になった。


 授業に集中しようとした優花だが、凛香のバッドエンドのことをやはりどうしても考えてしまいできなかった。


 ……何か確かめる手段は無いのか?


 もしもこのまま凛香が事故に遭ってしまえば、凛香を救うという優花の目的を果たすことはできなくなる。


 白桜の願いを使えばどうにかなる可能性もあるが、今もってあまりにわかっていないことが多い不確定なものに期待はできない。


 どうにかして、凛香がバッドエンドにいこうとしているかどうかがわかる手段はないかと思いを巡らせていると、一つ思いついたことがあった。


 ゲーム内で竜二エンドが確定し、凛香がバッドエンドに向かう場合、主人公は竜二から連絡が来て今日一緒に帰ろうと誘われるのだ。となればやることは一つ、昼休みに竜二から真央に一緒に帰ろうという連絡が来れば、凛香がバッドエンドに向かっているのは確定と言えるだろう。


 祈るような気持ちで時を待ち、昼休み。すぐに優花は振り返り、真央の動向に注視する。


 ……メールとか電話が来ている様子はないな。やっぱり考えすぎか……。


 今度こそ安心しても大丈夫だろうと息を吐いた優花のスマホが急に震えた。なんだか急に胸の辺りが温かくなったような気もした。


 出てみると、相手は竜二、内容は…………。


「『今日一緒に帰りましょう!』か……」


 たしかに真央には竜二からの連絡は来なかったが、優花の方には連絡が来てしまったわけだ。

 

 優花は胸に手を当てると、想いの欠片を胸から取り出した。想いの欠片はいつになくほのかに暖かくなっていて、どうやら熱を帯びているようだった。


「やっぱり、俺が竜二を攻略したってことになってるのか……」


 このままでは凛香は間違いなくゲームの展開通り事故で大怪我をして記憶を失う。そう確信した優花は、無理やりにでも凛香を今から家に送り返そうと考えたが、既に凛香は教室からいなくなっていた。

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